1.仮面を被ったピエロの恋 part.2
中編です。
「・・・すごい人ね・・・」
「みんな彼が目的なのかしら・・・」
「チケット買えるかな・・・」
三人は今チケット売り場に並んでいるのだが着いた時にはもうすでに一時間待ちになっていた。
それでも仕方なく三人は並んだのだが、その後も更に並ぶ人の数は後を絶たない。
「理由はよくわからないんだけど彼のステージって予定が立てられないらしくて次にいつステージがあるのかは今の段階ではわからないのよね。だからみんなこんなに並んでいるんだろうけど・・・」
「え~、やだやだ絶対見たい~!!」
「落ち着いてマルカ。ここで騒いだ所でどうしようもないしおとなしく待ちましょ」
すると三人の元へタイプの違う美少女二人を引き連れた若い神官風の男がおもむろに近づいてきた。
「あれ? テトじゃないか。どうしたんだいこんな所で・・・」
「あ、ジーン! それにセリカにロファも!! あなた達こそどうしてここに?」
どうやら三人はテトの知り合いらしい。フォルとマルカは黙って成り行きを見守ることにした。
「今日は私の知り合いが出るからちょっと見に来たの。・・・そうだ!あなた達もステージを見に来たんでしょ? だったらちょっとこっちに来て・・・」
そう言って、年の頃なら12歳くらいの、長い黒髪がとてもきれいな美少女がいきなりマルカの手をつかんだ。
「えっ!? あ、ちょっと。私達チケットを・・・」
「いいからいいから」
少女は強引にマルカの手を引っ張って歩き出す。テトとフォルは訳が分からないながらもあとの二人と一緒にその後に付いていくのだった。
やって来たのは関係者用の入り口だった。
「ここからならタダで入れるわよ。さぁ、行きましょ!」
「行きましょって、ここは関係者以外立入禁止・・・」
マルカは早くも『ついて来なければ良かった』と後悔し始めていたが、少女はそんなマルカの気持ちなど気にもせずに入り口の守衛に声を掛けた。
「こんにちは。いつもご苦労様です!」
「おう、嬢ちゃんか。よく来たな」
「へ!?」
マルカが呆気にとられている横で少女と守衛は友達のように仲良く話を弾ませていた。
「それで、実は今日はお友達も一緒なんだけど・・・」
少女に上目遣いに見上げられ、守衛もたまらず相好を崩した。
「ああ、いいよ。でも一般のお客さんに気をつけて、目立ったりしちゃダメだぞ」
「うん! ありがとう、オジサマ♪ さぁみんな、行きましょう!!」
そう言って先に進んでいく少女に流石に訳が分からなくなったマルカはテトに尋ねた。
「あの娘・・・テトの知り合いみたいだけど、ここの関係者の家族か何か?」
するとテトはマルカ同様に訳が分からなくなっているフォルにも聞こえるような声で説明した。
「うん。あの子とはアルバイト代わりに入ってるギルドで知り合ったんだけど、あの子こそ何を隠そう『二代目ロファ・サーフェ』の実の息子にして現在は三代目を襲名した『三代目ロファ・サーフェ』よ!!」
『ええ~!?』
色々と意外な少女の正体に驚いてマルカとフォルの声が思わず大きくなる。その口をジーンとセリカが音もなくそれぞれふさぐ。
「声が大きいよ。気をつけて」
そう言ってジーンはマルカから手を離す。セリカも同様にフォルから手を離した。
「あなた方もギルドの方達なんですか?」
