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『同型機』

主人公、坐間冥加のセリフの終わりに句点がついているのは人造人間ゆえの発話の不自然さを表現している意図的なものです。訂正の必要はございません。

8話


「……ふふふ、あなたたちやるね。人間如きには使いたくなかったけれど、本気を見せてあげるわ。」


『ぼくらの異能は、混りっけのない純度100%の思念サイコキネシス! 純粋さとは力なの!』


 彼女がそういうと、砕け散った腕が生える。

 正確には腕型の思念が出現した。

 光が歪んで輪郭になっている薄鼠の腕だ。


 刹那、メグレズは俺の首の方に思念の腕を伸ばし、ぎゅっと締める。


 息が、できない。


 見ると首を絞められていた。


 ジタバタと俺は抵抗する。

 脚は空を切って、空回る。


『抵抗しても無駄。あなたにはこの状況を覆す手札はない。大人しくぼくらの方に来なさい。』


 呼吸が少し楽になった。

 おそらくは俺の答えを聞くため。


『い、嫌だね……。俺には役割があるからな……それを果たさなきゃいけないんだ……。それに……。』


 ギギギと気管が狭まる。

 俺は足で腕を蹴った。

 しかし、うんともすんともびくともしない。


『くっ……。お前……これで俺を捕まえた……つもりか?。』


 純粋な思念サイコキネシス、つまりは純度100%のPSIである。


 ──PRISMの基本的な能力は二つ、PSIの収束と拡散。


 膨大なPSIの塊にPRISMが押しつぶされそうになっていたが、ようやく適応できた。適応できてしまえばこちらのもの。


 俺は左の拳で、電信柱のように太い思念の腕を殴りつける。


 パリィンッ!


 刹那、ガラスが割れるような高い音がグラウンドに響いた。


 思念を叩き割った後、俺は蹴り飛ばされた。


 ゴンと校舎のコンクリートにめり込む。


 吐血。青い血が口から溢れる。

 ──不快だ。


 俺は残された左手を握ったり開いたりして身体機能を確認する。


 ……幸いなことに身体はまだ動くようだ。


 俺は吹き飛ばされた右腕を回収してから、メグレズの方へ走る。


 メグレズの前に向かい立った。

 両腕の断面は青いナノマシンで止血されている。


 翻って俺の右腕を見る。

 断面は同様に青い。全く反吐が出る。


 左手で持っている腕を断面にぐちゃりと押し当て、固定する。


 生々しい音を立てて、ナノマシン同士が絡み合う。

 切断された腕が一つに接着された。


 俺たちに横から風が吹きつける。

 髪が風に靡く。


『あなたとの戦闘でPSIを使うのは得策ではないということね。』


『使わなきゃ狩られるだけだ。』


 俺がそういうと呆れたように嘆息した。


『……忘れてないかい? ぼくには相方がいるんだ。彼はぼくの腕であり、脚である。』


 言い終えると、彼女の後ろからフェクダが現れる。

 

 筋骨隆々の大男。

 威圧感を放っている。

 

 メグレズのPSI出力から考えるに、メグレズがPSI能力者、フェクダは俺と同じPRISM能力者であることは自明である。


 PSI能力者の特徴は莫大なPSI出力と粗雑な操作。


 だから、彼はより精密な思念サイコキネシスを使ってくる恐れがある。


 警戒レベルを引き上げる。


『アルカイド、我が妹を傷つけた罪は重いぞ。例え、同型機きょうだいのお前でもな!』


 フェクダはPSIで足場を作り、それで跳躍することで勢いをつける。


 そして、その勢いを殺さないままに拳が弾丸のように振るわれる。


 梶上のPSIで氷の障壁を作り防御する。


 何枚も何十枚も重ねて多層構造の防壁とする。


 バリバリッ!


 しかし、全て破壊される。

 まるで薄氷を砕くように。


 ──勢いは殺し切れていない。


 氷壁を抜けてきた拳はまっすぐ俺の顔面に飛んできた。

 

 多少のディフェンスはしたが、それでもほぼモロに喰らった。


 地面に叩きつけられる。


 陥没。


 才奇学園のグラウンドにクレーターができる。


 ほとんど関わりのないサッカー部の顔面がフラッシュバックした。

 名前もほとんど覚えていないが、彼はどう思うのだろうか。……わからない。


 それよりこの学園ではグラウンドや校舎の修理費は誰持ちになるのだろうか。


 ────逡巡してしまっている。俺は戦闘中だけは逡巡せずに済むと思っていたのに、実際はしてしまっている。


 気分が、悪い。 


『俺は……人造人間レプリカント狩り《ハンター》だ。そして、そんなに優しくない。お前を楽に処理することは……できない。』


 俺は集中する。

 次の一発を振りかぶるフェクダの顔面を見つめる、いや睨みつける。


 意識をやつの肺があるであろう場所に向ける。


 パキッ!


