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十二話 少年と忠節

次話投稿です。


今年も残り半分となってしまいました。

「えっと。こっちが止血と治癒で、こっちが解熱だったかな?」

「……うむ、ではこれは?」

「これは確か、鎮痛作用だったはず……」

「正解だ」


 宿屋でならず者達に絡まれてから一夜明け、俺達は街の近くにある森の中で様々な薬用植物の採集を行っていた。

 しっかりと人の手が入った森らしい整然と並んだ木々や、ある程度踏み固められている地面の脇には青々とした草花が茂っている。


 俺の薬草学の勉強と資金調達を兼ねて足を延ばしたのだが、以前連れて行かれた大森林程では無いにしろ結構人里の近くでも色々な物が生えたていたりする。


「ではツカサ、これは何だと思う?」


 そう言って、ニドが無造作に摘んだ草を差し出し俺に渡してくる。


「これは……えっと……何だ?」


 本当にただ適当に毟った雑草にしか見えないが、わざわざ聞いて来る以上何かあるのだろう。

 必死に教わった知識から答えを絞り出そうするが、全く出てこなので降参の意を伝える。

 すると、ニドが短い思案の後に口を開く。


「それは『万年草』という名の多年草で、繁殖力が強く広く様々な地域で見られるが特に薬効も無く食べても毒は無いが、青臭く渋みが強いので食用にはあまり向かない植物だ」

「ふむふむ、薬効も食用にも向かない……ん?」

「俗に言う所の雑草だな」

「雑草かよ!」


 思わず手にした草を地面に投げ捨てる。

 あんな意味深に手渡すから、何か特別な薬効でもあるのかと思った。


 四日に一度の老執事さんの訓練の他に、たまにこうしてニドによる薬用植物の見分け方や扱い方の指導も行われている。

 今回森に入った本来の目的は、町周辺に自生している動植物の調査を兼ねた採集と狩りなのだが、そのついでに指導してもらってる。


 俺とニドの二人がこの辺りで採取した草花について話し合っていると、いつの間にか付近の捜索から帰って来た若メイドさんが俺達の近くに現れた。


「主様、この先に『大足猪』の巣を発見しました」

「そうか、少し人里に近いな」

「はい。組合でも駆除が推奨される状況です」

「では巣を潰してどこかへ……」


 そんな二人の会話を、俺は少し緊張しながら聞いていた。

 どうやら採集は一時中断して、今日の内にその猪の巣を潰してしまう事にした様だ。


「それではツカサよ、お主はどうする?」

「え? ああ、そうだな」


 こちらの世界に来てから幾度となく狩りを行って来たが、あの生き物の命を奪う時の独特の感触に多少は慣れたとはいえ気持ちのいい物では無い。

 先程の会話から、今回は狩るのでは無く追い立てて森の奥へと誘導する事が目的であると分かってるので、手伝うにしても幾らか気が楽ではある。


「俺も参加するよ、良い訓練になるだろうし」


 老執事さんからもなるべく色々な経験を積む様に言われているし、ただ見ているだけなのも気が引ける。

 宿屋の一件から激しい動きへの自信が多少は持てたので、それくらいは軽くこなせる様に成らないといけない。

 それに巣を潰して追い出すだけならずっと簡単なはずなので、成長した俺の実力をお見せしようか。




「うひゃあぁぁぁぁぁ!」


 そんな風に思っていた時期が、僕にもありました。

 必死になって逃げる俺の後ろにはとても興奮した様子で、引っ越し屋さんのトラックくらいの大きさがある猪が追い掛けて来ている。

 誰だよ巣を潰すだけなら簡単だなんて言ったのは、あんなのに轢かれたら即死だよ!


