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六話 英雄の本質④

次話投稿です。

出てくるキャラの声を考えていると、イメージがそちらに引っ張られそうになる事があります。

因みにシグルズの声は少し低めの落ち着いた声ですかね。

 この世界には「竜」と呼ばれる生き物が居る。

 それは一つの種族を指す呼び名では無く、野生動物が何らかの要因で異常な成長を遂げた姿を人々はそう呼んでいるのだ。


 あるものは単純に長く生きて。

 あるものは千を超す他種族を喰い。

 あるものは言葉を解する程の知恵を得て。


 その体や生態を著しく変化させ、元の生き物とは比べ物に成らない程の力を得たものが「竜」と呼ばれ存在へと至るのだ。

 この世界のありとあらゆる生き物がそれになる可能性を秘めており、極めて乱暴な言い方をすれば他の生き物にとっての「英雄」が「竜」なのである。


 その力は弱いものでも一国の軍に相当するとされ、過去には竜の討伐に失敗しそのまま滅ぼされた国もあるという。

 決して個人や少人数で太刀打ち出来る様な存在ではなく、戦うとなれば周辺国が協力して事に当たらねば成しえないという、まさに生きた災害である。


 しかし、彼らはその殆どが竜へと至る事である程度の知性を持つらしく、出くわしたからと言って即戦わなければいけないという事でも無い。

 個体によっては人の言葉すら操るものも居り、そんな思慮深い竜を崇める事で平和と繁栄を謳歌している国もあるのだとか。


 兎も角……一口に竜と言ってもその姿や性質は様々なのだが、隠れて様子を窺っている俺の目に映る竜は真っ赤に目を血走らせながら涎を垂らし、大きな体を揺らしながら木々を薙ぎ倒し何かを追い掛けており決して高い知性を持つとは言い難かった。


 見た所、成人男性くらいなら楽に丸飲みに出来そうな程に巨大化というより肥大化した体つきの蜥蜴(とかげ)型だが、異様だったのは背中に体に見合った大きな四本の腕や足が生えているという事だ。

 一本は人の様な皮膚感のある腕、一本は獣の様な体毛に覆われた足、残りの二本は羽の様に広がった皮膜の先端に三本の鉤爪がある腕である。

 それらを滅茶苦茶に振り回し、触れた物を吹き飛ばしながら突進している。


「あれは……本当に竜……なのか?」


 竜に至ったものには生き物として上位者特有の強い気配があり、それを一度間近で経験している俺にははっきりと理解出来る。

 あの異様な姿の竜からはその気配が感じられるのだが、どこか不安定というか思わず疑問の声を上げてしまう程に、その姿は痛々しくおぞましい物だった。

 先程から上げている唸り声もどこか悲鳴の様にすら聞こえてくる。


「そんな事よりほら、追われている方を見なよ。……どうやら君の感は当たってたみたいだね」


 そう腰の酒瓶から聞こえて来た声に釣られて異様な姿の竜の前方に目を向けると、半刻前に知り合いを探す為に分かれた傭兵の男であった。

 しかしその動きは何処かぎこちなく、ここまで来る時に見せていた軽快な動きは鳴りを潜めている。

 よく見れば、彼の灰色の外套の下部分が腰に縛られその中に人が背負われており、そのせいで思う様に動けないらしい。


 今の所は相手の緩慢な動きに助けられ何とか逃げられているが、このままでは何れ追い付かれてしまうだろう。


「どうするの? 因みに僕はこのままやり過ごすに一票だけど……」

「そんなの決まっているだろう」


 そう言いながらそれまで身を隠していた木の陰から飛び出し走り出した。


「あぁ、やっぱりそうなるのか。もう好きにしなよ」


 この日だけで何度目か分からない大きな溜め息が酒瓶から聞こえると、黙りこくってしまった。


 確かにこのままやり過ごすか、追われている彼らを囮にして逃げれば少なくとも命は助かるし、組合からの調査依頼は達成出来る。

 あの異様な竜が住み着いている事で森の生態系が崩れているという事であれば、本来なら国なり組合なりが何か対策を講じるのが筋だろう。


「すまんな、これでも俺は「英雄」なんだよ。ここでそれを選ぶ事は許されない」


 そう言って、腰にぶら下がっている酒瓶を軽く指で弾いて走る速度を上げた。


 丁度相手の竜が大岩に頭から突っ込み破壊するも、めまいを起こして止まっている間に何とか傭兵の男に追い付き合流する事が出来た。

 人を一人背負って結構な長い距離を逃げて来たのか、かなりの疲れが見える。


「旦那! 来てくれたんですか!」

「そいつが行方不明になってた前任か?」

「はい。運良く木の根元に出来た空洞に転がり込んでたみたいで、身体中傷だらけでしたが何とか息があります」

「ならさっさと連れて帰って、治療と話を聞きたい所だが……」


 めまいから回復した不気味な竜が、突然目の前に現れた俺に警戒心を露にして唸り声を上げている。

 どうやら簡単には見逃してくれそうに無いらしい。


「俺が足止めをする。お前は少しでも早く組合に帰って、事の報告と応援を呼んで来てくれ」

「旦那それは」

「悪いが、今は時間が惜しい。これは雇用主命令だ、行け」

「くっ……」


 彼はまだ何か言いたそうにしていたが、一度しっかり頷くとすぐに森の外へ向けて走り出した。

 ここで状況が見えずに騒ぎ立てる様な者は、あの支部長に腕利きとして推薦されないだろう。


 目の前の竜だが、一度は走り出した方を追い掛ける素振りを見せたが、俺が立ち塞がる様に動くと不快げに唸り声を上げてこちらに狙いを定め、邪魔物の排除するのを優先する事にしたらしい。

