ザッツ・エンターテイメント!part.4
4話目です。
「よかったね~!」
「うん! とっても楽しかった♪」
会場ではそんな会話が飛び交って大いに盛り上がっていた。
「さすがに大したものだなパトックの奴」
「ああ。たまにはいいものだなサーカスというのも」
「はい! ボク、とても感動してます~♪」
レヴァインがそう評価するとリディオネル・カエデ兄妹もそれに頷いた。
「今日のサーカスが終わったらみんなでお礼を言いに行きましょうゼロ」
「そうですねエミリア。子供達もそう言い出す事でしょうし」
頷くエミリアは興奮冷めやらない様子の子供たちを見る。みんなそれぞれに抱いた感想を話し合い大いに盛り上がっていた。
「第二部はどうやら個人演技みたいね!」
「どんな舞台になるんでしょう・・・。なんだかワクワクしますね」
てととアルディスはそれぞれお菓子を食べたりしながら仲良く舞台を見物していた。
「やや!? 動物芸もあるようだよ。僕たちもオカダを連れて来ればよかったね?」
「やめとけ」
挑戦意欲満々のアルフィをシンウィがさらりと流す。
「最初はユニスでトリがパトックか・・・。なんか夫婦でワンツーフィニッシュって感じだな」
ジーンが意地悪そうにロファに話しかけるとロファは
「母さんはああ見えて大陸でも屈指の手品師だからね。気がゆるんだ観客の目をもう一度引きつける為にはそれなりのインパクトがないといけないし、トリについても今までの流れを壊さずに終わらせる為には個人技よりも総合力が必要になるからね。そう言う意味では父さんにしかできないんだよ」
と、いつもの少女らしい雰囲気とは打って変わった少年らしい口調で説明した。
(なるほど・・・。すっかりスイッチ入ってやがる。さすがにその二人の息子だけはあるよな・・・)
ジーンは内心でそう苦笑した。
「それでは只今より第二部の公演を開催いたします。トップバッターは当サーカスに咲いた一輪の花、『虹の舞姫』の異名を持つ天才マジシャン、ユニス・アストーリアの登場です!」
あたりの照明が消えて中央舞台を照らすスポットライトの中に現れたのは網タイツにタキシードスタイルがセクシーなユニスの姿であった。
「みなさん、こんにちは♪」
彼女が挨拶と同時に微笑むと、一部の会場を占める男性陣から声が上がった。予定を聞いて駆けつけたユニス・ファンクラブの面々である。
「大きな声援どうもありがとう~♪」
ユニスは心得たように彼らの方に愛想を振りまく。
「なぁロファ。あいつ等って彼女が子持ちだって事知ってるのか?」
恐る恐る尋ねるジーンにさすがのロファも苦笑いを浮かべる。
「知らないと思うよ。下手をすれば母さんが三十過ぎてるとも思っていないんじゃないかな・・・」
「それもあれだな・・・すごい手品だな・・・」
「うん・・・」
そんな二人の気持ちも知らずにユニスは会場からの歓声に次々と答えていた。
「さぁ、今日は特別に私の助手を務めてくれる可愛い女の子をご紹介します! いらっしゃい!!」
「はぁい!!」
ユニスの声に答えて舞台に現れたのはユニスと同じ格好をした猫耳少女であった。
「今日の私の手品をお手伝いしてくれる助手のラディアちゃんでぇす♪」
「こんにちは♪」
会場は一部の人間を除いて大いに湧いた。その一部の人間とは当然・・・
「ら、ラディア!?」
「うそ~!?」
「いつの間にユニスさんと?」
「でもラディアさん可愛いです♪」
「ほんとぉ♪」
「でもイノセントはどうしたのかしら?」
「そうだな。会場に姿は見えないが・・・」
『白き翼』の面々は大いに色めきだっていた。
そんな彼等に微笑むと、ユニスは早速手品を披露し始めた。
まずユニスは何もない空の箱を用意してそれを会場の人々に確認させる。
「さてと、それじゃあまずは・・・」
と言って箱の中に手を入れると何もなかったはずのそれから両端を縄で縛った一枚の板を取りだした。
「これを床に置いて・・・」
縄をそれぞれ絡まないようにひとまとめにする。
「イッツ・ショータイム!!」
そう言ってユニスが指を鳴らすと床に置かれた縄がまるで生き物のように起きあがりスルスルと上へ延びていく。
「うわぁ、生き物みたい!」
「ホントだ!」
コーネリアが素直に驚くとアレッサンドロがそれに頷く。
縄はそのまま空中へ浮かび板を持ち上げていく。そして50センチ位の高さまで板を持ち上げるとそこで動きを止めた。
「それじゃあラディアちゃん、これに座ってくれるかしら?」
「はぁい♪」
ユニスがそう言うとラディアは素直に指示に従う。ラディアが座っても板が落ちる事はない。
むしろ板はラディアを乗せた途端再び高さを上げて止まった。
「これがホントの空中ブランコよ♪」
そう言うとユニスはラディアの背中を押してやる。勢いがついたラディアは嬉しそうにブランコをこぎ出した。
「一見地味だけど楽しくていいね。でもあれって見えない糸が縄の先に付いてるのが分かるよねシンウィ。だって支点も定めずにブランコが動いてるもん」
「そうだな」
アルフィの考えた答えにすぐ気づいた人はやはり多数いた為、観客席からは不満の声が漏れ始めていた。
