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サボりたいだけの新米領主、全自動で名将に祭り上げられる〜領土を返納して隠居したいのに、家臣の勝手な勘違いで天下がひっくり返りそうです〜  作者: はるりん
第五章 もやしっ子の王国

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第五十二話:義理と都合と民間委託

「ライン様。こちらの装甲魔導艦『レムの雷雲号』、完成と相成りました!」


領主館改め王宮の裏手、マルマラ湖に面したドック。


マルコがドヤ顔で指さした先には、既存の大型戦列艦の船首に、何やらごつい鉄枠と無数の魔導線が張り巡らされた、いかにも不格好な船が浮かんでいた。


(……いや、マジで作りやがったよこいつら)


俺は引きつった笑みを浮かべながら、隣の水軍提督のドレイクに視線をやる。


「で、試運転の結果は?」


「魔導兵の排熱を利用した電撃の魔導鎖の出力、および湖上での放電実験は極めて良好ですぜ。水面の敵船を一網打尽にする威力は申し分ありません。……ただし」


ドレイクが重々しく言葉を濁す。


「動力源となる魔導兵の排熱および魔力の伝達限界により……拠点から五百イル以上離れると、機能が完全に停止しちまうんでさ。」


「……あ?」


「つまり、レムの領海の半分もカバーできません。チッカーバの拠点を直接叩きに行くには、航達距離が絶望的に足りんのです……」


マルコが血の気の引いた顔で崩れ落ちる。


「そんな……! これではせっかくの神算鬼謀が……! 閣下、申し訳ございません!」


(だから言ったのに…。まぁ、これで新兵器開発は諦めてくれれば…。)


俺はあくびを噛み殺しながら、至極当然のように言い放った。


「なんだ、そんなことか。行けないなら、相手にここまで来てもらえばよくないか?」


「……え?」


「向こうから五百イル圏内に入ってきてくれりゃ、一瞬で黒焦げにできるんだろ? なら待ってりゃいいじゃん」


俺がテキトーにそう呟いた瞬間、マルコとドレイクの顔色が変わった。


(相手に……来てもらう……!?)


マルコの脳内で、またしても猛烈な速度で誤解の歯車が回り始める。


(そうか! 敵の拠点に攻め込むのは愚策! チッカーバの貧乏性と目先の利益に飛びつく習性を利用し、この五百イル圏内という我が軍の絶対防衛圏へ引きずり込む……! ライン様は最初から、無駄な労力を消耗させない誘致撃滅戦術を狙っていたのか……!!)


「へ、陛下……! すぐに敵を炙り出す偽装商船を用意いたします!!」


「え? あ、うん。よろしくー」


話の着地点はよく分からないが、まあ現場が勝手にやってくれるならそれでいい。



数日後。


レム湖の東側、拠点から四百五十イル地点。


まん々と豪奢な宝飾品を積んだ囮商船に喰いついたチッカーバ率いる湖賊船団は、突如として海上に展開された電撃の魔導鎖の餌食となった。


バチバチバチッ!!


と湖面を青白い雷光が走り、湖賊たちの船は操舵不能に陥る。


「ぎゃあぁぁぁっ!? お頭ぁ!水が……湖が!またあの光だあああ!」


「ええぃ!船が焦げる! 野郎ども!逃げろ、飛び込め……って飛び込んだら痺れるぅぅっ!?」


阿鼻叫喚の地獄絵図を経て、チッカーバ一味は一網打尽にされたのだった。



領主館の地下牢。


縄でガチガチに縛られたチッカーバは、俺の顔を見るなり悔しそうに歯噛みした。


「くそっ……! 汚ねぇぞオルティジアの小僧!まさか湖ごと痺れさせてくるとは……! お前はそういうえげつない手ばかり使いやがる!」


「いいたい事はそれだけか?で? 我がオルティジアの船を何度も襲ってくれたお仕置き、どうしてくれようか」


俺が意地悪く微笑むと、チッカーバはグッと口唇を噛み締め、叫んだ。


「殺せ! だが勘違いするなよ! 俺たちが狙ってたのは『帝国の犬』だった頃のお前らだ! 帝国から独立したオルティジアの船なんか、襲う筋合いはねえんだよ!」


「へえ?」


「俺たち湖賊にもプライドがある! 独立国となったオルティジアを襲うつもりはもうねえ! だがな……!」


チッカーバは悔しそうに顔を歪める。


「俺たちは西側のバルカ公国から資金援助を受けて海賊行為をやってたんだ。急に『オルティジアとは戦いません』なんて手を引いたら、今まで金をくれたバルカ公国への仁義が通らねえんだよ……! スポンサーを無断で裏切るような真似、俺のポリシーが許さねえ!」


