3.かくも不思議な縁(えにし)達 part.3
前半部分はこれで終了です
「相変わらず凄いなあの二人は・・・」
ジーンは嘆息してそうつぶやいた。
「手品の技術もさることながらあの息のあった掛け合いの絶妙なこと・・・」
「今の舞台を見るだけでもお二人の仲睦まじさがよくわかりますねフェレル?」
ただひたすらにステージにのめり込んでいたフェレルに対してフィリアもまた楽しそうに笑みを浮かべていた。
「さすがに結婚してもう10年以上経つというから息がピッタリだったな」
「良かったわね義兄さん。リエッタとの結婚生活にいい目標が見つかってさ♪」
「や、やですわルーナったら。もう・・・」
ルーナのそんな冷やかしにリーゼットとリエッタは初々しく顔を赤らめた。
「ちぇっ! 見せつけてくれるよな。ステージでもこっちでもさ!!」
「大丈夫でちゅよジョイ。まだ若いんでちゅしこれからきっと素敵な出会いがありまちゅよ♪」
「そう言うオルニカこそ、誰かいい人見つけてよね。オルニカに気を使っていたら私、いつまでたってもお嫁に行けないもの!」
フォルにしては珍しく意地悪な言い回しだったが、心から自分の事を心配してくれている事をオルニカもわかっているのでジョイと一緒にふてくされるだけであえて何も言わなかった。
「でもやっぱ流石だよねぇ。ペドロさんとロファ、あの二人の後で大丈夫なのかなぁ・・・」
「・・・大丈夫。ペドロはこんな所で負けたりしない!だって、だってペドロは私と約束したもの。『世界一の手品師になる』って!!」
「・・・うん、そうだね!」
テトは手を組んだまま震えるマルカの両手を包み込むようにそっと右手を添えるのであった。
「それでは続きましてアルレッキーノとロファ・サーフェの出し物に入ります! どうか拍手でお迎えください」
観客席からの大きな拍手に迎えられる形で現れたのは紛れもなく『仮面の手品師アルレッキーノ』と少女用のフリフリステージ衣装を身につけたロファであった。
「いいぞぉアルレッキーノぉ!!」
「きゃあ~三代目かわいい~♪」
待ってましたとばかりに二人に黄色い歓声が飛ぶ。
アルレッキーノとロファはそんな観客達に対し愛想良く振る舞うと早速出し物を演じ始めた。
アルレッキーノはロファがどこからともなく取りだした『ボ◯カレー(辛口)』の箱を黙って受け取る。
それは通常の物より量の多い『特盛り』タイプであるため会場にあっても観客達は何とかそれとわかる事ができた。
「まず始めに取り出したりますはこの『ボ◯カレー(辛口)』。何の変哲もないこのボ◯カレーを背中越しに通すと・・・」
そう言ってアルレッキーノは『ボ◯カレー』を背中越しに左手から右手へ移す。すると・・・
「はい、『ボ◯カレー(甘口)』です!」
確かに背中を通すとさっきまで赤かった箱が黄色になり、『甘口』へと変わっていた。
「そしてこれを逆に戻すと・・・」
今度は背中越しに『ボ◯カレー』を右手から左手へ移す。すると、
「再び『ボ◯カレー』が辛口になります!」
確かに黄色だった箱が赤く変わっていた。それはそれですごいのだが余りに地味で面白味のない手品だった。
開始早々にも関わらず見ていた観客達の中には既に退屈ムードが生まれ始めていた。
「だけど中身は・・・」
「どうせ中辛とか言うんだろぉ~!!」
失望のあまりにヤジを飛ばす観客をしかしアルレッキーノは指さして驚く。
「そう、その通り! 何でわかったんです?」
大げさに叫ぶアルレッキーノに観客達は心底あきれ返った。
「そう。残念ながらご指摘の通り中身は『中辛』・・・」
と言いつつアルレッキーノが中身を取りだす。
しかし出てきた物は中辛ではなく、ましてや甘口や辛口でもなかった。
それは・・・
「フ、フルー◯ェ!?」
何故か『ボ◯カレー(辛口)』から出てきた物は『フルー◯ェ(メロン)』の特盛りサイズであった。
「あ、あれ!? ちがったっけ?」
アルレッキーノはゆっくりとロファの方を振り向いて、
