第6話 『攻撃力:S』
ギルドに到着し、俺たちは受付カウンターへ向かった。
「おかえりなさいませ、冒険者様」
「んなメイドカフェみたいな言い回しなのか、受付嬢って」
「こら」
思わず口から漏れたツッコミに、星羅は俺の頭にチョップを見舞う。
微かに脳が揺れるのを感じながら、
「あの、冒険者の登録がしたいんすけど」
「新規登録者様ですね。少々お待ちください」
そう言って、受付嬢は奥へと下がっていく。
ここに来るまでに、登録に必要だと教えてもらった、身分証やら何やらを用意して待っていると、受付嬢はほどなくして戻ってきた。
「御影零様、ですね。それでは、こちらのステータス測定器に手を置いてください。
現在のレベルとステータスが、ギルドカードに刻印されます」
受付嬢は営業スマイルを浮かべて、何やら水晶玉のような道具をカウンターに置いた。
俺のこれからの運命を占ってくれるというわけか。
言われた通りに水晶玉に手を置くと、青白く発光した。
傍らにあるプリンターのような機械から銀色の分厚いカードが吐き出された。
「はい、お疲れ様です。こちらが、御影様のギルドカードになりま……えっ!?」
「ん? どうかしたんすか?」
突然声を張り上げた受付嬢は、ギルドカードに刻まれた印字を確認して両目をギョッと見開いた。
彼女は俺とギルドカードを二、三度ほど往復して見比べた後、引き攣った笑顔で水晶玉をポンポンと叩きながら、
「も、申し訳ありません。測定器がバグを起こしてしまったようでして……。
お手数ですが、もう一度測定させていただけませんか?」
「お、おう。大丈夫っすよ」
機械なんてよくバグるものだろうし、仕方がないか。
そう割り切って、もう一度測定器に右手を乗せる。
また青白く光った後、差し込まれたカードが再び吐き出された。
「ありがとうございます。……って、また?」
「またバグったんすか?」
「は、はい。そうみたいです……」
「ちょっと、そのカードを見せてくれる?」
狼狽する受付嬢に、隣で俺を待っていた星羅が手を差し出した。
言われるがままにギルドカードを手渡した受付嬢は、「ありえない……」と首を振っている。
印字を見た星羅、そしてその隣にいる澪もまた、受付嬢と同じようにひどく驚いてみせた。
「なあ、いいから俺にも見せろって」
「ど、どうぞ」
思いのほかあっさりと、星羅はギルドカードをこちらに向けた。
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【名前】 御影零
【レベル】1
【攻撃力】 S 810
【敏捷】 E 320
【耐久】 D 430
【器用】 I 0
【魔力】 I 0
【スキル】 『自壊』
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ギルドカードには、そう書かれていた。
しばらく凝視して、俺はようやく理解した。
「こ、【攻撃力】がS……?」
「御影様は、駆け出しの冒険者なのですよね。
でしたら普通、新規登録者の方のステータスはすべてが初期値になるはずです。
それなのに、【攻撃力】がSって……こんなこと、ありえません。何か、お心当たりはございませんか?」
「心当たり、ねぇ……」
そう尋ねられ、俺は記憶をたどるように天井に目を向ける。
まあ、心当たりしかないんだけど。
……っていうか、上三つのステータスは跳ね上がってるのに、下二つは0だなんて、そんなことあるか?
