ザッツ・エンターテイメント!part.1
続きまして『ザッツ・エンターテイメント!』です。長いので5分割にしてお届けします。
「本日の御来場まことにありがとうございました!」
隙間無く埋まった客席からは天に届かんばかりの大きな拍手が湧き起こった。
『銀猫遊芸団』がこのサーカスの名前である。
彼らはこの大陸中を渡り歩いては数々の芸を披露し、多くの人々に喜びや感動を与え続けてきた。
そして次なる目的地は・・・
「いよいよハイランドだな」
団長らしい初老の男が一人の道化師に声を掛ける。
「ああ」
側に置いてあったタオルで顔を拭く。
「何年ぶりになるんだ?」
団長がそう尋ねると道化師は口元に笑みを浮かべながら答える。
「・・・2年ぶりかな。元気にやってるといいけど・・・」
「親はなくとも子は育つさ。お前に似ずしっかりした子だ。ちゃんとやってるだろうよ」
その一言に道化師の男はムッとしていたが反発はなかった。どうやら自分でもそう思っているらしい。
「お前に言われたくはなかったよ、ラスティン」
名前で呼ばれた団長は苦笑した。
「お客が帰ったら片付けを始めるからな。それまで休んでろよロファ」
その名を聞いた道化師はすぐさま睨み付けるように叫んだ。
「その名で俺を呼ぶなと言っただろうラス! もうそれはおいらの名前じゃない。今のおいらはパトックだ!!」
しかし団長は悪びれるでもなく謝罪した。
「おっと、すまない。しかしどうも慣れんなその名前・・・。もっと他に良い名はなかったのか?」
「よけいなお世話だ!」
そう言うと二人は顔を見合わせて互いに笑いあうのであった。
その3日後、片づけを終えた銀猫遊芸団の一行は再び旅路についた。
次の目的地であるハイランドに向かって・・・
それが実に一ヶ月前の出来事である。そしてハイランドは今日も平和であった。
「う~ん、静かでいいねぇ・・・」
「そうね」
この日ジーンとセリカ、いわゆるレイナート夫妻は『白き翼』にてお茶を満喫していた。
冒険者ギルドともいうべきこの『白き翼』も現在は開店休業中であった。
「平和なのは良いんですけど皆さんに紹介できるお仕事も少なくてちょっと困っています・・・」
『白き翼』の実質的オーナーとも言えるミルは二人にケーキの小皿を出しながらため息を付いた。
「仕事かぁ・・・。俺達も今はまだうまくやりくりしてるけどこのままだとやばいよなぁ・・・」
「上手にやればあと一ヶ月は持つわ」
家計を預かるセリカがレイナート家の財政を実に正確にはじき出す。
「うちも今月は厳しくて・・・」
ミルもまた、実に主婦らしい一言を洩らす。
「なんだかこうも暗いと段々惨めになってくるなぁ・・・。何でもいいからこう、ぱぁっと明るくなる話題はないかなぁ・・・」
「なに不景気な顔してるのよジーン!」
そう言って突然ジーンの頭を叩いたのはレイナート家の居候、ロファ・サーフェだった。
「いってぇ~! 何しやがるロファ!!」
「不景気な顔して貧乏神しょってたから払ってあげたのよ!・・・そんな事より、はいコレ!!」
そう言ってロファが3人に渡したのは1枚のチケットだった。
「それあげるから元気だしなよね! 手紙じゃ後3日程でハイランドに着くって書いてあったからすぐに賑やかになるわよ!! じゃね!!」
そう言い残すとロファは来た時と同じく風のように去っていった。
「何なんだ、一体?」
とりあえずチケットをしまおうとしたその時、ジーンはまたしても突然の大声に驚くこととなった。
「あー、そのチケット!!」
「今度は何だ!?」
振り返ったジーンの目の前に、いささか興奮気味のテトが立っていた。
「何だ、テトか。どうしたんだよ?」
しかしテトはそんなジーンには目もくれずジーンの手からチケットを奪うとそれを穴があくのではないかと心配になるほどじーっと見つめた。
「うわっ、間違いない! 本物のチケットだぁ!!」
「・・・そんなに貴重な物なのか、それ?」
その何気ない一言にテトは信じられないとでも言いたそうな顔をした。
