十五話 竜殺しの英雄②
次話投稿です。
今回は随分と掛かってしまいました、自分でも驚きです。
十五歳の成人を迎え故郷の村から旅立った俺は、まずは買い出し班として出入りしていた街を目指していた。
それまでは他の大人達と一緒だったので一人での旅に多少の不安はあったが、何度も通った道だったので険しい山や深い森の中も特に迷うという事も無く通り抜ける事が出来、無事に街道へ辿り着く。
道幅はそこまで大きくないが主要街道とは違う田舎の道にしてはきちんと整備されており、良くて獣道といったこれまでとは雲泥の差があった。
ここまで来れば、後は道沿いに三日ほど歩けば街に辿り着く事が出来る。
しばらくは道の無い森や山の中をひたすらに歩いていたので、道という人工物の上を歩いているだけで無性に嬉しさが込み上げてきた。
当然これまで道など何度も歩いた事はあるが、この踏み出す一歩いっぽが自分の夢への歩みであり、このきちんと整備された道がその象徴の様に思えたのだ。
人の力を見せつける様に森を切り開いて作られたその道を、これまでに無く自分でも笑えてしまう程に浮かれながら歩いていた。
街に着いたらまずは雇ってもらえるお店を見つけて、働きながら商売に関してを色々と学んでいこう。
そんなこれからの様々な事を取り留めも無く考えながら歩いていると、何やら違和感を覚える。
今まであれだけ聞こえていた鳥や虫の声が聞こえなくなったのだ。
すると、森の陰から複数の武装した男達が表れて俺の事を取り囲む。
……どうやら少々浮かれすぎていた様だ、こんな分かりやすい事態の予兆に気が付かないとは。
もしこの事を父親が知れば、怒鳴られるだけでは済まなかっただろう。
「おい餓鬼、命が惜しけりゃ荷物と着てるもん全部寄越しな」
そう言いながら、他の連中より少し体の大きな男が愉快そうに声を上げる。
どうせ身包みを剥ぐのであればさっさと殺してしまった方が簡単だろうに、随分と悠長な事を言うものだ。
しかも少し観察するとどうやら先ほど声を上げた奴が頭目らしく、こちらが一人で油断があるとは言え指揮官が自分から敵の前にのこのこ顔を出すとは、いささか迂闊ではないだろうか。
「おいてめぇ聞こえねぇのか! さっさと言う通りにしやがれ!」
動かない俺に苛立ち声を荒げる頭目の男はどうやらあまり気の長い方では無いらしい。
いや、不用意に近づいて来ない辺りは万が一を警戒しているのか。
こちらは一応村を出る時にそこそこ良い剣を渡されて腰に差している。
だとしたらこの頭目は迂闊ではあるが馬鹿では無いらしい。
しかし、囲んでいる相手の人数をざっと数えたところ、十数人かそこらとなかなかの大所帯で左右の森には弓を持っている者も複数いる様だ。
こんな人数をでたった一人の旅人を襲う為に動かす訳が無いだろうから、どうも何か面倒な事に巻き込まれてしまったかもしれない。
「困ったな、あまり荒事は好きじゃないんだが。しかし今ここで荷物と資金を失うとかなりの痛手だ……」
「あぁ? 何ぶつぶつ言ってやがんだ? 頭がおかしくなったのか?」
いい加減に焦れたのか、周りを取り囲んだ男の一人が頭目の男に促され徐に近づいて来ようとしたので、その前に少し大きめの声を上げる。
「あー、一つ確認したいんだが、良いだろうか」
それまで大人しかった俺が突然声を上げたので、男達は少し警戒した様だが自分達の優位が動かない事を直ぐに思い出して余裕な態度に戻った。
「なんだようやく自分から差し出す気になったか? 小汚かろうと服は服だ、破いたり血が付いたら売れねぇからな」
こいつ、全く人の話を聞いてないな。
この手の輩と話をするのは非常に骨が折れる。
相変わらず俺を取り囲み、下品に歯を剥き出して笑う頭目の男に半ば呆れながら顔には出さない様に務めて話し掛ける。