【魔力】はまだしも、【器用】が0って。
これ、バカにしてるだろ。
まあ、スキルの名前は中々かっこいいな。
デスペラード……『命知らず』ってか。
「とりあえず、俺にも受付嬢さんにも過失はないんすよね。
それなら、ちゃちゃっと登録を済ませてもらってもいいですか?」
「は、はい。かしこまりました」
未だに動揺が隠しきれていない受付嬢に手続きを続けるよう頼むと、あたふたとしながらもすぐに対応を始めてくれた。
***
『家庭事情による特例』での登録の手続きは少し時間がかかったが、何とか登録手続きが終わった。
どうやらあの受付嬢もまだ業務について間もない新人だったらしく、どこか親近感が湧いた。
――そして、現在。
「ここが三層よ。上層のフロアなんて久しぶりに来たわ」
「玄人アピールか?」
「実際玄人だもんね~」
両手を首の後ろで組み、すました顔でからかってくる星羅。
そんな彼女の輪郭を形作っているのは、眩しい太陽が照りつけるジャングルのようなフロアだった。
まるで本物の日差しのような光を放っている太陽は、ダンジョン内に自然生成された天然のものであるらしい。
そして、その下に広がる鬱蒼とした森林もまた然りだ。
「あたしは上層を中心に活動してるから、三層には慣れてるわ。
案内なら任せて」
「頼りにしてるわよ、澪ちゃん」
「うぐっ……は、はい。任せてください」
やはり緊張が解けきれないのか、澪は余裕綽々の表情をすぐに豹変させて耳を赤くした。
そんなに緊張するほどの相手とは思えないんだがなぁ。
いやまあ、冒険者をやってる身からすると、A級の冒険者ってだけで尊敬に値する相手なのだろう。
「じゃあ、零。いよいよテストの時よ」
「おう。いつでも準備オーケーだ」
「いい気概ね。じゃあ、早速始めましょうか」
じんわりと汗が滲むシャツの腕をまくり、笑みを浮かべる星羅に不敵な笑顔を返す。
その傍らに立つ澪は俺を心配そうな顔で見つめているが、親指を立ててやるとわずかに表情が緩んだ。
「三層にのみ出現する『ポイズンスネイク』の討伐が、合格条件よ。
もちろん、全身の骨が無事な状態でね」
ポイズンスネイク。
森林によく出現する、毒持ちのモンスターだ。
……初めて冒険者として相手するモンスターが、毒持ちかよ。
やっぱあの女、性格悪ぃな。
「私たちは、対象を見つけるまでは着いて行くけど、見つけた後は一切手を出さないわ」
「ああ、分かってる」
「せ、星羅さん。お兄ちゃん、初めてなんですよ?
いきなり戦うモンスターが毒持ちだなんて、危険すぎませんか?」
不安げな顔で星羅の顔を見上げる澪は、訴えかけるように小首を傾げる。
さすがは俺の妹だな。考えることがまったく同じだ。
「大丈夫よ。回復ポーションは持ってきてるし、万が一の備えは万全だから」
「それがフラグにならないことを祈るよ。マジで」
「上層に出るモンスターは私の相手じゃないし、いざとなったら助けるわ」
「フラグの上にフラグを建てるな――」
我ながら面白いツッコミができた、と自賛しようとしたその時。
目の前の濁った川から、爆音と水しぶきを纏いながら何かが這い出してきた。
手足はなく、長く太い体をくねらせているそれは、
「運がいいわね、零。『ポイズンスネイク』よ」
ご丁寧に説明してくれた星羅の声は、金切り声によってかき消された。
金属に爪を掻き立てたような不快な音に思わず顔をしかめていると、二本の大きな牙から紫色の液体が射出された。
「おわっ!?」
とっさに後ろに飛び退いてそれをかわすと、俺に到達できなかった液体は足元の草を枯らし、地面に穴を空けた。
「おいおい、コイツの毒って回復ポーションでどうにかなるもんなのかよ!
地面が溶けたんだが!?」
「ゲームの世界みたいに、すぐに治るわけじゃないわ。
あなたは身をもって知ってるでしょ?」
確かに、一度この身をもって経験している。
あれは便利だが、恐らく万能ではない。
俺の骨折も三日ほどしたら完治したが、あくまで回復を促進するだけで、即効性は期待できないだろう。
「……なんて言ってる場合じゃ、ねぇか」
見上げるような巨躯は長く細い舌を揺らしながら、縦長の瞳孔を俺に向けた。
きめ細かな鱗は日差しを反射させ、俺の網膜を強く刺激する。
合格条件は、アイツを討伐すること。
それも、俺自身が壊れずに終わらせなければならない。
やれるのか、俺。
いや。
――殺るしか、ないんだ。




