22・秘密兵器
【side 騎士団長】
トウゥルグ森林街。
大波のようになって迫り来る魔物の大群を見て、この作戦の指揮を執っている騎士団長は絶望していた。
(なんという数だ……)
最初、女王から命令が下された時、騎士団長は半信半疑であった。
『魔物が三百……いやそれ以上になって、王都に襲いかかってくる。なんとか森林街で食い止めてくれ』
三百体?
有り得ない。森林街に巣くう魔物を全て合わせたとしても、三百には届かないだろう。
しかし騎士団長は森林街にある一番高い建物の屋上でそれを見据え、言葉を失っていた。
(三百どころか……四百……いや、五百はいるのではないか!?)
五百。
あまりにも絶望的な数だ。
しかも一体一体が非常に強力。Aランク冒険者を複数要したとしても、一体倒すのに手こずるだろう。
「騎士団長殿」
一人の騎士が名前を呼ぶ。
その時になって、やっとのこさ騎士団長は魔物の大群から一旦視線を外すことが出来た。
「どうしますか? 勇敢な冒険者達も残ってくれました。ただ……Aランクに位置するアイリスとレックスの姿が見えないのは、懸念材料ですが……」
「あ、ああ」
「指示をください」
指示?
この魔物の大群を前に、まともな指示などあるわけないだろう!
今すぐ逃げ出せと言いたいところだ。
しかしそうすれば、あの魔物達は王都に押し寄せるだろう。そうなってしまえば、繰り広げられるは蹂躙、地獄のような光景が王都で繰り広げられてしまう。
逃げるわけにはいかない。
(王女は『時間さえ稼げば秘密兵器が行く。持ちこたえてくれ』と言っていたが、果たして……どれだけ期待が出来るのだか)
イアナ王国には勇者がいない。
魔神ムギュロスが事故死したのは、イアナ王国にとって僥倖であった。
(くっ……ここで散るなら本望よ。命を賭して、我ここに参上する!)
騎士団長が覚悟を決め、魔物の軍勢に勝負を挑もうとした——その時であった。
バァァァアアン!
一発、なにかが弾けたような音。
いやそれは一発だけではなかった。
バァァァアアン! バァァァアアン! バァァァアアン!
二発、三発……数え切れないほどの音だ。
「一体なにごとか!?」
また新たな敵が現れたというのか!?
しかし騎士団長の考えは杞憂であった。
何故なら、あれほどいた魔物の大群が次から次へと倒れていったからだ。
「……は?」
なにが起こっているか分からない。近くにいる騎士や冒険者も似たような反応だ。みんな呆然と立ちつくしている。
それはまるでリズムを奏でているようであった。
音が聞こえるごとに、魔物が面白いように死んでいく。
Aランク冒険者ですら手こずる魔物達を、たった一発で仕留めているのだ。
(これが……王女様の言っていた『秘密兵器』というヤツなのか?)
眼前に繰り広げられる光景。騎士団長は言葉を失っていた。
だが、一つだけは分かる。
(王都は救われる……!)
◆ ◆
「ふふ〜ん♪」
足場の悪くない木の上。
俺は銃を構え、次から次に襲いかかってくる魔物達を射撃していった。
「魔物がゴミのようね……」
隣で木の幹にしがみついているアイリスが唖然としている。
「あ、あんた。その武器はなんなの? 見たことない武器だけど……」
「ん? これは魔法銃と呼ばれるものだな」
長細い筒のような形状の武器を、彼女に見せる。
魔法銃。
魔力を込め、引き金を引くことによって文字通り『魔法を発射』することが出来る装置だ。
「まあ魔法の補助器具だと考えてもらえればいい。魔法の精度、威力を格段に向上させることが出来る」
こう話している間にも、俺は射撃を止めない。
ただの《闇弾》では、五百を超える魔物の軍勢を相手にするのはさすがに無茶がある。しかし相棒の魔法銃があれば、最低限の魔力だけを使用し、魔物達をなぎ倒すことが出来るのだ。
あくまで俺達は安全圏にいたままで。
「こういう真似も出来るぞ?」
少し多めに魔力を込める。
発射。すると魔物達の中心に着弾し、《闇爆弾》が炸裂する。
「きゃっ!」
爆風がここまで届き、アイリスが目を腕で覆った。
「ほら、ちゃんと目を開けていろ。見てみろ。今の一発で二十体は一気に倒せたかな?」
魔法銃によって威力が上昇した《闇爆弾》なら、こういう真似も容易いのだ。
さらに遠距離攻撃も出来る。遙か彼方後方まで攻撃を届かせることが出来るのだ。
俺は魔神ムギュロスも、この魔法銃を使って殺した。
「ふふ〜ん♪」
機嫌もよくなるもので、ついつい鼻歌も口ずさんでしまう。
「な、なんかよく分からないけど、すごいことは分かったわ」
「そうだろ」
「不思議よね。一体一体がかなり凶悪な魔物だっていうのに、あんたにかかれば、ほんとゴミみたい」
「簡単だな」
「それだけ強ければ魔神ムギュロスを倒したって妄想するのも、ある意味頷けるわ」
「だから妄想じゃない!」
声を大きくしてしまう。
「ふふ〜ん♪」
「あんた、気になってたけど……どうしてさっきから鼻歌を歌ってるのよ」
「射撃にはリズムが大切なんだ。それに指揮者みたいでカッコいいだろう?」
「カッコいいかはともかく、あんたのことで一つ分かったわ」
アイリスは真面目な顔をして、こう告げた。
「あんた、音痴ね」
「がーん」
「ってそんなに落ち込まないで! 攻撃の手が緩んじゃってる! ごめんなさいごめんなさい! ほら……この戦いが終わったら私と『空唄』に行って練習しましょう?」
「約束だからな」
そういえば空唄に行って、採点機能を使ってもやたら点数が低く出ていた。
あの時は機械の故障だと思っていたが、もしやそうではなかったということなのか……?
「おっ、もうそろそろ全滅だな」
魔物は大分数を減らしている。
目算では残り二十体と言ったところか。
「順調ね」
「おう」
「あれだけいた魔物があっという間に残り二十体って……嘘みたい」
「現実だ。よく見ておくんだな」
「足手まといって言われた時は悔しかったけど……今だったら納得しちゃうわ」
さて戦い……というより、一方的な殲滅も滞りなく進んでいる。
しかし俺は一つのことが気にかかっていた。
「魔神はどこにいる?」
あの悪魔の言っていることが本当なら、この魔物の軍勢の中に魔神がいるはずだ。
おかしい。
魔物の数は減っているはずなのに、だんだん不安が増していく。
「ラウル。通信紙が光っているわよ」
アイリスに指摘されて気が付く。
レイラ姉さんからだ……この紫色の光も嫌な予感がするな。
「姉さん、なんだ? こっちは順調だよ」
「私のミスです」
と姉さんは開口一番、不吉な言葉を言った。
そしてこう続ける。
「ラウル。今すぐイアナ城に向かってください。魔神はそこに現れます」




