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サボりたいだけの新米領主、全自動で名将に祭り上げられる〜領土を返納して隠居したいのに、家臣の勝手な勘違いで天下がひっくり返りそうです〜  作者: はるりん
第二章 新米領主と領地経営

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第二十三話:白銀は、熱いうちに打て

 この夏に控えた銀冠祭のイベント準備が着々と進む中、俺はふと、あることを考えた。



 我が領内で採掘されるようになった、伝説の魔導金属――ミスリルの国内利用についてだ。



 現在はエスカンテ商会の裏交易ルートを使い、他国へ密売することで十分な利益が出ている。

 だが、せっかくの古代の希少金属だ。どうにか隠密性を保ったまま、我が領の繁栄や内政にも直接利用できないだろうか。



「どうしたの? ミスリルを加工してみたいなんて今日はやけに領主らしい事言うんだね。……ちょっと、熱でも出た?」



 執務机で悩む俺の隣にすっと歩み寄ると、アルテは俺の額にピタッと自分の冷たい手を当て、至近距離から顔を覗き込んできた。


「んなっ……!?」


 湯上がりのような、アルテの微かに甘い香りが鼻腔をくすぐる。



 俺は思わず赤面し、慌ててその手を跳ね除けた。



「でも残念だけど、ミスリルの国内利用はそう簡単じゃないよ。ラインも知っての通り、ミスリルは加工が極めて難しい金属なんだよね」


「ああ。確か、現代の一般的な炉の火力じゃ、形成することができないんだよな?」


「そう。現在市場に流通している本物のミスリル製品は、すべて『スキチャ連邦』で製造されたもの。そしてあの国は、ミスリルの精錬・加工方法を国家最高機密として独占。門外不出にしてるからね。」


 スキチャ連邦。


 大陸南西部の広大な山岳地帯に位置する、七つのドワーフ自治州からなる連邦国家。

 現在、世界で唯一の公式なミスリル産出国であり、その加工利権を完全に独占している強国だ。

 各国はミスリル製品が欲しければ、スキチャ製の高価な既製品を買うか、あるいは原石のまま大金で買い付けた上で、さらに莫大な「技術料(加工賃)」を支払ってスキチャの職人ギルドに製造を依頼するしかなかった。


 実は、俺たちの密輸ビジネスはここにつけ込んでいる。


 オルティジアで秘密裏に採掘した原石を、エスカンテ商会を通じて「スキチャ連邦の悪徳役人から裏で買い叩いた横流し品」という建前で、市場価格の八割でゲリラ販売しているのだ。


 当然、安くて純度も一級品のミスリル原石は、他国の富豪や大貴族の間で飛ぶように売れていた。


「国内利用は難しいか……。ならうちで採れた原石をそのままスキチャ連邦に渡して、加工だけあっちの公式ラインに丸投げすればいいんじゃないか? 餅は餅屋だろ?」


 ソファに寝転がり、クッションを抱えながら適当に提案する。


 だが、それを聞いたアルテは、信じられないものを見るような、底冷えのする冷たい視線を俺に向けてきた。


「ライン。君、本当に頭大丈夫? 今日はちょっとおかしいよ?いつもは石橋を叩き壊した上で渡らないくらい臆病でヘタレな癖に……。そんなことをすれば『オルティジアでミスリルが採れる』という事実をスキチャ連邦に自ら教えに行くようなもでしょ?そんな噂、秒速で帝国中央に広まって、その時点で君の首は確実に飛んじゃう」


「うっ……」


「それに、あの強欲なドワーフどもに加工を依存したら、利益の八割は技術料として毟り取られる。何より、我が領の国力を『誰にもバレずに』極秘裏に底上げするためには、このレム領内での【完全密造・完全精錬】こそが絶対条件だよ」


「……ですよね。すみませんでした」


 俺は深いため息をつき、ベッドに突っ伏してゴロゴロと寝返りを打った。

 もういっそ、加工ができないなら密輸なんてやめて、綺麗な石ころとして部屋に飾って鑑賞してりゃいいんじゃないか……。

 そんな俺のいつものヘタレ根性を察したのか、我が優秀なオタク補佐官は、真紅の眼をキラリと不敵に輝かせて胸を張った。


「フフン♪ヘタレなライン君のために、私が領主館の地下書庫に眠る古文書を徹夜で調べ上げたからね。結果、ミスリルの加工方法の『答え』が分かりそうだよ!」


 アルテが愛おしそうに抱き抱えていたのは、オルティジア領の子供なら誰もが知っている、手垢のついた古い御伽話の絵本だった。


「いや、だから……アルテ、それは俺が小さい頃に読んでた童話の本……」


「この古文書(絵本)の記述によれば、英雄は『太陽の炎』でミスリルの剣を打ち、闇を払ったと書いてあるよ。見てみな?この挿絵に描かれた炎を! つまり、既存の概念を遥かに超える『超高温の炉』さえ用意できれば、ミスリルの加工は容易なはずなんだよ!」


