16・ゾンビを介抱した
アンデッドモンスター達(墓守のユージーン含む)との楽しい夜会のはじまりだ。
「なんで、こんな広いホールがあるのよ!?」
ユージーンに連れられ墓場の地下に下りると、まるでお城のような煌びやかなホールに辿り着いた。
アンデッドモンスター達がせっせとテーブルや料理を用意して、夜会の準備を進めている。
「なにって……夜会をするために広いパーティー会場を用意しておくのは、墓場の普通だろう。なあ、ユージーン」
「はい。ラウルさんの言う通りです」
「そんな普通は聞いたことないわよ!」
俺は、はじめてではないので今更戸惑わないが、アイリスは驚きが大きいらしい。
やがて準備が整い、
「「「かんぱーい!」」」
夜会が開始したのであった。
「うぅ……やっぱり落ち着かないわね」
「なにがだ?」
「アンデッドモンスターが近くにいるからよ! 私の見立てではかなり強い魔物達なんだけど!?」
会場の至る所で、アンデッドモンスター達が思い思いに楽しんでいる。
とはいえ、アンデッドモンスターは一度死んでいる存在だ。料理を食べても味が感じられず、酒を飲んでも決して酔わない。というか飲食を必要としないのだ。
しかし夜会の雰囲気を楽しんでいるのか、俺にはゾンビやファントムウルフが笑っているように見えた。
「アイリスも飲んだらいい」
「飲まなきゃやってられないわね。それにしても、本当にアンデッドモンスターは大丈夫なのよね?」
「はい。わたくし、ユージーンにお任せあれ。アンデッドモンスター達はみんな無害ですよ」
「分かったわ。あんたとラウルを信頼する」
アイリスが「ええい、ヤケよ!」と宣い、近くのワイングラスを手に取って傾けた。
「なかなかきついわね……」
「まあ墓場だし、ワインはよく熟成されているだろうな」
主に『発酵』という意味でだがな。
「でもこの現実から逃れるためには、飲まないといけないわ!」
ごくごく。
なかなかのペースでアイリスが酒を飲んでいく。
ちなみにこの世界では十二歳を過ぎれば、お酒の摂取が許されている。アイリスもこの様子だと、はじめてではなさそうだ。
「なかなかいい飲みっぷりじゃないか」
「ラウルも飲みなさいよ」
「もちろんだ」
とはいえ、俺は酒には酔わない。昔取った杵柄といったヤツで、アルコールを体内で無毒化してしまうのだ。
だから俺にとって酒とは、ただただ不味いだけであるが……ここはアイリスに合わせるとするか。
「美味しいわね……オカワリ、いただくわ」
アイリスがだんだんとペースを速めていく。
「ちょっと、そこのゾンビ〜。私の酒が飲めないって言うの? 飲みなさいよ〜」
しかも最初は怖がっていたアンデッドモンスターに絡み出した。絡み酒だ。アイリスはなかなか酒癖が悪いらしい。
「だが、丁度いい。ユージーン、少し聞きたいことがあるんだが」
「はい。それが主様の『ご用』といったところですか」
「そんなところだ」
テーブルから離れ、俺達は会場の隅で話をはじめた。
「昨日、街で悪魔憑きが現れた」
「ほう?」
「悪魔はアンデッドモンスターの親戚みたいなものだ。ユージーンなら、今回のことをなにか知ってると思ってな。もしや……昨日の悪魔騒ぎ、お前がやったことではないだろうな?」
ギロッと視線を向け、威圧の意味で少しの殺気を飛ばした。
するとユージーンはぶるっと身震いをして。
「と、とととんでもございません! あなたと敵対するわけがないじゃないですか」
「どうだか」
「二年前に、あなたと戦って実力差は分かっています。あれからさらにお強くなられたんでしょう? なら、あなたと敵対することがどれだけ無謀なことが分かっていますよ!」
ユージーンが慌てふためている。
彼の言う通り、二年前はこっぴどくユージーンを懲らしめてやったからな。裸にして、近くの木に磔にしてやった。
まあユージーンを殺すことが、その際の目的ではなかったので手加減したが……あのことを思い出して、恐怖が再燃してきたのだろう。
「なら一体なんなんだ?」
「……確かに、最近変な魔力を感じます。わたくしでも統制出来ないほどの。あなたからの話を聞くに、予想では——」
ユージーンは少し迷った素振りを見せながらも、こう続けた。
「魔神の魔力が漏れているからかもしれません」
「なに!? 魔神だと?」
『魔神』と聞いて、声を荒らげてしまう。
少々大きな声を出してしまったが、夜会の騒々しさに紛れて、どうやら周囲には気付かれていないようだ。
「はい」
「どうしてだ。魔神ムギュロスは俺が殺したはず……」
もしや、殺しきれていなかったのだろうか?