 こちらを品定めしているのか蜥蜴独特の大きな目がせわしなく動き、時折出し入れする細長い舌が不快な気分を煽って来る。


 しばらく睨み合っていたが余程こらえ性が無いのか、大きな体を揺らして突っ込みながら噛みついて来た。

 幾ら鈍い動きとは言え、あんな図体を真面に正面から受け止める訳にはいかないので、横っ飛びで躱し懐に何本か仕込んでいる短剣を投げ付けてみる。

 当然の様に弾かれてしまったが、極浅い傷をつける事には成功していた。

 その後も何度か腰に差していた普段使いの剣で動き回りながら斬り付けてみたが、どうやら数打ちの武器でもそれなりに戦えるみたいだ。


 しかし、あの大きな体が相手では倒し切る前に武器の方が折れてしまうか、投げる本数が足らなくなってしまう。

 それにあの背中から生えている四本の手足は、どうやら精密な動きは出来ないが大雑把な目標に向けて振り回す事くらいは可能らしい。

 今も脚の動きこそ止まっているが絶えずこちらに攻撃を仕掛けて来ており、動きが鈍い割には手数が多くその一つ一つに危険な威力がある。


 あまり様子見を続けていて何か不測の事態があってもつまらないので、早々に決着をつける事にした。


「さてと……そんな醜い姿をしているお前でも竜の端くれだ、半端な武器ではお気に召さないだろう」


 一度相手から距離を取りそれまで使っていた剣を鞘に仕舞うと、もう一本の鞘に収まっている剣を引き抜いて一振りする。

 この剣に手を掛けた瞬間から絶えず腰の酒瓶より不快を示す感情が流れ込んで来る。

 先程の様子見で大体は把握できた、手早く済ますつもりなので我慢してほしい。


「これより先は竜を殺した剣で相手をしよう」


 それはとても単純な造りの剣であった。

 鍔や柄、鞘には一切の装飾が存在せず、下手をすれば先程使っていた剣の方が上等に見える程だ。

 しかしその剣身は、早く自分を奮い獲物を切り刻めと言わんばかりに怪しく輝き、見る者を虜にしてしまう魔性の魅力を秘めていた。


「お前に知性があるかは分からないが……臆さないなら掛かって来い」


 それまで意外な程に大人しくこちらを窺っていた不気味な姿の竜が、まるで己を奮い立たせる様に今までで一番の咆哮を上げると、血走った目を更に見開き口を開けて突撃して来た。


 もう少しでその大きな口がこちらに届くという直前、だらりと下げていた両腕で剣を握ると力を込めて下から上へと振り抜き相手の下顎を切り裂いた。

 そのまま上顎まで到達した剣身を支えに体を浮かして突撃の威力を殺すと、体を回転させ剣を竜に突き刺し切り刻みながらその背中に登っていく。

 その間も竜は滅茶苦茶に暴れるが、突き刺した剣に力を籠めれば喰い付く様に深く刺さり傷を広げる結果となった。


 背中の手足近くまで辿り着くと、手前側に生えていた人型の手を根元から切り裂き、竜の体を蹴って離れ相手の側面に降り立つ。

 激しい痛みと纏わり付かれる不快感から体を揺すっていた竜も、目視できる位置に俺が現れた事で取り敢えず排除を優先する事にしたらしい。


 これまでより激しく残った背中の足や鉤爪付きの羽を振り回して来たが、一本減った事で手数が減り余裕をもって捌く事が出来る。

 手にした剣の凄まじい切れ味により往なしているだけでも傷を与える事が出来るので、余計に相手の傷が増え攻撃が鈍っていく。


 遂には背中でも一番遠い位置に生えていた羽型の腕の一本が動かなくなったらしく、だらりと垂れ下がる。

 それでも尚しばらく残りの二本を振るっていた竜であったが、引き裂かれた下顎や刺され抉られた傷から流れ出た大量の血だまりの中へと遂に倒れ伏した。


 最早呼吸すら絶え絶えになり口角から血の泡を吹き出していた。

 これ以上苦しませる必要も無いだろうと止めを刺す為に近付くと、未だに動く目でこちらを覗くと意外にも首の根元を晒して来る。


 それまでの知性を感じさせない動きから一転、まるで正気を取り戻した様な穏やかな雰囲気を纏った竜に戸惑いながらもその晒された首元を一閃すると、もう一度だけこちらを覗き込みゆっくりと目を閉じた。




 今回の件は不可解な事が多過ぎる、特にこの竜に関しては入念な調査が必要だろう。

 残念ながら、あの獣耳好き支部長の嫌がっていた本部案件になりそうだと考えながら剣を収め、一息入れる為に近くの岩に座ろうとしていると


「シグルズ! 上だよ!」


 突然そんな風に張り上げられた声に反応し体を横に跳ねさせ剣を構えると、先程まで自分が居た場所に剣を振り下ろした全身鎧姿の男が居た。


 男は奇襲が失敗したと悟るとすぐさま身を後方へ翻し、距離を取って再び剣を構える。

 何者なのかとこちらが誰何しようとしていると、男の近くにある木々の死角から次々と武装した連中が姿を現した。

 どうやら完全に囲まれてしまっているらしい。


 彼らの武装から情報が得られないかと観察していると、奇襲を仕掛けて来た全身鎧男の後ろから鈴の様な澄んだ女性の声が聞こえて来た。


「あの奇襲を躱すとは、さすがは竜殺しの英雄殿……と言った所かな」

お読みいただきありがとうございます。

以前あまりに主人公が出てこない事を突っ込まれました、自分が楽しいので今の所はこのままで良いかなと思っています。

よろしければご意見ご感想など頂けましたら幸いです。

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