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第二章 プロローグ

第二章に入ります。


よろしくお願いいたします。

 湿地帯での狩りを終えた俺達は、現在泊っている宿がある街へ戻って来ていた。

 交易の拠点であり、先程まで俺達が居た湿地帯を抜ける準備をする為の大事な補給基地らしい。

 色々な店があり、朝から様々な物を売る屋台が出る活気がある所で、今の時間は殆どの店が閉まってはいるが街自体にはまだ人通りがあった。


 辺りが完全に暗くなる前に辿り着けたで内心ではかなり安心してる。

 泥だらけなのは着替えてあるし体は水を出してもらい流せば良いのだが、どうせならやはりお湯で洗った方が気持ちがいい。

 元の世界ではそこまで風呂好きという訳でも無かったが、この世界に来て汚れと一緒に全てが流れて行くあの感覚は、得難い物だったのだと再認識している。


 因みに本日の狩りの成果は、俺がやっとの思いで勝利し解体した牛の化け物一体と、その間に少し離れた場所で中年メイドさんが獲った大小様々な動物達だ。

 全て完璧に解体されぷにるの中に入っており、もちろんその中には俺の物より大きいサイズの牛の化け物も存在していた。

 分かってはいたが、かなり落ち込むな。


「さて、では早速本日の成果を売りに行こうか」

「まあそうだよな」


 そんなニドの言葉に、若干疲れた感じで答えてしまった。

 罠の設置や追いかけっこ、果ては慣れない解体作業で自分が思っていたより疲れていた様だ。


 あと少し頑張るかと自分に言い聞かせ歩き出そうとしたが、続くニドの言葉に止められた。


「と、言いたい所だが……今日は宿屋に帰るとするか」

「どうしたんだ? 何か他に用事でも?」


 俺がそう言うと、何やら不満げな顔で続ける。


「見るからにお主が疲れた顔をしておるからであろうが。そんな顔の者を連れて街中を歩けんぞ」

「うっ……すまん」


 もし今日のニドの世話係が老執事さんだったら「主様に気を使わせるなど、従者としての自覚がーー」等と、お説教と厳し目の訓練が待っていただろう。


「それに、そんなに焦らずとも我らにはこのぷにるが居るのでな、物が悪くなる心配も無い。明日の人通りが落ち着く頃合いを見計らって行けばよい」


 非常に気に食わないが、確かにニドの乗っているの不細工なロバ「ぷにる」は便利な不思議生物だ。

 こいつの口の中は広大な収納スペースになっており、口から大小様々な物を出し入れ出来る。

 おまけに入れた物の時間を自由に操れるらしく、狩りで得た獲物や劣化が早い薬草などを収納しておけばいつでも最高の状態に保てるのだ。


 一つ問題があるとすれば、なまじ意志を持っているので何故か嫌っている俺の私物は絶対に入れないという事か。

 今回の獲物も俺が狩ったという事で奴は入れるのを渋ったが、中年メイドさんの笑顔の圧力と全員の共有財産という事で納得したらしい。

 この駄ロバが、絶対いつか泣かせてやる。


 宿屋の部屋に着き、いつもなら使っている・いないに関わらずナイフや道具の整備をしたり、本を読んで薬草学の勉強に当てているのだが、結局その日は一日の疲れが出たのか宿屋のお風呂から上がって直ぐに睡魔に襲われ寝てしまった。

 やはり疲れていたのかと思いながら起き出して、宿屋で出される朝食を食べた後に昨日出来なかった道具の整備をしていると、本日のニドの世話係である若執事さんが部屋にやって来た。


 この人は他の従者さん達に比べても割とお喋りなので、何やら色々と言っていたが半分以上はニドを称える言葉で最近は適当に聞き流す事にしている。

 長い話の必要な所だけ抜き出すと、どうやら後半刻ほどしたら宿屋の一階に集合だという事らしい。

 話が終わって優雅に一礼して去る若執事さんのその姿は、まるで少女漫画か何かから飛び出して来た美男子そのものなのだが、あのお喋りと可愛らしい犬の仮面のせいで台無しだ。


 ともかく、半刻後に集合という事だったが以前の様に遅いと叱られては堪らないので、急いで整備と外出の準備を済まし宿屋の一階で待つ事にした。

 この街でもそれなりに大きな宿屋なので、受付スペースが広く待ち合わせ用のソファーには他のお客さんが何人かくつろいでいる。

 思えばこの異世界でこんな良い宿屋に泊まれるのは、ニドの従者をやっているからかもしれない。

 そう考えると、俺をこちらに呼び出したのがあいつで本当に良かった。


 そんな事を考えながら入り口付近に置かれたソファーに座り、ぼんやりと周りや他のお客さんの流れを眺めていると、受付の方からこの宿屋に不釣り合いな怒鳴り声が聞こえて来た。

