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サボりたいだけの新米領主、全自動で名将に祭り上げられる〜領土を返納して隠居したいのに、家臣の勝手な勘違いで天下がひっくり返りそうです〜  作者: はるりん
第四章 もやしっ子と祭りと歓声と

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第四十話:沈黙の軍勢と、譲れぬ一線

 魔導兵が排熱バルブを開放し、元の位置へ戻っていくのを見届けた後。


「最後にこれだけ見て頂いたら、地下の説明は終わりです。次は魔導兵のデモンストレーションと参りましょうか。」


 俺たちは、その格納庫のさらに奥へと執政官たちを案内した。


 ルードヴィヒ執政官は、もはや魂が半分抜けかかったような虚ろな目で、ただ機械的に足を動かしている。セシリアもまた、警戒と困惑の入り混じった表情で、俺の後ろをぴったりとついてきていた。


 やがて、幾重にも施された強力な魔導結界の防壁を抜けた先で、空間が爆発的にひらけた。


「……ッ!?」


 背後で、ルードヴィヒが息を詰まらせる音が聞こえた。


 セシリアの身体が、戦闘直前のように極限まで強張る。


 そこは、気の遠くなるような広さを持つ、地下の超巨大ドーム。


 そしてその広大な空間の地平を埋め尽くしていたのは――


「こちらの地下ドームから、魔導兵が発掘されたのです。発掘された個体は計千五百体です」


 マルコが、まるで自慢のコレクションを紹介するかのように淡々と言い放つ。


 薄暗い地下の光を浴びて、整然と隊列を組んで佇む千五百体の魔導兵の軍勢。

 その圧倒的な質量と沈黙は、そこにいるだけで呼吸を忘れさせるほどの圧迫感を放っていた。


「せ、千五百……だと……?」


 ルードヴィヒの顔から、完全に血の気が失せた。


 千五百体。

 

 それがどれほど狂った数字か、帝国から全権を委任され、この地に派遣された彼に理解できないはずがない。


 古代の遺物であり、一機で戦況をひっくり返せる戦術級兵器が、帝国の一個連隊に匹敵する規模でここに保管されているのだ。


「ええ。まあ、これだけの数が一気に外に出ると領民のみんなが怖がっちゃうんで、今はまだ住民には内緒にして地下でこっそり眠らせてるんですけどね」


俺は頭を掻きながら、軽い調子で付け加えた。


「ただ、こいつらは、人間とほぼ同等の動きができる上に、手先もめちゃくちゃ器用なんですよ。だから今は、さっきの鉱山の採掘作業とか、ミスリルの加工を手伝わせたりして有効活用してます。労働力としてはマジで優秀ですね」


(なにせ、文句も言わないし、二十四時間働いてくれるしな!)


だが、俺のそのブラック企業の経営者のような本音は、ルードヴィヒたちには届かない。


(世界を滅ぼしかねない伝説の軍勢を……『近所の人に驚かれるから』という理由で地下に隠し、『手先が器用だから』という理由でただの作業員として使っているというのか!?)


ルードヴィヒは眩暈を覚えた。この男の基準は、すでに既存の国家や世界の常識を遥かに超越している。


「……オルティジア辺境伯」


震える声を必死に抑えながら、ルードヴィヒが俺を鋭く睨みつけた。


「これほどの軍勢だ。維持するだけでも並の国家予算が吹き飛ぶはず。……これらを起動し、制御している『(システム)』はどこにある? 誰がこの軍勢を動かしているのだ?」


その質問に、俺の背筋にわずかな冷気が走った。


(……あぶねぇ)


この魔導兵たちの本当の『起動の鍵』――それは、俺の義妹であり、うちの領地のオタク補佐官……古代人の血を引くアルテだ。


もしその事実を、この執政官に知られたらどうなる?


アルテは間違いなく帝国に拘束され、軟禁されるか、最悪の場合はこの軍勢を制御する鍵を解明するための『実験台』としてバラバラに解剖されるだろう。


それだけは。


アルテの身の安全と…笑顔だけは、何があっても、誰が相手だろうと、絶対に譲るわけにはいかない。


俺はへらへらとした笑みを一瞬で消し去り、底の知れない冷徹な目をして、ルードヴィヒをまっすぐに見据えた。


「僕の魔力登録による、一括管理ですよ。僕の命令以外、こいつらは一切受け付けないようにしてあります。他人が下手に触ろうとすれば……その瞬間にどうなるかは、保障しかねますが」


嘘である。俺の魔力なんて一ミリも関係ない。


だが、俺の対外用の猫かぶりと、絶対にアルテを守るという強い意思から生じた「冷たい視線」は、ルードヴィヒの心臓を物理的に掴むほどの威圧感となって炸裂した。


「ひ……っ」


ルードヴィヒが恐怖で一歩後ずさる。


(この男単独で、千五百体を完全支配している……! つまり、ライン・オルティジアを殺せばこの軍勢が暴走して世界が滅ぶか、あるいは永久に沈黙するということ。我々は最初から、この男の命の紐一つで生かされているに過ぎないのだ……!)


「さ、さあ、執政官閣下! 地下は冷えますので、そろそろ地上の練兵場へ移動しましょう!」


 空気を読んだマルコが明るく声を張り上げ、俺たちの視察は地上へと戻ることになった。


 しかし、ルードヴィヒとセシリアの背中に刻まれた絶望は、すでに消えることのない深さへと達していた。

今回は読んでいただきありがとうございました♪

このお話は毎週金曜日18時の更新を予定しておりますが、皆さまの応援のおかげで、執筆速度が上がっております!

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