1.運命との出会い
私のオリジナル作品にして集大成予定のテーマ『クェスの女王』編です。
もっとも2話しかないし次書く時にはだいぶ変わっていると思います。
不完全燃焼なので気になる方は読まないでください
四月。季節は春。
ここ学園都市国家クェスは新たな年度を迎えて大いに賑わっていた。
街には真新しい学生服を着た十代半ばの少年少女が多く見られる。
彼らはこの春からこの学園都市国家クェスの国民たる「生徒」になるのだ。
学園都市国家クェスはこの大陸でもっとも古い歴史を持った国であり、かつて大陸を統一していた頃の王都であるこのクェス以外には国土を持たない大陸一小さな国でもある。
一都市と変わらぬ国土しか持たないこの国はそれ故に国力も他国と比べて余りに小さかった。
それでもこの国が存続をしていられるのはこの国が「伝説」を持つ国であり、今や宗教的な意味合いまで持つようになったある「信仰」の聖地とも言うべき場所だからである。
いや、土地には何も意味はない。意味を持つのはその国の王。
かつて、歴史上でただ一人この大陸を一つにまとめ「大陸国家」を作り上げた存在。
その力を持ってしてこの世界の「外」から襲いくる邪悪なる者たちに対抗した一人の女王。
人類最強にして世界の守護者たる竜の申し子、エメラルド・タブレットの真の所有者。
マリアローズ・クェス。
現在も人々の心に深い影響を与える「クェスの女王」。
彼女が興した国であり、彼女の血を引く娘達が治める国。
たとえ世代が変わっても変わる事なき女王の存在。その力と使命。
マリアローズの娘達は必ずと言っていいほど娘を生み、その力はエメラルド・タブレットと共に代々娘達へと受け継がれてきた。
そして娘達は、相次ぐ内乱によって少しずつ国土を失いながらも、折に触れ現れる邪悪なる者たちから人々を、この世界を守り続けてきたのだ。
その為、この国は今でも大陸の民達から「小さな守護者」と呼ばれ、初代女王マリアローズ・クェスを神と崇めるいわゆる「女王信仰」の信者達からは聖地として崇められており、
どの国もこの小さなクェスを併合しようとは考えずに、むしろその威光を利用する形でそれぞれの国を治めているのが常であった。
とは言ってもどれほど深い歴史と輝かしい威光を持っていても人間は生きていて生きていくにはお金がかかるのである。
土地もなく資源もなくあるものと言えば人類の歴史を詰め込んだとも言われている大陸一古い王立図書館と大陸共通の礼儀作法の元となった王室典範のみ。
財宝は消費され、国民は祖国を惜しみながらも次々と離れていき税収も見込めぬ有様。
各国の援助に頼るにしてもそうそう頼ってばかりもいられない。
そこで今から300年前、ときの女王フィオレンティーナは国中から優秀な人材を集め、
武器や魔法はもとより、貴族子女の礼儀作法から自らも得意とし「大陸の至宝」とまで言われた絵画の才能を生かして文化芸術面まで幅広く自ら教鞭を執って教えることを決意した。
それに当たってフィオレンティーナは国政を大いに変え学園都市国家としての基礎を作り上げたのであった。
伝説の「クェスの女王」が自ら教えるという事実は何よりも強い宣伝効果となり大陸中から希望者が殺到。到底一人ではまかないきれなくなったため新たに教員も募集するもこれもまた大陸中から我こそはと大勢集まることとなった。
その結果、まずフィオレンティーナは自ら一人一人と面談しこれはと思った人材のみを教員に採用し、採用した教員は勤めている間は一時的にでもクェスの国民になる事を周辺国家にも認めさせた。
次に採用した教員達が生徒達を面接し、ふるいを掛けた後に自らも面接を行った。
そして見事合格となった生徒達もまた教員達と同じく生徒である間はクェスの国民として扱われることとなった。
こうして始まった学園政治はその特色を強めていき、ありとあらゆる分野においてその道の達人や職人を講師として招き、学問に関わらず学びたい事があればどんな事でも学べるような環境づくりを進めていった。
財政にゆとりが出てくると今度は貴族子女やお金持ちの子弟のみならず一般からも公募し、お金がない者たちでも学問ができるように奨学金制度も設立した。
また身寄りのない子供達をクェス王室は可能な限り引き受けて他の者たちと同じ教育を施していった。
その結果、多くの優秀な人材がクェスから生まれていき、国を離れた後も惜しみない援助や協力がクェスに注がれる体制ができた。
クェスで「永久的な国民」となるには女王の治める「宮廷」に入り国家の重役を務めるか「騎士団」に所属し騎士として女王に忠誠を誓うかしかない。
