ザッツ・エンターテイメント!part.5
最終話です。
ユニスが舞台を去った後も会場の熱は冷める事なく大いに沸き立った。
曲芸に軽業、ダンスに歌と様々な芸が多彩に組み合わさりかつて無い芸を作り上げていく。
特に団長のラスティンは鞭も使わずにライオン・トラ・ヒョウといった異なる猛獣三匹を相手に実に素晴らしい芸を披露した。
彼が指先を一つ鳴らすだけでライオンとトラは並んで仰向けになり、口笛に合わせてヒョウがその二匹を飛び越える。
通常は一匹の猛獣相手でさえ鞭で脅して芸をさせるものなのにラスティンはすべてが違う。
猛獣なのにも関わらずまるで恐れる事もなく素手で動物達を指揮してみせた。これこそが『銀猫遊芸団』が誇る『アニマル・パースン』、ラスティン・ウォーホールであった。
「あれはもはや天賦の才だな」
「ボクもあんな風に遊んでみたい・・・」
リディオネルとカエデもまたすっかり舞台の虜になっていた。
こうして楽しい時間は過ぎていったがとうとう最後の演目になってしまった。
「さぁて、いよいよ最終演目と相成りました。最後を飾るのは当サーカスの一番人気にしてかつて空の星々さえも落としてみせた事から『星を落とした道化師』の異名を持つ伝説のイリュージョン・マスター、二代目ロファ・サーフェことパトック・サーフェの登場でぇす!!」
この瞬間、会場は今までで一番大きな拍手に包まれた。
「うぉっ!?」
「これがあのパトックの人気・・・」
「スゴイねぇ」
この拍手の中で一人ロファだけはそんな父を誇りに思うと同時に越えなければならない壁の大きさをひとり痛感していた。
パトックは両手で拍手に応えながら舞台中央にまで現れた。そして拍手が止むのをじっと待った。
「皆さん、本日はこの『銀猫遊芸団』の舞台をご覧頂きまことにありがとうございました。今からおいら、パトック・サーフェが本日の締めくくりとして皆様を虹の麓までご案内いたします」
「虹のふもと?」
「なんだかワクワクしちゃう・・・」
「ナターシャ知ってる?」
「ううん、聞いた事ない」
「ゼロは?」
「私も知りません。データを照合してみても答えはありませんでした」
「あ、はじまるみたいですよ」
エミリアのその一言で子供達はすぐに舞台に向き直った。
『白き翼』の面々も舞台から目を離さずにいた。
会場中の視線を受けながらもパトックは、しかし堅くなる事なく流れるような動きで静かに舞い始めた。
それは十分に美しい舞であったが今の観客を満足させるには至らなかった。
「何だぁ、ただクルクル回っているだけじゃん」
「ロファのお父さんだからもっとカッコイイ技を見せてくれるのかと思ってたのに・・・」
ジルやコーキといった少年組はすぐに飽きてしまっていた。
「でもステキ・・・」
「うん。私もあんな風に踊れたらなぁ・・・」
「だぁ!」
それとは反対にリーファンやルシオラといった少女組は舞の美しさにうっとりとしていた。
・・・それが始まったのはパトックの動きが少し速く、そして動作が大きくなってきた所からであった。
「なぁ、気のせいか? なんかパトックが輝いて見えるんだが・・・」
「そうだな」
「キラキラ光って素敵です!」
レヴァインとリディオネルは一瞬我が目を疑ったがカエデだけは目に映るものを素直に受け止めた。
確かによく見るとパトックの周りが七色に輝き始めていた。
「あれは・・・虹だな」
「虹ですかルゥ様?」
「ああ。パトックの手から少量の水がこぼれ続けていてそれがパトックが動く事で小さな虹を生み出している」
「すごぉい! 踊りで虹を作っちゃうなんてぇ!!」
「こんなの初めてぇ♪」
ルゥのそんな説明にテトとアルディスは大いに驚き、喜んだ。
だんだん動きが大きくなるにつれて虹もまた大きくはっきりとしていく。そして更に・・・
「あれ!? 蝶が飛んでいるよ?」
「七色の蝶・・・」
「いや本物じゃない。だけど・・・」
「虹の光を浴びて輝く・・・あれは虹の蝶?」
「あれの名前は極楽蝶って言うんだよセリカ」
そんなロファの一言にアルフィ、シンウィ、ジーンにセリカが振り向いた。
『極楽蝶?』
四人の声が重なる。
「うん。あれこそが父さんの十八番、水芸『虹の舞』の発展形『極楽蝶乱舞』だよ」
