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二十一話 少年と吟遊詩人

次話投稿です。


次回がエピローグになる予定。

「おーい、ツカサー!」


 見れば、演奏を終えた姉妹の姉リンノンが手を振っていた。

 ニドの話しの続きも気になるが、それは宿に帰ってからでも良いかと考え手を振って返事をする。

 こちらの返事を受けて、今からそちらに向かうとジェスチャーで教えてくれたので待っていると、一階部分を横切って俺達の席に現れた。


「お待たせ。お昼ぶりだね、聞きに来てくれて嬉しいよ」


 笑顔で手を差し出して来たのでそれに答えると、一瞬意外そうな顔をした後直ぐに笑顔に戻る。


「凄く良い演奏だったよ。でもまさか、二人が楽団員だとは思わなかった」

「ふふ。私はともかく、妹の事も知らないみたいだったから驚かせようと思ってね」


 そう言うと、彼女はまるで悪戯に成功した子どもの様な顔で微笑んだ。

 なるほど昼間に会った時あんなに警戒心が強かったのは、云わば売れっ子アイドルに近付こうとする悪質なファンに注意していたのだろう。


 しかし……昼間に会った時も綺麗な子だと思っていたが、演奏用の衣装に身を包み薄っすらと化粧をしたその姿に目を奪われそうになる。

 それも束の間、後ろから聞こえてきた老執事さんの咳払いで正気に戻った俺は、慌ててニド達の紹介を行った。


 事前にニド達にはこの姉妹の事や、木札を譲ってもらった話をしておいたので終始好意的に挨拶や話が進み、お互いにこの後の予定も特に無いという事で一緒に食事をしようという話になった。