どちらも狭き門であり希望者は毎年多数出るがその試験を受けるには「学園を卒業した者」という資格を手に入れなければならない。
もちろん例外もまた多数あるがあくまで例外は例外であり、また自国の優秀な人材がクェスに集中するのは何処の国でも面白くはない事なので卒業生の9割方はクェスを離れる事となる。
その9割の中には自ら進んで国を出て外からクェスを支えたいと考えている者も少なくはない。そういった者達はたいてい何処の国に行っても重宝がられる。
こうして学園都市国家クェスは多くの国や人々に支えられながら優秀な人材を常に保有し、女王を長とする邪悪なる者達と戦う少数精鋭の戦士達、「女王騎士団」は今日も世界のあちこちで「人類の守護者」としての使命を果たすべく戦い続けていた・・・。
そんな「世界の中心たる小国」クェスは、今年も新入学生を迎えて大いに賑やかであったが今年は特に例年以上の興奮にも包まれていた。
それもその筈、実は今年の入学式の前日に新女王が即位することが決まったのだ。
現女王であるティアラ・クェスは御年28歳。
美しく、健康的で、しかも女王としての素質も申し分なく国民の人望も厚かった。
しかし昨年、彼女は突如王位を御年7歳の娘である王女に譲ることを決めたのであった。
慌てふためいて宮廷の重臣達が女王に問いただしたところ女王はこう答えた。
「赤ちゃんができたから♪」
確かにそれはおめでたいことであったが女王が退位する理由としては余りに弱い理由であった。女王の、特にこの国の女王の立場とは普通に考えても重いものであり女王もそれは十分にわかっている筈なのに・・・
しかも跡を継ぐのは未だ十にもならない少女なのである。まさに前代未聞のことであった。
しかしそれは、最終的には受け入れられた。
宮廷なるものが存在し、宰相と呼ばれる人間がいたところで結局は絶対王政であり女王がすべてにおいて決裁権を持つのである。特にこの国における女王はその気になればたった一人でも世界を相手に戦うことができるのである。それに勝利することも・・・。
たかだか一国の宮廷、ないしは国民全員を滅ぼすなど容易いことなのだ。
本気の女王の決断を覆せるものはこの世にはいない。
むしろ意外だったのはこの突然の話に王女が最初から否を唱えなかったことだった。
こうしてティアラ女王の退位が決定となり新女王即位のためのあらゆる準備が始まった。
こうして半年にわたる準備が整い入学式の前日、すなわち明日、新女王が誕生する予定となっていた。
ティアラ女王も翌月には出産の予定であり、この滅多にない祝い事の連続に国民は今、大いに盛り上がっているのである。
街のあちこちで祭りのような賑わいを見せる中、ツカサ・リーヴェルトは学校案内を片手に寮へと歩いていた。
(寮に着いたら今日の所は休むことにしよう・・・。この分だと入学式が終わるまでは仕事も探せそうにないかな。でも翌月にティアラ女王の出産があるからそれにあわせて短期の仕事が一杯増えるかもしれないし、そうなればとりあえず落ち着くまでの生活は何とかなるかな・・・)
賑やかなのは嫌いではなかったがツカサは自ら率先して祭りに参加するような積極的な性格ではなかった。むしろみんなが楽しく過ごしているのをその輪を少しはずれた所から眺める方が好きな人間だった。
彼は自分を傍観者だと思っていた。
自分は決して主人公にはならず(その器だとも思っておらず)、人の営みや人生を見つめてそれを後世に語り継ぐのが自分の役目だと信じていた。
ツカサにはもう、家族はいない。
母親は彼が小さい頃に亡くなっていたし、父親もまた、昨年流行病で亡くなった。
身寄りもなく頼る当てもなかったツカサは父親の残した財産を少しずつすり減らしながら働き、生きていく為の手段を得るためと好きな歴史を学ぶためにこの冬、クェスの奨学生試験を受験した。
結果は無事合格。とりあえず学費は免除となった。
一般教養課に入って勉強をし、卒業するまで色々な仕事をこなしてみて自分の生きる道を決めるつもりだった。
できれば歴史学者になりたかったがそれにはお金がかかるので既に諦めていた。
その代わり世界一古いというクェスの王立図書館で閲覧できるものは可能な限り目を通すつもりだった。
物語よりも古代における思想や哲学といったものが好きだった。
とは言っても抽象的なことは苦手だったので読んでいてわかりやすい兵法書や歴史小説ばかり読んでいた。
無論、それだけではなく面白そうだと思ったものは片っ端から目を通している。だから有名な戯曲やその他のものも幾つかは読んだことがあった。
