一話 少年と組合
次話投稿です。
説明回の様になりました。
ニド達と合流して受付に鍵を返すと、宿屋を出て街の通りに出る。
もうしばらくはここに滞在する予定なので、今日は必要な物だけを持って出て来た。
様々な店や屋台が営業して昨日より遥かに人が多い街の大通りを歩きながら、ぷにるに乗って上機嫌で進むニドの後ろを若執事さんと共に歩く。
いつもであれば街中ではニドがやたら自分の足で歩きたがり、そのくせ全然体力が無いので一々休憩を挟まなければいけないのだが、今日はすんなりと目的の場所に着きそうである。
本人的にはいつも徒歩が良いそうなのだが、基本的にニドの意志を尊重するはずの従者さん達による猛反対で街以外での移動は常にぷにるに乗る事になったのだとか。
確かにニドの体力の無さは折り紙付きで、街中の平坦な道でも転びそうになる程に運動神経も悪いので、俺も従者さん達に賛成だ。
しかし知識の方は途轍もなく豊富なので、その辺でバランスを取っているのかもしれない。
今向かっている「組合」の事も以前ニドに教えてもらったので、存在やどんな所かは知ってはいたのだが、実際に行くのは今回が初めてだ。
組合というのは正式には「商工業者組合」と言い、大陸中の主要な都市や街に支部を構えて様々な物品の販売や買い取りを行っているらしい。
他にも仕事や職人の斡旋や有料だが技術や情報の伝達なども行っており、人々の生活に無くてはならない存在なのだとか。
昨日の狩りで得た獲物もそこで買い取ってもらえるので、本日はこの街のはずれにある組合の支部へ向かっている。
既に先程までの密集して住宅が立ち並ぶ風景は、空き地が目立つ物になっていた。
「しかし……どうして組合の建物はこんな離れた場所にあるんだろうな」
「ん? どうしたツカサ、もう疲れたのか。情けない奴だ」
いや、お前はぷにるに乗ってるからだし、普段は数百メートル歩いただけで動けなくなる奴に言われても。
そんな事を言い出したら切りが無いので、そんな言葉を飲み込む。
「聞いた時は何とも思わなかったけど、そんな生活に必要な店なんだったら、どうしてこんな街はずれにあるんだろうと思って」
前に教えてもらった時も、組合の建物は大体が街はずれにあると言っていた。
詳しくは知らないが、普通はそういった重要な建物なんかを中心に街は発展していくんだと聞いた事がある。
俺の言葉を聞いて、ニドは少し意外そうな顔をして話し出す。
「以前話した事を覚えておったか、感心したぞ」
「人を鳥頭みたいに言うなよ、それくらい覚えてるよ」
そう言うと、ニドが不思議そうな顔で振り返り問いかけてくる。
「鳥頭? 何故鳥の頭が物覚えと関係あるのだ?」
「ああ、こっちの世界ではそう言わないのか。俺の元世界では、記憶力の悪い奴の事を鳥頭って言うんだよ」
それを聞いたニドは心底面白そうに笑い、話しを続ける。
「それは実に興味深い話だ。お主の世界での鳥は、その様な存在なのだな」
「そんなに不思議なもんか?」
「うむ、この世界で鳥は知性や知識の象徴だ。特に渡り鳥はそれらの守り神として崇められ、吟遊詩人の紋章になっている」
確かに考えてみれば、日本でもカラスは賢い事で有名だしインコやオウムは喋りすらしてた。
思い返してみれば、俺の家より更に田舎にある爺ちゃん家に夏休み泊りに行った時、庭の小屋で飼われているニワトリ達に悪戯をして盛大な逆襲にあった事がある。
次の年にそんな事をすっかり忘れて爺ちゃん家に泊まりに行き、頼まれたニワトリ小屋の掃除をしていると、物凄い勢いで襲われて逃げ出した事があった。
誰だよ「鳥は三歩歩くと忘れる」なんて言い出した奴は、おかげで酷い目にあったよ。
そんな俺の愉快な思い出を余所に、ニドの話しは続いていた。
どうやら話がそれる俺達の悪い癖が出ていた様だ。
「そうだった、何故組合の敷地が街のはずれにあるのかであったな」
「おお、その話だった。うっかりしてた」
「……私から逸れたとは言え、本当に気になっておるのか?」
「そんなの当たり前だろ。凄い気になってるよ」
別にそこまでの事では無いんだが、ここで「もう良いや」何て言うと感じが悪いからな。
それに気になったというのは本当だから、このまま話を続けよう。
「何か邪な考えが透けている気がするが、まあ良かろう。その答えだが、ほれもう見えておるぞ」
「答えが見えてるって……」
ニドの指した方に目をやると、これまでのどこか閑散とした住宅地の代わりに、大きな倉庫が立ち並ぶ光景が広がっていた。
その倉庫には今も頻繁に人が出入りしており、荷物を運び出す物や何かのリストをチェックする者など、様々な人が忙しく働いている。
「これは、凄いな……」
「何せ大陸一の経済力を持つ組織だからな。比較的大きな支部とは言え、確かにこの光景は圧巻だ」
この世界に来てしばらく経つが、これまで知らなかったのが不思議なくらい活気がある場所だ。
これまで組合に関する用事は全て従者さん達が行っていたので、知る機会が無かったのもあるだろう。
「この大量の倉庫が全部組合の物なのか?」
「ふむ、あそこを見よ」
そう言ってニドが丁度倉庫の入り口の上辺りを指さす。
それに釣られて目をやると、そこには盾の表面に金槌と剣と小麦が交差した図の紋章が取り付けられていた。
「あれが組合を表す紋章だな。組合の建物には全てあの紋章が掲げられている」
その言葉の通り、周りの倉庫には全てその紋章が取り付けられており、この一帯が全て組合の持ち物である事を示している。
大量の人や荷物が行き交う倉庫前の通りを、なるべく邪魔にならない様に進んでいくと、一際大きな建物が目に入った。
