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閑話 元騎士団長と吟遊詩人

今回は次話というかおまけ回です。


どうしても書きたくなってしまったので、勢いで仕上げました。

出来ましたらお付き合い下さい。

「ふう……このくらいあればで十分であろう」


 地面に突き刺した自らの愛剣に手を添え、目の前に積みあがった獲物を眺めながらそう呟いた。


 住み慣れた故郷を旅立ってからしばらく経ち、この暮らしにも大分慣れて来た。

 元々騎士団に所属し、遠征や訓練で野営には成れているつもりであったが、やはり組織でのそれとは訳が違う。

 全てを自分で行わなければならない上に、食料や火を起こす為の薪などの燃料もなるべく現地調達する事で節約しなければならない。


「あいつはこんな生活を、ずっと一人で続けていたのだな……」


 積み上げた獲物を両手に抱え本日の野営場所に運びながら、この終わり無い旅の相方の事を思う。

 共に国から出ると決めた事に微塵も後悔はしていないが、やはりいつかは身体の限界はやって来る。

 幸いな事に、自分はご先祖様の血のおかげで普通の人の倍程度の寿命があるらしいが、あいつの体にそんな血が入っている様子は無い。


 長年の旅の影響か、年齢の割にはしっかりとした体つきで、背中なんて大きくて思わず抱き着きたくなる……っでは無く。

 加護とやらの影響もあってか健康ではあるが、昔に比べれば若干の衰えも感じさせる。

 それは本人も分かっているのか、最近はあまり無理な旅の日程を組まない様にしているらしい。


 狩った獲物を抱えていたので少し戻るのが遅くなってしまったが、何とか川岸の野営場所に辿り着く。

 そこでふと、何か忘れている気がしたが、忘れるくらいだから些末な事なのだろう。

 そこでは他の野営準備を全て終えた、頼もしい相方が待っていた。


「帰ったぞ、見てくれ凄いだろう! 今日はこんなに獲物が取れたんだ!」 


 これだけあればしばらくは食料に困らないはずだ。

 他の事は未だに殆ど出来ないが、剣を振るう事に関しては少し自信がある。


「お帰りなさい。これは確かに凄いですね」

「そうだろう!」

「凄いですが、こんなに沢山どうするんですか? 二人ではとても食べきれませんし、処理するだけでも大分掛かりますよ?」


 そうなのか? 何という事だ、そこまで深く考えていなかったな。

 取り敢えず目の前に居たから食料になると思い狩ったのだが、まさかそんな落とし穴があったとは。


「それに、私は確か貴女に薪を拾って来てくださいとお願いしたはずですが」

「なんと! そう言えばそうであった。何か忘れていると思ってはいたのだが」


 一体誰だ、忘れてしまう程度の些末な問題だと言ったのは。

 これでは今日の夕飯が作れないではないか!


「……まあ、いつもの事ですから大丈夫です。勿体無いですが、今日は備蓄の燃料を使いましょう」

「おお、流石は賢人と呼ばれるだけはあるな! 用意が良い」

「はいはい、次はちゃんとお願いしますよ」


 そう言うと、手早く火を起こし持って帰った獲物の処理を始めた。

 何やら内臓を取り出して選り分けた後、次々と川に浸けて行く。

 前に教えてもらったので、食用の物はなるべく血が沢山抜ける様に仕留めている。


 そうしなければ臭くてとても食べれないと言っていた。

 流石は自慢の相方だ、本当に何でも知っている。


「終わりました。しかし、本当によくこれだけ狩れましたね」

「頑張ったからな!」

「……そうですか」

「そうなのだ!」


 昔から世話に成りっぱなしだから、これくらいは役に立たなければな。


 今でこそこうして共に旅をする仲ではあるが、あいつの最初の印象は「なよなよした胡散臭い奴」だった。

 大恩ある当時の国王様の肝いりで城に来るというので、どんな立派な人物なのだろうと思っていたが、そのみすぼらしい姿に随分と落胆したものだ。

 どう見ても強そうに見えず、剣の腕一本で騎士団長を任されるまでになった某からすると、この取るに足らない小物が何故という思いが強かった。


 今にして思えば、一種の僻みでもあったのかもしれない。

 ただ「歌が上手い」という理由で、自分が頑張って手に入れた物を得たのだと勘違いしたのだ。


 両親を早くに亡くしたが生まれつき力と体が強く剣の才能に恵まれた某は、成人前から当時頻発していた隣国との小競り合いに軍の一兵卒として参加し、順調に功績を上げていた。

