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異世界へ呼び出された少年は旅人達の夢を見る  作者: シシ丸
第二章 『咽返る酩酊者』
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十四話 竜殺しの英雄①

次話投稿です。


八月になりました。

梅雨も明けて毎日暑くなるそうなので、皆様もお気をつけて。

 世間では俺は「強大な竜に果敢に挑みそれを乗り越えた者」として『竜殺しの英雄』なんて呼ばれているらしい。

 確かに俺は竜を殺した、それは間違い無い事実だ。


 では何故殺す事になったのか?

 当たり前だが何の理由も無しに竜なんて化け物に挑もうとする奴など、一部の戦闘狂(せんとうきょう)か欲に目がくらんだ間抜けくらいしか居ない。


 当然俺が竜に挑んだのにはちゃんと理由がある。

 あるのだが、それは世の吟遊詩人達が広めている様な立派な物でも、尾ひれどころか背びれやついでに触覚まで生えた噂話で囁かれている様な勇ましい物ではない。


 何のことはない、俺は自ら挑んだのでは無く竜殺しを「させられた」というのが正しいのだ。


 知ってしまえば……聞いてしまえば実にくだらない類の話なんだが、生憎と俺はそのつまらない話をきちんと人々に伝えないといけない。

 それが「奴」との約束だからな。


 それじゃあ少しばかり俺のこっぱずかしい昔話に付き合ってもらおうか。




 俺の生まれた村は大陸の中央にある大森林の……あっと、これは掟であんまり正確に言ったらいけないんだったな。

 とにかく、この大陸にある俺の生まれ故郷の村は少し変わっていて、村そのものが一個の「傭兵団」として活動し金を稼いでいる様な所だった。


 俺はその村の中ではごく普通の家庭に生まれ、何の疑問も持たずに暮らしていた。

 今にして思えばあそこは滅茶苦茶な場所だったな。


 まず村の子どもは皆五歳になると家の方針に沿った戦闘訓練を始め、玩具代わりに武器を与えられる。


 代々斥候の技術を伝える家、槍の技術を磨いてきた家、はるか遠くまで矢を飛ばす秘伝を持つ家。

 中には火薬とかいう燃える粉の扱いを専門にしている家もあって、そこはよく大きな音を立てたり異臭を放って近所ともめていた。

 

 その個性豊かな家々の中で俺の所は、剣を使った戦闘術を受け継いでいた。


 それは「剣術」って言うじゃないのかって? いやいや、そんな立派な物じゃない。

 あくまでも剣を使った戦闘技術で、とてもじゃないがそんなお上品な呼び方が出来る代物じゃなかった。


 軽く説明すれば、平気で手に持った剣を投げつけたり暗殺者みたいに毒を塗る、かと思えば鏡みたいに磨いて目くらましに使ったり敵の持つ剣を奪う等々。

 良く言えば剣にこだわらない、悪く言えば酷く雑に扱う戦い方だった。


 だったら別に剣じゃなくても良いのでは……と思い父親に聞いた事があったのだが、その時は別に剣じゃなくても良いと言われた。

 何でも、父親も爺ちゃんに同じ質問をしたら


「戦場で矢玉の次に沢山転がってるのが、たまたま剣だったから使ってるだけだ。うちは代々貧乏だからな」


 と真顔で答えたそうだ。

 そんな我が家の戦い方に俺は特に不満は無かったが、一つだけ大きな弱点があった。


 途轍もなく地味なのだ。


 剣は「戦場の花形」などと言われているそうだが、うちの戦い方は良くて雑草といったところか。

 父親も戦場ではせっせと落ちている武器を集めて投げつけたり、絶対に一対一にならない様に立ち回ったり、卑怯と罵られても後ろから切りかかったりしているそうだ。

 なので村でも少々変わり者の家として、そこまで評価されていなかった。


 そんな父親の教えを受けた俺も、順調に変わり者としての戦い方を覚えていき、同年代の中でも真ん中より上程度の力を付けていた。

 どうやら俺には戦いの才能は、無くは無いが驚くほどでは……という程度だった様だ。


 特に俺の世代はお隣さんの槍使いの家の息子が凄い戦いの才能を持っていて、村長にも気に入られ将来は可愛がっている娘を嫁にやると公言する逸材も居り、俺は一切目立つ存在では無かった。


 そしてそんな村の子ども達が十歳になると、男女関係無く全員が粗末な武器を一つだけ持たされ「何か野生動物を獲って来い、獲れるまで帰るな」なんて事を言われ、近くの森に放り出される村の伝統行事が行われる。

 村の子ども達は全員が何らかの戦闘訓練を受け、大人と共に狩りの経験もしている者達ばかりなのだが、中には初めて一人で入る森に恐怖で動けなくなる者や迷子になる者、思わぬ大物に遭遇して大怪我を負う者が毎年少なからず出ていた。


 俺の場合は何の動物か特に指定も無かったので、小さな動物を適当に追っかけてさっさと捕まえ早々に村に帰ったのだが、監督役の大人達に獲物を見せると


「この伝統でこれ程早く帰って来たのも、そんな小さな獲物を持って帰ったのもお前が初めてだ」


 と言われ、お前は間違い無く変わり者の血筋だと苦笑いされた。


 後で聞いた話だが、実はこの行事でそれぞれの適正や将来傭兵として仕事をする時の地位を決める時の参考にするそうで、この時点での俺は文句無しの下っ端候補だったそうだ。


 そんな感じで、この年の伝統行事で俺は獲物が小さいという以外は特に問題無かったのだが、他の所で少し事件があった。

 他の子ども達も順調に獲物を抱えて帰り、中には複数人で協力し大物を持って帰る者達も居たが、問題はご近所さんの例の天才槍使い君が翌日の夕方に村長の娘に体を支えられながら全身傷だらけで森から帰って来た事だ。


