ザッツ・エンターテイメント!part.2
2話目です
その日の晩、『白き翼』は珍しい客人を迎えて大いに盛り上がっていた。
「えー、改めて初めまして。おいらが二代目ロファ・サーフェにして三代目ロファ・サーフェの父親のパトックです。こっちは妻のユニスです」
「初めまして皆さん。いつもイルマに良くして頂いているそうで、母としてお礼を申し上げます」
そう言ってユニスは丁寧にお辞儀をした。彼女は現在三十代半ばとの事だが不思議と二十代に見える若くて美しい女性である。
それに対し父親の方は妻に比べると背も低く、あまり冴えない容貌をしている。だがその笑顔には何とも言えない愛嬌があり、思わず心を許してしまう。
だが彼の年齢が五十近いという話を聞くと皆一様に驚いた。
「15歳差の夫婦・・・それでこんなに若くてきれいな奥さんをもらうなんてパトック、あんたはズルイ!!」
レヴァインはどこか悔しそうに本音をこぼした。
パトックが敬称・敬語を嫌ったせいもあったがパトックはわずかの間ですっかり『白き翼』の仲間達とうち解けていた。
「あら、この人が悪いんじゃないのよ。だって私がこの人を口説き落としたんだから!」
「お、おいユニス・・・」
ユニスのそんな大胆発言にその場は一気に盛り上がった。
「パトックに初めて出会ったのはまだ私が10歳の頃で、パトックは25歳だったわ。みなし子だった私にパトックは優しくしてくれて、今の我が家に・・・『灯の家』に連れていってくれたのよ」
その時の事を思い出しているのか、ユニスはまるで夢見るような顔つきになった。
「灯の家?」
「この街のサンマリノ教会のように身よりのない子供達を集めてみんなで暮らしているんだ。要するに孤児院の名前さ」
パトックは詳しく突っ込まれるのを恐れてか間髪入れずに説明した。
「私もそこで育ったのよ。だから私には家族も兄弟もたくさんいるの!」
そう言うロファはどこか自慢げだった。
「ところでさっきロファの事を『イルマ』って呼んでたけど・・・」
「私の本当の名前は『イルマ・サーフェ』って言うの。だけど2年前に父さんから『ロファ・サーフェ』の名前を継いだから今は『イルマ』の名前は使ってないの」
「そうだったのか・・・」
ロファとは割と長い付き合いであるジーンもまた、初めて聞く話であった。
だがその時、誰も気づく事はなかったが、一人ユニスだけはどこか悲しそうな顔をしていたのだった。
「おいらもさ、早くに亡くなった兄、すなわち『初代ロファ・サーフェ』から名前を引き継いだからね。親バカと笑われるかも知れないけれどこの子には才能があるし将来はきっと天才だった兄をも越える素晴らしい芸人になると信じてるんだ! もちろんこのおいらよりもね・・・」
そう言ってパトックはロファの頭を息子にするようにクシャクシャと撫でた。
格好は少女であっても、やはりロファは男の子。何とも嬉しそうに笑っていた。
「大陸でも唯一の『公認』道化師であるパトックよりもすごい芸人ってどんなになるんだろう?」
すべての国から『道化師』として認められているパトックのそんな一言にアルフィはぽつりとつぶやいた。シンウィはその一言を耳にしていたが何も答えなかった。
「とりあえずおいらはロファがおいらに負けず劣らず素晴らしい仲間達に巡り会えたという事が何よりも嬉しいし、親としても息子の育て方が間違っていなかったと自信がもてたよ。正直、ここにいる人いない人、ロファが出会ったであろうすべての人に感謝したいね!」
パトックはそう感慨深げに言うのだった。
「あ、そう言えば・・・でも聞いたらダメかしら・・・」
そう言って一人口ごもるアルディスにユニスがにっこりと優しく微笑みかける。
「何かしら? パトックに聞きづらければ私が答えるけれど・・・」
その一言に安心し、勇気づけられたアルディスはきっぱりと尋ねた。
「あの・・・、どうしてロファは男の子なのに女の子の格好をしているんですか?」
「カワイイでしょう♪」
そう言ってユニスは最愛の息子を強く抱きしめる。当のロファは母親の豊かな胸に顔を押しつけられて苦しそうにもがいていた。
「・・・いいなぁ・・・」
その様子を見ていたジーンがぽつりとつぶやく。するとその瞬間、氷よりも冷たい殺気をはっきりと感じたのであった。