いきなり知り合ったばかりの男に口をふさがれただけでなく、しかもその気配に全く気づけなかった自分に怒りを覚えながらも、マルカは努めて冷静にそう尋ねた。
「そうだね。まずは自己紹介といこうか。俺の名はジーン・レイナート。しがない女神教の神父さ。そしてこっちが俺の妻のセリカ」
「こんにちは」
ジーンのずいぶんと軽い口調に対しセリカの方は実に淡々としていて感情が感じ取れなかった。
「えっ、奥さん?」
どう見ても自分と対して年が変わらないこの少女が人妻であると聞いてフォルは少し驚いていた。
「それであなたが・・・三代目ロファ・サーフェ・・・」
こちらも未だに驚きが抜けないまま何かを確認するかのようにそうつぶやく。
「ええ、そうよ。そう言えばあなたの名前は?」
そう尋ねられて初めて、自分がまだ名前を名乗っていなかった事に気づく。
「ご、ごめんなさい。私、テトの友達でマルカ・クライシーズって言います」
「同じくフォル・ナディです」
明らかに少女、もとい少年の方が年下であったが思わず丁寧語で話してしまうのは育ちの良さ故だろうか。
それよりも少年はマルカの名前を聞くとちょっと驚いた顔をして、それからとても子供とは思えないような含みのある微笑みを浮かべた。
「マルカ・クライシーズ。そう、あなたが彼の『コロンビーヌ』なのね・・・」
「?」
その子供らしくない態度にムッとしたマルカだったがそれ以上に気になる事があった。
「ねぇ、もしかして私のこと誰かから聞いた事があるの? それに『彼』って?」
しかしロファはその言葉に気づかなかったフリをして先へと進んだ。
「さぁ、行きましょう! もうすぐステージが始まるわ!!」
そして一行が向かったのは何と『特別貴賓席』というマジックキャッスルの最高級席であった。
これにはさすがに慌てたのかジーンがロファに確かめる。
「お、おいロファ。いいのかここに入って。いつものように一般席の方がいいんじゃないのか?」
「平気よ、どうせ空いてるんだから。私達の席は他の立ち見のお客さんに座ってもらいましょ。それに・・・今日はマルカさんがいらっしゃる事だし・・・特別よ」
「えっ、私!?」
「さぁさぁ座って座って! 折角の貴賓席なんだから、ルームサービスは流石に無理だけどせめてソファだけでもたっぷり満喫しましょ!!」
結局、ロファ一人に押し切られるようにして全員、席に着いた。
さすがに最高級席のソファだけあって柔らかくてふわふわなのに体が沈みすぎる事は無く、適度に体を押し戻してくれるので座り心地も最高だった。
ちなみに左からジーン、セリカ、ロファ、マルカ、テト、フォルの順に座っている。座席自体がど真ん中すぎる位なのでどこに座ってもとても良くステージが見れるのだが、それでもロファは強引にマルカを中心に座らせた。
ここまであからさまにされれば流石にマルカも自分がかなりひいきされている事に余裕で気づく。
元々の性格もそうなのだが、マルカは人に差別されるのが嫌いな質だった。それが例えいい意味での特別扱いだとしても、だ。特に今は友達も一緒という事もあって余計に気に障った。
「どうして私だけひいきにするの? もしかして私が貴族の娘だから?だったら・・・」
「そんなの関係ないわ。あなたの生まれがどうであれ今日だけは特別なのよ。あなたが彼の『コロンビーヌ』である以上はね・・・」
また聞き慣れない単語を耳にするマルカ。
『コロンビーヌ』とは一体?
彼とはいったい誰のことなのか?
