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SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する!  作者: 宇宙のモナカ


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第56話 密室のインターフェース

第3詰所の薄暗い整備ドックの最奥。

そこには、修復と大規模な改修を終えたばかりの巨大な鋼鉄の塊が鎮座していた。


アイリス専用の機甲兵(カタフラクト)、『アイアン・メイデン』。

その名の通り、中世の拷問器具を思わせる無骨さと、貴婦人のドレスを模したような幾重にも重なる分厚い黒の重装甲。

約4メートルの巨躯から放たれる威圧感は、ただそこに立っているだけで周囲の空気を冷たく張り詰めさせるほどの凶悪さを誇っている。

ベネディクトの激闘でボロボロになっていた外装は見事に塗り直され、ドックの天井から降り注ぐ照明を弾いて鈍い光を放っていた。


「おお……きれいになってる。よかったね、アイリス」


ちょっと前までのコアブロックに短い手足のダルマみたいな姿も密かに気に入っていたのだが、やはりこのロボットロボットした見た目も男心をくすぐるものがある。

その隣で、油にまみれた作業着姿のルミナが「ふふん」と得意げに胸を張った。


「直っただけじゃないよ! 前はアイリスちゃんが色んなメーカーのパーツを継ぎ接ぎして動かしてたけど、今回はフレームの駆動系からOSの伝達回路まで、全部サクラデバイスの軍事部門が作ってる最新パーツで統一したからね! おかげで反応速度は段違いだし、各関節部のショックアブソーバーも換装済み。アクチュエーターの同期ズレもコンマ数ミリ単位で修正して、メインジェネレーターの出力制御もバイパスを増やして効率化してるから、操縦桿を握った時の『機体に着られている感』がすっかり消えて、文字通り手足みたいに動かせるはずだよ!」


一度語り出すと止まらない、メカオタク特有の早口と熱量。

ルミナが身振り手振りを交えて熱弁を振るう通り、機体から漂う雰囲気は以前の「規格外のキメラ兵器」から「洗練された最新鋭の兵器」へと確実な進化を遂げていた。


しかし、当のパイロットであるアイリスの表情は、どこか不満げだった。


「……ええ。機体の動きが良くなったのはとても感謝しています。でも、その代わり私の20ミリ6連装ガトリングキャノン『魔弾の射手(フライクーゲル)』と、パイルバンカー『串刺し公(ツェペシュ)』は、重量オーバーとシステム規格外を理由にスケールダウンして、ただの12.7ミリ汎用機関銃と規格品のタクティカル・ランスになっちゃいましたけどね」


アイリスがジト目で指差した先には、確かに以前よりも二回りほど小ぶりになった無難な武装がマウントされていた。

圧倒的な火力と破壊を愛する彼女にとって、この「常識的で大人しい武装」へのダウングレードは、どうにも納得がいかないらしい。


「あはは、ごめんってば! あっちは今、アイアン・メイデンの新フレームでも反動を殺しきれるように、アタシが徹夜で『いい感じの特注品』を設計・発注してるところだから! ひとまずは、その正規品の武装で我慢してよ」


ルミナが両手を合わせてウインクすると、アイリスは「仕方ないですね……」と小さくため息をつき、再び自分の愛機へと向き直った。


「まあ、外側の文句はさておき……小隊長、見てください。今回の改修の『本命』はこっちなんです」


そう言うと、アイリスは誇らしげな笑みを浮かべ、機体の腹部にあたるコックピットのロック解除コードを入力した。

プシューッ、という重々しい排気音と共に、分厚い黒の装甲ハッチが前方にせり出し、ゆっくりと上下に展開していく。


血生臭い戦闘の要である、パワードスーツの心臓部。

どれほど無機質で、計器とケーブルが剥き出しになった息苦しい空間が広がっているのかと、ビャッコが興味本位で中を覗き込んだ瞬間――彼女は、文字通り絶句した。


「……は?」


ビャッコの端正な口から、間の抜けた声が漏れる。

そこにあったのは、戦場とは一切無縁の異空間だった。


鉄の匂いやオイルの臭いは微塵もない。代わりに漂ってきたのは、ふわりと香る高級なアロマの匂いだ。

狭いはずのコックピット内には、なぜかベルベット調の布地で覆われた、座り心地の良さそうなフカフカのクッションシートが鎮座している。

足元には毛足の長いラグマットが敷かれ、壁面にはリラックス効果を高めるような淡いオレンジ色の間接照明が優しく灯っていた。

さらにご丁寧に、シートの脇には温度調節機能付きのドリンクホルダーまで完備され、パイロットの顔に向けて小型の空調から適温のそよ風が吹き出している。


それはどう好意的に見ても、最前線に立つ兵器の操縦席ではなく、高級車の後部座席か、あるいは設備が充実しすぎた完全個室のインターネットカフェのそれであった。


「どう? アタシの自信作!」


硬直するビャッコの隣で、ルミナがえっへんとドヤ顔を披露する。


「戦場って、ただでさえパイロットの精神をすり減らすでしょ? だから、居住性を極限まで高めてストレスを軽減させることも、立派なスペック向上の一環なんだから! 名付けて『エグゼクティブ・コックピット仕様』だよ!」

