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サボりたいだけの新米領主、全自動で名将に祭り上げられる〜領土を返納して隠居したいのに、家臣の勝手な勘違いで天下がひっくり返りそうです〜  作者: はるりん
第五章 もやしっ子の王国

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第五十一話:経済の命綱と、湖上の無法者

「――というわけで閣下。我がオルティジア王国の今後の経済発展、および西側諸国との物流網の確立には、このレム湖の水上貿易ルートの安定が絶対に不可欠にございます!」


領主館の会議室。


内政官のマルコ・バルサが、ホワイトボード代わりの魔導石板にマルマラ湖の巨大な地図を広げながら、力強く熱弁を振るっていた。


その隣には、漆黒のシルクドレスから艶やかな狐耳とフサフサの尾を覗かせた、シャルロッテ商会のトップ・シャルロッテ=ローゼンの姿もある。


「知れた事を言うねえ。このマルマラ湖は、古来より大陸の物流の要。帝国から独立した以上は、帝国から交易船が攻撃を受ける事もあるだろうねぇ。マルマラ湖の制海権…いや、制湖権を握ることが鍵さね。」


「ふむふむ……そうだなぁ」


長机の上で頬杖をつきながら、俺はテキトーに相槌を打っていた。


(この件には俺は関わらない。シャルロッテ達に丸投げしよう。俺は船は苦手なんだ。そしてゆくゆくは湖上交易は全て民間委託にしよう)


脳内で恐ろしいほど都合の良いアイデアが浮かび、俺の顔に思わず笑みが浮かぶ。


「大賛成だ! さっそく船を出してルートを確保しようか!」


俺が快諾すると、マルコとシャルロッテは顔を見合わせ、パーッと表情を輝かせた。

……が、そこで会議室の隅に控えていたギルバートが、重々しく口を開いた。


「ライン様……それにはまず、奴らを黙らせるしかありますまい。」


「湖賊…だよな。」


「御意。帝国時代は、湖賊は、バルカ公国の資金援助を受け、帝国に属する商船や沿岸の都市を荒らしまわっていました。一旦は彼らの拠点を壊滅させはしましたが、我々の独立でマルマラ湖の勢力図が書き換わった以上、また我らに牙を剥く事も考えれます。」


マルコも困り顔で付け加える。


「その湖賊を束ねる現在の頭目の名は……チッカーバと申します」


「チッカーバ…」


彼の率いる湖賊を討伐して以来、オルティジアを目の敵にして何度も戦いを挑んでくる懲りない奴…

 憎めないところもある奴なんだが、いずれ決着をつけねばならない相手ではある。


 マルコは真剣な面持ちで尋ねてくる。


「閣下、いかがなさいますか? 我がオルティジア水軍に勝てない相手ではありませんが、背後を帝国に突かれるおそれがあります。ここは彼らに莫大な通行料を支払って示談とするか……」


「討伐となるとチッカーバのしぶとさだと長期戦は避けられないな。かと言って、みすみす奴らに金をくれてやるのは惜しい…」


「と、申しますと……?」


「電撃戦で一網打尽にするしかないよなぁ」


俺はあくびを噛み殺しながら、ごくごく当然のように言った。


(新しく船を作ったり、長期戦の軍資金を出したりするなんて面倒くさいだろ。わざわざ金を払うのも腹が立つ。奴らの拠点を一瞬で叩いて今度こそ一網打尽にしないと)


「で、電撃戦……でございますか?」


――会議室の空気が、急激に緊張を帯び始めていた。


(電撃……? まさかライン様は……)


マルコの瞳に、衝撃が駆け抜ける。

その脳内で、恐ろしいスピードで勘違いの歯車が回転し始めていた。


(魔導兵の排熱利用で、チッカーバの残党を一瞬で黒焦げにした、電撃の魔導鎖! あれをそのまま船に搭載して装甲魔導艦に仕立て上げるだと!? 何という発想の転換!)


水上という、電気を極めて通しやすい環境でその兵器を運用すればどうなるか。


敵の水上砦や船団など、一瞬で逃げ場のない海上の処刑場と化す……!


隣にいたセシリアも、額に冷や汗を流しながら密かに戦慄していた。


(このマルコとか言う内政官…電撃戦の意味を履き違えてる…!でも怪我の功名で新兵器が誕生しそうだわ……。 そうか、ラインは最初からこの湖を制圧することを見越して、防衛兵器の段階から船にも搭載可能な設計として開発させていたというの!? チッカーバの残党をあえて全滅させず生かしていたのも、新製水軍の実験台として利用するため……! 何という恐ろしい深謀遠慮……っ!!)


「さ、さすがはライン様……!!」


マルコが感涙にむせびながら、ガタッと椅子を蹴って立ち上がった。


「既存の資材と兵器のみで瞬時に無敵の魔導水軍を編み出し、湖上の無法者を殲滅する……! これぞまさに神算鬼謀にございますね!!」


「え? いや、俺の言いたいのはそうじゃなくて…」


「ハッ! ご謙遜を! すぐに装甲魔導艦の建造……いえ、改修に取りかかります!」


「いや、だから魔導兵は遠くまで持ち運びできないだろって…」


俺の困惑を完全に無視して、話はトントン拍子に進んでいってしまう。


「よーし! 実験……じゃなくて出撃は数日後ですね! 」


(まあいいか! これで数日間は『艦隊の準備と試運転』って名目で、書類仕事から合法的に逃げられるぞ! )


打ち合わせが終わり、俺は会議室を後にした。



ガチャリ。


――執務室のドアを開けた瞬間、俺の思考はフリーズした。


「……は?」


 目の前に広がっていたのは、地獄のような光景だった。

 かつてアルテが爆砕した執務室は、修繕が終わって間がなく、まだ新しい木のにおいがする。

 その新しい執務室の部屋中に書類や本が散乱し、お菓子のゴミが撒き散らされ、ベッドの上には脱ぎ捨てられた服の山。足の踏み場もないほどの汚部屋と化した俺の執務室の真ん中で、部屋着姿のアルテが床に寝そべって絵本を読んでいた。


「あ、ライン、お帰り。ちょっと今いいところだから話しかけないでね」


「アルテ…これはどう言う事だ?」


「 私は今、古代魔導文明の文献整理で忙しいの……ちょっ、やめてよっ!」


「うるせえ!会議の数時間で人の部屋をゴミ屋敷にするんじゃねえ!さっさと片付けろこのオタク補佐官!」


俺の怒号が領主館改め王宮内に木霊した。



今回は読んでいただきありがとうございました♪

このお話は毎週金曜日18時の更新を予定しておりますが、皆さまの応援のおかげで、執筆速度が上がっております!

ヘタレのライン共々、またのお越しをお待ちしております

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