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サボりたいだけの新米領主、全自動で名将に祭り上げられる〜領土を返納して隠居したいのに、家臣の勝手な勘違いで天下がひっくり返りそうです〜  作者: はるりん
第二章 新米領主と領地経営

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第十七話:伝説は、地下水路の片隅に

 俺の初の親征……要塞島での湖賊との戦いは、オルティジア騎士団の勝利で幕を閉じ、領内はお祭り騒ぎであった。


 若き領主、つまり俺の鮮やかな軍略と気迫は「若獅子の覚醒」として領民や兵たちの間で噂になり、館に戻ってからの俺に向けられる視線は、それまでとは比べ物にならないほど熱いものになっていた。



 ――そして、それが俺にとっては、最高に息が詰まる状況だった。



「……もう無理。もう耐えられない。みんなの期待の視線が重すぎる。ちょっと部屋を出るだけで、兵士たちが『閣下、次なるご指示を!』とか言って一斉に直立不動で敬礼してくるの、本当に寿命が縮むからやめてほしい……」


 領主館の最奥、ジメジメとした薄暗い地下水路の片隅で、俺は膝を抱えて盛大にため息をついていた。



 揺れない。誰も来ない。静か。



 こここそが、周囲の熱狂から逃げ出したい俺にとっての、最高の避難場所だった。ひんやりとした壁に背中を預け、ようやく手に入れた平穏に白目を剥きかけていた、その時である。



「……ライン様。またそんな場所に隠れておいでですか」



 暗闇の向こうから、聞き馴染んだ呆れ声が響いた。

 ランタンの灯りを手に、トボトボと歩いてきたのは、白髭を蓄えた老臣――ギルバートだった。


「げっ、ギルバート……! なんでここが分かったんだよ」


「なんで、ではございませぬ。貴方は幼少の頃から、悪戯がバレたり勉強から逃げ出したりするたびにどこへ隠れていたか、この老骨が忘れるとでもお思いですか」


 ギルバートはふぅ、と深い溜息をつきながら、俺の隣にランタンを置いた。


「領内の誰もが貴方の活躍を称えているのです。少しは領主らしく、どっしりと構えていればよろしいものを」


「嫌だよ。だいたい、査察官を追い返した辺りからアルテの視線がやけに鋭くて怖いんだ。レイラも遠征から帰ってきて以来『盾になる』とか言って四六時中張り付いてくるし、ニナはニナでお兄ちゃんお兄ちゃんって、ご飯の量がいつもの1.5倍になってるし……。俺はただ、のんびり静かに暮らしたいだけなんだ。お願いだからそっとしておいてくれよ、ギルバート」


「やれやれ……。お気持ちは分かりますがな。先代様がご覧になったら、草葉の陰でなんと仰るか……」


 ギルバートは頭を押さえながらも、それ以上は無理に俺を連れ戻そうとはしなかった。彼もまた、俺が背負っている重圧と、その繊細な本質を誰よりも理解している一人なのだ。



 押し問答が一段落し、地下水路に静寂が戻る。



 俺は手持ち無沙汰になり、暇つぶしに、すぐ横にある崩落しかけた古い壁を、手元にあった小石でコツコツと叩き始めた。




 コツ、コツ、コツ――ガラガラッ!




「うわっ!?」




 脆くなっていた壁の一部が、俺の小突いた衝撃で呆気なく崩れ落ちた。

 大量の砂埃が舞い上がり、俺とギルバートは激しく咳き込む。


「ゲホッ、ゲホッ! ……何だ、今の? 壁の奥に、まだ古い空洞があったのか?」


「お怪我はございませんか、ライン様。……おや?」


 ギルバートがランタンを掲げ、崩れた壁の奥へと光を向けた。



 その瞬間、二人の言葉が止まった。



 暗い空洞の奥、露出した岩肌の一部が、ランタンの放つ微かな光を反射して、異常なほど美しく、幻想的な銀色の輝きを放っていたのだ。


「……なんだこれ。やけに綺麗に光る石だな。鉄……じゃなさそうだけど」


 俺が銀色に輝くその石ころに触れようとした時、横にいたギルバートの手が、ガタガタと激しく震えていることに気づいた。老臣の顔は驚愕のあまり完全に強張り、目を見開いている。


「ら、ライン様……。これ、これはもしや……」



 ◇



「――間違いないね。これ、『ミスリル』だよ。」



 数刻後。



 俺の自室に極秘で呼び出されたアルテは、机の上に乗せられた銀の鉱石を見るなり、いつものクールな表情を完全に引きつらせていた。


 アルテの後ろには、例によって魔導兵が控え、アルテの発言に合わせて首を縦に振る。


「アルテ、本当に……ミスリルなのか? 冗談じゃなくて?」


 俺の問いに、アルテは普段のすました態度を忘れ、食い入るように鉱石を見つめながら頷く。


「石ころが冗談でこんな輝きを放つわけないでしょ? 太古の昔はどこにでもあるものだったみたいだけど、採掘量が激減している今、これのほんの爪の先ほどの一欠片が、どれほどの高値で取引されているか……これだけの質と大きさのもの、一体どこで拾ってきたの?」


 アルテの、どこか獲物を狙うかのような鋭い視線が俺を射抜く。


「え、いや……領主館の、地下水路の奥で、ちょっと壁をコツコツやったら崩れて……」


「地下水路……。伝説の古代遺跡が眠っていたんだから、古代の鉱山があっても不思議はないけど……」


 アルテは信じられないといった様子で額に手を当てた後、すぐにいつもの聡明な頭脳をフル回転させ始めた。


「ギルバート卿、今すぐその地下水路の奥の埋蔵量を隠密裏に調査しましょう。他の兵や使用人には絶対に口外してはだめ。もしこれが外部に漏れたら、オルティジアは一瞬で血の海になる」


「うむ。さっそくそうするとしよう!」


 ギルバートが緊迫した面持ちで、音もなく部屋を飛び出していく。


 残された俺は、部屋の片隅で一人、どんどん話が大きくなっていく状況に青ざめていた。



「あの、アルテさん……? なんかものすごく大事になってる気がするんだけど……。俺、ただ1人になりたくて地下水路に行っただけで……」



 ヘタレ全開でガタガタ震える俺に対し、アルテはすっと歩み寄り、至近距離で俺の目をじっと見つめた。


大事おおごとどころの騒ぎじゃないよ、ライン。もし、あの地下にあるのが本物の鉱脈で、それなりの埋蔵量があるのだとしたら……」


 アルテはそこで言葉を区切り、ふっと妖艶に、けれど真剣な眼差しで微笑んだ。


「オルティジアの財政どころか、この大陸の勢力図がひっくり返っちゃうね――君のその、本当におかしな強運のおかげでね」


 そう言い残し、アルテは調査の準備のために部屋を後にした。


 1人残された俺は、机の上の銀色の輝きを見つめながら、



「……あ、これ絶対に面倒くさいことに巻き込まれるやつだ。……レイヴ川の流れが恋しい……」



と、再び白目を剥いてベッドへ倒れ込むのだった。



今回は読んでいただきありがとうございました♪

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