七話 少年と騙り者
次話投稿です、よろしくお願い致します。
話しが主人公たちに帰って来ました。
組合の事務所を出てニドから「英雄」の事を話し半分に聞き流し、買い取りを行っている倉庫で若執事さんやぷにると合流してみると、警備の職員が集まっており軽い騒ぎが起こっていた。
何事かと事情を聞けば、どうやら素材を持ち込んだ柄の悪い男達四人組が値段交渉の段階で並ぶ時間が長いだとか対応が悪いだとか難癖を付け、買い取り価格の増額や手数料の踏み倒しを図ったそうだ。
その程度の事ならば日常茶飯事なので最初は職員も淡々と対応していたそうだが、それが気に入らなかったのか今度は周りの客に絡みだした。
迷惑ではあるが直接手をだしている訳でも無く、絡まれた者も報復を恐れて何も言わなかったので、警備の職員も対応に困っていたそうだ。
近くに居た若執事さんも運悪く巻き込まれ最初は無視していたそうだが、それを怖気づいたと勘違いした男の一人が調子に乗ってぷにるを寄越せと言ってきたのだとか。
ぷにるは見た目ただの貧相なロバなので恐らく嫌がらせ以上の意味は無かったのだろうが、触れられそうになったぷにるがその男に向かって唾を吐き、それに腹を立てた男がぷにるを蹴り飛ばそうとした。
それを若執事さんに阻止され、更に逆上した男が仲間と共に襲い掛かったが、四人全員が警備の職員が止めに入る間もなく若執事さんによって制圧されたそうだ。
合流した俺達の目の前を通って連行されている男達には傷一つ無かった上、明らかに向こうに非があるという事で特にお咎めは無いそうだが、次は警備の者に任せてくださいとやんわり注意された。
その後も買い取りに出した素材の状態の良さや、それをぷにるの口から取り出した事で取引担当の職員にとても驚かれたが、流石は組合支部の職員と言うべきか取引自体は滞りなく終わり、先程の騒動のお詫びにと多少色を付けてくれたそうだ。
全ての手続きの終了後、ダメ元といった雰囲気でぷにるを売ってくれないかと職員に持ち掛けられたが、若執事さんに丁寧だが絶対にあり得ないといった態度で断っていた。
その際に職員から紙に書いて提示された額を覗き見て途轍もなく驚いたが、ニド曰く額の問題では無いのだとか。
俺からしたら、この生意気な駄ロバでこの支部が丸ごと購入できるという額を貰えるなら少し迷うかもしれない。
だがまあ、ここまで結構な時間行動を共にして多少は愛着も湧いて来たし、何よりニドにはこいつが必要だからな。
そんな事を考えながら暢気に道草を食っているぷにる目をやると、こちらに気付いて唾を飛ばしてきた。
よし、いつか隙を見て絶対に売り飛ばしてやろう。
色々とトラブルはあったが、組合での用事を一通り終え倉庫通りを抜けて再び街の中心部に戻って来ていた。
お昼時を告げる鐘が鳴らされ、そこら中から食欲をそそる良い匂いが立ち込めている。
行き交う人々もまるで吸い込まれる様に、立ち並ぶ屋台やお店に入って行く。
「そう言えば今日は朝から歩き通しの上、説明で喋り通しだったから喉が渇いたな。我々もどこかで一息入れようか」
ニドがよく喋るのはいつもの事だし、今日はずっとぷにるに乗ってたじゃないか……。
そんな言葉が一瞬出掛かるが、休憩がてらの昼食には俺も賛成だ。
ここで言い合いをしていても仕方ないとその言葉を呑み込む事にした。
「そうだな、丁度俺もお腹が空いて来たし」
「ではどこか適当な酒場に入るとしよう」
そう言って周りを軽く見渡すと、やや大き目で小綺麗な造りの店を選ぶと中に入る。
店の席には既に多くの客が居り、お喋りに興じながら食事をしているがそこまで騒がしいとは感じなかった。
席と席の間には十分な間が取られており、広々とした印象を与えている。
どこか空いている席は無いかと探していると、店員に声を掛けられ案内された。
適当に料理と酒を頼み運ばれるのを待っていると、店内の一角がやけに騒がしくなった。
聞き耳を立ててみると、どうやら名の知れた吟遊詩人がお忍びで訪れていたらしく、それに気付いた客が一曲披露してくれと騒いでいる様だ。
「なあニド、どうも吟遊詩人が来てるらしいぞ」
「ん? ああ、そうなのか。だとしたら、ここで歌うのかもしれんな」
何だか気の無い返事だが、確かこいつは重度の吟遊詩人好きだったはずだ。
まさかこんな短期間で趣味が変わったという事も無いだろうし、一体どうしたのだろうか。
「……ふむ、あまり気乗りが……しかし折角の……。やはり確かめる……」
何やら一人でぶつぶつと言っていたが、突然立ち上がり聞きに行こうと言い出した。
「それは別に構わないけど、珍しく乗り気じゃないな。あの吟遊詩人に何か気になる事でもあるのか?」
「気になる事か……確かにあるがそれはお主の事だよ」
「え、俺?」
「まあ今回の事ではっきりするだろうから、取り敢えず行こうか」
そう言うと、周りからはやし立てられてすっかり演奏する気になっている吟遊詩人の近くに移動した。
若執事さんが店員に先に飲み物だけ渡してもらい、料理は演奏後に持ってきてもらう様にお願いしている。