「……あー」


要するに、反帝国という信念はあるし、独立した俺たちを襲う気もない。だがスポンサーへの借金があるうちは返済義務があるから筋を通したい、と。


(面倒くせぇなぁ……。バルカ公国だの外交だのが絡んでくると、余計な書類仕事が増えるんだよ。ちゃっちゃと解決して寝たいんだが)


俺は頭を掻きながら、適当な解決策を口にした。


「じゃあさ。バルカ公国にはこう報告すれば良くね?」


「あ?」


「オルティジアは強すぎて手が出せなくなりました。なので我が湖賊団はオルティジアと提携し、今後はバルカの貿易船を安全に護衛する側に回りますって」


「……何言ってんだ?」


チッカーバが鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。


「お前ら一味をオルティジア公認の民間水上警備隊にしてやるよ。レム湖の治安維持と貿易船の護衛を全部お前らに委託する。バルカ公国の船を顧客として安全に通してやりゃ、公国にとっても安全な貿易ルートが確保できるってことで文句ないだろ。お前らの借金もそのうち返せるかもな」


「な……ッ!?」


チッカーバの目が大きく見開かれる。


「お、俺たち湖賊を……国家公認の警備隊にするだと……!? バルカへの仁義を立てさせた上で、俺たちの食い扶持まで用意してくれるってのか……!?」


牢の外で控えていたマルコとシャルロッテも、激しい衝撃を受けていた。


(何という外交的手腕……! 討伐でも処刑でもなく、相手の義理と誇りを立てた上で自国の防衛・物流網に組み込む! これによりバルカ公国との直接的な摩擦を避けつつ、実質的に西側の物流権を握ったことになる……!!)


(ふん……公国の資金で育った湖賊をそのままうちの物流の用心棒にスライドさせるかい。バルカ公国からすれば「金を払ってオルティジアルートの安全を買った」形になるねぇ。相変わらず悪どい男だよ……!)


当の俺は「これで湖の警備も貿易も全部丸投げできるな、よしよし」と心の中でガッツポーズを決めていた。


チッカーバはボロボロと大粒の涙を流し、地べたに頭をこすりつけた。


「ライン陛下ぁぁッ! あんたって人は……どこまで器が大きいんだ! 筋を通させてくれた上に、俺たちの未来まで作ってくれるなんて……! このチッカーバ、今日からあんたに一生ついていくぜ!!」


「おう、怪我しない程度に働いてくれー」


こうして、レム湖の湖賊問題は、俺が指一本動かすことなく、そして今後の書類仕事も激減させる形で解決したのだった。


「ふははは! 素晴らしい!完璧だ!」


夕方。


俺は足取りも軽く、執務室へと向かっていた。


湖上貿易は民間委託、警備はチッカーバ。俺の仕事はゼロ! これで今日から数日間は、合法的に昼寝と読書三昧の天国が待っている!


「ただいまマイ・スイート・執務室――」


ガチャリ。


扉を開けた瞬間、俺の思考は完全に停止した。


「……は?」


 目の前に広がっていたのは、前回を遥かに凌駕する地獄のダンジョンだった。


 この前片付けさせたはずの書類は巨大な紙の塔と化し、食べた後のスナック菓子の袋や空き缶が要塞のように積み上がっている。部屋の隅には脱ぎ捨てられた服の山。


 そしてそのゴミの要塞の頂上で、下着姿のアルテが寝そべり、また絵本を読んでいた。


「あ、ラインお帰りー。あ、そこ踏まないでね。今、古代魔導言語の解読データの分類で超重要な資料だから」


「どこが資料だただのゴミ袋だろ!! 待て、何だこの部屋の角にある巨大な物体は!?」


「あ、それ? 部屋を片付けるのが面倒だったから、資料を一つにまとめてタワーにしてみたの。すごいでしょ」


「すごいわけあるかァァァッ!!お前が 爆破した時よりひどくなってるじゃねえか!!てかまず服を着ろ!ここはお前の部屋じゃねえぞ!」


俺の絶叫が、修復されたばかりの王宮内に虚しく木霊した。

今回は読んでいただきありがとうございました♪

このお話は毎週金曜日18時の更新を予定しておりますが、皆さまの応援のおかげで、執筆速度が上がっております!

ヘタレのライン共々、またのお越しをお待ちしております

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今後とも宜しくお願いします!

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