 どうも聞いた話によると、この天才君は偶々村の近くに現れたエルクベアに遭遇し、全身傷だらけになりながらも見事にこれを倒してみせたらしい。

 どうやら巣立ちして間もない若い雄が、自分の縄張りを作る為にうろつき村の近くまで来ていたのに運悪く出会ってしまったのだとか。

 しかも最初に出会ったのは彼の許嫁である村長の娘だったらしく、天才君はその娘を護る為にまだ若い個体とは言え自分の優に三倍はあるエルクベアに立ち向かい勇敢に戦ったのだそうだ。


 その日のうちに手厚く治療されている天才君の側で泣きじゃくりながらも、離れようとしなかった村長の娘から何とか現場を聞き出した村の大人達が、息絶えた若いエルクベアを回収して村の広場で公開していた。

 俺も興味本位で見に行ったが、間違い無く特徴的な毛むくじゃらの四足の獣が足を縛られて吊るされていた。

 

 それを見た他の同年代の子どもは目を輝かせながら騒ぎたて、大人達は僅か十歳で自分たちでも苦労するエルクベアを倒した事に感心した様子で口々に天才君の事を褒めていた。


 エルクベアを貫くのに使用されていたのは間違い無く伝統に則った造りの荒い粗末な槍だったが、口の中から差し込まれたそれは脳とその先にある分厚い頭蓋骨を貫き、後頭部から穂先を生やしている。

 質の悪い武器でそんな真似をするのに、一体どれだけ卓越した技術が必要なのだろうか。

 確かにそれは、一目で凄まじい偉業だと俺でも理解できた。


 しかし俺にとってその光景は、他の者達の様に憧れや心を震わせる物ではなかった。


 本当の意味で俺が目を奪われ心を震わせたのは、ある日偶然にも辺境にある俺の村に辿り着いた一人の若い行商人である。


 彼はたった一人で危険な長旅を行い村を訪れ、背負った背嚢一杯に入っている商品を広場で広げて、知り合いなど一人も居ないはずの場所で臆せず声を張り上げ物を売っていた。

 それまで故郷の村では、仕事のついでや村の買い出し班が何日も掛けて街へ行く事で必要な物を手に入れていたので、商人というのを実際に目にする事が無かった。

 その姿を見た俺は今までに感じた事の無い強烈な感情に支配され、その若い行商人から目を離す事が出来なくなる。


 俺は半ば強引に両親とその行商人の若者を説得し、村に滞在している間の宿として我が家に泊まってもらう事にした。

 そして彼が村に居る間中、それこそ(かわや)と寝る時以外はずっと彼の側を離れずに商人という仕事についての話しをせがんだ。


 今にして思えば随分と迷惑な子どもだったろうが、彼は嫌な顔一つせずにむしろ心底楽しそうに色々な事を語りその話は、それまでの傭兵として生きる事が全てという村の中の常識を簡単に打ち崩し、全く新しい世界を俺に示してくれた。

 思えばこの時彼と過ごした数日間が、今の俺を形作っているのだと思う。


 彼が村での商売を終えて再び旅立つ時に、俺は一緒行きたいと駄々をこねた。

 自分で言うのも何だが、それまで俺はわがまま一つ言わない良い子だっただけに、両親がとても驚いていたのを覚えている。

 両親に言い聞かせられてもなお引き下がらない俺に、彼は


「あと数年して成人を迎える歳になり、それでも同じ様に商人になりたかったら僕の元へ来なさい。もう少しで自分の店を持てそうなので、その時は店で沢山こき使ってあげますよ」


 そう笑いながら約束してくれた。

 俺の両親も成人までしっかり村の掟に従って真面目に訓練や家の手伝いをすれば、その後は自由にして良いと言ってくれたのでこれまで以上にそれらに熱心に取り組んだ。


 それから俺は、その時の約束を胸に村で出来る限りの準備や勉強を行った。

 大人達に交じって買い出し班に志願して街へ行き、物価や取引の常識などを覚え荷車を押して大人達と同じ量の荷物を運んだ。

 他にも人が変わった様に戦闘訓練に励んだので、やはり村の中では平凡な実力ではあるが何とか成人前に家の戦闘技術は全て習得し及第点を貰う事が出来た。


 ちなみに、例の槍使いの天才君はその頃には成人前にも関わらずその高い実力を認められて村の傭兵の一人として実戦に連れて行ってもらい、既にかなりの手柄を挙げていたらしい。

 エルクベアから命を守った村長の愛娘とも正式に婚約して、成人と同時に結婚し次期村長として皆をまとめる訓練をしていたそうだ。


 つまり俺は故郷の村においてはそこまで実力がある訳でも無い、家業と全く異なる夢を持つ単なる変わり者の少年だったという事だな。

 そんな変わり者の俺は、当然の如く成人の日を迎えても商人になるという夢は変わらず、それまで自分なりに商売の真似事をして稼いだ資金を手に街へと旅立った。


 ん?


 今のところ俺が「竜殺しの英雄」に成るような様子も要素も無いじゃないかって?

 まあまあ落ち着きなさいって、それはこれから先の話しで出て来るからもう少し我慢して聞いてくれ。


 とにかく、俺は子どもの頃に憧れた商人って夢の為に家業をほっぽり出して故郷の村から旅立った訳だ。

お読みいただきありがとうございます。


最近読み専の頃の癖が再発して、夢中になってランキング作品を漁っていました。

いや、みんな凄い面白作品ばかりでとても良いですよね。

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