 ……俺か。


「デカい! 早い! 恐ろしい!」


 凄く嫌な三拍子が揃っている。


 しかも、あの巨体でヒョイヒョイと木々を避け岩の上に飛び乗るなど意外な器用さを見せるので、下手なフェイントなどが通用していない。

 本当に物理法則さんはどこへ行ってしまったんだろう、ちゃんと仕事をしてほしいものである。


 今は一瞬の隙を突いて大きな木の裏に隠れる事に成功したが、野生の獣相手にいつまでも隠れる事は出来ないだろう。


「や、やっぱりあれだけじゃ足りなかったか……」


 一応常備している獣用の痺れ薬などもぶつけてはみたが、あの巨体に対して量が足らなかった様だ。


 思えば、意気揚々と一番危険な囮役を買って出て若メイドさんが見付けたという洞窟型の巣の中に、強い刺激臭を放つ玉を投げ込んだまでは良かった。

 すぐに効果が表れ、巣の中から大小様々な猪達が叫び声を上げながら飛び出して来た。

 その飛び出して来た奴らを適当に威嚇しながら追い立てていると、騒ぎを聞き付けて帰り着き怒り狂った母猪に追い掛けられて現在に至る。


 あの大きさを相手にするならもっとしっかりした事前準備が必要なのだが、今回森に入った主目的は採集と調査だったので持ち込んだ荷物も最低限だった。

 幸いにも巣の中を空にして、こうして母猪も十分に引き離したので当初の目的は達成している。

 今頃は恐怖の壊し屋と化した若メイドさんが巣の入り口を上手く塞いでいるだろう。


 となると、問題はやはりこの怒り狂った母猪から如何に逃げ果せるかという事だが。


「一番確実なのはメイドさんに助けてもらう、なんだけど……」


 事を始める前にニド達に対して散々大見得を切ってしまったので、今更助けてくださいというのも恥ずかしい。

 最終的にどうしようも無くなったらそうする他無いが、なるべく自分の力で何とかしよう。


 最近常備する様にしている獣用の痺れ薬は三個。

 それも、出会い頭に当てる事が出来た一個とその後に信じられない動きで避けられたもう一個を除き、最後の一個となっている。


 後は愛用のナイフに、さっきまで弄っていた薬効植物類。

 携帯用のまずい干し肉や水くらいか。


 さて、どうしたものか。




 結論から言えば、何とかなった。

 何とかなったのだが。


「何とも、みすぼらしい格好にされたものだ」


 ボロボロになった俺の姿を見たニドに、呆れた口調の言葉を貰った。


「これでも大分頑張ったんだけど……」

「その不要な頑張りの末に、その様な無様な姿にされたのでは意味が無かろう」


 整えられた森の地形と、しばらくして最初の痺れ薬が効いて来たのが幸いして無事にもう一つの痺れ薬を顔付近にぶつける事が出来た。

 その後も少しの間追いかけ回されたが、すぐにフラフラした後でうつ伏せになって動かなくなった。


 概要だけ話せばそれが全てなのだが、薬が効いて動かなくなるまで何度も走馬灯を見る目に合っている。

 逃げている最中に気付いたのだが、こいつの発達した四本の足は非常に可動域が広くそれを器用に操って森の中を駆け回っていたのだ。

 確かに見た目以上に身軽で器用とは思っていたが、この巨体で大岩を蹴り上げ華麗な三角飛びを披露した時はこの世の終わりかと思った。


 本気でこの世界の物理法則どうなってるんだ?

 今度ニドの話しを真剣に聞いてみよう。


「……まあよい。しかし良く子育て中の『大足猪』にお主一人で追い回されて無事だったな、それは素直に関心したぞ」

「確かにめちゃくちゃだったけど、こいつそんなヤバい奴だったのか?」


 何となく分かる、何せ三角飛びだ。

 あんな見事な動きは某アクションゲームのヒゲくらいしか見た事が無い。


「うむ。以前お主が狩りで出会った『鹿熊』の名付きが居ったじゃろう、恐らくあれでも子育て中の『大足猪』には近づかんだろう」

「え? あの化け物でも?」


 改めてよく生きてたな俺。


「これに懲りたら、次は意地を張らずに我が従者を頼るんだな」

「……そうするよ」


 そうしてニドと話しをしていると、痺れて動けない母猪を軽々と持ち上げ追い立てた子ども達と共に森の奥へと移動させ終えた若メイドさんが帰って来た。

 何度見てもあの細腕で巨大な物を持ちあげる光景には驚かされる。


「主様、ご指定の位置までの運搬が終了致しました」

「そうか、では今日はこれで引き上げるとするか」


 結局今日は大きな猪との追い掛けっこで半日が過ぎてしまったので、本格的に暗くなる前に街へ帰る事になった。

 正直へとへとだったので凄く助かる。


 ぷにるに跨って悠々と街へと向かうニドの横に並び、もう一度気合を入れ直し歩いていると、ニドの斜め後ろを歩く若メイドさんから鋭い視線を感じた。


「……」


 こちらを探る視線で実に居心地が悪い。

 実は若メイドさんが「ニド当番」の時は頻繁にこういった視線を感じる。


 俺が最初にニドの従者になった時から何となく見られている様な気はしていたが、老執事さんの訓練を受けだしてある程度気配が探れる様になると、明確に視線を向けられている事が理解出来た。


 はて、俺は自分でも気づかないうちに何か彼女の気に障る事でもしたのだろうか。

 自分で気付かない以上は他人に聞いてみるしか無いと、さり気なくニドに耳打ちする。


「なあ、俺ってあの人に何か失礼な事したのかな?」


 それを聞いたニドが、眉を寄せて答える。


「む? 特にそんな様子は見受けらえないが。どうした、我が従者に何か言われたのか?」

「いや……言われたというか、視線がちょっと」


 今もまるで視線で俺を射殺さんばかりに視線を感じる。

 心なしか、ニドに近付くとその圧が強くなった様に感じた。


 俺の言葉を不思議に思ったニドが斜め後ろを静々と歩く若メイドさんに向けると、それまでの険しい表情が嘘の様に霧散し満面の笑顔を浮かべている。

 凄い、何という早業!


「お主の気のせいではないか?」


 そんな訳は無い、現にニドが目を反らした途端にまるで汚いものを見る目で俺の事を見て来ているのだ。

 あまり続くと変な趣味に目覚めそうである。


 その後この話を切り上げニドから少し離れて歩き出すと、若メイドさんの視線も幾分柔らかくなる。

 結局この日は街に帰り着くまで、若メイドさんの視線に一喜一憂しながら過ごす事になってしまった。


 本当に俺が何をしたと言うのだろうか。

お読みいただきありがとうございます。


美人の怖い顔って迫力がありますよね。

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