九話 少年と購入品
次話投稿です、よろしくお願いいたします。
こういう雰囲気の店って何か良いですよね。
「見ろツカサ、中々面白い物を見付けたぞ。次の狩りではこれを試してみたらどうだ?」
「えっと……何々『商品名 しゃっくり爆弾 これを投げつけて爆発させると、相手はしばらくしゃっくりが止まらなくなる。嫌がらせや憂さ晴らしに最適です』……」
「凄いだろう?」
「まあ、確かにある意味凄い効果だな。却下で」
「なんと! だったらこっちは?」
「……『商品名 いらっと投網 筒の先端から粘着性の網を撃ち出し、相手を絡めとる。網は簡単に千切れるが粘着質な素材で中々取れず、対象をいらっとさせる。嫌がらせや相手をからかう時に有効です』……」
「どうだ? 役に立ちそうだろ?」
「うん、却下だな」
「これも駄目なのか? わがままな奴だ」
ニドは心底つまらなそうにそう言うと、また別の道具を探しに行った。
真面目に使える道具を探しに来てるのだが、先程からずっとあの調子でガラクタを進めて来ていた。
どう考えても狩りの役に立たないだろう、何だよ「しゃっくり」とか「いらっとする」って。
今俺達は滞在している街の商店通りの端っこにある、古びた道具屋で買い物をしている。
古びたと言ってもどうやらそれは見た目だけの話しで、建物自体や内装は比較的新しく掃除が行き届き清潔感があった。
ただそれに反して、商品の陳列が無造作で照明器具やインテリアがやたらと不気味なのが気になり、店員の女の子に質問したが店主の趣味なのだそうな。
店の看板が朽ちかけていたのも、店に蔓が這っていたのも全て塗料で描かれた物であり、近くで良く見るとどちらも新品同様であった。
何とも変わった店であるが、変わっているのは店舗だけでなく商品も奇抜な物ばかりである。
先程ニドが嬉々として持ってきた物もそうだが、他にもおっさんの笑い声に似た不快音を出す箱やその場でフワフワと浮き続ける玉、見た目よりずっと重い服や触れた瞬間はじけ飛ぶ人形なんて物もあった。
どれも全く用途が不明な物ばかりだが全て店主が作った物らしく、ニドはこの店がいたく気に入った様で結構な時間店に居座っている。
「……あの、まだ決まらないんですか……」
「え? ああ、ごめんなさい。あいつ、どうもこの店が気に入ったみたいで」
「……出来たら早く決めて帰ってください……」
「そ、そうですか」
随分と明け透けな人であるが、この女性がこのノトラ道具店の店主のノトラさんらしい。
さっきから慣れない様子でカウンターに座り、俺と目を合わせない様に下を向きずっとぶつぶつ不満を口にしている。
適当に切り揃えたであろうぼさぼさの髪と大きな丸眼鏡が特徴的で、目の下には薄っすらとクマがあり如何にも寝起きですという目をしてる。
どうやら俺達が訪ねて来た時は丁度店を暗くして昼寝をしていたらしく、その不満が多少混じって今の対応になっているらしい。
「ノ~ト~ラ~さ~ん~」
「ひっ!」
「いい機会だと任せてみれば、さっきからお客様に対して何ですかその態度は?」
「いやっ……これは……その」
「私、今月まだお給金貰って無いんですけど。いい加減お暇を頂きましょうか?」
「え! いや……それはとても困るというか、お店が無くなるというか……」
「だったら分かってますね? 真面目にお願いします」
「……はい」
その言葉を受けたノトラさんは、本当に嫌々といった様子でカウンターから出て来ると、綺麗に掃除された床に正座の恰好で座り手を突くと俺に対して深々と頭を下げた。
土下座ってこの世界にもあるんだな。
「先程は大変申し訳ありませんでした……どうかこんな小汚い店ですが、お怒りを鎮めこの店内にある物なら何でも良いのでお買い上げいただけないでしょうか」
「え!? いや、何もそこまでしてもらわなくても」
「……これだけではご不満でしょうか? 何なら私の体を好きにお使いください……こんな見た目で経験もありませんが、貴方様の溢れる獣欲を受け止める事くらいは……ふ、フフフフッ……」
いや、俺を一体どんな鬼畜野郎だと思ってるんだよ。
というか、この人にとっての真面目な接客がこれとは余りにも極端過ぎやしないだろうか。
困り果てた俺が助けを求めて店員の女の子に目をやると、心底疲れた様に溜め息を吐いていた。
気持ちは分かるが、今にも脱ぎ出しそうな君の雇用主を早く何とかしてくれ。
「ノトラさん、分かりました。お客様の相手はいつも通りシェリーがしますから、せめてカウンターで見ていてください」
「あの……だったら奥で実験の続きを……」
「そこで、見ていて、ください」
「……はい」
この二人を見ていると一体どっちが店主なのか分からなくなるな。
「お客様、うちの駄目店主が大変な失礼をいたしました」
「い、いや、俺は別に良いんだけど……店主さんかなり落ち込んでるけど大丈夫なの?」
「いつもの事ですから」
ああ、また毛布を引っ張り出してきて黒い塊になってしまった。
あの人はいつもあんな感じで叱られているんだろうか。
だとしたら中々に不憫ではある。
そんな事を思いながら改めて目の前の店員さんに目をやると、人懐っこい笑顔を返された。