 この店は演奏会が終われば通常の酒場としても営業を行うそうなので、そのままこの店で済ます事にする。


 まだ演奏会のお客も多く残っており、一階ではゆっくり出来ないだろうという事なので、この部屋を引き続き使用する事となった。


「それじゃあ、他の皆にも伝えてくるよ」


 そう言って、他のメンバーを呼びに行ったリンノンを見送るとニドが問いかけて来る。


「あの娘の事をどう思った?」

「どうって……また偉く抽象的だな」 

「そのまま思った通りでよい」


 今度は女性に対しての謎掛けか常識テストだろうか。

 だが、女の子との碌な交際経験の無い俺にそれは些かハードルが高い。


「うーん……凄く美人だよな。それから演奏も上手だった」

「そうだな。他には?」


 他と言われても、後は気前よくこの席の券を譲ってくれた良い人くらいの印象しか無い。

 妹の事は先程の会話の中で出て来ていないので、その関係でも無いだろう。


 色々と考えを巡らせるが中々それ以外思い付かないでいると、宿屋で別れた時と同じ体勢でルノンを抱えたリンノンが帰って来た。

 二人とも舞台衣装から宿屋で見た格好に戻っているので、どうやら着替えて来たみたいだ。


「ふむ、どうやら時間切れだな。答え合わせは宿に帰りながらにしよう」


 結局何だったのだろうと思いながらも、一先ずやって来た二人を空いている席へ迎え入れる。

 全員でという話であったが、やって来たのはこの姉妹だけみたいだ。


 聞けば他の団員は、それぞれ気前のいい客に捉まって飲み食いしているらしい。

 何とも自由な楽団であるが、この大らかさが人気の秘訣だろうか。


 抱えられたルノンはと言うと


「私は~、そんなに沢山貰っても食べれないよ~。ずっとお客さんに囲まれてたから~、ちょっとゆっくりしたくて~」


 らしいので、この姉妹と俺達での食事会となった。

 一瞬ルノンが演奏会の時と同じ口調だったらどうしようと身構えたが、どうやらあれは歌う時限定の姿だったらしい。

 ずっとあれだったら、いつか俺が泣いてしまいそうだ。


 演奏会の時と打って変わって酒場らしい喧騒に包まれた店内だが、それでもある程度弁えた人々が集まっているらしい。

 二階部分に居れば、それほど声を荒げる事無く会話が出来る様だ。


 回って来た店員に一通りの注文を伝えた後、料理や飲み物が来るまでの間に改めてお互いの事を話す流れとなった。

 俺が異世界から召喚されたという話は殊更に隠す必要も無いとの事だが、それをすると地球がどうとか日本が何とか説明が面倒になってしまう。

 なので俺が自分の事情を話す時は、ニドの従者として宛の無い旅をしているという事実だけを話す事にしている。


 ニドの奴は各地を旅しながら色々な事を見聞きして回り、この世の全ての歌を聞き尽くす事を目標としている。

 特に今日は新しい歌を聞けて感動したと熱弁し、姉妹を少し引かせていた。


 老執事さんに至っては


「主様の従者をしております」


 とだけ言ってお辞儀をするとニドの後ろに控えてしまう。

 今日ニドに着いていたのが犬面の若執事さんであれば色々と語ってくれるのだろうが、老執事さんはこういう場ではあまり喋らない。


 そうしていると、料理や飲み物がやってきたのでそれを摘まみながらの話となった。

 続く姉妹の話を聞いていると、色々な事が分かって来る。


 妹のルノンだけが『繋ぐ者』として生まれ吟遊詩人として故郷から旅に出る事になったのだが、あまりにも頼りなかった為、心配になった姉のリンノンが護衛兼お世話係として着いて行く事にしたそうだ。

 しばらく二人で旅をしていたが、ある街で出会った今のメンバーと意気投合し一緒に楽団を結成したのだとか。


 良い機会だったのでその『繋ぐ者』についても教えてもらった。

 宿屋でも随分と驚かれたが、この世界では割と常識とされている事らしく、よっぽどの田舎者か世間知らずでも無ければ知っている事らしい。


 彼らの大きな特徴として、出生時や力を使用している時に体が発光する「神の祝福」という現象が起こったり、一般的な人々よりも知識や学問に対しての造詣が深く、大半が吟遊詩人として旅をしているのだという。

 「神の祝福」と呼ばれる現象は吟遊詩人の間では『通信』と言われ、意識だけを別空間に飛ばしその中で会話をしたり新しい歌を披露し合ったりするそうだ。


 日本的に考えるなら、複数回線を繋いだ音声通話の様な状態という事だろうか。


 体を発光させながら意識を飛ばしているその神秘的な姿や、その後に全く新しい知識や歌を披露して各地で人々を楽しませ問題を解決しているので、民衆からの人気が非常に高いらしい。

 また、不可思議な事件や事故があった地域や場所に吟遊詩人が赴く事で、奇跡が起こったという逸話が数多く存在している。

 その事から、ヨルガント大陸全人口の約八割が信者である「主神教」では古くから「神の目」と呼ばれ聖人とされているのだとか。


 彼らが世間に与える影響は凄まじく、時には大国の貴族階級の者よりも強い発言力を有しているそうだ。

 それを表した事例として、その昔に無茶な言い掛かりを付け吟遊詩人を処刑しようとした、とある国の領主がよく挙げられるらしい。


 その領主は教会や部下の再三にわたる忠告を無視し刑を実行しようとしたが、実行前日に領民の一斉蜂起によって館を襲撃され街中に裸で晒される事なった。

 その話を耳にした国の上層部は当然の如く軍を起こして鎮圧しようとしたが、その数日後に大陸の南にある主神教の一大国家フレイス聖法国の出した警告文が届き、蜂起した住民達も処刑されそうになっていた吟遊詩人の呼びかけで解散した事や、領主も生きていた事で特別にお咎め無しになったそうだ。

 それ以来、吟遊詩人に手を出すのは野盗などだけではなく国家規模で禁忌とされているのだとか。


 しかし、話してくれたルノン曰く


「いつも真面目な話をしてる訳じゃないよ~。みんな暇つぶしとか~、お鍋の焦げの取り方とか~、そんな感じの雑談してる方が多いかな~」


 との事だ。

 元の世界の昔話なども深く調べて行けば、登場人物は俗っぽい人達ばかりだと聞いた事があるし、人々に有難がられている存在というのは案外そういう物かもしれない。

 

 吟遊詩人が大好きなニドが今の話をどう思うのか気になって目をやるが、リンノンが話しているタイミングを見計らってルノンを膝の上に招き、頭を撫でながらワインを飲みご満悦の様子だった。