「まあそう焦らずに、ちょっとくらい教えてくれよ。あんた達の本当の獲物は何だ? 村でも襲いに行くのか?」
「あぁ? 何でてめぇにそんな事知る必要があるんだ?」
「単純な興味だよ。まさか旅人一人を襲う為にこんな数は必要無いだろ」
色々確認する為の時間稼ぎだが、興味があるというのは本心である。
ある程度は村での教育や買い出し班の手伝いで学んだが、まだまだ村の外は知らない事だらけだ。
こんな連中の事でも知っておけば後で何かの役に立つかもしれない。
ほんの少しの間訝し気な表情をしていた頭目の男だったが、特に問題無いと思ったのか再び笑いながら得意げに喋りだした。
「何でそんな事を知りたがるのか分からねぇが、俺達はこれからここを定期的に通るっていう間抜けな商人の荷馬車を襲う為に待ち伏せしてんだ。ついでにこんな田舎道を通ってのこのこ俺達の前に現れた、お前みたいな馬鹿な奴をぶっ殺して荷物を頂きながらな」
「ん? ここを定期的に通る馬車が居るのか? 確かこの先には寒村が幾つかあるだけだと聞いていたが」
普通は儲けの少ない地方の貧しい村に好んで商いに向かう商人は少ない。
売れなければ仕入れの元が取れないし、馬車やそれを引く馬や自分たちの食料などの維持費もばかにならない。
よっぽど魅力的な商材があるのならば話は別だが……先ほどの頭目の男の口ぶりからしてそれは無いか。
「何でも最近この辺りの領主に取り入って羽振りが良くなった商人が物好きで、ろくに儲けも出ねぇ様な辺ぴな村へ頻繁に行商に行く間抜けなんだとさ」
「へぇ、それは本当に物好きな人だ」
「まあ俺らはその間抜けのおかげで簡単に大儲け出来るって訳だがな」
なるほど、その羽振りが良い商人の人というのはおそらく領主の御用商人か何かで、領主か村に頼まれて商売をして回っているのだろう。
しかし随分と真面目な人の様だ、いくら領主の頼みでも大きな危険と損失の可能性を考えると躊躇われるし、実際に行うかは本人の裁量に任されてたはずだ。
それでも街から遠く離れた村々を訪れるというのは、何か理由があるのかもしれない。
ふと、昔に故郷の村で行商人の青年が語ってくれた言葉の一つを思い出した。
彼は「どうして危険を冒してまで行商人をしているのか?」という俺の問いに対してこう答えた
「そこに私達の運ぶ荷を待っている人が居るから……か」
そう俺は思い出しながら思わず呟くと、小さく笑ってしまう。
参ったな、これではこの場を見過ごす事が出来なくなる。
元々は機を見て、はぐらかし、誤魔化して上手い具合に離脱しようと思ってたのだが。
ここでこの男達を放っておくと予定通り馬車を襲うだろう。
それは非常に、実に面白くない。
「はぁ……商人になりたくて村を出たんだけど、最初の仕事が賊の掃除か」
俺が大きなため息と共にそう口にすると、それを聞いた頭目の男がそれまでのニヤケた表情を怒りのそれへと変えた。
「てめぇ、ちょっと甘い顔してやりゃあ調子に乗りやがって! もういい、さっさとこの餓鬼を殺せ!」
頭目の男が大声を上げると、それまで俺を取り囲んで動かなかった男達が一斉に襲い掛かって来た。
正直、この連中がここまで我慢出来ていた事に少し驚いている。
先ほどの話しや男達の明らかな素人臭い動きから、こいつらはおそらく金に釣られて雇われた街のならず者か何かの集団だろう。
そんな連中が暴走せずに大人しく従っているという事は、あの頭目の男はそこそこ腕が立つのかもしれない。
しかし、今突っ込んできている連中は誰も彼も構えや位置取り一つとっても覚束ないし、森に隠れている連中も弓を持ってはいるがまともに扱えるかすら怪しい所だ。
だがまあいくら寄せ集めでも数が多いというのはそれだけでも脅威になる。