このシェリーと名乗った女の子は、ひまわりを思い起こさせる明るく礼儀正しい子であるが、さっきのやり取りを見せられた後では単純に可愛らしいと思えないな。
そうこうしている間に一通り店内を見て回り満足したのか、ニドが俺の直ぐ近くに立つとカウンターの端っこで黒い塊と化しているノトラさんを眺めていた。
何気なく覗いたその横顔は、おもちゃ箱を漁る子どもの様な表情だった先程までとは違う真剣な物であり、思わず声を掛けるか迷ってしまう。
しばらく無言で眺めていたニドであったが、徐にカウンターの近くまで移動すると、見ていて可哀想なくらい怯えているノトラさんに質問を投げかけた。
「この店の商品は、全て店主が作ったという事だが本当であるか?」
「は、は、はい。わわ、私が造りましたごめんなさい……」
「ふむ……成る程な」
そう言うとまたも無言で何かを考える素振りを見せるニドであったが、今度は直ぐに顔を上げて言葉を続ける。
「時に店主、先程は我が従者である所のツカサにこの店内にある物なら何でも良いので買ってくれと言ったな? それは確かか?」
「えぇっと……はい……買っていただけるなら……」
「そうか、だったら。店主、お主はいくらで買える?」
「「「は?」」」
突然のニドの言葉に、その場にいた他の全員が声を上げた。
「えええ! そんな破廉恥な!」
「ちょ! おま、何言ってるんだ!」
「や、やっぱり……私の体が目当てで……」
いや、やっぱりって何ですか店主さん。
元々勝手に脱ぎ出そうとしたのは貴女ですからね。
「何を騒いでいるのか知らないが、私は店主の才能を、この数々の発明を生み出した技術力を買うと言っておるのだ」
えっと、つまりどういう事だ? 才能を買う?
「……それはつまり、ノトラさんの道具開発に資金提供してくださるという事ですか?」
「ふむ、資金だけでなく望むのならば必要な素材の提供も行おう」
「ありがたいお話ですが、そこまでして頂いてもそちらの十分な利益は保証しかねます」
「構わん、先程も言ったがそこの店主の才能に投資するのだ」
「随分と良いお話ですが、それだけで信用するというのは……」
何だか話に全然ついていけないな。
未だにニドとシェリーちゃんが色々と言い合っているが、俺は完全に蚊帳の外だ。
見た目小さな子ども同士が笑顔で話をしているだけなのに、その内容が損失がどうとか補填がああだとか難しい話な上に謎の緊張感がある。
「あ、あの……私は別に……」
「今ちょっと真剣な話をしているので、ノトラさんは黙っていてください」
「……ごめんなさい」
そして、自分自身の話をしているはずなのに何故か話に入れてもらえない店主さん。
なんというか本当に不憫である。
俺が妙な仲間意識を芽生えさせている間に、どうやら話し合いが終わったらしい。
いつの間にか側に来ていたニドが俺に話し掛けて来た。
「ほらツカサ、呆けていないで運ぶのを手伝え」
「運ぶって何をだ?」
「先の話し合いの結果、店頭に置いてある商品を全て購入する事になった」
「全てって……は、全て? ここに置いてあるの全部?」
「だからそう言っておるだろう」
そう言うと、どこかご機嫌な様子のニドはシェリーちゃんが用意してくれた箱の中に次々と商品を入れていく。
元々そこまで広い店内では無く、そこまで大量という訳では無いので作業自体は直ぐに終わったが、それでも結構な箱の数になった。
途中から合流した若執事さんは、事情も聞かずに黙々と箱詰めを手伝った後でシェリーちゃんへ代金を払いっている。
一つ一つは大した値段では無く俺の小遣いでも買える額だったが、全てとなると相当な物だ。
それを何食わぬ顔で支払っていたので、こういう事は俺が加わってから無かっただけで前から割とあったのかもしれない。
全て買い取るとニドが言い出した時には一瞬呆けていたシェリーちゃんであったが、すぐに箱詰めの手伝いと総額の計算を済ませ若執事さんから受け取った金額をしっかり確認をすませていた。
「どうだシェリーとやら、これで少しは信用する気になったか」
そう言われたシェリーちゃんはしばらく難しい顔でニドを見ていたが、ややあって口を開く。
「……この様に誠意を示して頂いた後で大変厚かましいお願いですが、少し時間を頂けませんか? ノトラさんにも……本人の意志も確認したいので」
「ふむ、当然の話しだな。それに元からこの品々は購入を考えていた、今回の事は切っ掛けに過ぎん」
「ありがとうございます。遅くとも明後日にはお返事できるかと思います」
「分かった、では明後日にまた来よう」
言い終わると、ニドが若執事さんへぷにるを連れて箱を回収する様に指示していた。
残った全員で箱を店の外へと運び出し、ぷにるが来るのを待っている間に店側の二人と少し話をする。
今日はもう店頭で売る品物が無くなったのでお店を閉め、シェリーちゃんは他に掛け持ちしている仕事へ行き店主のノトラさんは研究開発に集中するそうだ。
ニドの提案については、明日は店を開けなくても良い額が入ったので今日の夜にから明日に掛けてじっくり話し合うらしい。
これまでに無い売り上げを前に店主のノトラさんは凄く喜んでいた様だが、それと対照的にシェリーちゃんの笑顔はどこか暗い物だった。
お読みいただきありがとうございます。
眼鏡っ子は皆等しく尊いと思います。