俺の懸念をユージーンは読み取ったのか。
「いえ、主様にミスはありません。確かに魔神ムギュロスは死にました」
「それならどうして……」
「次の魔神が顕現しようとしている、そういうことです」
次の魔神だと?
どういうことだ。魔神は大体三十年の周期で現れるのではなかったか。ムギュロスを倒したのはつい先日のことだ。次の魔神が現れるのは、あまりにも早すぎる。
「その悪魔をわたくしは見ていないので確証は持てません。しかし主様の言ったことが実際起こっている以上、その可能性は高いかと……」
「理由については分からないんだよな?」
質問すると、ユージーンは首を縦に振った。
やれやれ、やはり悪魔憑きについては放置しておいたら面倒臭いことになりそうだ。
しかしまだ現れる前に、ユージーンからこのことを聞けてよかった。
「よし。ユージーン、ありがとう。すぐに姉さんとエノーラに報告して——」
と言いかけた時であった。
ガシャン!
会場にガラスの割れるような、大きな音が響き渡った。
「どうした?」
音の先に目を向ける。
すると一体のゾンビが会場内で暴れ回っていたのだ。
「ラ、ラウル!」
アイリスが駆け寄ってくる。
「なにが起こっている、アイリス」
「分からはいわ。突然、ゾンビが暴れ出ひて……」
「舌が回っていないぞ。アイリス、酔っているのか?」
「酔ってないはよ!」
酔っている。
しかし……おかしな話だな。俺はすぐにユージーンを睨みつけた。
「わ、わたくしのせいじゃありませんよ! おかしいな……わたくしの制御が効かない!」
ユージーンはアンデッドモンスターの王だ。彼の制御下にある限り、ゾンビが暴れることはないはずだが……。
彼の瞳をじっと見る。嘘は吐いていない。ユージーンは本当に戸惑っているのだ。
ということは……。
「もしやゾンビに悪魔が取り憑いているのか?」
「その可能性は考えられますね」
ゾンビは暴れ回り、周囲をメチャクチャにしていく。そいつを止めようと、周りのアンデッドモンスターも動くが、弾かれていた。
「ラウル、なにが起こっているの!?」
「どうやらちょっと酔っぱらっているようだな」
俺はそのゾンビの後ろに回り込む。
「よしよし。ちょっと介抱してやるから、おとなしくしろ」
頭をつかむが、ゾンビは俺の制止をきかない。
「おい。そんな無理矢理動くと……」
ぽきっ。
あっ、やっぱ骨が折れた。
とはいえ、一度死んだ存在だし、骨が折れたどころでゾンビもどうってことないが。
「少々暴れすぎだぞ。眠れ」
すりすり。
背中を擦りながら、《眠印》を施していく。
途中、あまりにも暴れるものだから、背中を擦るとぽろぽろと皮膚が剥がれ落ちたが仕方がない。
やがて《眠印》が効き、ゾンビは安からに眠った。
「ラウル!? なんかすごい音聞こえたけど!」
「介抱してただけだ」
「首の骨が折れた音が聞こえたけど!? それに背中の皮膚もボロボロで気持ち悪いし……永遠に眠ったんじゃないの!?」
「気にするな。ちょっと酔っぱらっただけみたいだった。もうすやすや眠っているだろう。どうだ? この寝顔、可愛いくないか?」
「全然可愛くないわよ!」
そんなことを言われるなんて、ゾンビも可哀想だ。