幸いにも相手は連携もろくにせず闇雲に突っ込んで来るだけなので、ここで相当数ご退場願おう。
「おらぁ!」
まずは一番近い位置にから袈裟切りに斬り付けて来た男の剣を、俺は自分の腰の右側に差した剣を左手で抜いて受け流し、空いていた右手で相手の右腕の肘を強く打ち付けるとそのまま腕を滑らして相手の持つ剣の柄を掴み捻り上げて奪った。
斬り付けたはずが一瞬で受け流され、武器を奪われた男の体が泳いでいる間に後ろに回り、その背中を軽く斬りつけてから蹴り飛ばし迫っていた連中にぶつけると、突然の事で対応出来なかった二人を巻き込んで派手に転んだ。
そのおかげで連中の注意がそれたので、蹴り飛ばした男から奪い取った剣を横向きで回転する様に近くまで迫っていた男達の中心に投げつける。
……意外にもそこそこ良い剣だったので、おそらく雇った奴が支給したのかもしれない。
これが片付いたら同じ剣を持つ奴から一本くらい拝借して、将来の資金にしようと心の中で決めた。
まさか剣が飛んでくるとは思わなかったのか、慌てて倒れるなどして避けた男達の一人が目の前に体勢を崩しながら飛び込んで来たので脚を斬りつけて転がしておく。
次に狙いを定めていると狙いは甘いが曲がりなりにも矢が飛んで来たので、体勢を低くして走りながら目の前に転がっていた片手剣を今度はそこそこ威力を乗せて矢が飛んで来た方向の森へ投げつける。
小さくだが木に刺さる音と「ひぃ!」という悲鳴の様な声が聞こえたので、あんな雑な投剣が当たという事は無いだろうが素人相手になら牽制くらいにはなっただろう。
すぐに視線を道の方へ戻し動揺しながらも斬りかかって来た者を二人程斬り伏せると、獲物からの予想外の反撃に動揺して尻込みしている男達を頭目の男が怒鳴りつけだした。
「このうすのろの無能どもが! あんな餓鬼に何もたついてやがる! 早くしねぇと本命の獲物に気付かれちまうだろうが!」
腰に差していた剣抜いて滅茶苦茶に振り回し、他の者達を威圧して戦わせようとしている。
偉そうに怒鳴っているわりに自分は来ないんだな。
そのせいか男達は戦うどころか、振り回されている剣を恐れ頭目の男の周りから距離を取る。
馬鹿では無いと思っていたのはどうやら気のせいだったみたいだ、大した価値は無いだろうが折角なので大将首を狙わせてもらおう。
目の前で多数の仲間がやられ一方的な罵声を受けた事で、もはや戦意などほとんど無い男達の腕や脚を斬りつけて無力化しながら頭目の男へ近づいていく。
目標とした地点へ辿り着いた時には周りに居た男達のほとんどが腕や脚から血を流して倒れ、立っている者は頭目の男一人だけとなっていた。
たまにひょろひょろと力無く飛んで来る矢には、定期的に男達が持っていた剣やナイフを奪って投げ付ける事で威嚇していたので、今ではすっかり大人しくなっている。
あまりにも相手が弱く上手く事が進むので途中から楽しくなってしまっていた。
故郷の村では俺より強い者などそれこそ山の様に居たので、訓練ではいつも蹴散らされる側でこんなに気持ち良く戦えた事など無かった。
俺の夢はあくまでも商人になる事だったので、ここ数年はそちらの勉強に重きを置いていたので実力は同世代の中でも下から数えた方が早かったからな。
ともかく、後は最後まで怒鳴るだけで一向に戦おうとしなかった頭目の男だけなのだが。
肝心の本人は先ほどまで怒りで真っ赤だった顔を真っ青にして、武器を手放して両膝を着き命乞いを初めていた。
こうして俺の村を出て初めての仕事……と言って良いのか分からないが、それが終わったのである。
お読みいただきありがとうございます。
毎日暑い日が続きますが、皆さんは体調を崩されたりしておりませんか?
冷たい物を取り過ぎても体に悪いという事なので、お気をつけください。




