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サボりたいだけの新米領主、全自動で名将に祭り上げられる〜領土を返納して隠居したいのに、家臣の勝手な勘違いで天下がひっくり返りそうです〜  作者: はるりん
第四章 もやしっ子と祭りと歓声と

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第四十八話:三角旗は、風にはためく

 ――ワーーーッ!!


 地鳴りのような歓声が中央広場を包み込んでいた。

 ステージの上には、全身を鮮やかな水色の寒天で分厚くコーティングされ、哀しくもシュールな姿で横たわる執政官ルードヴィヒの遺体。


 その遺体の前に、老臣ギルバートが、重々しく、万感を込めた足取りで出た。



 彼は集まった数万の領民たちを見渡し、腹の底から響く声で叫んだ。



「オルティジアの同胞たちよ!!」



 静まり返る広場。


 ギルバートは横たわるルードヴィヒの体を力強く指差し、朗々と語りはじめる。


「帝国の執政官は果てた。我らを縛り、虐げてきた鎖は今、完全に断ち切られたのだ!

我らは長年帝国の盾となり、西側諸国の侵攻をことごとく打ち払ってきた。しかし!かの帝国は、我々の尊厳を奪い、ろうそくの火のように弄んできた。それだけにとどまらず、このルートヴィヒ執政官は、オルティジアの力を我が物とせんとし、世界そのものに弓を引き、全てを破滅へと巻き込もうとしていた。あれはもはや指導者などではない。世界を蝕む害悪そのものだったのだ。

奴が倒れた今、語るべき真実はただ一つである!

諸君!正義は我らオルティジアにある!

我々の戦いは掠奪でも侵略でもない。奪われた正当なる未来を取り戻すための、神聖なる戦いなのだ。もはや恐れるものは何もない!歴史を動かすのは、抑圧を打ち砕いた我々の意志だ!

胸を張れ、オルティジアの民よ!

我らの正義を、新たな時代の旗印として世界に知らしめるのだ!」



「おおおぉぉぉぉぉっ!!」



(((こぉらじじい!!!!民を扇動するなあああああ!!!)))

 ギルバート渾身の演説の横、俺は、心の中で喉が引きちぎれるほどの絶叫を上げていた。


 悪しき執政官じゃなくてただのドジな可哀想な人なんだよ! 彼はただ、職人が零した寒天液に足をすべらせて、ドボンと羊羹の鍋にダイブして勝手に溺死しただけなの!!!


 俺の悲痛な心の叫びなど知る由もなく、ギルバートの演説はさらに熱く加速していく。


「もはや我々の歩みを阻む者はおらん! 今こそ立つのだ、オルティジアの民よ! もはや我々には、帝国の圧政に従う義理など破片かけらほどもない! 今こそ――湖上の獅子吠ゆる時!!」


