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問題児集団

『自身の身辺警護をさせつつ、彼らに高潔な騎士としての自覚と成長、そして更なる騎士道の精進を促すため、レイヴン一等騎士を筆頭に…』


 軍人事部に宛てて認めた手紙を侍女長に渡した。 エレザは普段とは全く違う、ごく一般的な黒いフォーマルなドレスに身を包んでいた。今になって気付いて、葬儀用のヴェールを外した。


(流石に葬儀にあの格好は無いよね…)

 元凶たる大聖女様にも一応分別はあったらしい。


 ()()()()()()亡くなったパリエル第三王子の国葬に参列した後だった。


 パリエルの評判は必ずしも良いものでは無かったし、彼の婚約者候補も不審な死を遂げていた。…自分自身殺されかけた身としては葬儀に参列するのは気が引けたが、聖女と言う立場上、拒否する事も出来なかった。


 それでも彼に次の人生があるのなら…そう思い、彼岸で彼が更生し、その罪を全て贖った上でパリエルに冥福があるよう祈った。



◇◇◇ 

 

 

 手紙を送って三日後、軍からの返事の手紙を持参したレイヴンに五日ぶりに再会した。

 周囲の目もあるため、レイとはあくまで同郷の親友だったという事だけを明かし、互いに無暗に接触しないように努めた。

 軍からの手紙には行間から溢れんばかりの、

「聖女様のおかげで厄介払いができました、本当にありがとうございます。しばらくと言わず、末永くこき使ってやってください」

 という本意がありありと見て取れた。


「では聖女様、我が分隊・グリフォンズですが…戦士として優秀であることは保証いたしますが何分、大なり小なりの()()()揃いでありまして。…驚かれるかも知れませんが、ご容赦下さい」

 レイが横目で「大目に見てくれ…」と申し訳なさそうに語りかけてきた。


「ええ。よくぞ来てくれました、レイヴン一等騎士。 どうぞ、通して下さい」


 入室してきたのはごく普通の三人の騎士だった。…いや、よく見ると全員個性的で癖が強い。


 いかにも強面で屈強そうな重騎士が一歩前に出て口を開いた。

「グリフォンズが一番槍、ヴォルト二等騎士であります!この度は聖女様の御傍で警護に立てるという、身に余る光栄に…」

 くくっ、と強面が崩れ、感極まったのか大粒の涙を流して号泣し始めた。


(え、えぇ…… そこで泣く…?)

 困惑するエレザの傍に立ち、レイが小声で耳打ちした。


「…悪い奴じゃないんだが異様に涙脆いんだ。…これでも分隊一の常識人だ」


「あーあー、また泣いちゃって。暑苦しいから止めなって。 お初にお目にかかります、見目麗しき聖女様。自分はアレスタと申します。以後、お見知りおきを」


 長身の美形青年が恭しく宮廷風の辞儀をして見せた。 非常に洗練された自然な仕草で、本当に貴族なのかも知れない、と思える程だった。


「…最重要警戒対象だ。 …二人きりになるのは避けてくれ。 絶対に」

 レイが敵意も露わに、語気を強めて囁いた。


「は、はい…」

 有無を言わさぬレイの雰囲気に押され、エレザはこくこくと首を振った。


「へぇ、聖女様っていうからどんな偉ぶったオバハンかと思えば…ただのスケベな格好したねーちゃんじゃねぇか」

 ズケリと言われて、エレザは面食らってしまった。

 猛禽を思わせる…ワルっぽい目つきの銃士。レイの精悍さをガサツに変えたような…良く言えばワイルド、隠さずに言えば蛮族の美少年。…ただ、ヒールの分を除いても自分より遥かに小柄な為、その迫力は多分に薄れている。


「…失礼だぞ。それに、聖女様をそんな目で見るな」

 レイの額に青筋が微かに浮かぶ。


「すみませんねぇ、聖女様。コイツ、レドって言います。この通り自己紹介も満足にできない馬鹿な素行不良健康少年でしてね。だからお情けで卒業できたけど、士官学校なのにコイツだけ準騎士なんですよ。 幼年学校一応卒業見做し・的な。 軍学校史上初・伝説のおバカキッズです。 ついでに無駄に粋がって悪ぶってるだけです」


 アレスタが笑いながら補足しながら、隣のレドが殺意を持って叩き付けた、冗談にならない銃床をひらりと躱した。

 

「ちなみに禁句は「チビ」と背丈関連の話題です。くれぐれも慮ってやって下さいませ。これでも士官学校では殺人チワワと呼ばれ恐れられたちびっこギャングでして」


「テメェ…! 表へ出やがれ!ヤリ〇ン糞ノッポ!」


「いい加減にしないか、貴様らッ!聖女様の御前だぞ!?」


 それまでオイオイ大泣きしていたヴォルトが自分を棚に上げ、充血した目でアレスタとレドを軍人らしく怒鳴りつけた。


 …エレザは引きつった笑みを浮かべたまま、完全に置いていかれていた。

「…後悔しているだろうが、諦めてくれ。 これでも腕は立つ連中だ」

 レイは頭を抱えながら力なく呟いた。…他に手が無かったとはいえ、今更ながらに自らの提案を悔いているらしい。



「ところで聖女様、レイ隊長とはどういうご関係で?」

 ぬっ、といつの間にか忍び寄っていたアレスタがレイとエレザの間に割って入って来た。

 見ればレドはヴォルトに羽交い絞めにされ、宙で喚きながら藻掻いている。


「は、はいっ!? あ、いえ、私とレイは…同郷の親友です」

 言い終わらぬうちにアレスタの口角が一層上がって、ニンマリとした笑みを浮かべた。


「なるほどなるほど。…つまり、特別深いご関係では無い、と?」

 

 …なんだか、逃げ場を塞がれた被捕食動物になったような気分だった。

 どう答えたものか迷ってフリーズしていると、レイがアレスタを押し退けた。


「やめろ、困っていらっしゃるだろう。 …聖女様の民間人時代の個人的会話は控えるものだ。 …さぁ、挨拶は終わりだ。シフト表に従って王城内の巡回を開始しろ。くれぐれも先輩騎士達に失礼のないようにな。 …特にレド」

 

「おっと失礼。…それでは聖女様、また後ほど♪」


 三人…うち一名が強制的に退出していき、エレザの執務室には二人きりになった。


「…すまない、驚いただろう」

「うん」


 ハッキリ答えると、レイは苦笑した。

「…根は良い奴らなんだ」

 エレザは微笑んで頷いた。

 ――分かっている。レイと一緒に卒業したチームだというなら。…癖は強すぎるけど――


「これからはなるべく傍にいるよ」

 レイが身を寄せてきた。エレザも逃れず…不意に戸口が開いて、二人は慌ててそれぞれ反対方向に素早くサイドステップした。


「おーい、まだかよ隊長?」


 戸口から覗いたアレスタに向け、レイは「今行く」と短く応じ、名残惜しそうにエレザを振り返った。


 エレザはレイに向かって微笑み、アレスタの死角から手を小さく振った。

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