 何か問題でも起こったのかと目をやると、いかにも粗暴な態度と身なりの男が受付の女性に食って掛かっている。

 何があったのかと聞き耳を立てると、どうやら料金に関して揉めているみたいだ。


「だからさっきから言ってるだろうが! 俺は「竜殺しの英雄」シグルズ様だ。そんな有名人に泊まってもらえるだ、まさか料金なんぞ取らねえよな?」

「では竜殺しの英雄シグルズ様、先程から申しております通り当宿ではそういったご提供は一切しておりません」

「なんだと!? てめぇ誰に向かって口聞いてるんだ!」


 どこの世界にもあの手の輩は居るんだなと思いながら、自称英雄の男を観察してみる。

 確かに体格や声は大きく顔にも迫力があるが、ニドの従者さん達の様な独特の凄みが全く無い。

 背負っている大剣も見た目ばかりは立派だが、全く手入れがされておらず所々に錆が浮いている。


 受付の女性も、こういった輩の相手に慣れているのか淡々と相手をしているが、相手は凶器を持った大柄な男だ。

 俺も腰に差したナイフを確かめながら成り行きを見守る事にした。


「証拠に英雄の銅札まで見せてやったのに、そんなに俺の力が見たいってんなら今ここで見せてやる!」


 男はそう言うと、背負った大剣を引き抜き受付の女性に向ける。

 周りで事の成り行きを見守っていた他のお客さん達も、まさかこんな場所で武器を抜くとは思っていなかったのか、一瞬にして辺りが沈黙と緊張に支配されてしまった。


 これはいよいよ若執事さんを呼ぶか、嫌だが自分が動くしかないかなと思っていた所で、受付付近から今までとは違う男性の声が聞こえた。


「取り込み中の所で悪いんだが、預けていた鍵を出してくれ部屋に帰りたい」


 慌ててそちらに目を向けると、それまで他に誰も居なかったはずの受付前に男性が立っている。

 確かに今まであの自称英雄の男に注目していたが、明らかに外から入って来たであろう服装の男性が入り口から受付の方に歩いて行けば、自分の位置的に視界に入るはずだ。


 そう不思議に思いながら男性を観察したが、年齢が二十代後半くらいで赤髪を短めに切り揃え身長が少し高めという以外は、特に変わった所が無い人という印象である。

 尚も観察を続ける俺の方をちらりと見て来たが、直ぐに興味を失った様に視線を受付へ戻した。


 突然現れた男性に、自称英雄の男も受付の女性も少しの間呆けるも、先に気が付いた受付の女性が笑顔で対応する。


「これはお帰りなさいませシグルズ様。本日は特に伝言も無く、お待ちの方もいらっしゃいません」

「そうか……では今日は久しぶりにゆっくり出来そうだ」

「はい、ごゆっくりお寛ぎください」


 そんな先程までの緊張感をまったく感じさせない態度に、やっと気を取り直した自称英雄の男が食って掛かった。


「おい! 何だてめぇは。この俺が話してたってのに、横入りとは良い度胸じゃねぇか」

「ん? ああ、すまなかったな。長引きそうだったんで先に済まさせてもらった」

「野郎、しかもお前みたいな弱そうな奴がシグルズだと? ふざけた事抜かすんじゃねぇ!」

「そうだな、奇妙な偶然だ」


 本当に事も無げに言う男性に、相手の男は青筋を立てて更に怒鳴り始めるが、当の男性はどこ吹く風でまともに取り合わない。

 しかし、痺れを切らした自称英雄の男が抜いたまま手に持っていた大剣を向けようした瞬間、男性はそれまでの様子からは想像もつかない程に鋭い雰囲気を身に纏った。


 その強い気配に当てられて、訓練時を思い出した俺は思わず腰のナイフを抜きそうになったが、寸前で思い止まる。

 今ここで抜いたら危険だという、本能みたいな物に従った形だ。


 どうやらそれは自称英雄の男も同じだった様で、呼吸すらしているのか怪しいくらい固まっていた。

 男性は固まっている男にゆっくりと近付くと、こちらにも聞こえる様に喋り掛ける。


「この場でそれを使うという事が、どういう結果になるかよく考えるんだな」


 そう言うと男性は、その鋭い雰囲気を引っ込めた。


 すると本当に呼吸すら止まっていたか自称英雄の男が、大きく息を吐いた後に再び男性に目をやり、酷く怯えた表情をして宿屋から走り去る。

 男性の方は何故かしばらく俺の方に視線を向けていたが、すぐにため息を一つ吐いて目線を外すと、受付の女性と少し言葉を交わして二階へと上がって行った。


 何とか場は治まったが、先程の男性は一体何だったのだろう。

 どうやら大剣の大男が名乗っていたのと同じ名前みたいだったが、ただの偶然かーーでなければあの人が本物の「英雄」なのだろうか。

 あの全身を刺す様な独特の強い気配は、老執事さんに稽古をつけてもらっている時に散々味わっており、少しは耐性が付いているがやはり慣れる物では無い。


 次どこかで会う事があったら、なるべく視界に入らない様に隠れていよう。

 しばらくそんな事をぼんやり考えていると、若執事さんを引き連れたニドが一階にやって来た。


「おおツカサ! 先に居ったのか」

「どうしたんだ? えらく機嫌が良さそうだが」


 今日はいつにも増して楽しそうにしていたので、何の気無しに聞いてみたのだが、余計な事を言わなければ良かったと後悔する事に成る。


「実はな、従業員に聞いたのだが。先日からここに「竜殺しの英雄」が泊っているらしいのだ」

「それだったら多分さっき……」


 そこまで言い掛けて、何か不穏な感じを察知して言葉を止める。

 するとこのチビッ子は、案の定とんでもない事を言い出した。


「そうだ閃いた! ツカサよ、良い機会だからその「竜殺しの英雄」と出会ったら、手合わせしてみてはどうだ」

「……え? 何で」

「面白そうではないか! 何よりお主にとっても良い経験になるだろう」


 それ絶対面白そうの割合が多いだろ。

 もしあの男性が本物だったら、とてもじゃないが敵いそうに無い。

 ここで先程見掛けた事は黙っていよう……そう固く誓った。

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます。


お時間がありましたら感想やご意見の方を頂けますと、とても嬉しいです。

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