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サボりたいだけの新米領主、全自動で名将に祭り上げられる〜領土を返納して隠居したいのに、家臣の勝手な勘違いで天下がひっくり返りそうです〜  作者: はるりん
第三章 もやしっ子と各国の思惑

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第三十三話:儚き夢は、祭りに呑まれる

その頃、オルティジア辺境伯領、領主館の自室。


「……終わった。俺はなんてものを送りつけてしまったんだ……っ!」


 俺は自室のベッドで、頭を抱えてゴロゴロとのたうち回っていた。


 昨夜、俺の隠居宣言を深読みしたギルバート達が、勢いに任せて、ミスリル鉱山も魔導兵の存在も全部ゲロした『領地返納の請願書』を作り上げてしまった。

 俺はそれを魔導書簡で送りつけてしまったが、冷静になればなるほど冷や汗が止まらない。


(あんな『謀反の証拠』みたいな書類、帝国中央の主戦派が見たら、年金どころか即座に帝国軍の精鋭を差し向けて、俺をギロチン台に送る口実にするんじゃねぇか……!? やばい、ごめんなさいテヘペロで済む次元を超えてた。頼む、届く前に通信エラーで消滅してくれ……っ!)


 激しい胃痛に襲われ、本気で嘔吐しそうになっていたその時だった。


 バァン!と勢いよく部屋の扉が開かれ、マルコが興奮に顔を紅潮させて飛び込んできた。


「閣下! 帝都の軍務局より、緊急の公式返答が届きました!」


「ひぇっ!? き、きた……っ! で、処刑執行人の手配は!? 帝国軍の本隊は何万人攻めてくるんだ!?」


 ガタガタと震えながらクッションに身を隠す俺に、マルコは弾んだ声で告げる。


「何をおっしゃるのです! 我がオルティジアの『請願』が、正式に受理されました! 帝国は我が領を『帝国直轄地』に指定し、全権委任された執政官をこちらへ派遣するとのことです!」



「……え?」



 俺はピタリと動きを止めた。


 ヘタレコンピューターが、超高速で自分に都合のいいように情報を変換し始める。


(直轄地指定……ってことは、領主の権利が国に没収される。つまり、俺は領主をクビ。で、執政官が来るってことは、そいつがこれからの面倒な内政や書類仕事を全部代わりにやってくれる……。あれ? これって……)




「……勝った」




 俺はガタッと立ち上がり、パッと表情を輝かせた。


「勝ったぞマルコ! これで良かったんだ! 国が勝手に領地を引き取って、面倒な仕事を全部やってくれる! 俺は晴れて無職! あとは王都の片隅で、国から送られてくる年金でまったり隠居生活だぁぁぁ!!」


「は、はあ……?(流石は閣下、領地が国庫に返上されるというのに、この不敵な余裕……! すべては計算通りということか!)」


 俺が「隠居最高!」と心の中で小躍りしていると、部屋にアルテとレイラ、臨戦態勢のニナが顔を揃えて入ってきた。


「ライン、お待たせ! 領民総出で準備していた、例の『銀冠祭』の用意が整ったわよ!」


 アルテが書類をトントンと揃えながら、どこか誇らしげに微笑む。


 銀冠祭――それは、新しい街の名物となった、港を守る『海上の鎖(魔導兵の排熱で怪しく発光する巨大な防壁)』にちなんだもので、新たな街おこしイベントとして準備を進めていた大規模な祭りだ。

 

 ちなみに、アルテにライバル意識を燃やすニナの熱烈な発案によるものでもある。


「おお、そうか! みんなありがとな! いやあ、最後の思い出にレムのお祭りを楽しめるなんて最高じゃないか!」


「最後の思い出……?」


 アルテが小さく首を傾げる。俺の不穏な呟きを、家臣たちは「帝国との大外交を前にした、不退転の覚悟」として都合よく受け取っていた。


 そこでマルコが、手元のスケジュール表を確認しながら、何気なく言った。


「しかし、奇しくも……帝国からやってくる執政官が示した領主交代の調印式の日付けは、銀冠祭の仲日と重なっておりますな」


「ん? そうなの?」


「ええ。流石はライン様です。帝国中央からやってくる執政官という名の『侵略者』を歓迎するフリをして、我が領民が一丸となって熱狂し、いつでも帝国と戦える戦意と団結力を持っている姿を見せつけるため、あえて祭りの仲日に到着させるよう、裏で情報操作をされていたのですな! なんという恐るべき心理戦の布石……!」


「手柄を奪いにくる傲慢な上級貴族の鼻を、最初の街並みだけで明かしてやろうという主命だなっ! 私も血が騒ぐというものだ、ハハハ!」

 

 ギルバートとレイラが、勝手に目を輝かせて拳を握りしめる。


 その言葉を聞いた瞬間、俺の顔から、文字通り一切の血の気が引き、白目を剥いた。



(……は? 待って。帝国中央から『謀反を疑われてるかもしれない』ギスギスした状態の伯爵様がやってくる目の前で、領民全員が狂信的に熱狂して一致団結してる姿を見せるの!?)



 頭の中で最悪のシミュレーションが駆け巡る。


 威圧感バリバリの軍事パレード状態のお祭りに、ブチギレ寸前の帝国高官が乗り込んでくる構図。どこをどう見ても、


(それ、帝国から見たら『いつでも独立戦争を起こせる戦闘態勢の誇示』にしか見えねぇじゃん!!! 大人しく引き継ぎして年金生活に入りたいのに、なんで初手から相手の地雷を全力で踏み抜く舞台が整ってんだよぉぉぉぉ!!!)


 ラインの、「頼むから穏便にクビにしてくれ」という切実な願いを置き去りにしたまま、レムの街は最悪の熱狂の渦へと巻き込まれていくのだった。

今回は読んでいただきありがとうございました♪

このお話は毎週金曜日18時の更新を予定しておりますが、皆さまの応援のおかげで、執筆速度が上がっております!

ヘタレのライン共々、またのお越しをお待ちしております

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