ザッツ・エンターテイメント!part.3
3話目です
八角形の形をした特大のテントの中は扇形に広がる観覧席が中心に設置された大きな円形のステージを囲むように設置されていて、全員の目がステージの上に集中できるようになっている。
主に家族連れが多いが恋人や老夫婦、驚いた事にどう見ても冒険者らしい人物の姿もあった。
「意外に冒険者の奴らも多いな」
自分もその一人である事を棚に上げてレヴァインがそう言う。
「銀猫遊芸団のメンバーって一人一人が冒険者としても優秀で、さりげなく披露されている芸の中にも高度な技術が使われてるから勉強になるらしいよ」
以前から大ファンだったというテトが得意げにそう説明する。
「確かに剣舞一つとってもあれは戦闘に必要なあらゆる技術を身につけるためにある訳だし超一流の芸人はそんじょそこらの冒険者達にひけはとらないからな」
ルゥもまたテトの説明に深く頷く。
「でもルゥ様、とりあえず今日の所は折角のご招待でもありますしのんびりとしませんか?」
ミルは口の周りをお菓子だらけにしている子供の口元を拭いながら微笑みルゥにそう言った。
「ミルちゃんの言うとおりさぁ♪ 僕らのようにのんびり構えていれば全然オーケーだよ!」
「・・・・・」
アルフィはそう言ってお菓子を食べていたがシンウィは黙って飲み物を飲んでいた。
「でも私、サーカスなんて初めてですぅ~。ドキドキしますぅ~」
「私もですよカエデさん。ワクワクしちゃいます~♪」
リディオネルの隣に座るカエデとその隣に座るアルディスは早くも興奮気味だった。
「ところでロファは何か手伝わないのか? 折角の舞台なのに?」
ジーンが右隣に座るロファにそう尋ねる。当然反対側にはセリカが座っている。
「うん。なんか別にお願いした子がいるらしくて今日はのんびり見てなさいってお母さんに言われたの」
ロファは少しがっかりしていたがしかしこれからいったい何をやろうというのかという好奇心の方が今は勝っていた。
「・・・はじまるわ」
セリカのそんな一言と共に機導の照明が徐々にその明かりを消していった・・・。
そして最後にはステージを照らす為のライトだけが残った。
一番最初に現れたのは二匹の猛獣を鞭も使わず鎖にも繋がずに従わせる初老の男だった。
「本日はようこそおいで下さいました。私が当『銀猫遊芸団』の団長を務めるラスティン・ウォーホールでございます。団長と申しましてもしがない老いぼれ芸人の一人にすぎません。どうぞ肩を楽になさってお聞き下さい」
ラスティンは年齢的にはロファと同じ位に見えたがこちらはしっかりとした年齢を感じさせた。それも良い感じで。大人の渋み満点である。
「ステキ・・・♪」
アルディスは一人、顔を赤らめていた。
「本日の公演は通常とは少し趣向を変えまして二部構成となっております。それでは百聞は一見にしかず。まずは第一部をお楽しみ下さいませ」
そう言うと指先を一つ鳴らしただけで二匹の猛獣達を先へ促し、自らもステージから消えるのであった。
そして姿が完全に見えなくなった所で照明が消え、再び明かりがついた時には舞台の上には演劇のセットが出来上がっていた。
真っ白なベットの上で上体を起こしている女性は誰あろうユニス・サーフェその人であった。
普段から若くて美しい彼女はしかし、舞台の上で見ると何とも言えぬ『華』があった。
「ユニスお姉さん、綺麗・・・」
コーネリアがステージ上のユニスの姿に思わずため息を付く。だがその感慨は誰もが抱いていた。
『ここはとある街の病院の一室。彼女はある人気サーカスの花形舞姫でしたが先日、最愛の恋人でもあったパートナーを病気で失い、そのショックから自らも鬱ぎ込み、ついには倒れてしまいました。サーカスの団長は舞姫が一日でも早く回復してくれるよう入院させましたが状態は変わらず日々弱くなっていくばかりでした・・・』
どこからともなくナレーションが入る。この声からすると先程の団長のようだ。そして部隊にはもう一人の人物が現れる。大きな花束を持って手足をギクシャク・カクカクさせているのは道化師姿のパトックだった。