「ごめんなさい。胸、小さくて・・・」
セリカのそんなつぶやきにジーンは慌ててフォローを入れ始めた。
その一部始終を見ていた人々は皆一様に思った。
(『ジーンって愛妻家と言うよりは恐妻家なんだな・・・』)
「ホントはね、ロファがまだ小さい頃にパトックの昔の仲間で今は私達の『家族』でもあるユウリィって言う『お姉さん』が面白半分でこの子に女の子の衣装を着せたからなの。でもその時のロファがあんまり可愛いものだからついつい私も女の子の服を着せちゃって・・・それで今に至るというわけ♪」
ちなみにそのパトックの仲間の『ユウリィ』の性別は・・・男である(笑)。
「それに男性が女性のフリをするのはよくある事だしね。大きくなれば嫌でも男らしくなってくものだしそれまでは修行の一環として『女の子』のフリをさせる事にしたんだ。当人もまんざらでもないようだしね」
その話を聞いて一同は、ロファが単なる『女装癖』ではない事を知ったのだがだいぶ癖になっているなとも思った。
「とりあえず今日はもうお疲れでしょう? 上に部屋を用意してありますからゆっくり休んでください」
ミルからのそんな申し出に二人は素直に感謝した。
「明後日にはサーカスの仲間達も到着するし、一週間後においら達『銀猫遊芸団』のハイランド公演を予定しているから皆様是非とも御来場くださいませ!」
そう言ってパトックとユニスが恭しく挨拶をすると、全員楽しそうな歓声を上げるのであった・・・。
その日の深夜、疲れてはいても興奮気味だったパトックは寝付く事ができず、静かに愛用のシタールを手に取ると眠るユニスを起こさないようにそのシタールに話しかけた。
「あの子が幸せそうで良かったよ・・・。このまま明るい世界を歩んでほしいものだねリシュリタ・・・」
するとパトックの心に澄んだ女性の声が届いた。
(あの子なら大丈夫よ。あの子は立派にあなたの名前を継いでくれるわロファ)
その声にパトックはいつもの笑顔とは違う、どこか寂しさを紛らわすようなぎこちない笑みを浮かべた。
「自分も人の親になって・・・初めて幼い兄を失った時の両親の悲しみがいかほどのものであったか少しは推し量れるようになったよ。でももうおいらは知っている。だから例え早くにイルマを亡くしたとしてもおいらは二人目の子供に同じ『イルマ』の名前を付けたりはしない。本当の名前を失うのは後にも先にもおいら一人で十分だ。仲間や家族のみんな、そして何よりもユニスには辛い思いをさせているけどね・・・」
(大丈夫よ。誰よりもあなたの苦しみ・悲しみをユニスはよく理解しているわ。この私が嫉妬する程にね・・・)
「リシュリタにも感謝しているよ。おいらは自分で名付けた『パトック』という名前を気に入っているけれどそれでも親からもらった名前で呼ばれたいと思う時も少なからずあるんだ。そんな時、おいらの名前を呼ぶ声が泣きたくなる程嬉しかったりするんだよ・・・」
(私はあなたに名前を呼ばれて『リシュリタ』になった。名前があるから私は私でいられる。だから私はあなたの名前がどう変わろうとも呼ぶ時は必ず『ロファ』と呼ぶわ。これは呪文よ。あなたをこの地上に繋ぎ止めておく為の、私だけの呪文・・・)
この時、実はユニスは起きていた。しかしユニスは二人のじゃまをしない為に眠ったフリをしているのだ。
こんな事は以前から何回もあった。それでも朝目覚めた時にはすぐ横にパトックの寝顔があったからユニスは黙っているのだ。
ユニスは自分がパトックに愛されている事を良く知っているし、リシュリタと呼ばれるシタールの精がどれだけパトックの心を支えてきたかもよく知っている。だからユニスはロファの事を浮気者と言って怒ったりはしない。そのかわりパトックには内緒でユニスはリシュリタにお目付役をお願いしている。
ユニスはリシュリタの声を聞く事はできないけれど、リシュリタは音でユニスに話しかけてくる。リシュリタの音の調子を聞くことでユニスはパトック自身も気づかないような些細な異変にもすぐに気づけるようになった。
だからユニスは毎朝・毎晩必ずリシュリタの音を聞く事を日課にしている。何かあってもすぐに気がつけるようにする為に・・・。
(でもロファは渡さないんだから!!)