「ジーン知らないの?『銀猫遊芸団』って言ったら超一流の芸人達が集まった大陸一とも言われる大サーカスなんだよ! 彼らが公演をするとその国の王族までもがこぞって見に来るって言うほどのすごいサーカスなんだよ!?」
そのテトの説明にジーンもあっ、と思いだした。
「そう言えばマイダーンにいた時に騎士仲間の一人がそんな話をしてた事があったな・・・」
「それに『銀猫遊芸団』はすごく人気のあるサーカスだからチケットを手に入れるのだって大変なんだよ! 人によっては何十万でも買うって言う人もいる位だよ!?」
『何十万~!?』
その一言にはさすがに後の二人も声が大きくなった。言ってしまえば一ヶ月分の生活費の額なのだから。
テトは未だにチケットを離さないまま羨ましそうにジーンを見た。
「・・・チケットならロファがまだ持っていたみたいだけど・・・」
その言葉にすぐさま反応するテト。
「ホント!? で、ロファは今どこ?」
ロファが消えてった方に指をさしてやるとテトはチケットをジーンに返してすぐに『白き翼』を飛び出していった。
「行っちゃった・・・」
「でもそんなに貴重な物だったなんて・・・。このチケット、ロファは一体どうしたんでしょう?」
ミルが抱いた素朴な疑問に答えたのはやはりというかセリカだった。
「この間ロファ宛に厚い封筒が届いていたから、おそらくはその中身がこのチケットだったんでしょう」
「送り主は?」
「見てないわ。でもあの後から妙にロファの様子が明るくなった気がしないジーン?」
「そう言えば・・・」
いつも明るく笑みの耐えないロファではあるが、言われてみれば確かにここ一週間ぐらい妙に明るい、というか浮かれているような気はする。
理由を聞いてもいつもはぐらかされていたのだが・・・。
「まぁいいか。折角もらったチケットだし今度一緒に見に行こうかセリカ?」
「そうね」
その返事にジーンは『デートだデートだ!』と浮かれ、セリカは『久しぶりね』と言ってうっすらと笑みを浮かべているようにも見える。
本当に夫婦かお前ら!?
「まだチケット余っているかしら? ルゥ様とあの子の分も貰わないと・・・」
ミルは今度ロファにあったら忘れずに聞いておこうと心に誓った。
その日、ラディアはサンマリノ教会に遊びに行こうと思っていた。
しかしいざ来てみると何やらいつもよりもずいぶん賑やかな事に気がついた。
その原因はゼロとシスター・エミリアが対応している二人にあるようだった。
エミリアがしきりに頭を下げるのに対し相手の男の方はどうも困っているようにも見える。
その横で、どうやら彼の妻らしい女性が優しく微笑んでいた。
ふと、その女性がラディアの事に気づく。遠目に見ても彼女の長い黒髪は美しく見えた。
その女性は優しい微笑みをそのままにラディアに向かって手招きをする。
その雰囲気に気を許したラディアは女性の前まで駆けて行った。
「こんにちは。私はユニスよ。お名前は?」
「私、ラディア!」
その声にエミリアが下げていた頭を上げる。それに併せて男の方もラディアの方に振り向いた。
男は小柄で、どこか子供っぽく、何とも憎めない感じがした。
そしてラディアは直感的に思った。
(パパに似てるかも・・・)
「君もこの家の子かい?」
男はわずかにしゃがむとラディアに目線を会わせた。
「ううん。ラディアはパパの子だよ」
「いらっしゃいラディア。・・・この子の名前はラディアと言って私達の友人の養子なんです」
「よーしってなぁに?」
耳ざとく聞きつけたラディアが無邪気に尋ねると男は、
「パパやママに愛されている子の事だよ」と答えた。
「うん! パパね、私の大好きなエビフライよく作ってくれるんだよ。私、パパだ~い好きなの!!」
「優しいパパなのね」
「うん!」
二人は今初めて会ったばかりだというのにまるで実の子に接するかのように優しくラディアに接していた。
自らの失言を反省していたエミリアはそんな二人の姿を心に深く刻みつけたのだった。
「それじゃあそんな優しいパパとパパ思いのラディアちゃんにはこれをあげよう」