 俺のツッコミを完全に遮り、アルテは早口のオタク特有のテンションで捲し立てると、こちらに向かってドヤ顔でVサインを突き出してきた。


「いや、理屈は分かったけどさ。どうやってその、太陽並みの超高温を出すんだよ?」


「…………」


 突き出されたVサインの形のまま、アルテがぴたりと凝固した。どうやら肝心の「どうやって火力を上げるか」はノープランだったらしい。


 その時だった。


 ――ぷしゅーーーー。


 部屋の隅で大人しく直立不動の姿勢をとっていた魔導兵が、一日一度の定期排熱を始めた。

 途端に、狭い執務室の中がじっとりとした赤黒い熱気に包まれる。


「あっつっっ!? ……おいアルテ、もう部屋がサウナ状態なんだけど。……じゃあさ、いっそこの魔導兵の強烈な熱気でもミスリル原石にぶち当ててみたらどうだ?」


 暑さのあまり、手元の書類で首元をあおぎながら適当に吐き捨てた。


 だが、その瞬間。


 アルテはカッと目を見開くと、猛然たるダッシュで俺に詰め寄り、ガシッと両手を力強く握りしめてきた。


「そ、それだよ、ライン……!! この古文書の挿絵をよく見てみて、英雄の背後で剣を打つ『鉄の巨人』の姿が描かれてる! 太陽の炎とは、自然の太陽のことじゃない……古代の魔導兵が放出する、あの規格外の『排熱』のことだったんだよ!」


「いや、だからそれ、ただの絵本な? 画家の想像だろ?」


 俺の必死の正論を100%無視して、オタク補佐官は「実験してくる!」と叫びながら、凄まじい速度で執務室を飛び出していった。


 ◇


 数日後。アルテによって地下水路へと呼び出された俺は、いつの間にか地下水路の中を改装して作られていた、極秘の「ミスリル地下精錬工房」へと案内された。


 薄暗い工房の中には、困惑した表情の領内一の鍛治職人が数人と、彼らの前に設置された、巨大な逆円錐型の『魔導漏斗』なる装置が鎮座していた。

「これは、港の防衛システム――『銀冠の鎖』の術式を応用して急造したものだよ。魔導兵の排熱が、特定の魔力循環に反応して高密度化することに着目してみたの。この装置で排熱を一箇所に収束・過給させれば……!」


 ――ぷしゅーーーー。


 アルテの合図とともに、背後に待機していた魔導兵が排熱を開始する。

 次の瞬間、魔導漏斗が眩いオレンジ色に輝き、その先端から、一筋の細く鋭い熱線が台座の上のミスリル原石へと照射された。


「……ん? 何も変わらないじゃないか」


 光を浴びたミスリル原石は、パッと見では赤くなることもなく、ビクともしていないように見える。


 周囲に集められた鍛治職人たちも、「いくら領主様の命令でも、こんな変なオモチャじゃ伝説の金属は叩けねえな」と口を揃えて首を横に振った。


「いいから。……ギルド長、試しにその槌で、上から軽く一発打ってみてちょうだい」


 アルテに促され、鍛治ギルドの長の老職人が「ハッ、無駄だと思いますがね」と、重いハンマーをミスリル原石へと振り下ろした。


 ――グニョリ。


 小気味よい金属音ではなく、まるで生ぬるい粘土でも叩いたかのような、妙な手応えが工房に響く。


「こんな状態で扱えるわけが……って、えええええええええーっっ!?!? 金属がっ、伝説のミスリルが、型に流せるぞチクショー!!」


 老職人が目玉が飛び出んばかりに驚愕し、ひっくり返って腰を抜かした。

 装置から放たれた魔導熱線は、ミスリルの分子結合を内側から完全に弛緩させ、既存の炉では不可能な温度管理に頼らぬ精密加工を可能にする奇跡の加工法だったのだ。


 おい、待て。


 また俺の「暑いから熱をぶち当てろ」っていう、小学生並みの適当な思いつきが原因で、ロストテクノロジーが完全復活しちゃったよ……。


「やったね、ライン! これでわざわざスキチャ連邦に高い金を払って加工してもらう必要なんて皆無だね。我がオルティジアの工房で精錬した方が、遥かに早くて、精度も上のミスリル製品が作れるよ!」


 アルテが普段の冷静さを忘れて、満面の笑みで狂喜乱舞している。


 これで、外の国に技術を依存する必要はゼロになった。

 それどころか、このミスリルを使って、最高級の武具から、ラインの「楽したい」という要望を叶える『絶対に錆びない最高級の調理器具や農機具』といった日用品まで、自領内だけで自由自在に密造・流通できる、世界で唯一環境が完成してしまったのである。


「はぁぁぁぁぁぁ…………」


 職人たちが「若獅子様の神算鬼謀、恐るべし!」と涙を流して、飴細工のようにミスリルの整形を始めた光景を見つめながら、俺は本日最高深度の溜息を吐き出した。


 ただ、スキチャ連邦への外注の手間をケチりたかっただけなのに。


 気づけば俺は、世界唯一のミスリル加工技術を独占する国家に対し、裏から経済崩壊の宣戦布告を叩きつける、恐るべき領主への階段をまた一歩登ってしまっていた。


「……レイヴ川の冷たい激流で、この熱すぎる頭を冷やしたい……」


 アルテが嬉々として「次なる量産計画」の帳簿を開く中、俺はただただ、自分の幸運(不運)に白目を剥くことしかできないのだった。


今回は読んでいただきありがとうございました♪

このお話は毎週金曜日18時の更新を予定しておりますが、皆さまの応援のおかげで、執筆速度が上がっております!

ヘタレのライン共々、またのお越しをお待ちしております

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今後とも宜しくお願いします!

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