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15・リッチーがあらわれた

 仕事を終え、店から出ると、


「あんた、こんなところにいたのね!」


 アイリスが大股で俺まで近寄ってきた。


「おお、アイリス。どうした? なんで怒っている」

「私に黙って、ギルドで依頼なんか受けるからよ!」

「どうしてそれで怒る?」

「いい? 無許可で依頼を受けることも禁止! その……あんたはまだ新人冒険者なんだからね。危険な依頼に当たるかもしれないじゃないの」


 腕を組んでアイリスはぷんぷん顔であった。


「それで……なんの依頼を受けたのよ。今から行くところよね?」

「いや、もう依頼は完遂した」

「?」

「俺の仕事場はここだ」


 俺は背後の店を指差す。


「実はこうこうこうで」

「はあ? お店のお手伝い? あんた、バカじゃないの!?」

「どうしてだ」

「あんたくらいの力があったら、もっと高報酬の依頼も受けられるじゃないの!」

「それは不思議な話だな。高報酬の依頼は危険もあるんじゃないか?」


 それくらいは俺でも分かる。さっき、アイリスが言ったことと矛盾するではないか。

 しかし。


「それとこれとはまた話が別!」


 と呆れたように溜息を吐かれた。


「まあいいわ。今回は許してあげる」

「すまん」


 どうして俺は謝っているんだ?


「じゃあ俺はこれで……行くところがあるからな」

「行くところってどこよ」


 あっ。

 つい口から出てしまった。これから行こうとしているところは、一人がいいのに……。


「た、たたたた大したことではない。アイリスが来る必要はないだろう」

「目が泳いでいるわよ、怪しすぎだわ。私も付いていくからね! あんたを一人にさせてたら心配だわ」


 やっぱりそういう話になるか。


 その後、俺はアイリスにいかに今から行くところが大したことがないか。付いてきても退屈なところかを、とつとつと説明した。

 だが、説明するごとに「怪しい……」「絶対付いていくから」とますますアイリスは不審がっていった。

 嘘は苦手ではなかったんだがな……彼女に睨まれると、どうしてもいつもの自分を見失ってしまう。


「……まあいい。昨日、世話になったしな。ただ余計なことはするなよ」

「それはこっちの台詞よ」


 こうして今日もアイリスと行動を共にすることになってしまった。


 ◆ ◆


「ど、どうしてこんなところに用があるのよ。ただの古ぼけた墓地じゃない!」


 俺がアイリスと一緒に来たのは、彼女の言う通り——街外れの墓地であった。

 墓石がたくさん並んでいるが、所々欠けている。掃除も行き届いていないのか、ゴミも辺りに散乱していた。


「そうだな。あまり使われている様子でもない」

「しかも辺りに不気味な魔力が満ちているし……こんなところ、街外れとはいえ王都にあったかしら」


 アイリスが首をかしげる。

 実はこの墓地は普段結界が張っているため、一般人からは視認することも出来ない。しかし隠蔽魔法や結界を解くのも、俺の得意分野だ。アイリスには内緒で結界を破り、なにくわぬ顔してやって来たわけである。


