2.突然の求婚
とりあえずここまでです。
「こんな格好でごめんなさいね。私がこの国の女王、ティアラ・クェスです」
ツカサ・リーヴェルトとミコト・クェスの二人は今、王宮の一室である応接間にいた。
「ただいま母上!!」
ミコトは元気な声でそう叫ぶと大きめのソファにもたれるように腰を掛ける母親に駆け寄って甘えるように抱きついた。
「まぁまぁミコトったら」
ティアラは自分に抱きついて頬を擦り寄せる愛娘を優しい声でたしなめる。
「お客様を連れてきたのでしょう? まずは父様と母様に紹介してちょうだい」
ティアラの横には二十代後半の、口ひげを生やした優しそうな男性が妻と娘のやり取りを愛おしそうに見つめていた。
ツカサはそこではじめて我に返り、ミコトが口を開くよりも前に自ら名前を名乗った。
「は、初めまして!! 今年普通科の一年に入学する予定のツカサ・リーヴェルトって言います! 王女殿下とは町で出会って知り合いました!」
「そうだ母上! ツカサはとても優しいのだ!! それからこれは母上に御土産!!」
そう言ってミコトは手に持っていた綿菓子の袋をティアラに差し出す。
「あら、これはなぁに? 白くてフワフワしてるのね・・・」
ティアラが今まで見た事もないような不思議な食べ物を見てわずかに小首をかしげていると隣に座った夫のエドワルド・ウォーレンが懐かしそうに目を細めながら妻に教える。
「それは綿菓子というザラメという砂糖から作るお菓子だよティアラ。私も子供の頃、よく祭りの屋台で母に買ってもらったものだ・・・」
「まぁ、これがお菓子なの?」
「そうだ! 綿菓子はこうやって食べるのじゃ母上」
そう言うとミコトは綿菓子の袋を開け、中に入った綿菓子を一つまみし、口の中に放り込んだ。
「うん、甘くて美味しいぞ! 母上も食べてみてください。父上も!!」
娘に促される形で二人は綿菓子を一つまみし、口に入れる。
「甘いのね。それに口に入れた途端まるで空気のように溶けてなくなって・・・」
「ふむ、懐かしい味だ」
初めての綿菓子に驚くティアラと感慨にふけるエドワルド。
二人の様子に満足したのかミコトは嬉しそうに笑っていた。
(なんかこうして見ると王族と言うよりただの仲良し家族だな)
ツカサはそんな三人を見て今は亡き父と、記憶にない母親の事を思い出していた。
「珍しいお土産をありがとうミコト。そしてありがとうツカサ」
ぼおうっとしていたツカサはその女王の一言を理解するととても驚き、思わず声を上げた。
「へっ!? ぼ、僕ですか!!」
ティアラはそんなツカサの様子に思わずクスッと笑みを浮かべる。
「そうよツカサ。ミコトの代わりにこの綿菓子を買ったのはあなたでしょう? ミコトは町で買い物ができるような小さなお金は持ってないもの。あなたがミコトに頼まれてこの綿菓子を買ってくれたのでしょう? だからこの子の親として改めてお礼を言います。
ありがとうツカサ」
「私からも礼を言わせてもらわないとな。この子が一人で街を出るのはまだ危ない。刺客や殺し屋はともかくとして街中で道に迷ったらこうして無事には戻れなかったかもしれない。すべては君がいてくれたからだ。それに私も懐かしい味を楽しませてもらった。本当にありがとう」
そう言って静かに頭を下げる二人にツカサは大いにあわてた。
「そんな、よしてください。僕はただ王女殿下に買ってあげたいと思ったから買っただけです。僕が好きでした事なんですから気にしないでください」
慌てるツカサに優しく微笑んだのちティアラは再びミコトに向き直って尋ねた。
「それでミコトはちゃんとお礼を言ったの?」
「はい!」
元気に答えるミコトに対ししかしティアラは追及する。
「綿菓子を買ってもらった事だけじゃなく御馳走になった事も?」
その言葉にツカサは驚くがティアラはすぐに種明かしをした。
「簡単なことよ。ミコトはさっき私に綿菓子の食べ方を教えてくれたでしょう? 食べ方を知っていたのは誰かに教えてもらったからで教えてもらったという事は自分で綿菓子を買えない以上教えてくれた人から御馳走になったという事だもの。その事のお礼はしたのミコト?」