 そして遂には騎士団に入団を許されるまで至るのだが、剣の腕は一番でも平民上がりだという理由で、騎士団では雑用ばかり押し付けられる日々を過ごす事になる。


 訓練すらまともに参加させてもらえず、倉庫の整理や掃除を命じられたが、その仕事もある日様子を見に来た上官から「お前は今後備品や掃除道具に一切触れるな」と命じられ取り上げられた。


 ちょっと勢い余って倉庫に穴を開けたり、箒で花瓶を真っ二つにしただけなのに酷い言い草だったな。


 そんな生活がしばらく続いたある日の事、定期的に行われるという国王様に団員の練度を披露する催しが行われ、それに参加する事になった。

 国王様の前で団員同士が一対一で斬り結び、日頃の訓練の成果を見せるという物らしいのだが、どうやら某の相手は騎士団一番の剣士と言われる者だという。


 舞台に上がる前に使い慣れた剣が取り上げられ、代わりに刃引きをした見た目ばかりは立派な剣を渡されて使えと言われたのだが、見た目が好みで無かったので元の剣が良いと言うと「いつも慣れた武器が手元にある訳では無い、文句を言うな」と叱られてしまった。


 考えてみれば確かにそうだと思い直し舞台に上がると、良く見渡せる場所に国王様と当時はまだ存命だった王妃様が仲良さげに並んで座り、その近くにはほんの小さな王子様も居られた。


 そんな中でふと相手に目をやると、いつも使用している武器を構えており頭を捻っていると、有無を言わさず斬り掛かって来る。

 随分と遅い剣速だったので、こちらの腕を図っているのかと思い「これくらいで行きましょう」という意味を込め胴を払う様に軽く打ち込んだのだが、容易く防がれると思っていた剣が相手の脇腹に直撃し吹き飛んで気絶してしまった。


 余りにも予想外な事態に自分も周りも混乱していたが、突然立ち上がった王妃様から拍手が送られる。

 それに続き国王様が拍手をされると、周りもそれに釣られた様に拍手が起こり、その日から国王様より直々に国一番の剣士を名乗る事を許された。


 後から聞いた話だが、あの時渡された剣には細工がされており、普通ではとても振る事の出来ない重さになる仕掛けだったとか。

 確かに多少見た目にそぐわない重さだなとは思ったが、問題無く振れたので多分手違いでもあったのだろう。


 次の日からこれまでの待遇が一変する事になる。

 多くの者から稽古を付けて欲しいと声を掛けられ、時に国王様や王妃様に指名され公務に付き添う栄誉も与えられ、特に王妃様からは事ある毎に「我が騎士」との言葉を頂き、幼い王子様の剣術指南役も仰せつかった。


 数年ほどそんな日々が続いたが、ある時からぱったりと王妃様のお姿を見る事が無くなる。

 一体どうしたのだろうかと思っていたのも束の間、すぐに王妃様が病で崩御されたという話が聞こえて来た。

 余りにも急な事で居ても立っても居られなくなり、無礼を承知で許可も無く国王様の下へ掛け付けたのだが、そこには見るからにやつれた国王様の横で青白い顔をして横たわる王妃様のお姿があり、その時に生まれて初めて大粒の涙を溢した。




 それからというもの国王様は人が変わった様になられ、以前はあれだけ積極的だった公務にもほとんど出られる事が無く、自室に引きこもってしまう。


 私は、亡き王妃様との約束を果たすため何度も国王様へのお目通りを願い出たが、最近急に国王様の周辺に侍り出した者達に阻まれてしまっていた。


 これで断られれば無理にでも私室に押し入るしかない、そう思いながら訪れた何度目かの謁見の申し出の際、以前から国王様の側に仕えていた侍女に呼び止められ、国王様の自室に直接訪れよとの事であった。