「ここにどんな用があるのよ」

「なに、会いたい男がいてな」

「会いたい男……? こんなところに人がいるのかしら」


 アイリスが恐る恐る歩を進めようとした時であった。



「ど、どうして主様がいるんですか!?」



 後ろから不意に声をかけられた。


 その瞬間、冷気が雪崩れ込んでくる。


「きゃっ……! ひ、人? いきなり現れないでよ! それに主様って……?」


 アイリスは驚き、振り向く。

 そこにはタキシードを着た一人の男が立っていた。


「ユージーン。久しぶりだな」


 俺はその男——ユージーンに声をかける。


「人間がここに来たから、なにごとかと思って来てみれば……どうして主さ、むぐむぐっ!」


 ユージーンが変なことを口走る前に、俺は素早くヤツの口を手で塞いだ。


「……少し用があってな。それから俺は暗殺者を辞めた」

「んんんっ(暗殺者を辞めたって!?)」


 ユージーンが目で訴えかけてくる。

 きょとん顔のアイリスに聞こえないように、俺はユージーンに耳打ちを続ける。


「事情はまた説明する。取りあえず、今はあの子にお前の正体をバラしたくない。俺に話を合わせてくれ」

「んんんっ!(わ、分かりました!)」


 ゆっくり彼の口から手を離す。


「アイリス。紹介しよう。こいつはこの墓場の墓守、ユージーン。昔からの知り合いだ」

「は、墓守のユージーンです。以後お見知りおきを」

「え、ええ……それはいいんだけど、ユージーンさんから変な魔力を感じるんだけど? あんた、本当にただの墓守?」

「ええ。人畜無害の墓守ですよ」


 ユージーンがにっこりと紳士的な笑みを浮かべる。


 ……さて、ネタばらしをしよう。

 無論、こいつはただの墓守ではない。アンデッドモンスターの王と言われる、リッチーなのである。

 昔、依頼をこなすために俺はここを訪れた。その際、リッチーであるユージーンと衝突したのだ。

 最初は刃を交えた相手であったが、途中でユージーンは俺に敵わないと思ったのか「すいませんでしたああああああ!」と土下座をかました。

 それからユージーンは何故だか俺のことを「主様」と呼び、慕っている。

 実力を認めた相手にはつくすのがユージーンの主義らしい。


「怪しい」


 アイリスはユージーンにジト目を向ける。


「あ、怪しくないぞ」

「そうです。主……じゃなくて、ラウルさんの言う通りですよ。私は全然怪しくありません」

「そうやって『怪しくない』ってところを強調するのが、余計に怪しいのよ」


 じろじろアイリスがユージーンを眺める。


「どこからどう見ても、普通の墓守だろうが」

「普通の墓守が正装なんて着るのかしら?」

「ユージーンはなかなか革新的な墓守なのだ。墓守の暗くてじめじめしているイメージを変えたいらしい」

「ふうん」


 これだけ説明しても、アイリスは警戒を解かない。

 おい、ユージーン止めろ。その胡散臭い笑みは。お前は親愛の証だと思っているかもしれないが、相手の警戒心を強くする一端になっているぞ。

 それに体から漏れている魔力をちょっとは抑えろ。まあ、ユージーンの場合、相手を怖がらせてここから退去させるのが目的の一つでもあるから、魔力を隠すのが苦手だという事情は分かるが……。


「怪しくありませんよ。そうだ。わたくしの友人達も紹介しましょう」


 ユージーンが指を鳴らす。

 すると周囲に複数の火の玉がほわっと現れ、それはだんだんと人型を形取った。


「ゾ、ゾンビ? それにファントムウルフまで? ねえ、ラウル。本当にこの人、大丈夫なの!?」


 だが、ユージーンはわざわざアンデッドモンスターを召喚したためか、アイリスが怖がって俺の肩を揺さぶる。


「も、問題ない。墓守というのは、アンデッドモンスターと友達なのだ。常識だ」

「そんな常識、聞いたことないわよ!」

「じゃあよかったな。また一つ勉強になって」


 ユージーン、ダメだこいつ……嘘を吐いたり誤魔化したりすることが致命的に苦手すぎる。

 ユージーンは「どうですか、主様? 完璧でしょう!」とドヤ顔である。お前、後で一発殴ってやるからな。


「そうだ、ラウルさん!」


 俺の考えもつゆ知らず、ユージーンはなにかを閃いたようにパンと手を叩く。


「せっかく久しぶりに再会したんです。夜会でもしませんか」

「はあ?」

「その間にラウルさんの用というのも、お聞きしましょう」


 ウィンクするユージーン。


 俺はこうなった以上、さっさと墓場から出て行きたいんだが……いつこいつが口を滑らせて、アイリスに俺の正体をバラしてしまうか分からないし。

 ただこの様子ではアイリスにバレないように、用を済ませるのが困難なのも事実だ。

 夜会とやらの間に、アイリスの目を盗んで、ユージーンから話を聞き出すとするか。


「よし、のった。一応聞くが、アイリスはどうする?」

「わ、私も行くわよ! 絶対にこの怪しすぎる墓守の正体も暴いてやるわ!」


 何故だか意気込んでいるアイリス。

 果たして、夜会は無事に終わるのだろうか。

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