しかしユニスは慌てずに、しかしそれこそが待っていたものとばかりに得意げな顔をする。
「アラアラ、どうやらバレちゃったかしら? じゃあしょうがないわねぇ・・・」
ユニスはやはり先程の空の箱から一つのはさみを取りだした。
「バレたからにはこの縄も半分に切ってしまいましょう♪」
そう言ってユニスはおもむろに縄をそれぞれ半分に切ってしまった。
しかしブランコはまだ浮いていた。しかも更に上に昇りラディアの背中はちょうどユニスの肩ぐらいまで来た。
「縄を半分に切ったから軽くなって上に来たみたいね♪」
そう言って再びユニスはラディアの背中を押す。ブランコも揺れる。しかし今度は縄の端を支点にしてそこだけは動かなかった。
「どう、ラディアちゃん?」
「とっても楽しい♪」
一見すると心和む風景だったがトリックを見抜いたと思った人達ほど驚きを隠すことはできなかった。
縄は確かに切られて糸も途切れたはずなのにブランコは更に高く宙に浮き、支点を定めて揺れている。あらためて会場からは大きな拍手がわき起こった。
「すごいすごいすごい!」
「ほんと、どうなってるんでしょうねぇ・・・」
テトとアルディスも大興奮である。
「大したものだ。観客の心理までも演出にしてしまうとはな」
「本当にそうですね。ロファのお母様はやはり大手品師ですわね」
はしゃぐ子供を宥めながらミルはルゥと同じ気持ちを抱いていた。
「どうなってるのかお前にはわかるのかロファ?」
ジーンがロファに尋ねる。
「まだまだ無理だよ。想像通りだとしても半分しかわからない。がっかりしちゃう・・・」
そう言って肩を落とすロファにジーンは舌を巻いていた。
「今度、いろいろお話ししたいわね・・・」
セリカはユニスの観衆心理を読みこなす力に尊敬を覚えていた。
こうして観客を自分のペースに巻き込んだユニスは次から次へと多彩な手品を披露した。
「今日はラディアちゃん、本当に助かったわ。ありがとう」
ユニスが丁寧にお辞儀するとラディアは嬉しそうに笑った。
「最後にラディアちゃんに御馳走したくて食事の席を用意したの。こっちへ来てくれる・・・」
すると舞台の上にはいつの間にかテーブルとイスが用意されていた。
二人はイスに腰を掛ける。
「今日はね、ラディアちゃんが大好きだって言ってたエビフライを用意したのよ。どう喜んでくれる?」
「うん! ありがとう!!」
何も聞いていなかったのだろう。ラディアは本当に嬉しそうに頷いた。
「そう。よかったわ」
と和やかに会話をしていると、突然給仕姿のパトックが二人のもとへ駆けてきた。
「あら、どうしたの?」
ユニスがそう尋ねるとパトックは恐縮して俯いた。
「お客様、申し訳ございません。実は本日仕入れたエビの活きが良すぎて当店のシェフが往復ビンタを食らってノックアウトしてしまいました。おかげでエビフライを作れる者がいなくなってしまいました・・・」
『ええっ~!?』
二人は残念そうに大声を上げる。会場ではエビが強すぎるのかシェフが弱すぎるのか論争が始まっている所もある。
「エビフライ・・・」
ラディアは本当に残念そうだった。見るに見かねたユニスはパトックの耳にそっと一言、何事かをささやいた。
パトックは頷くとすぐさま引き返していった。
「ごめんなさいラディアちゃん。でも落ち込むのはまだ早いわ! 私に任せて!!」
すると一度は引き返したロファがなにやら一枚のドアを背負って二人のそばにやって来た。
そしてそれを床に下ろすと扉を開けてバランスを見た。問題ない。扉の向こうは何もない。
「今から私がこのドアに魔法をかけるわね。そしたらラディアちゃんは大きな声でパパを呼んで。そしたらパパはきっとラディアちゃんの声に応えてくれるから!」
「ホントに!!」
ユニスは深く頷くと早速ドアに向かってなにやら一言呪文を唱えた。
「これでいいわ。さぁラディアちゃん。大きな声でパパを呼ぶのよ!!」
「パパぁ~!!」
会場に響きわたる大きな声。すると何もないはずのドアの向こうからドアが開き始める。
そしてそこに現れたのは優しい微笑みを浮かべたラディア・パパことイノスントだった。
「呼んだかい? ラディア」
「パパ!!」
イノスントの意外な登場の仕方に『白き翼』の一同もまた驚いていた。
「いないと思ったらあんな所に現れておいしい所を持っていきやがって」
レヴァインは少し悔しそうにそう言ったがその口元には笑みが浮かんでいた。
「今日はよく頑張ったねラディア。ご褒美にパパがラディアの大好きなエビフライを作ってあげるよ」
「ホントに!?」
「うん。それじゃあユニスさん、私達はこれで・・・」
「さようなら~♪」
こうして二人は仲良くドアの向こうに消えてしまった。そして残されたのはユニス一人であった。
「あ~あ、フラレちゃったか」
そう言ってクスリと笑うとユニスもまた席を立つ。
「それでは私もこの辺で失礼する事にいたします。皆様、当サーカスはまだまだ続きます。ごゆっくりお楽しみくださいね♪」
そう言って一礼するユニスに会場からひときわ大きな拍手が飛ぶのだった。




