ぽつりと残るは黒い羽
「お前……。よくあんなに手なずけたな……。いや、洗脳って言ったほうが正しいか」
「むっ、失礼な。先生のすばらしさは全国共通、いや、全生物共通なんですよっ!!」
「勝手に共通にすんな!!」
むぅ。この素晴らしさがわからないなんて……。
あれか。
レイヴンやレオンティウス様は幼馴染で、ずっと一緒にいたから近すぎて気づけないのか。この良さに。
確かこの間メルヴィが書いてる薄い本(レイシリ本)でそんなのがあった気がする。
「いつか気づきますよ……。本当の愛に……!!」
「何言ってんだ……」
私のよからぬ想像を察したのか、両腕を抱いて青ざめるレイヴン。
「はぁ……ったく。その様子じゃ大丈夫か」
「大丈夫? 何がですか?」
私が首をかしげると、レイヴンが眉を顰め言いにくそうに口を開いた。
「…………大聖女お披露目のパーティ。一時的とはいえ、今はシリルがエリーゼの護衛だし、パーティもそのままシリルがエスコートすることになるんだろう?」
「……はい」
先生を一時的にエリーゼの護衛に付かせてから、私はちゃんと先生と話が出来ていない。
何か言いたそうにはしているものの、エリーゼが常に一緒にいる場では口を閉ざしたまま、最低限の挨拶のみが交わされる。
エリーゼの調子が戻るまでの一時的なもの。
とはいえ、私だって何も思わないわけではない。
あるべきところに戻った。
だけどやっぱり、抱いてしまったかすかな期待が胸を締め付ける。
そこは──私の居場所なのに、と……。
「良いのか? お前は」
「……仕方ないですよ。エリーゼはまだ本調子じゃないですし、一人で行動してもし何かあってもいけませんから」
アレンに任せるにしても、魔王に長年規制されていたことから彼もしばらくは神殿で過ごしながらエリーゼの聖魔法による浄化を受けないといけないくらい疲弊しているのだし。
「でもさぁ、俺やレオンだって──」
「レイヴンは戦争で傷ついた防護壁の修復があるでしょう? それに加えて、今年もグローリアス学園の担任もありますし」
今年もレイヴンはクレアたち──二年生となったクラスの持ち上がり担任をすることになっている。
生徒一人ひとりの良いところを引き出してくれるレイヴンは、先生に向いていると私も思う。
だからこそ、しっかりと生徒たちの傍にいてほしいと思う。
「レオンティウス様も諸々の指示を出したり、次期騎士団長との連携で忙しいですし。先生はそれこそ忙しいですけど、少しずつバトンを渡すためにも離れることは必要ですからね。それに、元老院はどうしても先生をエリーゼに付かせたいみたいですし」
聖女信仰思考の強い元老院だ。
エリーゼを担ぎ上げ、そこに人気も高く、かつてエリーゼと婚約するのではと言われていた先生をあてがい、聖女フィーバーを盛り立てることで自分たちの思想を前に押し出したいのだろう。
正直不快ではあるけれど、先の戦いで疲弊している国民にとって少しでも明るい話題があることは良いことなのかもしれない。
「と、いうことなので、私は今回脇役に徹します。そう、忍者の如く忍んで見せますとも……!!」
「何だよニンジャって……。……はぁ……。まぁ、お前が良いならいいけどさ。無理はすんなよ?」
ガシガシ、と乱暴に私の頭を撫でてからニカッと笑うと、レイヴンは「じゃぁな」と言って後ろ手に手を振りながら訓練場から出ていった。
「……無理、か……」
つぶやき視線を伏せると、足元にぽつんと落ちている黒く大きな羽が目についた。
「カラス? にしてはフワフワか」
羽ペンにでも使えそうな大きさだけれど……。
ゴーン、ゴーン──。
グローリアスの鐘の音が響きわたる。
「いけない!! 明日のお披露目の為に何人か諸外国の要人が前日入りするんだった!! さすがにちゃんと支度しないと怒られる!!」
私は拾った羽をポケットにしまうと、そのまま訓練場を後にした。