後で聞いた話だが、どうやらこういった事は吟遊詩人が尊重されるこの大陸ではわりと頻繁にあるらしい。
店員から注文した飲み物を受け取ると、ニドは若執事さんが確保した席へと座り俺はその隣で立ちながら演奏を聞く事になった。
「ツカサよ、一つ言っておきたい事がある」
「何だよ藪から棒に」
「その藪から棒という言葉の意味も気になるが……お主には、今から始まる演奏に集中してもらいたい」
鑑賞マナーについては、いつも注意されているので不思議ではない。
だが、それはあくまで演奏中に俺が散漫な態度をとった時の事であり、今回の様に事前に注意される事は珍しかった。
「集中って……いつもと同じじゃ駄目なのか?」
「難しく考えずともよい。少しの間、そこの男の演奏をしっかりと聞いてみてくれ」
「何だかよく分からないけど、まあ分かったよ」
名の知れた吟遊詩人だという男性は、若緑色で鳥の羽が付いた独特のつば広帽子と所々に派手な金色の模様が入ったマントを大袈裟に翻し、周りの客が用意した椅子に踊る様に座る。
いかにもな恰好で非常に整った容姿に笑顔を浮かべ、足元に置いていたギターに似た楽器を器用に腕でクルクルと回した後、一度大きく振り上げた足を組むと楽器を構えた。
その派手な動きに周りの客は大盛り上がりで、いつの間にか店の客全員が目の前の男に注目している。
「皆さん声援ありがとう。そしておめでとう。ここに居るお客の皆さんは、この世紀の天才吟遊詩人ロズール・トリックスターの歌を聞く事の出来る幸運な方達ばかりだ。今日はこの僕が奏でる音楽と物語の世界を存分に楽しんで行ってくれ」
そう言うと、彼は手にしたギターの様な楽器を軽快にかき鳴らし歌い始めた。
どうやら本日の題目はとても勇ましい冒険譚の様だ。
その所作やパフォーマンスの一つ一つが惚れ惚れする出来で、名の知れた吟遊詩人だというのも頷ける素晴らしい演奏なのだが。
「何だかーー凄く胡散臭いな」
目の前の吟遊詩人から感じた正直な印象が、小さくだがつい口を吐いて出てしまった。
事前に集中しろと釘を刺してきたニドに不機嫌な目線の一つでも貰うかと思い顔を向けてみたが、意外にも無反応な様子でずっと演奏を見詰めている。
その視線には明らかに不快を示す色が含まれており、とても楽しんでいる様には見えない。
その姿に大きな違和感を覚えながらも、改めて演奏に集中する事にした。
大きな夢を抱いて故郷を出た少年が、数々の困難や試練を乗り越えて勇者となり、国に巣食う巨悪を打ち倒しお姫様と結婚して王様になるというお話である。
彼の歌はとても綺麗でそつが無く、勇者となった少年の華々しい活躍には心が躍った。
周りの観客達も、共に肩を並べて戦い友情を育んだ騎士が刺客に殺されたシーンでは皆涙を流し、美しいお姫様との逢瀬では溜め息を漏らす。
物語が佳境を迎え裏で悪事を働いていた黒幕の大臣を倒した時には歓声すら上がり、無事にその幕を閉じると吟遊詩人の男性には大きな拍手と称賛の声が掛けられていた。
突如始まった演奏会が終わり、自分達の席に戻った俺は運ばれて来た料理を口にしながら、先程の事を思い返す。
確かに素晴らしい演出や楽器の音色や歌声であったのだが、どうにも違和感が付きまとっていた。
しばらく無言でワインの入ったコップを傾けていたニドであったが、店に入って何杯目になるのかワインを飲み干すと、俺に問いかけて来る。
「それでツカサよ、しっかりとあの者の歌を聞いて何を思った?」
「何をって……良かったんじゃないかな、他のお客さん達も盛り上がってたし」
その俺の言葉を聞いたニドは、少し呆れた様に言葉を続ける。
「私が聞いたのは周りの事では無い、お主がどう思ったかだ。先程までの顔からして、何か思う所があったのだろう」
「うん、まあ確かにそうなんだけど。自分でもあまりはっきりしていないんだよ」
「そのはっきりしていない状態で構わんから話してみろ」
ニドの大好きな歌に関する事だからだろうか、今回はやけに真剣だ。
まあ、話せば何か気付く事があるかもしれない。
「何だろう、確かに凄い演奏と歌声だったけど……。今までに聞いた吟遊詩人の歌に比べると、物語が薄っぺらいというか。いや、内容自体は凄く良いお話だったんだけど、何だか血が通ってないというか……」
「……」
「これまでに聞いてきた歌って、どんなに滅茶苦茶な内容でも一定の現実感が有ったと言うか。それがあの人の歌には全然無かったんだよな……」
そんなろくに纏まらない話を黙って聞いていたニドだったが、俺が言い終わるのを確認してから話し始める。
「そのお主が感じた違和感は概ね正しい」
「正しいって言うのは、やっぱり歌に何かあるのか?」
「ふむ、問題はもっと根本的なものだな」
そう言うと、再びコップに満たしたワインを勢いよく飲みながら、先程の演奏中の様に不機嫌そうな表情で言い放つ。
「あの者は吟遊詩人の騙り、早い話が偽物だ」
お読みいただきありがとうございます。
実は私が結構気に入っている登場人物の初顔出しですね。