だが、ツカサは父親の商売が古美術品の行商だったせいもあって今まで一ヶ所に落ち着くという事がなかった。そのため多くの本を持って旅をする事など到底できず、街に立ち寄るごとに読み終わった本を売り、新しく読む本を2,3冊、多いときで4,5冊買うのがせいぜいといった感じだった。
しかし今は違う。
この学園の生徒でいる間はたくさんの本が読めるのである。しかも本棚は世界一古く規模も大きなクェス王立図書館である。
(明日、早速図書館に行ってみよう。たとえ休館日だったとしても場所を把握しておけばいつでも行けるからな)
ツカサはツカサなりに、これからの学生生活に大いに胸を膨らませていた、その時だった。
彼の目の前に鮮やかな赤い色が目に入った。
ついで目に飛び込んできたのは夜空を梳いたかのように黒い長い髪だった。
彼の目の前には美少女が立っていた。そう、美少女といって何ら間違いではないほどの美少女である。
上質の赤い生地をふんだんに使ったドレスを着込み、先が地面に届くのではないかという程に長く伸びた黒髪。
その横顔は整っており、エメラルドのような翠の瞳と小さな鼻の下には形のいい唇が存在していた。
まるで白磁でできた人形のように白い肌を持った美少女が一心不乱に何かを見つめていた。
その視線の先にあるもの・・・それは祭りの時には必ずと言っていいほどある・・・綿菓子の屋台であった。
(しかしおかしいな、クェスにこんな幼い子がいるなんて・・・。着ているものからするとどこかの貴族の御令嬢って感じだから明日の女王即位式典に親と一緒に着て一人で勝手に街に抜け出してきたって感じかな?)
少女の年は十歳にも満たない感じだった。
このクェスでは生徒や教員以外の人間が住み込む事を禁じているので普通は一人暮らしができる程度の年齢になってから入学する事が多い。王宮で暮らしている孤児達ならばわからないでもなかったが孤児が着るには少女のドレスは豪華すぎた。それと気品も・・・。
となると外国から来た貴族の娘が退屈をもてあまし、好奇心のままに宿泊している宿を飛び出したと考えるのが妥当だろう。
下手に関われば誘拐犯と間違われるかもしれないと思いながらもツカサは綿菓子から目を外そうとしない少女に一抹の不安を感じ声をかけることにした。
「どうしたんだいこんな所で?」
少女と目線を会わせるようにしゃがみ込んで声をかける。
少女は振り向くと物怖じした風もなく答えた。
「あれを見てた」
そういって少女が指を差したのはやはり綿菓子だった。
「食べ物のようなんだが棒に巻き付いてどんどん大きくなるのが不思議だ。まるで雲のようだがどんな味がするのか想像がつかない」
「綿菓子、食べたことがないの?」
と聞くこともなくツカサは立ち上がると綿菓子を一つ買った。それを手にして戻ってきたツカサは少女にこう言った。
「わからなければ食べてみればいい。何事も経験だよ」
そしてツカサは綿菓子を一掴みすると自分の口元へと運んだ。
「さぁ、食べてごらんよ」
少女は不思議そうな顔をしていたがツカサのまねをして綿菓子を口に運んだ。
すると、少女はとても驚いた顔になって話し出した。
「何だこれは!? 口の中に入れた途端に消えて無くなってしまったぞ!!」
「綿菓子って言うんだよ。甘いでしょ? 気に入ったならもっと食べていいよ」
「うん!!」
ツカサの言葉に少女は一気に警戒を解き次々と綿菓子を口に運んでは幸せそうに微笑むのであった。
綿菓子を全部食べ終わり棒だけになったところで少女はあらためてツカサに礼を言った。
「おいしかった! どうもありがとう!!」
「どういたしまして」
少女の子供らしいハキハキとした反応を好ましく思いながらツカサは少女に質問した。
「ところで君、こんな所に一人でいて大丈夫かい? パパかママは近くにいないの?」
「父上は母上の所にいる。母上は来月妹を生むからあまり表に出てこれないから。わらわはそんな母上に何かおみやげを買ってこようと思って外に出てきたのだが生憎わらわは貨幣の持ち合わせが無くて困っていたんだ。その時この綿菓子を見つけて、余りに不思議なものだからついつい見続けてしまったんだ」
随分古風なしゃべり方に難しい言葉を使う子供だとツカサは思ったがそれを口にはしなかった。
「でもやっぱり君一人でこんな人の多いところに来たら心配していると思うよ。今日の所は一旦帰ってまた今度、そう今度は赤ちゃんもいっしょに見に来ればいいよ。もし良かったら宿まで送ってあげるから」
そう言うと、少女はツカサの顔をのぞき込むように真っ直ぐに見つめてきた。