『そんな彼女に人一倍心を痛めていた者がいました。それは彼女に対して実らぬ恋心を抱いてた小心者の道化師でした。彼は気が小さく恥ずかしがり屋でしたが優しく勇気ある若者でした。でも舞台の上では勇気を総動員してお客を楽しませている彼でも大好きな人の前ではついつい気弱になってしまいます。でも、ここは一つ彼に頑張ってもらって絶望の縁にいるかわいそうな舞姫を元気にしてもらいましょう・・・』
ギクシャク、ギクシャク・カチコチ、カチコチ・・・。
見てるこっちまで堅くなりそうな足取りでパトックは歩いていく。時折何もない所で転けたりもしたが幸いにして花束は無事である。
やっとの事で舞姫の側までたどり着くと全員が『ホゥ』と息を付いた。
『あ、あの・・・、良かったらこれ、枕元に飾らせて貰ってもいいかな?綺麗な花を見ていれば心も落ち着くと思うし・・・』
パトックは喋らない。団長以外の男性の声でセリフが流れる。
ユニスはパトックと、次に花束を見た。
『趣味じゃないわ、この花』
そのセリフにパトックが項垂れると一緒に花束も枯れてしまった。
「嘘っ!?」
テトがびっくりして声を上げたが誰も気にとめなかった。
次にまたまた見ていて危なっかしい足取りをしたパトックが、小さなかごにたくさんの卵を入れてユニスの元へとやって来る。
『今朝産み立ての新鮮な卵をたくさんもらったんだ! この卵で君の好きな料理を作ってあげるよ!!』
『・・・卵嫌い』
今度はかごの中の卵がすべて孵って雛がピィピィと鳴き始める。
「スゴイです・・・」
カエデはびっくりしたまま、瞬きする事も忘れてステージに見入っていた。
その後もパトックはユニスの為にあれやこれやとするのだがすべて玉砕。それらすべてに手品による演出が加えられているので見る人すべてがそれらに驚き、また楽しむのであった。
しかしとうとう何も手だてが無くなるとパトックは力無くうなだれるのであった。
『道化師にはもう、舞姫のために出来る事は何も無くなってしまいました。愛する人が日に日に弱くなっていくことを救う事ができない自分に絶望した道化師は彼女の後を追って死ぬ決意をしました。しかしせめて最期の一瞬になったとしてもいいから、彼女に自分の気持ち気持ちを伝えたいと思い道化師は再び彼女の病室を訪れる事にします。一方、悲しみのそこから抜け出せずにいた舞姫も、しかし毎日のように自分の元を訪れては励まし続けてくれる道化師にいつしか心が惹かれていくのを感じていました』
そして再びステージに現れたパトックは愛用のシタールを手にしていた。そしてパトックは病室の扉の外側に立つと中には入ろうとせず、その場で歌い始めたのだった。
パトックの歌声は大きいながらもとても澄んだ声をしていて観客の耳に素直に響きわたったのだった。
思いの丈をすべて歌に変えたかのような情熱的な歌詞は聴く人の心を静かに熱くしていった。
その歌を聴くとユニスはベッドから立ち上がり、弱々しい足取りながらしかし真っ直ぐに扉に向かって歩き始めた。
歌い終わるとパトックは何も言わずにその場を立ち去ろうとした。
その時、扉が内側から外へと開かれた。パトックが振り向くその先には彼の愛する舞姫の姿が!
よろめき倒れそうになる彼女を慌ててパトックが支える。
『ありがとう・・・。あなたのおかげで私、もう一度生きていく勇気が出たわ・・・。みんな、あなたのおかげ・・・本当にありがとう』
そして二人はお互いに体を強く抱きしめあうのだった。
そこで照明が一度消えたかと思うと次についた時にはもう既に衣替えを終えた二人が楽しそうにワルツを踊っている姿があった。
『こうして悲しみを乗り越えた舞姫は道化師と結ばれ、二人は永遠に幸せになりました・・・。第一幕公演・不思議舞台『舞姫と道化師』をこれにて終了いたします・・』
会場に割れんばかりの拍手が起こり前半・第一幕はこうして終了したのだった。
次は『ザッツ・エンターテイメント!part.4』です。