「「「『うおおおおおおおおっっっ!!!オルティジア王国万歳!ライン様ーっ!!』」」」


 民衆の歓声と熱気が天を突き抜ける。


 ギルバートは満足そうに頷き、ギラギラと瞳を輝かせながら俺の方へ振り返った。


「ライン様! ご覧ください、民のこの熱量を! 貴方が仕掛けられたこの暗殺劇により、領民の戦意は完全に一つとなりましたぞ!」


「民を……民を扇動するな……! 彼はただ滑っただけなんだよ……頼むから誰かウソだと言ってくれ……っ!」


 熱狂する領民のその手には、三角形の旗が握られている。


 三角の旗の中心には、俺の姿絵…


 俺の初陣記念の「お兄ちゃんペナント」を適当な木の棒に括り付けて振っているのであった……


 俺は膝から崩れ落ちそうになりながら、激しく白目を剥いて天を仰いだ。



 演説の熱気が最高潮に達する中、俺は引きずられるようにして領主館の執務室へと連れ戻された。

 そこでは、内政官マルコとレオン、さらには通信兵たちが汗だくになりながら、山のような書類と魔導通信機に向き合っていた。


「ライン様! 朗報です!」


 マルコが興奮で息を荒くしながら、何枚もの羊皮紙を掲げた。


「昨夜、ルードヴィヒが帝都へ送付したオルティジア独立の魔道書簡……あれのおかげで、帝国側はすでに我々を反逆者と認識しております! もはや猶予はありません!」


「は……? え、ちょっと待って……?」


「ですから! 我々は先手を打ち、周辺の主要国、さらには西側諸国に向け、オルティジア国家独立宣言の魔導書簡を一斉送信いたしました!!」


「ちょっと待て!俺はそんな文書決裁してないぞ!勝手に暴走するな!!!」


俺がそう言うが早いか、通信技官が、魔道書簡送信のボタンを押した。

装置近くの壁には、「魔道書簡誤送信防止」「ダブルチェック励行」と書かれた黄ばんだ張り紙が貼ってある。



キィィィンと青い光が部屋を包み込み、世界中へ向けて「オルティジア独立」の電波が爆速で駆け抜けていった。


「あっ………………っ!?」


 俺は絶句した。


 帝国だけじゃない。世界中に……世界中に「俺たち独立します!」って宣言しちゃったの……!?


「あ、あわわ……終わった……世界を巻き込む事になっちゃったわ……」


 部屋の隅で、服従の腕輪を身につけたセシリアが、胃をギュッと押さえながら白目を剥いて倒れかけている。


「ライン様! これで外堀も内堀も、地球の裏側まで埋め尽くしましたな!」


 レオンが爽やかな笑顔で親指を立てる。


「さあ、外でお待ちの民衆と、世界中の国々に向けて……閣下…いや、陛下の口から我々の意思を聞かせてやってください!」



 もはや逃げ場は無かった。

 言い訳も、隠れ蓑も、温泉セカンドライフの夢も、すべては水色の羊羹と共に死んだのだ。


(ここで実は執政官はただ羊羹に滑って溺死しただけで、独立なんてウソですなんて言ったらどうなる……? 暴動を起こした民衆に吊るされるか、帝国軍に反逆罪で処刑されるかの二択だ……詰んだ。)

 俺は死んだ魚のような目で、ギルバートから渡された羊皮紙(独立宣言書)を握りしめた。


 再び立った特設ステージの上。


 眼下には、領都レムの領民。

 横には涙を流して熱く見つめてくる家臣たち。

 俺は拡声魔導具の前に立ち、ゆっくりと息を吐いた。

 視界は完全に白濁し、意識は半分レイヴ川の流れの中へと飛びかけている。


ポンポン…キィィーン……


「あ、あ、あ、……えー……」


 ガラガラのかすれ声。


 俺は完全な白目のまま、棒読みで羊皮紙を読み上げ始めた。


「……我々オルティジアは……本日を以て……帝国からの独立を……宣言する……。……帝国軍が攻めてきても返り討ちだ……若獅子の牙にかけ、骨まで砕いてくれるわ……」



「うおおおおおおおおっっっ!!!」


「獅子王!ライン国父陛下万歳ーーーっ!!」


「帝国をぶっ潰せーーーっ!!」


 ドカァァン! と夜空に祝砲の花火が打ち上がり、紙吹雪が舞い踊る。


 俺の悲痛な朗読は、「歴史的暴挙に対する不退転の覚悟」として民衆に受け取られ、興奮は極限へと達した。


「ライン、ご苦労様!」

と誇らしげに見つめてくるアルテ。


「ライン様! 新国家の誕生だーっ!」

と叫ぶレオンとギルバート。


 万雷の拍手と熱狂の渦の中心で。


 世界一惨めで、世界一愛されている「新国家のリーダー」となった俺は、天を仰いだまま魂の抜けた白目を剥いて、静かに倒れ込むのだった――。

今回は読んでいただきありがとうございました♪

このお話は毎週金曜日18時の更新を予定しておりますが、皆さまの応援のおかげで、執筆速度が上がっております!

ヘタレのライン共々、またのお越しをお待ちしております

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今後とも宜しくお願いします!

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