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ヒーローの中身  作者: 猫ろろ
新人ヒーロー奮闘編
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34/36

第33話 遠き鐘の音は手元に

作戦の最終段階に入った。

新見さんと炎拳の動きは更に激しくなってきている。

炎拳の動きはやや単調になりつつもパワーは先程の比ではない。

目の前の戦いに集中しているようで周りに目が行ってないように見える。

チャンスかと思いきや炎拳のパワーが強大すぎて新見さんも捌くのが大変らしく

防御が目立つようになりカウンターまで持ち込目る事が減ってきている。



新見さんを信じて最終準備に入る。

大吾さんはAIと機器の同期を終了させ

支援チームにトリガーを譲渡し自分も作戦ポイントにて待機。

支援チームは現状に合わせ各種調整をしつつタイミング待ち。

俺は狙撃ポイントで待機済。

後は新見さん次第だ。




  ◇◇◇




「オウラァ!どうしたどうした

 最初の勢いが無くなって来てるぞ」


「貴方も余力があるように見えませんが」


「ハハ、言うねぇ

 この戦いが楽しくてな

 ついつい全力を出しちまう


 こんなに楽しいのは初めてだっ!」


連撃を叩きこみながら軽口を言う。

顔も体も歓喜に満ち溢れ。

釣られるように徐々に力強く素早くなっていく。


炎拳はこの戦いを心の底から楽しんでいた。

楽しくて楽しくてそれ以外の事を考えられない程に楽しんでいた。





炎拳は生まれた時から体が弱かった。

他の子に比べて体も小さく力も弱く病気がちな事もあり

家に居て外に出る事は殆どなく性格も引っ込み思案な

内面的な子供に育った。

その為か強さに憧れる想いは心の奥底にいつからか芽生えていた。



転機は小学校低学年に訪れる。

体が小さい事と内面的な性格に目を付けられ

同級生にからかわれ始めた。


最初の頃は言葉なり態度だけだったが

少しづつ押されたりする事が混じり

段々と暴力的な行動が増えていく。


炎拳の体は同級生の平均よりも小さく

少しの力でも大きく恐怖に感じるものだ。


強さに憧れもあった。

弱さを見せる恥ずかしさもあった。

それでも少しづつ強さを増してくる相手を

退ける程には炎拳の体も心も強くはなかった。


誰にも言えずに我慢をした。

誰にも言わずに我慢をした。

我慢に我慢を重ねた。




それでも限界はすぐに訪れた。




些細な用事で帰りが遅れた下校時。

朝からの雨は強くなってしまい空と地面を暗くしていた。

持ってきたはずの傘は見当たらずいつもの事かと諦める。

諦めたものの雨の強さから傘もなしに帰るのは躊躇われる。

どうしたものかと考えていると

唐突に後ろから羽交い絞めされる。


抵抗するも引きづりこまれたのは隣接する講堂にある運動室。

そこは夜や休日に体操や柔道を教えていたりする部屋だ。

畳敷きの部屋で待っていたのは

いつもの同級生達と指導員と思われる大人が1人。


無理矢理に練習着を着させられ

格闘技なんてやった事がないのに

投げられ絞められる。


練習と称しての暴力。

指導と称しての暴力。


その場にいる全員が薄笑いを浮かべ

さも正義は我にあると言わんばかりに練習と言う名の暴力を振るう。


その日はこれまでとは違う意味で地獄だった。

顔に跡を残さないように体を狙い限界ギリギリで止める。

それを繰り返され体力的にも精神的にも追い込まれた。



意識が朦朧としてきて痛みも感じなくなり。

ただ単に苦しかった。

そして悲しかった。

強ければこんなに苦しい思いはならなかったのに。

強ければ強ければ強ければ強ければ・・・・。


どれくらいの時間が経っただろうか。

1時間か2時間かそれ以上か。


気が付くと泣いている両親に抱きかかえられていた。

周囲は騒がしく救急車や警察も来ていた。


冷静になって振り返ると

おぼろげながら何が起こったかを思い出した。





炎拳が急に動かなり立ち上がらなくなると

やり過ぎたかと焦った同級生の一人が駆け寄り

急に吹き飛ばされた。


そこには無表情で立ち上がる炎拳がいた。

反撃されたと分った同級生達が一斉に駆けつける。

その全員が吹き飛ばされ叩きつけられた。


異常を感じた指導員が取り押さえに入るも

小柄な体からは想像出来ない力で暴れる。

何とか抑えているうちに最初に吹き飛んだ同級生が

危険を感じて警察に連絡。


その後は酷く簡単な流れだ。