 思えばルノンの達の演奏会の時に見ていた夢……の中の男性も「賢人」などと呼ばれていたが、案外適当な所が目立つ人だった。

 先程の話を聞く限りあの男性も『繋ぐ者』だったのだろうが、夢の中では何か別の呼び方だった様な気がする。

 しかし、その名を思い出そうと何度思い浮かべても『繋ぐ者』としか頭に浮かばないので、とりあえず頭の隅に追いやった。

 多分そういう物なのだろう。 


 ふと、宿屋の廊下で聞いた吟遊詩人同士の挨拶の事を思い出したので、話がひと段落した所でそれについても聞いてみる事にした。


「そう言えば、宿屋で俺の名乗りが吟遊詩人同士と似てるって言ってたけど、あれはどういう事なんだ?」

「ああ、家名の後に名前に付けるってやつか」


 この世界でも確か貴族階級の者は家名や、いわゆるミドルネームを持っていたはずだが。


「吟遊詩人は同業の者に名乗る時に、まず最初に自分の出身国の名前を付けてから最後に自分の名前がくるんだよ」

「そりゃまた何でだ?」


 その問いに対してリンノンは、ニドの膝の上で揉みくちゃにされているルノンを見ながら答える。


「妹が言うに、吟遊詩人は頻繁に『通信』している影響で個人という意識が薄いらしい。だから、お互いが誰かというより何所を巡って来たのかの方が重要なんだって」

「だから出身国が先に来ると」

「まあ、基本的に同業と会う事なんて滅多に無いらしいけどね。ツカサは見るからに貴族でも無ければ、『繋ぐ者』の事も知らなかったから」


 なるほど、それで不思議に思ったという事か。

 しかし自分で言うのも何だが、よくそんな不審な人物と関わろうと思ったな。

 一般常識を知らない上に、名乗りも変な奴なんて俺だったら避けるだろう。


 だが、そんな事をわざわざ口にする必要も無いかと、代わりに目の前のピザに似た料理に齧り付く。

 この世界の料理は全体的に薄味だが、ここのは丁度いい。

 そんな料理を楽しみながら、しばらくみんなで廻った街や場所についての他愛も無い会話を続けていたが、一階から姉妹を呼ぶ声が聞こえて来た。


「名残惜しいけど、どうやらもう良い時間みたいだね」

「色々聞けて楽しかったよ」

「私達は今日でこの街の演奏会の日程が終わって、明日の朝には出発する予定なんだ」


 だとしたら本当に今日は運が良かったんだろう。

 後一日でもこの街に着くのが遅ければ、二人と知り合う事も色々と教えてもらう事も無かったかもしれない。


「泊っている宿が一緒だから、今夜辺りにまたばったり会うかもしれないけど」

「確かに」


 そう言って笑い合うと、未だにルノンを抱えて離そうとしないニドを引っぺがし二人と別れる。

 この後、彼女らは楽器や舞台の片付けに、色々な所への挨拶や明日の打ち合わせで忙しのだと愚痴を言っていた。

 人気の楽団というのも大変なんだなと今更ながら思う。


 酒場から宿屋への帰り道、先程まで無理やり引き離した事に不満を言っていたニドが急に真面目に問いかけて来た。


「さてツカサよ、改めて答え合わせといこうか」

「……酒場で言ってた、リンノンの事をどう思うかってやつか?」


 実はあれから話しをしながらも、あの姉妹の関係性を色々と考えていた。


「じっくり話してみて、何か分かった事があったか?」

「……本当にルノンの事を、妹の事を大事にしているんだなって思った」

「ふむ」

「それに勉強も沢山してるんだと思う。いくら常識だからって、あれだけ色々と知ってるのは凄いよ」


 その言葉を聞いて、ニドが若干嬉しそうな表情を浮かべる。


「まあ、ギリギリ合格点といった所だな」


 どうやら満点の答えとはいかなかった様だ。


「答えを全て教えるのは簡単だ、実際それでも学ぶ事は出来るからな」

「こっちはその方が手っ取り早くて良いんだけど」

「これから学ぶ時間はいくらでもある、今は自らが見付けた答えを大事にするが良い」


 見た目がチビッ子なので時々忘れそうになるが、こういう時は確かに俺より遥か歳上だと感じさせる余裕がニドにはある。

 しばらく一緒に旅を続けているが、未だに知らない事だらけだ。

 まあ、それも何れ時とやらが来れば教えてくれるだろう。


 それよりも、今は俺にも試したい事が出来たので、そちらが優先である。


「師匠それからニドにも、二人に教えて欲しい事があるんだけど……」

お読みいただきありがとうございます。


今更ながら、皆さんにお読みいただく難しさを感じております。

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