今では舞台の上はすっかり多くの虹があふれていてその間を縫うように蝶たちが優雅に飛んでいた。その幻想的な美しさに誰もが見とれ、声を無くした・・・。
しかしそんな時間にも終わりが近づいていた。
幻想的な姿を見せ続けていた蝶達もいつしか数を減らしていき、虹が段々と消えていくに従って舞台もまた元の姿に戻り始めていた。
そして最後の虹が消えた時、パトックは最初と同じ姿で元の位置に立っていた。
「これにて『銀猫遊芸団』初日公演を終了させていただきます。またの御来場を心からお待ち致しております・・・」
静寂は堰を切って破れ、その日一番の大きな拍手と歓声がテント全体をも大きく揺るがすのであった・・・。
その後二週間に亘る公演を終了した『銀猫遊芸団』は片づけの時間も含めてしばらく滞在すると、ついに旅立ちの日を迎えたのであった。
「それじゃあ皆さん、お世話になりました」
団長のラスティンが別れの言葉を皆に伝える。
「こちらこそ、楽しい時間といい勉強をさせて頂きました。本当に感謝しています」
ルゥが代表してラスティンと握手を交わす。
その一方でロファは二年ぶりに再会した母親との別れを惜しんでいた。
「ごめんなさいロファ。折角会えたのに殆どかまってあげられなくて・・・」
「そんな事ないわお母さん。私、お父さんお母さんに会えただけでとても嬉しかった!」
「ロファ!!」
ユニスは最愛の我が子を力強く抱きしめる。そしてロファもまた愛する母親の体を強く抱きしめたのだった。
パトックは孤児院の子供達と別れの挨拶をしていた。彼は時間さえあれば孤児院に通い、子供達と長い時間を過ごしていたので今では子供達も父親のようにロファの事を慕っていた。だから別れが近づくにつれて泣き出す子供達もまた少なくはなかった。
実の子供であるロファとは夕べの内に別れの挨拶をすましていた。だから改めて挨拶をする必要は無いというのがパトックとロファの考え方だった。
無論、そうは言ってもまだ子供のロファだから寂しいと思う気持ちがないわけではなかったが、私事よりもみんなの事を考えられる父の姿が大好きだったのでロファは我慢した。
「出発するぞー!!」
仲間の元に戻ったラスティンの声が聞こえる。ユニスもまた最後に息子にキスをすると仲間の元へ戻っていった。
その後ろ姿を物言わず眺めていたロファの肩をパトックがたたいた。
「お父さん」
「寂しい時には呼びなさい。いつでもどこからでも君の所に来てあげる。忘れないで。私は君の専属魔法使いだという事を。どんな奇跡でも起こしてあげるよ・・・イルマ」
「・・・お父さん!!」
ロファはパトックにしがみつくと大声で泣き始めた。やはりどんなに強がって見せてもロファはまだ子供だ。母の前では耐えてた涙を父の前では素直に流していた。
「・・・泣くだけ泣くんだロファ。涙が枯れたら笑うしかないのだから。でも泣くのはこれで最後にしなさい。一番最後まで絶望と戦い、一番最初に希望を告げる者は決して涙を見せてはいけないのだから。どんな時でも笑いを絶やさない事こそが芸人に与えられた使命であり、生き様なのだから!」
その一言に初めて、その場にいた者達全員がパトックの持つ真の強さに気づいた。
自分との戦い。希望を信じ、絶望に抗い続ける戦い。
彼は今までどれ程の苦難・困難と戦い続けてきたのだろう。いや、今も戦い続けているのかも知れない。人知れず傷つき、苦しみ続けているのかも知れない。でも、だからこそ・・・人に優しい。人の抱える苦しみに気づいてしまうから。人の苦しみを自らの物として感じてしまう人だから。だから彼は笑うのだ。少しでもその痛みを和らげる事ができるようにと・・・。
パトックは真の芸人であり、そしてこの場にいる誰にも引けを取る事のない歴戦の勇者であった。
「夢を・・・大切にしなさい。それは人が生きていく為にとても大切なものだから。夢を諦めない限り人は決して絶望に負けたりする事はないのだから・・・夢の為に生きなさい・・・」
こうして多くの人々の心に確かな余韻を残して、『銀猫遊芸団』はハイランドを後にした。
まだ見ぬ人々に夢を与え続けるために・・・。
『君に夢を 僕のために笑顔を』
(山田睦月先生 単行本『THE GHOST OF MY LIFE』より『フロム アナザー ワールド』から抜粋)
続いてはシリーズ『フォルトゥーナ・パラレルストーリー』になります。