「何で『ボ◯カレー』と『フルー◯ェ』を間違える~!?」
そんな二人の反応に観客達は急に可笑しくなってクスクスと笑い始めた。
しかしアルレッキーノはなりふり構わずにロファをきつく責め立てた。
「コラっ! 小道具を揃えるのは君の役目だろ!! なのに何で『ボ◯カレー』が『フルー◯ェ』になるんだ!?」
「ま、まぁいいじゃない! 別に箱の中から『ゴ◯ゴ13』が出てきたわけではないんだし・・・」
「そんなん出てきてたまるか~!!」
そんな二人の掛け合い漫才に観客達はますます笑うのであった。
「ご、ゴメンナサイ。でも実は失敗した時のためにもう一つだけ同じ物を用意してあるの。だからそれでもう一度だけ仕切り直しして?」
「そうは言っても同じネタじゃあもうお客様は満足しないぞ?」
すると再び観客席から、今度は『いいぞぉ、やってみせろぉ!!』と言う声がして、それに同調するかのように大きな拍手がわき起こった。
「・・・仕方ない。それじゃあもう一度だけ仕切り直すぞ!」
「うん!」
そしてロファは、またまた何処からともなく『ボ◯カレー(辛口)』を取りだしてそれをアルレッキーノに手渡した。
「さて、では仕切り直しという事でまずはこの『ボ◯カレー(辛口)』を背中越しに通して・・・はい! 甘口になりましたね?」
その言葉に合わせるように箱もまた赤から黄色へと色を変えていた。
「そして更にこれを逆に戻すと・・・」
そう言ってボ◯カレー(甘口)の箱を再び背中越しに左手へと渡す。すると今度は・・・
「ごらんのように『ボ◯カレー(辛口)』に・・・」
「なんで『フルー◯ェ』になってるの!?」
ロファに指摘されて慌てて左手を見下ろしたアルレッキーノ。
そこで見た品物は、確かに『ボ◯カレー(辛口)』でも『ボ◯カレー(甘口)』でもなかった。
『ボ◯カレー(辛口)』の箱は何故か『フルー◯ェ(オレンジ)』の箱へと変化していたのだ。
「何故『フルー◯ェ』? しかもオレンジ!?」
「それは私のセリフよ!!」
これでまた観客席は大いににぎわった。誰もが、少なくとも箱だけはそのままだと思っていた為にあっさり裏をかかれてしまったのだ。
「じゃ、じゃあ中身は・・・」
フルー◯ェ(特盛り)の大きめな箱を開けて中身を取り出してみると、そこに入っていた物はなんと・・・
「・・・『ゴ◯ゴ13』・・・」
「私の用意した『ボ◯カレー』はどこにやったのよ!!」
このロファのセリフで場内はついに大爆笑となった。
「す、すまないロファ! 確かに私は『ボ◯カレー』の箱に変えたはずなんだが・・・」
「もういいわよ!所詮あなたは『フルー◯ェ』好きの『ゴ◯ゴ』マニアなのよ! もう知らない!!」
「変なレッテルをつけないでくれぇ~!!」
気が付くと会場は大いに賑わい、二人のペースになっているのであった。
そんな二人のステージを舞台の袖から見ていたパトックとユニスの二人もまた必死になって笑いをこらえていた。
「しかし、『ミスリード』を使うとはな・・・」
「なかなかやるわねあの子達も・・・」
何とか笑いを納めた二人は改めて、二人の手品の師匠として、その成長ぶりを感慨深く見つめていた。
「最初にわざと失敗を演出し、そのあと再び同じ展開で話を進める事で見る者の心に最初と同じ結果を連想させる心理的技法『ミスリード』。それは無意識の内に行われるから見る者にはその自覚が無く、演技者にとっては相手の想像が予測しやすい為、その裏をかく事が容易になる」
真剣な顔でこの手品の真のトリックを説明するパトックに、ユニスもまた真剣な面持ちで耳を傾ける。
ユニスにとってもパトックは『人生の師』とも言うべき手品の師匠にあたるのだった。
「この技法の難しさは、表面上とはいえ同じ手品を繰り返さなければならない事にある。見る者にとって同じ手品を繰り返し見る事ほどつまらない物はない。結果がわかっているからだ。だからこの技法を使う為にはうまく流れを演出して見る者の心にある『同じ手品は見たくない』という抵抗感を無くさせなければならない。その問題点を二人は『掛け合い漫才』とりこむ事でうまくクリアーした。・・・でもこれはもう『漫才を使った手品』と言うよりは『手品を使った漫才』になっているね・・・」