今度こそ問いただそうとマルカはロファの方に振り向く。
「ねぇ、それってどういう・・」
「ほら、始まるわよ!」
今までとはうって代わりまるっきり年相応な顔でステージを見つめるロファに毒気を抜かれ、仕方なくマルカもステージの方を見つめた。
そこに立っていたのは顔の上半分を仮面で隠し、ステージ衣装に身を包まれた一人の手品師だった。
その手品師を見た瞬間、マルカは何故か不思議な懐かしさを感じたのだがその理由はわからなかった。
そしてステージが始まる。
まずはじめに仮面の手品師は自らを『アルレッキーノ』と名乗った。 彼の語りは余り多くを語らずに、しかし押さえるべきポイントは押さえた話し方なのでうるさくなく耳にするりと入ってかえって心地よかった。
(でもこの声・・・どこかで聞いた事がある・・・)
マルカは静かに声に耳を傾けた。
最初にアルレッキーノは4つの玉をどこからともなく出して見せた。4つの玉はそれぞれ赤・青・黄・白に塗り分けられている。
そして今度はそれを使ってジャグリングを始めた。ジャグリングそれ自体は見事な技の数々だったが本命の手品とは言えなかった。
そう思って見ていると、ジャグリングが終わった時に不思議な違和感の様なものを感じた。
その正体を考えようとしたその瞬間、違和感の元が床へと落ちた。
アルレッキーノは確かに右手に二つ、左手に二つ、投げていた玉を持っていた。しかし今、その彼の足下にはもう一つ、緑の玉が落ちていた。 確かに最初、4つの玉で始めたジャグリングだったのに、終わってみたら玉が一つ増えているのだ。
ステージに立つアルレッキーノも思わず首を傾げている。
しかし気にする事を止めたのか、アルレッキーノは再び同じ事を繰り返した。そして今度こそ怪しい動きがないか探ってやろうと、客席全員がアルレッキーノの動きに集中した。
そして再びジャグリングが終わる。彼の動きにどこも怪しいところは無かった、筈だった。
しかしそんな観客をあざ笑うかのように、今度はオレンジの玉が緑の玉に寄り添うように床へと落ちた。
どうなってるのかは誰もわからなかった。
次にアルレッキーノは新しく増えた二つの玉も使ってジャグリングをした。玉の数が一つ増えるだけでも、ジャグリングの難易度はかなり上がるのだがそんな事を微塵も感じさせない程の華麗で見事な玉さばきをアルレッキーノは披露した。
しかしこれもまた、終わってみると異変が起こっていた。
玉の数が4つに減っているのだ。しかも今度は全てが赤い玉へと変わっていた。
異変はジャグリングが終わる度に起こった。
赤い玉でジャグリングをすると、今度は4つの玉の内の一つが真っ赤なリンゴに変わっていた。
持ち玉の一つがリンゴになってしまった事を気にした風もなく、アルレッキーノはリンゴに歯をたてた。
それはシャリ、っという音まで聞こえてきそうな瑞々しさの正真正銘リンゴであった。
アルレッキーノはその食べかけのリンゴをそのまま使いながらジャグリングを始めた。そしてそのままジャグリングをしながら上手にそれを囓ってみせたりする。
リンゴをきれいに食べ終えてからジャグリングをやめると、リンゴの芯はいつの間にか無くなっていて、残りの赤い3つの玉も気づかぬ間に青い4つの玉へと変わっていた。
「どうなってるの、コレ・・・?」
「全然わからない・・・けどスゴぉイ!!」
テトとフォルの二人はすっかり目の前の驚きに魅了されていた。
もちろんジーン達三人も、目はステージに釘付けになったままだ。
アルレッキーノの手品は数が増えたり減ったり、物や色が変わったり等と実に見た目はシンプルだった。
だがそれだけにごまかしは利かないし、シンプルすぎて余計にタネがわからない。
ジャグラーとしても見事な腕前を持っているのでそれに見とれているといつの間にか異変が起きている。勿論ジャグリングを使わない手品も実に見事である。
アルレッキーノの手品は大人から子供まで、誰が見ても一目でわかり、そして実に驚きに満ちた手品なのである。
だがそんな素晴らしい手品を前にしても一人マルカだけはステージに集中せず別のことを考えていた。
彼女の視線はステージや手品ではなく、アルレッキーノ本人にのみ注がれていた。
(身長は・・・たぶん同じくらい。体格も似てる。それに何と言ってもあの声! まさか・・・本当に!?)
ステージの上で威風堂々としている姿はとても場慣れしていない新人とは思えないし、声にも自信があふれ、力強く覇気に満ちている。
マルカが想像している人物とはあまりにかけ離れている。だが彼女はアルレッキーノの正体が彼女の想像している人物であると半ば確信していた。
他の人間なら見逃してしまうであろう細かい癖などが一緒だったからだ。それは10年間側にいて、ずっと見続けてきたマルカだからわかる事であった。
でもだからこそ彼女は彼を許せないと思った。
ずっと側にいたのに彼は彼女に隠れるようにしてこのステージに立っている。誰もが認める一流の手品師として・・・。
結局マルカはこのステージで唯一拍手を送らなかった観客となった。
次回後編です




