そんな幸せな夜に・・・
このシリーズは短編です
「いやぁ~、意外に盛り上がってるなぁ」
ロバート・ヴォルクジーズ(旧姓ギップル)は目の前の惨状(?)を見て楽しそうに笑っていた。
「そうですね。たまにはこんな風に騒ぐ事も必要ですよね」
ミネルヴァは厨房から料理や飲み物を運ぶなどして忙しく働いていた。
さすがはジェンヌ付きメイドと言うべきかその動きに澱みはなく、むしろこの混乱した状況の中にあってさえどこかに余裕を感じさせていた。
「そうだろうか。私にはよくわからないな」
そう言ってベルゼは黙々と杯を傾けていた。
彼女は先程から良からぬ下心を持った周りの男達によって次々と酒を注がれていたのでもはやかなりの量を飲んでいた筈なのだが、その顔色はちっとも変わっていなかった。
「ベルゼって、あれ、もう何杯目だっけ? 途中までは数えていたんだけど・・・」
「・・・杯を数えるより倒れている野郎どもの数を数えた方がはやいんじゃねぇか?」
お子さま組のパメラとフィンクは酒のつまみを口に運んでは、床に無惨に転がる亡骸達を見るともなしに見ていた。
「お、それうまそうだな。一つもらい!」
「あ、あたしも! 食わなきゃ損てなもんやもんね」
その一方で、『食う』という事になにやら只ならぬ迫力を感じさせる二人が、すかさず最後の一つとなった鶏肉に手を伸ばした。
二人のフォークが空中で交差する。
「・・・これはオレのもんだ」
そう言ってジンが睨むと、
「何言うてんの。あんた男やろ?『れでぃ・ふぁーすと』って言葉しらんのかいな?」
負けず劣らずアユムが睨み返す。
絡み合う視線は火花を散らし、フォークは空中で微妙な均衡を保っていた。
するとそこへ・・・
「あ、これもらってもいい?」
愚かにもロバートが獲物を横からさらっていった。
その瞬間、微妙に保たれていた均衡が破れ、見事な二人のコンビネーションがロバートを床に叩きつける。
『それはオレ(あたし)のだ!』
その迫力に全員が圧倒されていた。
その様子を横目に見ていたカグラが思わず苦笑する。
「・・・笑うなよカグラ。本当に痛いんだぞ・・・」
あまりの痛みに涙ぐみつつカグラを見上げる。
「浮かれるのは結構だけれど、ロバートはもう少し周りの空気を読むといった事を覚えた方がいいと思うよ。
・・・何せ一瞬でも気を抜いたら何が起きているかわからないからね・・・」
カグラはそう言って、どこか含みのある一言をロバートに返した。
「何が起こるか、じゃなくて何が起きているかって所が恐ろしいけど・・・納得いった」 ロバートが何とか体を起こした時、その目に映ったその光景はというと・・・
「あー!! それ、あたしんよこのドロボー! 返してんか!!」
「何言ってやがる! そう言うお前だってさっきオレのハムサンド食ったじゃねえか!!」
「まぁまぁ、料理はまだまだありますから・・・」
「あ、ミネルヴァ~、僕の所も料理が無くなっちゃったよ~」
「・・・酒が足りないな・・・」
「・・・まだ飲むのかよ・・・」
ベルゼがぽつりと洩らした一言にフィンクが一人戦慄していると、入り口の扉が開く。
「よぉ、やってるな!」
「あたし達の分もちゃんとお料理残して置いてくれたぁ?」
そう言って入って来たのはヴィッツとメルリィであった。
「だいじょうぶ! 心配しなくてもメルリィの分はちゃんと残してあるからさ!」
「わぁ、ありがとうロバート♪」
メルリィは嬉しそうに両手を合わせて微笑んだ。
「で、オレの分は?」
「・・・武士は食わねど高楊枝・・・」
「・・・いい根性してやがるなロバート・・・。今度アルギエナに会ったらなんて言おうかなぁ・・・」
「腹が減っては戦はできませんよねヴィッツさん。あ、もしよろしかったらちょっと厨房に行って適当に見繕ってお持ち致しましょうか?」
途端にロバートは卑屈になった。
ちなみにアルギエナとはロバートの妻の事であり、しかも二人は新婚さんだった。
「・・・・・」
そんなロバートに対してベルゼは明らかな軽蔑の視線を浴びせかけた。
元よりまじめな性格のベルゼではあったが、彼女は彼女で最近ちょっぴり悲しい出来事があった為、いつも以上にどこかナーバスになっているようだった。
「うう、ベルゼの視線が痛い・・・。僕はどうしたらいいんだカグラ?」