「ルミナさんの言う通りです! これなら長時間の待機任務でも、腰を痛めることなく快適に過ごせます!」


胸を張るルミナと、目を輝かせるアイリス。

二人の自信に満ちた顔を前にして、ビャッコはピクピクと引きつる頬を抑えることしかできなかった。


(いや、いくらなんでも豪華すぎだろ……っ!)


外観は殺戮を体現したような分厚い装甲兵器。

しかし中身は、アロマ香るふかふかのリラクゼーションルーム。

このあまりにも高低差の激しいギャップに、ビャッコの脳内では、声に出せない激しいツッコミの嵐が吹き荒れていた。


だが、冷静に考えてみれば、前線で命を張るパイロットにとって居住空間が快適であることは決して悪いことではない。


(いや、むしろ羨ましい……。詰所の俺のデスクの椅子なんて、座面がペラペラの安物なのに。でも、これも一種の福利厚生と思えば……)


自分の安っぽい労働環境を頭の隅にちらつかせつつ、ビャッコは持ち前の社畜根性で無理やり己を納得させた。


「どうですか、小隊長?」


誇らしげに感想を求めてくるアイリスに、ビャッコは引きつっていた頬を緩めて頷く。


「うん、いいんじゃないかな。すごく快適そうで……私も一度乗ってみたいくらい」

「本当ですか? じゃあ、乗ってみますか?」


アイリスがパッと花が咲いたような笑顔を見せる。


「え? いいの?」

「もちろんですよ! 他の人なら絶対に嫌ですけど、小隊長は特別ですから!」


その言葉を聞いた瞬間、ビャッコの中で眠っていた『巨大ロボットへの憧れ』という男のロマンが強烈に疼き始めた。

外見は美少女ヒューマロットとはいえ、中身はれっきとしたロボット好きの元おっさんである。

あの重装甲のコックピットに座れるという事実に、内心のワクワクが抑えきれなくなっていた。


「では、お言葉に甘えて……」


ビャッコは少し上擦った声で返事をすると、期待に胸を膨らませてハッチに足をかけ、フカフカのクッションシートへと身を沈めた。


「おお……これは確かにすごいな。フィット感が——」


その時だった。

プシューッ、と分厚い装甲ハッチが閉まりかけた絶妙なタイミングで、黒い影がスルリとコックピットの中へ滑り込んできたのだ。


「えっ!?」


完全にハッチが閉まり、間接照明だけが灯る薄暗い密室空間。

驚いて振り返ろうとしたビャッコの背中に、ふわりと温かく、そして圧倒的に柔らかい感触が押し付けられた。


「!? なんでアイリスも乗るの?」

「ふふっ。それはもちろん、私が直接操作を説明するためよ? 小隊長♪」


耳元で囁かれたその声に、ビャッコは背筋をゾクッと震わせた。

普段の温厚で礼儀正しいアイリスではない。

自らの愛機、文字通りの『絶対領域』であるコックピットに乗り込んだアイリスは、人が変わったように強気で、嗜虐心を煽るような艶やかな口調へと変化していたのだ。


もともと単座用に設計されたコックピットである。

いくら小柄なアイリスと、さらに華奢で小柄なビャッコの二人とはいえ、同じシートに収まれば当然のように体は限界まで密着することになる。

背後からビャッコを抱き込むような体勢になったアイリスの、豊満で柔らかな双丘が背中にピタリと押し付けられる。

身じろぎするたびに布越しに伝わってくるむっちりとした弾力と、密閉空間に充満するアイリスの甘いシャンプーの香りが、ビャッコの理性を容赦なく揺さぶっていく。


(ちか、近い近い近いっ! 当たってるから! 色んなところがガッツリ当たってるから!)