 侍女に案内されるまま国王様の私室に辿り着くと、あれだけ煩かった者達が見当たらない。

 聞けば国王様が厳しく人払いをされたそうだ。


 私室に招き入れられ、久しぶりに拝見させていただいた国王様のお姿は、大きく変わり果て思わず絶句してしまった。

 しかしここは御前であると思い直し、騎士の礼を執りながら定型の言葉を口にする。


「久しいな、我が王妃の騎士よ息災であったか」

「国王様もご健勝の事と……」


 そこまで言いはしたが元々我慢強い性質では無かったので、無礼を承知で立ち上がり国王様への言葉を口にした。


「国王様一体どうなされたのですかそのお身体は! 医者にはお見せになったのですか!?」


 あれだけ精鍛だった顔も体も異様に膨れ上がり、若干声も出し辛そうにしている。

 いくら外に出ないとは言え、とてもでは無いがこの短期間でこうなるとは思えない。


 余りにも礼を失した言葉に侍女が注意の言葉を上げようとしたが、それを手で制した国王様が微笑みながら言葉を返して来た。


「医者には診せん。大方原因も分かっておるし、その方が都合が良いのだ」


 その言葉で冷静になり、続けて語られた国王様の言葉で事の全てを教えられる。

 正直な話、難しい治世の話しは半分も分からなかったが、今は亡き王妃様を手に掛けそして今も国王様を苦しめている元凶が国内に居るという事だけは理解出来た。


 出来るなら直ぐにでも飛び出して斬って捨てたいが、それは強く止められてしまう。

 ならば何故自分はここに呼ばれたのか、そう考えていると考えを見透かした様に国王様は言葉を続けた。


「お前には騎士団長の位に就いてもらう。私がこんな状況だ、少しでも信頼出来る者に国を任せたい」

「なぜそこまで某を信頼してくださるのですか?」


 その言葉に国王様は再び微笑むと


「王妃が選んだ騎士だからだ。それに……あの日の涙に偽りは無かった」




 こうして某は騎士団長を仰せつかったのだが、前任の者が酷く反発し引継ぎ等を一切行わなかった為、書類の事や政務の事の一切が全くの手探りとなってしまう。

 また元々平民上がりで、騎士団に入ってから簡単な読み書き計算は叩き込まれていたが、複雑な言い回しや巧妙に誤魔化された予算などの数字を見抜けず、礼法などにも疎かったので数々の謗りを受ける事になった。


 当然騎士団の中には若輩でしかも成り上がりの某を快く思わぬ者も多かった為、協力を仰ぐことも出来ず日に日に消耗していくのが理解出来てしまう。

 それでも何とか亡き王妃様や、自分を信頼してくださった国王様への忠誠心だけを頼りに頑張っていた。


 それからしばらくしたある日、突然国王様がある平民の男を召し抱えるとの話が舞い込み、この男が後の旅の相方になるのだが、この当時は全く信用していなかった。


 しかし召し抱えられた次の日には国王様から直々に幼い王子様の教師に任命されると、最初は王子様に伝えてから徐々にというやり方で、次々に画期的な発明や考え方を城に広め始める。

 次第に城の人々との信頼関係を築き上げて行き、遂には「賢人」と呼ばれる程になっていた。


 この頃には、彼の広めた統一された計算式や書式が城内に普及し、騎士団長の仕事も一気に楽になる。

 そのおかげで、これまで手付かずだった諸所の問題にも取り組む事が出来、騎士団の風通しも格段に良くなった。

 これまで怠けていた団員達に直接指導する機会が増え、騎士団内の結束力も数段高まった気がする。


 何よりの大きな恩恵は、信頼できる副団長を見付ける事が出来た事だろう。

 賢人名義で行われていた勉強会に、感謝の気持ちもあり毎回欠かさず通っていたのだが、そこで某に負けないくらい熱心に学んでいる騎士を見掛ける。

 話を聞けば、荒事よりもそちらの方が得意なのだとかで、ならばと副団長の地位を与えて書類仕事や政務を任せると途端に頭角を現した。


 賢人と呼ばれる彼への不信感はとうの昔に無くなっていたが、より決定的に信頼する切っ掛けに成ったのはやはり我が息子の事であろう。


 数年ぶりに国王様の私室に呼び出されて行ってみれば、侍女がペンダントと握りしめた赤子を抱いている。

 誰の子なのだろうかと不思議に思っていると、今日から自分の子として育てよと命じられた。

 大恩ある国王様の命とあらば赤子の一人や二人立派に育て上げてみせるが、本当に一体誰の子であろう。


 結局最後まで本当は誰の子なのか教わらないまま、まずは賢人のもとへ行けと言われて訪ねてみたのだが、時間が悪かったのか寝ぼけ眼で現れた。

 客室に通されて、その眠たげな表情のままお茶を淹れる姿に何やら胸の奥が疼き、無性に頭を撫でたくなったが我慢して赤子の事を切り出す。

 ちなみに出されたお茶は信じられないくらい不味かった。


 国王様にはこの赤子は自分の子として育てよと言われているし、そもそも本当の親の事も聞いていないので「某の子だ」と自分に分かる限りの事を伝える。

 そう伝えた時の彼の顔を見ていると、何故か胸が痛んだがあれは何だったのだろう。

 その言葉を聞いて何やらぶつぶつと言った後、もう遅いので屋敷に泊まって行く様にと言われたので、その日は遠慮無くお世話になった。


 その日から育児に奮闘する毎日が始まるのだが、近所に丁度同じくらいの赤子を持つお母さんが居た事と、彼が定期的に顔を出して様々な物を差し入れ家の掃除をしてくれたので随分と助かっていた。


