2.二人のホワイト・クリスマス
七海学園ストーリー2作目です。季節は飛んでクリスマスに(笑)
今日は12月24日。クリスマス・イヴ。
学校も冬休みに入り、これから年末年始にかけて色々と忙しくなる、そんな時期にこの日はある。
恋人達はプレゼントを用意し、すっかり甘いムードを漂わせているが、恋人のいない者達にとっては単なるお祭り騒ぎでしかなかった。
しかしこの男、ロファ・サーフェだけは例年のように一人であってもこの日は重要な意味を持っていた。
それはすなわち『仕事納めの日』という意味である。
根っからの芸人であるロファだったが、何故かこのクリスマスだけはパーティや宴会にも行かずに一人で過ごすことを好んだ。この日だけは不思議と浮かれる事なく過ごしたかったのだ。
そこでロファは毎年、このクリスマスの夜だけは普段より豪華な食事とシャンパンを楽しみながら、自分自身に『一年間ご苦労様』と労ってやるのであった。
そして『芸人』の仕事始めの日となる『12月31日の夜』までは、ロファは何かに呼ばれて芸を披露するといったこともせず、のんびりと暮らすのが常となっていた。
だからその時も、今夜はどこで過ごそうかと考えながら歩いていた。
「サンタさんは本当にいるもん!」
しかし突然耳に届いた少女のそんな叫び声がロファの思考を一時中断させる。
彼は公園前の道路を歩いていたのだが、どうやら一人の少女がその公園の中で三人の少年達によって苛められているようだった。
いじめといっても別に暴力を振るっている訳ではなかったが・・・。
「こらこら! 女の子を泣かせたらダメだろう?」
そう言ってロファが少女の側に歩いていくと、ロファはその女の子に見覚えがある事に気が付いた。
「あれ!? ユニスじゃないか?」
「・・・ロファ?」
少年達はロファがユニスと知り合いだと知るとすぐさま逃げ出してしまった。
そんな少年達にロファはあきれたが追わず、その場に残ってユニスを慰めることにした。
「どうしたんだいユニス? せっかくの可愛い顔が台無しだよ?」
少女の名前はユニス。半年前に火事で両親と幼い弟を亡くし、現在はロファの友人でもあるルヴィナの実家が手伝っている孤児院『灯の家』で暮らしている。
ユニスはロファの手品の大ファンであり、10歳にして15歳年上であるロファの『未来の恋人』の座を狙っているという少し変わった(笑)少女であった。
だから普段ならこの一言ですっかり元気になるユニスだったが、この時ばかりは通じなかった。
「・・・ねぇロファ・・・」
「なんだいユニス?」
「サンタさん、本当にいるよね?お父さんお母さんがいなくてもユニスにちゃんとプレゼントくれるよね?」
「・・・詳しく話してごらん?」
ロファが優しい声でそう言うと、ユニスは泣きじゃくりながら事の次第を説明した。
先程の言い争いの原因は、どうやらユニスが『サンタからのプレゼントが楽しみだ』と言った事に対し、少年達がこぞって『サンタなんていない』と反発した事からケンカになったようだった。
ロファからすると実に面白味も愛想もない少年達である。彼らはプレゼントをくれるのが実はサンタではなくて両親である事を知っているのだ。
最初の内は『いる』『いない』で終始していたらしいのだが、とうとう少年の内の一人がユニスにこう言ってしまったのである。
「サンタなんかいないぞ! プレゼントをくれるのは本当はパパやままなんだ! 俺、知ってるもん! だからパパもママもいないユニスがプレゼントなんてもらえるもんか!!」
ロファはあのとき少年達を追いかけて捕まえなかった事を今更ながらに後悔した。
余りに残酷な仕打ちであった。
その事実に心が揺らぎながらもユニスは、それでもサンタの存在を信じようとしているのだ。
きっと、『いる』と信じていないと家族を失ったというどうしようもない哀しみに耐えきれないのだろうとロファは推測し、そんなユニスをとてもあわれに思った。
「サンタさん、いるよねロファ? 私の所にも来てくれるよね? 去年みたいに今年も、きっと来てくれるよねロファ?」
ロファは一瞬、返答に詰まった。
『ああ、きっと来るさ!』と無責任に言い放つのは簡単だ。しかしそれではいつかボロが出てしまうだろう。
だからロファは・・・
「わからない」
とたった一言、告げる事しかできなかった。
その返答に、ユニスはとうとう大声で鳴き始めるのであった。
彼女はロファならきっと、『サンタさんはいるよ』と断言してくれるものだと信じていたのだ。
そんなユニスの最後の期待を、ロファは裏切ったのである。
ユニスは、もうこの世には自分の友達は一人もいなくなってしまったと深い深い悲しみの内に沈んでいった。
そんなユニスを見かねて、ロファは絶対不可能にもかかわらず、ある提案をユニスに出した。
「ユニス、・・・これから二人でサンタさんを探しに行こう!!」
そして今、二人は北へ向かう電車の中にいた。
手には帰りの代金も考えて買った、最も遠くの駅まで行ける切符。
隣に座るユニスの肩にはロファが着ていた少し大きめのジャンパーが掛けられている。
あの後、ロファはすぐさまルヴィナの元に電話を掛けて事情を話し、心配するルヴィナを何とか説得すると二人で最寄りの駅へと向かった。
途中で友人に出会ったロファは無理矢理頼み込んで上着と金を借りると、自分のジャンパーをユニスに着せて、自らは友人から借りた着古した上着を着込むのであった。
