●act02: 「森に棲みついた魔獣」
先程の会話もあり、一行は無言のまま街道を進んでいた。
ケリーは正面をむいたまま無言である。
そんなケリーにニッキーは並走していた。
ちょっと踏み込み過ぎたかとニッキーは思った。
ダイナフォレストの話は気になるところだが、しばらくは避けたほうがよいだろう。
しかし、話をしずらくなってしまった。
なにかきっかけをつくることができないか、、、
ニッキーがそんなことを考えていたらケリーが呟く。
「弟を迎えにいく」
ニッキーはすこし驚く。
ケリーから話出すのはたぶんこれが初めて。
ケリーはこちらに視線だけを向けていた。
表情を読み取ることはできなかったが、敵意とかは感じられない。
せっかくケリーから話しかけてくれたのだ。
ケリーなりの気遣いなのだろうと好意的に受け取ったほうがよいだろう。
「弟?」
「グランデンに弟がいる。それを迎えにいく」
先日聞いたグランデンに行く目的をいま答えてくれたようだ。
ニッキーは楽しげに応じる。
「ふうん、弟さんって、齢いくつ?」
「14だ」
「やんちゃの盛りね」
「そんなことない、もう落ち着いている」
「そうぉ?わたしにも弟がいるけどその頃はイタズラばかりしていたわよ」
「14でイタズラばかりって子供すぎないか?」
「そうかしら?男の人ってみんなそんなもんじゃないかしら」
ニッキーはロッコを見て、
「この人も似たようなものよ」
ロッコが抗議する。
「そんな子供と一緒にしないでくれ、、、」
ニッキーは、普段からかわれている仕返しとばかりに、
「あら、ならもうすこし、わたしに『大人の気遣い』というものを見せてほしいわね、大人のMr. ロッコ シーフ」
「へい、へい、、、」
口ではニッキーに敵わない。
ロッコは黙り込む。
「わたしの弟はワシンで働いているわ。かわいい男の子よ」
ケリーが聞く。
「齢はいくつなんだ?」
「19よ」
「19歳に『男の子』はないんじゃないか?」
「そうね、いつも『子供扱いしている』って怒られちゃうわね。でもわたしにとってはいまでも年下の男の子よ。気持ちの優しい、思いやりがあって、仲間おもい。まあ、ちょっとおちょこちょいなところもあるけど」
すると、普段、無愛想なケリーが笑顔になる。
「あたしの弟も似たようなもんだ、、、」
弟談議で話が弾む。
ニッキーはケリーとの会話を楽しんだ。
やがて日が沈む前に宿場町に着き、宿をとる。
宿のカウンターで手続きをしていると、外の喧騒が聞こえてきた。
窓越しに見ると道の真ん中で男たちが集まっていた。
十数人の馬に乗った男たち。
銃を持っている。
「あれじゃ近づけん」
「どうする」
「厄介なことになった、、、」
物々しい雰囲気。
ニッキーは宿主に尋ねる。
「なにかあったのですか?」
宿主は顔をしかめて、
「近くの森に魔獣が棲みつきまして。
そこは子供や女たちも木の実を獲りに行く場所です。町人には近づかないよう言っていますが、町から近すぎるため、やむなく魔獣の退治をしようとしていました。ですが、数がわからず、、、、
私たちが近づくと必ず同じ一頭が現れ近づくことを許しません。ですが、鳴き声が複数聞こえるので、実際の数がわからないのです。
それで先日、ここに来た旅の男がその魔獣を見てくると行って、そのまま帰って来ませんでした。魔獣のところに行くと、その男が居て魔獣に近づくなというのです。なにがなんだか、、、」
ロッコが、
「ミイラ取りがミイラになったってか?」
ニッキーがロッコに聞く。
「なによそれ?」
ロッコは時々意味のわからない言葉をいう。
宿主が続ける。
「また、その男が怪しい術を使いまして、ますます魔獣に近づけなくなってしまいました。そこに近づかなければよいのでしょうが、森の恵みが得られる場所です。私たちの生活にも影響が出ます。
魔獣が立ち退いてくれればいいのですが、町からも近く、万一子供が入り込んでしまわないかと心配しております」
「そうですか、、、」
宿主の様子からかなり困っているようであった。
ニッキーたちは宿で食事を済ませ、部屋にあがり、魔獣について話しあった。
ニッキーが、
「魔獣と人が結託するなんて珍しいわね。人と魔獣が共存している地域もあるわ。でもそのほとんどがお互いのテリトリーに入らないようにしているだけ。交流があるとしても獲物の物々交換くらいね。それにテリトリーから離れる魔獣というのも珍しいわね」
ケリーが応える。
「そうでもない」
「そうお?」
「彼らも新しい居場所を求めることもある。でも、そういうときは人も他の魔獣も居ないところに居着く。争いが起きるような場所は選ばない」
ロッコが口をはさむ。
「ケリーは魔獣贔屓だねぇ」
「自分の都合で勝手にテリトリーを決めていくのは人だけだ!」
ニッキーが諫める。
「もう、ふたりともやめなさい」
「はい、はい、ごめんよ」
「ケリーの言うとおりなら、その魔獣にも何かわけがあるのかしら?」
ケリーが応える。
「それはわからない」