「はい!」
ミコトは母親の目をまっすぐに見つめながらはっきりと答える。
「ツカサはわらわが不思議そうに綿菓子の屋台をじっと見ていたら声をかけてくれました。そしてわらわが綿菓子を食べた事がないと言うとツカサは綿菓子を一つ買って食べさせてくれました。それでわらわが綿菓子を母上に御土産に買っていきたくて、その事をツカサに相談するとツカサはわらわにもう一つ、綿菓子をプレゼントしてくれました。そしてツカサはわらわの事を心配して城まで送ってくれたのです。城まで来る間もツカサはわらわにとても優しくしてくれました。アルマが迎えに来るまでわらわ達はお互いの名前も知らなかったのにわらわはツカサと手をつないでいるととても安心できたのです!」
「まぁそうなの?」
黙って娘の話を聞いていたティアラはしかしミコトとツカサがお互いの名前と正体を知ったのが最後の最後であった事に驚きの声を上げる。
「それではツカサはあなたがこの国の王女だという事を知らないままそこまでしてくれたのですか?」
その質問は半ばツカサ自身へと向けられていた。ツカサは気まずそうに頭をかきながらそれに答える。
「すいません・・・。言い訳ですけどこの国に来たのは今日が初めてでこの国の事を殆ど何も知らなかったものですから、王女殿下の事もてっきり新女王の即位式典を見にきた外国貴族の両親とはぐれてしまったお嬢さんとしか思ってなくてそれでまぁ、自分でもお人好しとは思うんですけど、両親の元に連れて行ってあげようと思って声をかけたんです。子供は嫌いじゃないですし・・・」
「ミコトを子供扱いするな!!」
ツカサの言葉にミコトがむきになって怒るのを見ていたティアラはようやく娘がこの少年を連れてきた意味を理解した。
「その人でいいのミコト?」
ティアラの声からはそれまでの柔らかさが消え、女王としての威厳と重みが感じられた。
どういう意味かツカサが理解できないでいる横でミコトもまた、年相応ではないが彼女には相応しく思える凛々しい表情で深くうなずく。
「わらわはツカサがいい! わらわはツカサを信じる!!」
「そう・・・」
ティアラもまたその言葉に納得したように深くうなずいた。
蚊帳の外に置かれていたツカサだったが、それでも自分が何やらとんでもない事に巻き込まれつつある事には気づき始めていた。
「そ,それじゃあそろそろ寮へ行かないと・・・。手続きとかもあると思うし・・・」
「待てツカサ」
厄介な事になる前に退出しようとしたツカサだったがもう既に遅かった。
「な、何ですか王女殿下?」
呼び止められて仕方なくツカサは声の主へと振り返る。
するとミコトは、いつも堂々としてる彼女らしくもなく顔を赤く染めながら何やらもじもじとしていた。
(あれ?)
なんとなく拍子抜けしてツカサの肩から力が抜けた。
そのせいで思いがけず真正面からミコトを見つめてしまったがミコトは起こるどころかまるで気まずいところを見られたかのようにさらに挙動不審になるのだった。
「えっと、あの、その、つまりだな、えっと・・・」
言葉がループしている。どうしてものかとティアラの方を見てみると彼女は何やら楽しそうにクスクスと笑いながら事の成り行きを優しく見守っていた。
どうしたらいいのかわからずツカサは一人立ち尽くしているとようやく決心したかのようにミコトが顔を上げて真っ直ぐすぎるほど真っ直ぐにツカサの顔を見上げて驚くべき一言を口にした。
「わ、わらわと結婚してほしい!!」
「はぁ!??」
まったく持って間抜けな第一声だったが人間驚きすぎると声が出なくなるものだ。
ツカサはそれを、生まれて初めて実感したのだった。
尻切れトンボですがここまでです。他に作品が見つかるか衝動的に何か書いたら放り込みます
ちなみにアーカイヴスの方は別に作品がたくさん残っていますので気長にお待ちください