「・・・何故そこで僕に振るのかよくわからないけれど、さっきも言った様にロバートはもう少し周りの空気というものを読んで行動した方がいいと思うよ」
「あはは!! うん、わたしもそう思う! ロバートって年の割に鈍感だよねぇ♪」
二人の後から入って来たリオカが歯に衣を着せずにそう言うと、さすがのロバートも子供のようにむくれた。
「うるさいなぁ。僕の場合はリリアス族なんだからまだ若いの!! それこそ精神的には君と大差ない筈なんだぞ!」
「この場合、年齢は余り関係はないな。気づく気づかないはその人の感性の問題だ。
・・・気にしなくてもいい。別段ロバートに慰めてもらいたい等とは少しも思っていないからな・・・」
ベルゼのそんな何気のない一言は、フォローと言うよりはまさにとどめの一撃であった。
その場で轟沈するロバート。
「・・・むごいな」
「ベルゼの感性って言うのもかなり問題があるような気がするわ、あたし」
「ロバート、真っ白ですものね・・・」
そう言いながらもミネルヴァが持ってきた大皿からすかさずエビのフライを取り上げては口に運ぶジンとアユム達だった。
「そんな事より今日の主役はどうしたんだ?」
フィンクは目の前の出来事をあっさりと放り投げると、さっきから気にしていた疑問を口にした。
「そんなにあっさり切り捨てないでくれよぉ・・・」
ロバートは一人、部屋の片隅でのの字を書いていた。
「ほらほら、いつまでも拗ねてないで・・・」
「そうだぜロバート! せっかくの祝いの席なんだ! そんな所で暗くなってないで一曲、こう、景気のいいヤツを歌ってくれよ!!」
リオカとヴィッツの二人に言われて気持ちを入れ替えるとロバートは、持ち前の澄んでよく通る声を高らかに響かせながら、明るい調子の歌を歌い始めた。
「それじゃあ、わたしも・・・」
そう言ってメルリィは舞台に立つと、その歌声に合わせるように得意の踊りを披露する。
心の中まで響いてくるような歌声に、見る物の心を優しくほぐすかのようなその踊りに、その場の全員が穏やかな気持ちになっていく。
そこへ・・・
「遅くなってごめんなさいね」
そう言って入って来たのは、幸せで満面の笑みを浮かべたアスターテと、そんな彼女に腕を取られて少しばかり顔を赤くしたウェーズナー老であった。
「・・・すまんな、遅くなってしまって・・・」
ウェーズナーは少しだけ照れながら、しかしその瞳には真摯な光を宿したつつ、はにかんで言った。
「お待ちしていました。さぁ、二人の席はこちらですわ」
ミネルヴァは早速今夜の主役でもある二人を上座へと案内する。
全員が、ロバートの歌とメルリィの踊りをひとしきり楽しんだ後、何故か司会進行役に抜擢されていたベルゼが、あらためて開会のスピーチを述べる事となった。
「・・・それでは、苦難の末にようやく結ばれる事となったアスターテとウェーズナー老、二人の未来を祝して・・・」
『乾杯!!』
それぞれが手にした杯を高々と持ち上げると、そこかしこでグラスが当たる音が響いた。
「ありがとう、みんな・・・」
瞳を潤ませつつ喜びに浸るアスターテの肩をウェーズナーが、彼のその無骨な手からは想像もつかない程の優しい仕草で抱きしめてやる。
いよいよ明日はウェーズナーとアスターテの結婚式である。
今夜のパーティはその前に身内だけでもって集まって、ささやかながらも二人の結婚を祝福するためのものだったのだ。
「今夜ここには来られない他の仲間達からも伝言を受けているよ」
そう言ってロバートが一人一人の伝言を、朗々とした声で二人に伝えた。
「ここにいる者、ここにいない者、すべての人々に心からの感謝を」
ウェーズナーのそんな飾り気のない一言が、全員の心に深い感動を刻んでいった。
「さぁて、主役も揃ったところで盛り上がろうかぁ!!」
ロバートがまるで照れ隠しのように大きな声でそう叫んだ。
「そうこなくっちゃあ!! オレ、さっきからもう腹ぺこだぜ・・・」
そう言ってヴィッツがお腹の辺りを押さえると、大きな腹の虫が会場中に鳴り響いた。
場が明るい笑いに包まれていく・・・。
その夜、人々は遅くまで、飲んで食べて歌って踊っていた。
そして世界はそんな幸せな夜にふさわしいほど、平和に満ちていた・・・。
雰囲気だけお楽しみください