 今にして思えば、あの時が一番慌ただしくも充実した毎日だった気がする。

 騎士団長になった辺りからいくつかお見合いの話しも来ていたのだが、当時はそれどころでは無かったし、その後も騎士団の立て直しや子育てで忙しかったので全て断っていた。

 それを聞きつけた噂好きのご近所さん達からは「あの通い夫に早く責任を取ってもらいなさい」と言われていたが、一体何の事だったのだろうか。


 それから数年後、我が息子もすっかり大きくなり近所の子ども達と元気に遊びまわる様になったので、ご近所さんに預けて自分はやっと騎士団への復帰を果たした。

 久しぶりに騎士団へ顔を出した時の、団員達の嬉しそうな顔は今でも思い出せる。

 驚かせようといきなり訓練場に行くと、模擬戦を中断してまで全員へ知らせに行ったあの必死な様子は、さぞ嬉しかったからなのだろう。


 国王様が崩御なされる数日前に呼び出され、震える声で「国と王子を頼む」と言われた時は、覚悟していたとはいえ辛かったのを覚えている。

 最後に笑顔で「賢人の奴を逃がすなよ」と言われたのが印象的であった。


 当の賢人殿はそのあと弟子に全て押し付けて旅に出るとか言い出したので、国の為に色々と説得したのだが、結局旅立ってしまって何年も周辺国をうろついていたのだったな。

 まったく、新しい国王様の大事な時期だったというのに一体何を考えていたのやら。

 人の良い副団長が珍しく酒を飲みながら愚痴を溢していたので、代わりに自分が沢山頑張るから心配するなと言うと、とても恐縮していたな。

 そう言えば副団長は元気にしているだろうか。


 気が付けば東の端っこの小さな国だった我が故郷が、どんどん活気づいていったのもこの時期だったか。


 新しい建物が次々と造られ、人が頻繁に出入りしているので気になって入ってみれば、見た事も無いひらひらした服や強い匂いのする瓶などが置いてあり、面食らってしまった。

 物珍しさにしばらく眺めていると、店の者がやって来て布の薄く小さい下着をとんでもない値段で買わされそうになったので、慌てて逃げだした覚えがある。

 狙った人の前でこれを着た姿を見せれば一撃だ! とか言っていたが、あの薄い布には何か恐ろしい呪いでも掛かっているのだろうか。


 我が息子がすっかり大きくなって正式に騎士団入りを果たした頃には、街には活気が溢れ周辺での小競り合いや物騒な話を聞かなくなった。

 騎士団の中でも特に腕の立つ剣士に成長していた我が息子は、手柄を立てる機会が無いと不満気にしていたが、単に父ちゃんと呼び慕うあいつに貰った装備一式を試したかっただけなのだろう。


 この活気に溢れる街や平和になった周辺国を、前国王様や前王妃様が見たら何と仰られるのだろうか。

 そんな事を旅をしている今でも、ふと思う事がある。


 国一番の剣士の座を明け渡し、騎士団長の地位を我が息子に譲った後に見付けた料理という趣味は、今でも偶に野営の時に披露するのだが、それを食べたあいつの顔は何故かいつも土気色だ。