「さあ、小隊長。まずはこのメインコンソールの……」


アイリスが前方のパネルを指差すため、ビャッコの腰の横からスッと両腕を伸ばす。

その動作のたびに、アイリスの熱い吐息がビャッコの首筋をくすぐった。

生々しい体温と、肌と肌が擦れ合う微かな衣擦れの音。

極限の密着状態がもたらす濃密でエロチックな空気に、ビャッコの頭は完全にくらくらと茹で上がりそうになっていた。


そんなビャッコの限界など露知らず、いや、あるいは確信犯なのか。

アイリスの顔がさらに近づき——彼女の形の良い唇が、ビャッコの頭部でピコピコと落ち着きなく揺れていた細長いエルフ耳を、ハムッ、と甘噛みした。


「んぁっ!? な、なにするの!?」


全身がビクンと跳ね、ビャッコの口から情けない声が漏れる。


「ふふっ、ごめんなさい。目の前で可愛く揺れてたから、つい食べたくなっちゃって」

「た、食べたって……!」

「さあ小隊長、よそ見しないで。次はジェネレーターの出力調整のやり方を教えるわね。こうやって、もっと奥までぐっと押し込んで……」


完全にアイリスのペースに呑み込まれ、逃げ場のない密室でねっとりとした個人授業を受ける羽目になるビャッコ。

しかし、その頃。分厚い装甲の外では、別の意味で恐ろしい事態が進行していたのだった。



「ビャッコはこっち? ――騒がしいわね。何してるの?」


コツカツ、とヒールを鳴らしながらドックに入ってきたのは、漆黒の髪を揺らすネオンだ。

そんな彼女の問いかけに、作業台を片付けていたルミナが何でもないことのように答えた。


「うん? アイリスちゃんがビャッコちゃんに、アイアン・メイデンの試乗をさせているところだよ」

「は? 試乗って……二人で、あの狭いコックピットに?」


ネオンの眉がピクリと動いた、その時だった。

アイアン・メイデンの外部装甲に備え付けられた巨大なスピーカーから、艶っぽい声がドック内に響き渡ったのだ。


『ほら……もっと、指を奥まで入れてみて。小隊長♡』

『こ、こう……? あっ、なんか……すごく熱くなってきてる……っ』

『ふふふ、いい子ね。そのまま……奥の硬いところを、ぐっと、押し込んで……ゆっくり、ね?』

『んぁっ! ちょ、急に……動かさないでっ……!』

『もっと深く……感じて? ほら、こうやって……リズムよく、上下に……』

『はぁ……っ、アイリス、待って……!』


「…………」


それは紛れもなく、ジェネレーターの出力調整や機械の操作を教えているだけの真っ当な会話である。

しかし、密室特有の熱を帯びた息遣いや、アイリスの異常に艶めかしい声色がスピーカーを通して出力されることで、外で聞いている分には完全に「アウト」な響きを帯びていた。


プツン、と何かが切れる音がした。

少なくともネオンには、自分の頭の中でそれがはっきりと聞こえていた。

その余韻の中、ネオンの華奢な肩が、ワナワナと小刻みに震え始めるのだった。



再び、視点はコックピット内へ。


(だめだ、アイリスが近すぎる……! 匂いと柔らかさで、本気で頭がおかしくなりそう……っ!)


アイリスに背後からすっぽりと包み込まれ、別の意味で限界寸前まで追い詰められていたビャッコ。

しかし、突然。


『――ハッチを開けなさい、今すぐに』


外部通信のスピーカーから、地獄の底から響いてきたような、ドスの効いたネオンの声がコックピット内に轟いた。


「ひっ!?」


ビャッコが弾かれたように肩を跳ねさせる。背後のアイリスは「チッ」と微かに舌打ちをした後、ひどく不満げにハッチの開放ボタンを押した。


プシューッ、という重々しい排気音と共に分厚い装甲が開き、逃げるように外へ飛び出したビャッコを待ち受けていたのは――般若のような笑みを浮かべるネオンだった。


「……ずいぶんと楽しそうだったじゃない、二人とも?」

「ちがう、誤解。これはただの操縦訓練で……」

「あら、ネオン先輩。そうですね。とっても楽しかったですよ? 特に耳にかみついた時の小隊長が可愛かったですね」

「……へえ、言うじゃない」

「「…………」」


青筋を立てて笑顔を張り付かせるネオンと、コックピットから降りてきて余裕の笑みで迎え撃つアイリス。

二人の間に、バチバチと不可視の火花が散る。


その横で、腹を抱えて大爆笑するルミナ。

血生臭いディストピアの片隅で繰り広げられる、いつも通りの平和で騒がしい日常の光景だった。


――だが、そんな騒ぎが一段落したところで、ネオンがコホンと咳払いをしてタブレットを取り出した。彼女の表情から私情がスッと消え、冷徹な仕事モードへと切り替わる。


「遊んでるところ悪いんだけど、上から新しい任務の通達よ」


ネオンがタブレットの画面をビャッコへと向ける。

そこには、けばけばしい天然毛皮を纏った男のデータが映し出されていた。


「……面倒な相手の護衛任務みたい」


ドックに漂っていた平和な空気は一変し、油と鉄の匂いが混じる空間に、微かな不穏の影が忍び寄っていた。


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