指導者が逮捕され消えた。

同級生達も現場を押えられた為、ほぼ全員が指導された。

その中の何人かは住み辛くなったのか

地元を去って行った。

そして一つのイジメに決着がついた。


炎拳にとってこの事件は

心に残る悲しい事件とはならなかった。

それ以前に記憶にすら残らなかった。


そんなことよりも手にした自分の強さ。

《ギフト》を手に入れた事の方が何倍も大きかったのだ。

その嬉しさで悲しみの記憶なんて上塗りされてしまった。



《ギフト》を任意で発動できるようになったものの

上昇率は最初ほどではない。

事件当時の《ギフト》は今迄の想いが凝縮されていたのか

一気に発動した為、強かったのだと予想される。


《ギフト》を発動しても病弱だった体は人並みになった程度だ。

それでも炎拳は喜んだ。

やっと人並みになれたんだ。

やっと運動しても良い体になれたんだ。


炎拳はスポーツを始める事にした。

ジョギングから初め息が切れる事を楽しみ

それでも倒れない体に感謝した。


ジョギングがマラソンになり水泳を始め

体力が付いてきて更に運動にのめりこんだ。

次に格闘技に手を出した。

空手、柔道、剣道と何でも興味があるものには手を出した。

徐々に強くなって行く事が楽しくて仕方がなかった。


いつしか強くなりたいと思う気持ちは

強くなる事が目的になった。

今よりも強く更に強く。

強さだけを追い求めるようになるのに時間はかからなかった。


その頃には炎拳の体は平均を大きく逸脱するレベルとなり

《ギフト》は常時発動しているので呼吸をするのと同じ感覚で行い

一般人をはるかに凌駕するほど強くなった。



そして誰も相手が居なくなった。

炎拳はあまりにも強くなり過ぎた。

それでも強さを望んだ。


考えた末に辿り着いた結論は

旅に出て《ギフト》持ちと戦うだった。



あれから何年かが過ぎ辿り着いた街で

炎拳と互角に戦える相手と出会った。


それまでにも強い相手はいた。

大半はチームで戦うか距離をとって戦う者で

中には近接職も居たが格闘でここまで戦える相手はいなかった。



そう炎拳は喜びに満ち溢れている。

自分の力を思う存分発揮できる相手がいる事に。




  ◇◇◇




新見雪江は勢いを増す攻撃を裁きながらも

冷静に状況を分析していた。


炎拳は強い。

《ギフト》の出力が段々と上がってくるにつれて

攻撃も防御も恐ろしいレベルとなっている。

まともに食らえば現状の自分の出力では耐えられないだろう。

それほどまでに炎拳は強い。


多分だが炎拳の《ギフト》は常時発動し

感情によって出力が変わるタイプと思われる。

その為、常時《HP》は消耗と回復をするを繰り返しており

尋常じゃない総量になっていると予測される。

あの高出力にも関わらず持久力は自分よりも高いだろう。


炎拳自身の言葉を信じるのであれば

ここまで出力が上がったのは初めての事なんだろう。

少しづつではあるが動きが単調になってきている。


《ギフト》の出力が上がり過ぎて自分でも体の制御をしきれてない状態だ。

それでも高度な技術はと深い経験は体を制御し攻撃を繰り出す。


嵐のような威力と手数の攻撃の中で

反撃のタイミングを伺う。




「姉ちゃん、楽しいなぁ

 こんな楽しい事はねえよなぁ」


「ええ、少なくともつまらなくはないですね

 攻撃を捌くのだけでて大変です」


「その割には随分と冷静だな

 そこかしこに居るお仲間と悪巧みかい」


「ええ、そうかもしれませんね

 なにせ貴方は強いですから」


「ハハ!ハハハ!

 嬉しい事を言ってくれるね

 嬉しくて嬉しくれたまんねぇなっ」


既に第三者が目で追う事が難しい次元で

攻防を繰り返えす2人。

磨かれた技術が織りなす戦闘は

スローモーションであれば踊っているようにも観える事だろう。




そんな戦闘も終わりを迎えようとしている。


新見雪江にはまだ隠している事があった。

いや、隠していると言うのは違う。


今迄も既に使っている《ギフト》の能力である身体強化。




その最大出力は炎拳をも軽く上回る。




そうまだ本気を出していなかった。








「五色さん、御影さん、仕掛けます

 タイミングを合わせてください」


「「了解」」



炎拳の攻撃を躱して態勢をがわずかにブレた瞬間

新見さんの体が姿を消した。












明人出番ね~

次回、明人の運命(出番的な)は如何に?!


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