 自分で食べても特に問題無いのだが、好みというのは難しいものである。




「何を似合わない顔で黄昏ているのですか」


 作ってもらった夕食を食べた後、焚火の火を見ながら昔の事を思い出していたが、川に浸した獲物を見てくると言って離れた彼に気付かない程、色々と思い出していた様だ。


「少し、故郷の事を思い出していた」


 そう言うと、彼は黙って焚火の前に座り薪を加えた。

 しばらく焚火が消えない様に整えていたが、不意に声を上げる。


「貴女まで旅を続ける必要は無いんですよ」

「それは言わない約束だろう。某は自分の意志で共に旅に出た、これだけは譲らない」


 その言葉を聞くと、彼は安心と不安が混ざった複雑な顔をする。 

 もう何度か同じやりとりをしているが、この意見を変えるつもりは無い。


「そんな約束した覚えが無いのですが……」

「某も約束はしていない!」


 前に立ち寄った村でこう言うと相手が勝手に納得してくれると聞いたのだが、文言が間違っていたのだろうか。


 今回もはぐらかされてしまったが、彼は余り当時の話をしたがらない。

 自分が当時の宰相にお願いされて、殺人鬼の捕物に駆り出された後の事は特にだ。


 何か訳の分からない事を言う華奢な青年を散々苦労して取り押さえたが、何故かその後に宰相に斬り付けられ倒れてしまった。

 その際に首から下げたお守りが外れてしまい、夢現の状態で無くしたら大変だと頑張って握った所までは覚えているが、その後の事は殆ど分からない。


 後は、何か夢の中で大事な物を奪われ続けるのに必死で抵抗していた事や、不意に温かく優しいものに包まれて守られていると感じ安心した事くらいだろうか。


 聞いた話ではあの殺人鬼の事件から一ヵ月近く経っており、城での騒動の時に駆け付けられ無かった事をとても悔やんだ。

 もし自分が倒れていなければ、我が息子も助かったかもしれない。


 騎士として皆を護る為に立派に戦った……そう伝えられた時は誇らしさと同時に、強い後悔に襲われた。

 前国王に任された子を護れなかったという事もあるが、それ以上に愛しい自分の子を護れ無かったという後悔に。


 それを伝え聞いた後その場に居たという彼の言葉を聞いた時は、自分でも制御できない感情に支配され掴みかかってしまう


「何故側に居ながらあの子を助けられなかったのか」


 そう叫びながら。

 彼は理不尽に怒りをぶつけられ、胸倉を掴まれながらもただ一言


「すまなかった」


 そう告げると、乱暴にだが優しく抱き締めて来た。

 その日、人生で二度目の涙を彼の胸の中で流し続けた。


 もし……あの子を騎士では無く何か他の生き方をさせていれば、今も故郷で皆笑って過ごせていたのだろうか。

 そう考えては、遺品として引き取り今では自らの腰に差している我が息子の剣を撫でてしまう。


 辺りはすっかり暗くなり薪が燃える音だけが辺りを支配する中、焚火を挟んで反対側に座る彼から声を掛けられた。


「獲物の事もありますし、今日は私が先に見張りをします。貴女は先に横になってください」


 普段こういった順番に厳しいのに随分珍しいと思っていたが、続く言葉でその謎が解ける。


「そんな顔の女性(ひと)を放っておいて、一人で安穏と寝ていられるほど私の精神は強く無いですから」


 本当に、本当にこの男は。


 騎士になった時どこかに捨て去ったはずの感覚を、この男と一緒に居ると時々感じてしまう。

 旅の相方として不本意ではあるが、決して不快な物で無いのが質が悪い。

 今まさに思い付いた言葉を口にしたらどんな反応をするのだろうか……。

 その好奇心が抑えられなくなり、思わず言ってしまう。


「なあ、寂しいから我らの子どもを作らないか」

「……は?」


 最近ではすっかり見なくなった呆けた顔を久しぶりに拝むことが出来た。

 これだけで今の言葉を口にした価値はあったが、今回の目的はそこではない。


「このまま一生二人旅というのも味気無い、しかし今更連れ合いは増やせない」

「そうですね、まあそれは分かります」

「だったら二人の間に子どもを授かれば万事解決ではないか!」


 我ながら一部の隙も無い完璧な言い分だ。

 これならば奴も納得せざるをえまい。


「却下します」


 なん……だと……?

 いつもなら納得できる理由があれば無下にしないのに、どうして今回は駄目なのだろうか。


「何故だ! 某の言った事に何かおかしな所があったのか!?」

「いや、おかしい所だらけでしょう。それにお互いの年齢を考えてください」

「某は寿命が長いのと同じ様に、体の年齢も子を産める期間が長い。だから問題無く子を成せるぞ!」


 騎士団時代に念の為にと調べてもらったが、その時から数えてもあと十数年は大丈夫だと医者のお墨付きをも貰っている。

 当時はだからどうした、としか思わなかったが今になって役立つとは。

 やはり色々と知っておくというのは大事な事だな。


 その後も、お互いの気持ちがどうとか旅の途中だからとか何とか、何やらごちゃごちゃと言って来たが気にしない事にした。

 幸い大きい街に滞在している時に、目を盗ん娼館に行っている事も知っているので、枯れている訳でも女の体に興味が無い訳でも無い事を知っている。

 

 野営時というのは確かに開放的で良いかもしれないが、出来たらゆっくりしたいので、今度ちゃんとした寝具のある宿に泊まった時にでも今と同じ提案をしよう。


 その時にまた何か言う様なら覚悟してもらうおう。

 何せ某の方がずっと強いのだからな!

お読みいただきありがとうございます。


次回から新章なのでこの関係のお話はお終いですが、二人とも好きな登場人物なので将来どこかで顔を出すかもしれません。

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