「いずれにしても、このままじゃ人にもその魔獣にもいいことではないとおもうわ。元々人が先にいたのなら、その魔獣に立ち退いてもらうしかないけども、できれば穏便にやっていきたいわよね。
ケリー、協力してくれる?」
ケリーはうなずいた。
ニッキーは町の人と魔獣の争いを避けようとしている。
またロッコが口をはさみ、
「ハートお嬢様は面倒がお好きだ」
ロッコのいつもの軽口。
ニッキーはロッコを睨む。
「ロッコ」
そしていつものロッコの返事。
「はいはい」
ニッキーが続ける。
「いまのところ、見つかっているのは、オークベアが一頭。でも、鳴き声は複数聞こえたというから、実際の数がわかってない。だから町の人たちも手を出せないでいるのね。もし、数が多いなら、仕返しも怖いだろうし、、、
あと、魔獣側の男というのも気になるわ。でもその男と話ができるのがいちばんいいかもね」
ニッキーはその日のうちに町の施政者に会い、森に棲み着いた魔獣について話し合いをした。
ハート財団の一族であるというニッキーの肩書はこのようなときに役立つ。
権力者たちはニッキーの突然の面会にも応じ、多くの場合、ニッキーの意見・提案は受け入れられる。
ニッキーは自分たちが様子を見に行くので、そのあいだ魔獣たちに手を出さないようお願いした。
翌日、ニッキーたちは魔獣が棲みついた森に入ろうとしていた。
ニッキーはライフルを持ち、ケリーは右手にナイフ。
デレクは左手に斧、ロッコは背に刀を携える。
ロッコが、
「ご婦人方は後ろにどうぞ」
ニッキーがかえす。
「刀は抜いちゃダメよ」
「はいはい、承知していますよ」
ロッコ、馬人のデレクが前を進み、ケリー、ニッキーがあとに追いた。
森に入りしばらく進むと、一頭の黒い馬が佇んでいた。
こちら側を見ている。
そして声が聞こえた。
「近づくな!」
ロッコが驚く。
「お、馬がしゃべったぞ」
ケリーが応えた。
「あの馬を依り代にいているだけだ。
どこかであたしたちを見ている」
「ケリーみたいに不思議なチカラを持つヤツか?
厄介だな、、、」
ニッキーが声をあげる。
「話がしたいの」
また声が聞こえた。
「帰れ!」
やがて馬の背後から大きい影が現れた。
熊の顔を持つ魔獣。
オークベア。
背丈が人の倍以上あり、その厚い皮膚は銃弾も通らないといわれている。
馬人のデレクよりはるかに大きい巨体。
ロッコが呟く。
「思っていたよりだいぶデカいな。
こりゃ取っ組み合いなんかできないぞ」
ニッキーが叫ぶ。
「お願い、話を聞いて!」
また声がする。
「帰れ!!」
オークベアが雄たけびをあげた。
するとその背後からも魔獣の鳴き声が複数聞こえてくる。
確かにこれでは数がわからない。
数頭なのか、十数頭なのか。
ニッキーたちを退かせようとオークベアが近づいてくる。
殴り合いでは勝てないだろう。
たとえ銃で殺せたとしても数がわからなければ『仕返し』がどうなるか。
数が多ければ周りの村や町にまで『仕返し』に来るだろう。
むやみに魔獣を傷つけることができない。
ケリーが呪文を唱え魔獣の周りだけ突風を起こす。
強烈な風の勢いで怯む魔獣。
人なら吹き飛ばされるほどの強風。
ニッキーはこれを見るのは二度目だが、ケリーの能力は計り知れない。
なぜこのようなチカラを使えるのだろうとニッキーは思う。
すると突然ケリーのペンダントが赤く輝きだした。
「え?!」
驚くケリー。
周り中が光り、目くらましにあう。
強い光が放たれ視界を遮られる。
眼が焼かれると思うほどの強烈な光。
ロッコが叫ぶ。
「ケリー、やりすぎだ!」
「あたしじゃない!!」
その光の中、ロッコ、デレクは何者かに殴られ怯む。
ケリーも腕と身体を掴まれ押され木を背に抑え込まれる。
男の声がした。
「帰れと言ったろう!」
ケリーは自分を抑え込んだ者を見た。
自分よりもすこし背が低い男だった。
片手でナイフを持つ腕を押さえられ、もう片方の手で胸を掴まれていた。
自分の乳房が男の手で握られその指が喰いこんでいる。
「キャッ!」
男に胸を触られていることにケリーは小さい悲鳴をあげた。
するとその男は、
「あれ、お前、女か?」
男は乳房を掴んだ手の指を動かし確かめるように揉んできた。
ケリーは恥ずかしさと怒りで顔が真っ赤になり、激情が脳天を突き抜ける。
男はケリーが女とわかり油断したのだろう、ケリーを抑える力が緩まり、その隙にケリーは男の腕を振り払い、あらん限りの力を拳に込め男を殴り飛ばす。
吹っ飛ぶ男。
光も止み視界が戻った。
ニッキーがケリーに駆けより、
「ケリー、大丈夫?!」
ロッコは殴られた顎を撫でながら呟く。
「渾身の右ストレートだね」
魔獣も風と光がやみ、こちらを見てまた近づいてくる。
ニッキーがいう。
「いったん引きましょう」
ロッコはケリーに殴られ気を失った男を抱え逃げる。
ニッキーたちが引くと魔獣は追いかけてこず、そこに立ち止まっていた。
ニッキーが、
「追いかけてこないわね」
ケリーが応える。
「何かを守っているようにみえる」
ロッコは抱える男を見て、
「守られているのはコイツではないみたいだな」