「人の事は言えないでしょ。あなただってさっきやったばかりなんだから」
「おいらはいいのさ。『芸人』だからね。でもロファはともかく『世界一の手品師』を目指すのであればもう少しペドロは勉強する必要があるな・・・」
「そうね。技術に関してはこの私が保証するけれど、あの子に今必要なのは『自由な発想』と『少しの自信』。それさえあればペドロはきっと大化けするのに・・・」
「焦ることはないさ。それにあいつだって少しずつ前に進んでいるわけだし。何より『10年越しに実った恋』がこれからあいつを大きく変えていくはずさ♪」
「マルカちゃんだっけ? ペドロの『コロンビーヌ』は。はやく会いたいわね♪」
「本当に。・・・しかし『ボ◯カレー』に『フルー◯ェ』、あげくに『ゴ◯ゴ13』って一体どっちのセンスなんだ!?」
手品のトリック以上にそれは二人にとって重大な問題となるのであった・・・。
「これにて『銀猫遊芸団』本日の公演を終了させていただきます。真にありがとうございましたぁ!!」
会場が割れんばかりの拍手に包まれる中、『銀猫遊芸団』の初日公演は無事に終了したのであった。
そして興奮冷めやらぬ中一行はロファやペドロ、そして何より今日の公演に招待してくれたパトックとユニスにお礼を言う為に全員で楽屋へと向かったのだった。
そして楽屋へ到着した一行はノックの後に扉を開ける。
『こんにちは~!』
「あっ、みんなぁ♪」
「来てくれたんですか!」
中にはロファとペドロだけがいて、二人はちょうど化粧を落とし終えたところであった。
「面白かったよ二人とも~!」
「うん、とても楽しかった!!」
「ありがとうテト、フォル!!」
「ペドロも・・・カッコよくはなかったけど、私は好きだな」
「マルカ・・・」
「はいはい、すぐさま二人の世界を作らないの。彼女ナシのジョイ君が怖い目で睨んでいるよぉ~」
「誰が睨んでるジーン!!」
「でも本当に素晴らしかった。同じ舞台人としていい勉強をさせてもらったよ。ありがとう」
「リーゼットさん・・・」
「俺も今度書く小説は今日みたいに明るく楽しい物にしようと思う!」
「私も久しぶりに創作意欲が沸いてきた気分です。負けてはいられませんね」
「フェレルもロバートも、できたら教えて! 私が最初に読むんだから!!」
こうしてワイワイ騒いでいると再び扉が開いた。
「おや? ずいぶんお客が一杯だな・・・」
そう言って入って来たのは明日以降の打ち合わせを終えてユニスよりも先に戻ってきたパトックだった。
全員が憧れのパトックに握手をしてもらおうとすぐさま殺到した。
それに対しパトックは嫌な顔一つ見せず、むしろ喜んで一人一人と握手と言葉を交わすのであった。
そんなパトックだったがフォルを前にした途端、突如その笑顔をこわばらせた。
「あ、あの・・・」
その意外な反応にフォルは何か嫌われる事でもしたのだろうかと不安に駆られ、何とか話をしようとした。
だがそれより先にパトックが口を開く。
「・・・フォル・・・なのか? 本当に・・・」
「えっ!?」
初対面のはずのパトックが自分の事を知っている事にフォルは驚いた。
一行も二人のその只ならぬ様子に思わず振り向いた。
「フォル?・・・いや、まさかそんな・・・」
何かを思いだしてはそれを振り切るかのように頭を振るパトック。
そこで意外な人物が口を開いた。
「フォルでちゅよ『ロファ』。正真正銘、本物のフォルでちゅ・・・」
その声を聞いたパトックは声の主を振り返る。
「オルニカ? 君がここにいるって事はこの子はやはり・・・」
「お久しぶりでちゅね『ロファ』。いえ、今は『パトック』でちゅか。20年ぶり・・・」
こうして、20年という時を経て今、運命の輪は再び回り始めたのであった・・・。
次から後半部分になります