そう言ってスッと取りだしたのは2枚のチケットだった。
「今度この街でサーカスをするつもりだからパパと一緒に見においで。きっと楽しいから」
「うん! ありがとうおじちゃん、お姉ちゃん!」
その言葉に男は肩を落としたがユニスはクスクスと笑っていた。
「おじちゃんでもいいけどさぁ、おいらの事はパトックって呼んでくれないかな?」
「パトック・・・?」
「そう。今日からおいらはラディアちゃんの友達、パトック・サーフェさ!」
「え~と、後は誰がいたかなぁ・・・」
ロファは先日父から手紙と共に送られてきたチケットの束を握りつつまだ街を歩いていた。
手紙には『ロファが見てもらいたいと思う人に配りなさい』と書いてあったので言葉通りに仲間達へチケットを配って回っていたのだがもう全員に渡し終わったはずだった。
「少し余っちゃったか・・・」
「それじゃあ俺達がもらおうか?」
気が付くとロファはいつの間にか柄の悪い連中に囲まれていた。
「何の用なの?」
ロファは内心の焦りを隠しつつ勝ち気な少女のフリを続けた。
すると男達はロファを本物の少女と勘違いしたまま下卑た笑いを浮かべた。
「いやなぁに用って程でもねぇのさお嬢ちゃん。ただお嬢ちゃんが持ってるそのチケットをそっくりそのまま譲ってほしいだけさ」
「残念ですけどこれは私が父から預かった物。知らない人にお譲りする事はできません!」
「そうか、嬢ちゃんがあくまでそう言うのならこっちも力尽くで奪いにいくだけだ。怖い目見たくなければ早くそれをこっちに渡しな!」
後ろの男がロファを捕まえようとすると、ロファは振り向かずにしゃがみ込み、その股の間をくぐり抜けて走り出した。
「逃がすな、追えっ!!」
大人と子供ではやはり走る速度に差が出るが、ロファは細い路地などを上手に利用して何とか振り切ろうとする。
そうやって一人、また一人と男達は振り切られてゆくがリーダー格の男だけはしつこくロファを追い回し、ついにロファの二の腕を捕まえたのだった!
「ハァハァ、ようやく捕まえたぜお嬢ちゃん。さぁそのチケットを渡しな!!」
「誰があんたなんかに!!」
「このクソガキ!!」
男が振り上げた左腕はしかし振り下ろされる事はなかった。
「・・・その子に手を挙げたならあなたの命もここまでよ・・・」
男は体中を緊張で硬直させながら横目で背中越しに後ろを見た。自分の喉元に突きつけられた冷たい刃の持ち主を見ようとして・・・。
「女!?」
そう思った瞬間、男はあっけなく落とされた。一瞬の間に刃を持つ手を伸ばした女がそのまま首を絞め、一気に気絶させたのだ。
まさに神業である。
目の前で起こった出来事にもかかわらず、ロファはそう理解するのに数秒の時間を要した。
「大丈夫?」
「うん。ありがとうセリカ」
そう。女の正体はロファもよく知る人物。他ならぬセリカだったのだ。
セリカはロファの無事を確認すると今来た道を戻り始めた。
途中の路地には振り切ったと思われた男達が皆一様に気絶させられていた。
「・・・これみんなセリカが?」
「たいした事じゃないわ。準備運動にもならないもの・・・」
男達の数は全部で十人ぐらいいた。結構恰幅のいい連中ばかりである。(なのに準備運動にもならないなんて・・・)
改めてロファはセリカを怒らせない事を心に誓いつつ(とは言ってもセリカが感情らしい感情を見せる事はなかったが)未だ詳しくは話されたいないマイダーンでの日々を哀れに思うのだった・・・。
そして表通りへと出たロファはすぐ近くに懐かしい気配がある事に気が付いた。
(この感じ・・・まさか!?)
振り向いた先に立っていたのはゼロにこの街を案内してもらっていたあの夫婦、パトックとユニスであった。
三人はお互いに相手の姿を確認すると我先にと駆け寄り始めた。
『イルマ!!』
「お父さん、お母さん!!」
トリックスターのロファ・サーフェ。二年ぶりの両親との再会であった。
次は『ザッツ・エンターテイメント!part.2』です。