どうやらあの建物がこの支部の事務所で、本日の目的地になるらしい。
「さて……折角なので、勉強の為にお主は私と先に事務所の方に寄って行くか」
「あれ、俺達だけ? 事務所で買い取りをするんじゃないのか?」
「交渉事や細々した物の売り買いであれば事務所で良いのだが、量が多い交易品や腐ってしまう生もの等は直接買い取りを行っている倉庫に持って行き、そこで取引を行うのだよ」
つまり今回俺達が持ち込んだ様々な動物の素材は、倉庫の方で買い取りを行っているという事だろう。
「今回持ち込んだ素材は、量が多い上に質も良い。査定に時間が掛かるだろうから、持っていくのはこの者達に任せその間に事務所の見学をしようか」
そう言ってぷにるから降りたニドは、若執事さんに手綱を渡して指示を出し事務所の中に入って行く。
慌てて俺も若執事さんに声を掛け事務所に入ろうとしたのだが、その際に若執事さんの仮面越しにも判るイケメンスマイルで「お任せください」と言われ、微妙な顔をしてしまった。
何だろうこの同性としての格というか余裕、安心感みたいな物の違いは。
そんな謎の敗北感を味わいながら、ニドの後を追って建物の中に入って行った。
建物の中に入ると入り口のすぐ近くでニドが待っており、中を見渡す様に促して来た。
広々としたフロアには各所に机や椅子にソファーが置いてあり、順番待ちらしき人が座っている。
左に目をやると様々な紙が貼られた大きな掲示板が置かれており、今も熱心にチェックしている旅装の人が居た。
右奥にはどうやら二階へ上がるであろう階段があり、時折座っている人と職員らしき人が一緒に登って行く。
そして正面のカウンターらしき場所には複数の受付が設けられて職員が待機し、それぞれに大きな文字で「ご相談」や「買い取り」等と書かれた看板が掛かっており、その奥では職員の人達が今も忙し気に動き回っている。
見た目が完全に日本のお役所ですね、本当にありがとうございます。
そんな事を思いながらニドの方を見ると、心成しか嬉しそうに解説を始める。
「先ずはあの掲示板だな、あれにはその日ごとの物価が張り出してある」
「日ごとの物価?」
「そうだ。例えば……これだな」
そう言って掲示板の方に近付き、張り出している紙の一枚を指さす。
そこには、この大陸で主食となっている複数の穀物の値段が書いてあるのだが、表記のされ方が少し変わってた。
「……これは、月の初めから今日までの値段が全部書いてあるのか」
この世界で使われている暦も元の世界の日本と同じで、1年は365日であり1月から12月まで月が12に分けられている。
これを「主神暦」と呼び、大陸の南にある宗教国家が細かい祝祭日や式典などの日取りを決定して、各国もこれに従い使用しているらしい。
この紙には、その主神暦で定められた今月の初めから今日までの値段が細かに記されている。
本日の値段の場所に分かりやすく印がされているので、見る人はまず間違う事は無いだろうが一枚の紙に途轍もない量の情報が詰め込まれており、細かく読んでいると目を回しそうだ。
それが目の前の大きな掲示板にびっしりと張られており、先程の穀物の他にも酒類や野菜に肉類など、色々な物の値段が書いてあった。
「ここは食料品の欄で、あちらが陶器や工芸品。そして我々が今一番見るべき野生動物の素材は、あそこの裏側に値段があるな」
こんな大きな掲示板でも裏側まで使うのかと、恐怖すら覚えながら素材欄を見に行くと、この近辺に生息する様々な野生動物の買い取り可能部位の値段が書かれた紙が貼ってある。
よく見れば「高額買い取り」と書かれた札がある場所にあの牛の化け物の紙があり、少し嬉しくなった。
あいつ『スワンプバッファロー』って言うんだ、特に肉が良い値段になるな覚えておこう。
「どうだ? この掲示板の事が少しは分かったか」
「これ……日ごとの値段って事は今日のうちに全部回収して、また新たに書き加えた物を明日までにを張り付けてるって事だよな?」
そんな俺の言葉に、ニドは深く頷きながら答える。
「そうだな。特に値動きの激しい物は、朝と夕方で大きく異なる場合がある。そんな時は日ごとでは無く、半日ごとに張り替えたりする様だ」
「聞いただけで気が遠くなる話だな」
初めこの掲示板を見た時は何かのポスターでも張っているのかと思ったが、そんな労力が掛かっている物だったのかと感心した。
少しの間ニドと離れて色々な物の値段を確認していると、受付の一角で職員の男性が何やら喋り出し、紙を読み上げているのが目に入った。
今見ていた、この「飛行石」とかいう名前の鉱物の事が物凄く気になったが、つい釣られて受付の方に目を向ける。
その職員の男性の前には様々な格好の男女が複数集まっており、何やら緊張した面持ちでそれを聞いている様だ。
一体何が始まったのだろうと不思議に思っていると、先程まで反対側に居たはずのニドがひょっこり隣に現れた。
湿地でもそうだったが、こいつは本当に神出鬼没だな。
……いや、宿屋で「英雄」とかいう男性の時も気付かなかったし、単に俺の注意不足かもしれない。
今度から気を付けよう。
「丁度良く組合員の合格発表をしているな。よし、次はその辺りの事と受付についての説明をするか」
そう言ってニドが受付の方へと向かって歩いて行くので、若干の名残惜しさを感じながら俺もその後に続いた。
もう少し色々と確認したかったのだが、また今度来た時に見ておこう。
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