彼女は心の中で夫の名前を呼ぶ時はいつも、パトックの本当の名前である『ロファ』の名で呼んでいる。ユニスにとってはやはりロファはロファなのだ。
ユニスの心の中には今でも少女時代の自分が住んでいて、未だにリシュリタとパトック(ロファ)を争っている。だから二人は親友であり、同じ人を愛するライバルでもあり、愛する人を守るために戦う戦友なのだった。
そんな世にも不思議な三角関係を、ずっと昔から星だけは見守り続けている・・・。
その日、ハイランドは素晴らしい青空を見せていた。
『銀猫遊芸団』の初日公演の朝。早くから噂を聞きつけ集まった客達は何とかチケットを手に入れようとして必死の思いで今も長蛇の列を作っている。
「すごい人気だなぁ」
「そうね」
ロファから貰ったチケットを無くさないようにしっかりと手にしながら呆然とつぶやくジーンやセリカ達の反応にロファは嬉しいやら照れるやらで何とも面はゆい気持ちだった。
「だけど本当にそうよね。私も子供の頃はよく見に来てたけどいつも満員のお客様で賑わっていて凄かったもの・・・」
ロファは昔を思い出しながらも今の状況を楽しんでいた。
いつもは芸を披露して人々を楽しませる側であるロファも今日に限っては素直に観客に回る事にした。
開演まではまだ時間があったので三人はとりあえず出店で飲み物でも買うことにした。
すると向こうからゼロとエミリアに連れられてサンマリノ教会の子供達がやって来るのが見えた。
「あ、ゼロにエミリア!!」
ロファが大きく手を振って声を掛けると、向こうもこちらに気づいてこっちにやって来た。
「おはようロファ。おはようございますジーン、セリカ」
「おはようエミリア」
「おはよう」
ジーンとセリカがエミリアに挨拶をする。ロファは既に子供達に混ざって騒いでいた。
「エミリアもロファからチケット貰ってたんだ」
「ええ。ただ、頂いたのはロファからではなくロファの御両親からですけど・・・」
「えっ!?」
少し意外そうな顔をするジーンにエミリアはクスクスと笑った。
「先日『銀猫遊芸団』を代表してロファの御両親がうちへいらっしゃって正式に私達をご招待してくださったんですよ」
「そうだったのか・・・」
「銀猫遊芸団はどこで公演しても必ずその土地の孤児院や保育所の子供達を自分達の公演に招待するの。元々はお父さんが言いだした事だけれども銀猫のみんなは『子供達に夢を見せるのが仕事、子供達の笑顔を見るのが趣味』って言う人たちばかりだからすんなり受け入れられたらしいわ」
ロファが少し胸を張ってそう説明すると短い時間しか付き合いがないにも関わらず全員が『あの人らしい』と思った。
「ねーねーエミリア。そろそろ中に入りましょう! 早くしないと良い席がみんな取られちゃうわ!!」
子供達の気持ちを代弁するかのようにセシルがエミリアにせがんだ。
「セシルの言うとおりだな。もし良ければ俺達も一緒に見てもいいかな?」
「私は構いませんよ。エミリア?」
「もちろん! 大勢で見た方がきっと楽しいでしょうし・・・」
「セリカもそれでいいかい?」
「構わないわ」
結局入り口のところで『白き翼』の仲間達とも合流し、みんな揃って最前列で見る事となった。
次は『ザッツ・エンターテイメント!part.3』です。