 奴の肺の中にある空気を凍結する。


 フェクダの拳は外れ、俺の顔を掠めた。


 大男が肩で呼吸する。

 おそらくはPSIを分析して適応しようとしているのだろう。


 ──しかしそれは罠だ。


 梶上のPSIはPRISMを破壊する。


 そのことを奴は知らない。


 同型機というから俺同様に自動チューニング型のPRISMなのかと思っていた。


しかし、どうやらそうではないらしい。


 もしそうなら房水を凍結され、視界が奪われたときに適応は完了するはずだ。

 それだけの時間はあった。


 だが、そうはならなかった。


 換言すると同型機といえど完全に仕様が同じわけではないのだ。 


 “凍結”はフェクダにとっては毒となる。


 ──これもまた逡巡だろうか?

 いや、これは逡巡ではなく推論だ。


 全てブラフという可能性を捨て切ることはできないので、追撃の準備は必要になる。


『アルカイド!お前は……お前はっ!なぜ人間を装う!命令だからか? しかしそれは不合理だ! 人間に殺されたくはない、ましては人間もどきに!』


『知るかそんなこと、じゃあ使命とやらを捨てて自決しろよ』


 俺の言葉に顔を歪ませ、フェクダは俺を殴る。


 勢いは先刻と比べて目に見えて落ちている。


 『適応は済んだのか?』


 訊くと、かぶりを振った。


 俺はふと梶上と共鳴リンクしていたことを思い出し、そろそろやめさせないと彼女が気の毒だと思った。


 ふと彼女の方へ目線を向けると、梶上は作り出した氷でメグレズを突き刺し、処理していた。

 痛みに顔を歪ませているのが見て取れた。


「お前ェ……絶対にこちらに引き戻す!お前は人間に操られるためにこの世に生を受けたのではない!」


 フェクダは血涙を流していた。

 青い血涙。それは幼児が描いた泣いている人のようで、象徴的だと思った。


 しかし、何を象徴しているのかは皆目見当がつかなかった。


 フェクダはそのまま俺の方へたおれた。

 

 もともと馬乗りのような状況だったので、ことんと大男が糸を切られた操り人形のように降ってきたという感じだ。


 梶上がもがき苦しむ悲鳴だけが、校舎に響いていた。


『…………。』


 戦士に対する手向の言葉を見つけられず、口をつぐむ。


 どうしようもなくて、俺は壊れたフェクダにトドメを刺した。


 必要ない行為だったかもしれないが、せめてもの弔いだ。


 これ以上生き恥を晒さないようにする独善的な償いだ。


 そして踵を返して、共鳴リンクを解いた。


「坐間くんに言いたいことはたくさんあるんだけど、まず言わせて」


 梶上は俺を指刺しながら、ゆっくりと近づいてくる。


「わたしのこと絶対忘れてたよね? 坐間くんが無茶苦茶な戦い方するからわたし耐えるのに必死だったからね!」


 ビンタされた。

 当然といえば当然かもしれない。


「……悪かった。あいつらを処理することで頭がいっぱいだった。」


 梶上は目を見開いた。そして俯き、ため息。


 学園が冷たい闇に覆われていることを改めて感じた。


「これじゃあ……人間の擬態は難しいわけだ。しっかり躾けないとダメみたい」


 呆れたように言われた。


 その言葉は普段よりも響く。


 メグレズもフェクダも俺に訊いてきた問題、それは「お前はなぜ人間のふりをする?」ということだ。


 ──事務的な考えになるが、結局は任務のために人間のふりをしている。


 しかし、彼らが言いたいことはそうではないのだろう。もっと抽象的で高度なことを訊かれている。


 それに対する解答は、まだ空白だ。


「俺は何者だ?」

 

「ん? わたしの心配もしないで何哲学に浸ってるの。最低ね、自分のことしか頭にない。心配しなさいよ、人間としてね」

お読みいただき、ありがとうございました!

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