駅に着くとまず時刻表を確認し、北へ向かう電車を見つけると、行ける所までの切符を二人分買い、電車が来るなりすぐにそれに乗り込んだ。
「これからどこへ行くの?」
ロファの事は信頼していたが、さすがに不安になってユニスがロファにそう尋ねる。
「北だよ。北に向かって進んで行けば、もしかしたら途中でサンタさんに会えるかも知れないだろう?」
「本当に?」
「さぁ・・・。でも行ってみなくちゃわからないじゃないか? 会えると信じていればきっと会えるさ!」
「・・・うん!」
ユニスはロファの言葉を信じることにした。それにロファはこうして『サンタさん探し』を手伝ってくれているのだから・・・
そう思うといつの間にか心が暖かくなって、ユニスの心にもいつもの余裕が生まれてくるのであった。
そこでユニスは甘えた声でロファにすり寄り、
「・・・私達、まるで『駆け落ち』してるみたいだね・・・?」
と、そう言った。
「へ!? い、いや。あの、その、これは、ですね・・・」
周りから向けられる奇異な視線に慌ててロファは一生懸命弁解の言葉を探し始める。
そんな風に慌てるロファをクスクスと笑いながら、ユニスは腕をロファのそれにそっと絡めるのであった・・・。
駅に着いてからも二人は北に向かって歩いていた。
昼前に向こうを出てきてはいたが、もうだいぶ日が沈みかけていた。
余り遅くなると帰り道もわからなくなるので引き返そうとも考えたのだが、ユニスがそれに先手を打ってどんどん先を急ぐので結局あきらめる事にした。
日が沈んでからも、二人は必死に夜道を歩いた。
途中の自販機でホット・ココアのサービス缶を買い、二人でそれを飲みながら先へと進んでいった。
どれくらい時間が経ったのかもわからなくなった頃、ついにユニスが闇夜の恐怖と疲れから再び泣き出してしまった。
ここまで来るとさすがにロファも観念して、手元にポン、と花束を出すとそれをユニスに差し出した。
ユニスはそれに驚いて思わず泣きやんでしまう。
「ごめんよユニス。今年はユニスの欲しい物をうっかり聞き損ねてしまったからプレゼント・・・用意できなかったんだ・・・。でも来年こそ、ユニスが欲しいと思う物を必ずプレゼントしてあげるから! 約束するよ!!」
「ロファ、もしかして・・・サンタさんなの?」
不安と期待が入り交じった瞳で、ユニスはロファを見つめた。
ロファは唇に人差し指を当てると、
「・・・みんなには内緒だよ?」
と微笑んだのだった。
「プレゼントをあげられない代わりに今夜一晩、ユニスに素敵な魔法をかけてあげよう・・・!!」
そう言ってロファが指を鳴らすと、今の今まで真っ暗だった空間がボウッ、ボウッと明るくなっていった。
「うわぁ♪」
ユニスは驚いてそう声を上げる。
灯った明かりは赤だったり青だったり黄色だったりし、ロファが手をかざす度に両脇の街路樹はたちまちの内に明るいクリスマスツリーへとその姿を変えていく。
またどこからともなくろうそくを取りだしたロファはそれに灯をともすと一本ずつ道路にたてていく。
ろうそくの炎が足下と、そして闇夜をぼんやりと明るく照らし出した。 ユニスは息を押し殺すようにじっと見ていた。
その幻想的な光景はほんの一息でろうそくのように消えてしまうのではないかと、そう思ったから。
「踊りませんかお姫様?」
ロファがそう言って手を差し出してくる。
「え? でも私、踊れない・・・」
「大丈夫、教えてあげるよ。さぁ・・・」
そう言ってユニスの手を取ったロファは優しくユニスをリードする。
「とても上手だよユニス」
「そう?」
確かにぎこちないながらもユニスはちゃんと踊っていた。
安心したユニスはロファのリードにすっかり身を任せていた。
ゆっくりと、しかし優雅に踊りながらロファはユニスにささやいた。
「・・・プレゼントも美味しい料理も用意できなかったけれどそれでも・・・おいらの事、許してくれるかい?」
するとユニスはにっこり笑って答える。
「許してあげるわロファ。だってロファは私の為にこんなに一生懸命がんばってくれたんだもの。ロファはユニスだけの『サンタさん』なんだからね!」
「ユニス。きみ、もしかして・・・」
するとその時、
(ありがとうユニス。そして、ありがとうロファ。・・・これは私から君達へ送る、ささやかなお礼だよ・・・)
どこからともなくそんな声が二人の元へと響きわたった。
「えっ!? 今の声って?」
「も、もしかして・・・?」
驚く二人の頭上から何やらフワフワとした白いものが静かに舞い降り始めていた。
「あ、あれは!」
「雪だ。雪だよロファ!!」
二人の頭上を舞って地面に少しずつ積もり始めたもの。
それは確かに『雪』であった。
(変だなぁ・・・。天気予報では今日は全国的に晴れて雪なんか降らないはずだったのに・・・)
ロファがそんな事を考えている横でしかしユニスは大いにはしゃいでいた。
「わぁい! 雪だ雪だぁ!! ホワイト・クリスマスだねロファ!!」
そんな風に素直に喜ぶユニスの姿を見つめながらロファは溜息混じりに苦笑した。
(・・・やっぱり本物の『サンタさん』には敵わないや・・・)
こうして二人だけの『初めてのクリスマス』は二人にとって忘れられない思い出となったのであった・・・。
このシリーズはこれで終了です。次は読み切りです。