子供とはいえとびきりの美少女に正面から見つめられて、正直異性との付き合いなどこれまで皆無だったツカサは恥ずかしさのあまり顔を背けたくなるのを必死に堪えていた。
しばしの間じっと見つめていた少女は突然満足したかのように満面の笑みを浮かべた。
「うん、そうしよう! ところで・・・一つだけ頼みを聞いてはくれまいか?」
「? なぁに?」
ツカサはできるだけ優しい声で少女に声をかけてやると少女は恥ずかしそうにモジモジしながらもはっきりと告げる。
「あの・・・綿菓子というのをおみやげに買って帰りたいんだが・・・お金は後で払うからその・・・買ってはくれまいか?」
「お母さんに買って帰るのかい?」
ツカサの質問に少女はコクリと一つ頷く。
ツカサは一瞬懐の具合を考える。
(まぁ・・・綿菓子の一つや二つなら大丈夫か・・・)
そう考えてツカサは少女を安心させるようにポン、と頭をなでる。
「お金はいいよ。お母さん思いの君にお兄ちゃんがプレゼントしてあげるよ」
「本当か!?」
我ながらお人好しだよなぁと頭の片隅で思いつつもツカサは再び出店に向くのだった。
少女とツカサは手を繋ぎながら二人で大通りを歩いていた。
少女は右手に先程買った綿菓子の袋を持ち、反対の手でツカサの手を強く握っていた。
少女は終始嬉しそうにしながらもアレは何?コレは何?と気になったものを幾つも幾つもツカサに質問するのであった。
ツカサはツカサで少女の嬉しそうな姿に満足し少女が投げかけてくる質問に一つ一つ丁寧に答えていた。
そんな二人は周りの人間達から常に注目の的となっていた。
何せ少女はただの少女ではない。とびきりの美少女なのだ。
しかも着ている服は目にも鮮やかな赤いドレスで、しかも一目で高級品だとわかる品物だ。
そんな少女と手を取り合う男のほうはといえば中肉中背ながらも着ている服は私服の為どうしても安っぽさが表に出る。
少女の凛とした顔つきに比べて男のほうはというと、良い見方をしてくれれば優しそうとも言えなくもない、風采の上がらぬ顔をしている。
これで少女が嬉しそうに連れの男を引っ張るような感じで歩いていなかったら間違いなく誘拐犯として通報されていたことだろう。
少女はそんな周りの空気も気にせずに真っ直ぐに歩いていた。
段々とお店の数も少なくなりこのまま行けばこの先にあるのは王城だけといった所でようやくツカサは少女に声をかけた。
「何処まで行くんだい? もうこの先には宿屋はないと思うんだけど・・・。あるとすればお城だけだよ?」
すると少女は答える。
「良いのだ!」
「いや、良いって言っても・・・」
少女の考えていることがわからないと内心で頭を抱えていると城のほうから誰かがこちらへ駆けてくるのがわかった。
遠目に見てもわかる。駆けてきてるのはおそらくクェスの女王騎士団の一人だ。
少女と同じく真っ赤な鎧で細身を包み、腰まで届く長い黒髪を風に遊ばせながら全力疾走でこちらに駆けてくる。間違いなく女性であろう。
「姫さま~!!」
「!?」
姫さま!? 今あの人「姫さま」って言ったのか!? 姫さまってもしかして・・・
「うむ、今帰ったぞアルマ」
今や顔がはっきりわかるくらいにまで女性騎士との距離は縮まっていた。
(あ、美人・・・)
アルマと呼ばれた女性騎士は二人の元まで駆けてくると、さすがに息が切れたようで肩で息をしていた。
だがすぐに呼吸を整えるとすぐさま少女・・・彼女曰く「姫さま」の無事を確認する。
「ご無事ですか、姫さま?」
「何を心配しておるアルマ。この世でわらわに一撃を加えられるものなど母上以外にいるわけがあるまい」
その台詞にツカサは先程までの少女との会話を思い出していた。
(来月出産予定の母親・・・妹が生まれる・・・貨幣・・・わらわ・・・)
できれば考えたくない想像を頭を振るうことで消そうとするがかえってその想像はどんどんと確信へと変わっていった。
「それよりも母上におみやげを買ってきた。それに会わせたい者もおる。早く城へ入ろう!!」
そう言ってツカサの手を引っ張り歩き出そうとする少女をツカサが逆に止めた。
「どうした?」
足を止めたツカサを不思議そうに振り向く少女。そんな少女にツカサは今更ながらの質問をする。
「そう言えばお互い名前も名乗ってなかったね。僕の名前はツカサ・リーヴェルトって言うんだけど君の名前は?」
「おおそうであったな!」
少女は大仰に頷くと、真っ直ぐにツカサの顔を見ながらこう答えた。
「わらわの名前はミコト・クェス。現クェスの女王ティアラ陛下の娘じゃ!」
2話目まではあります




