表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/26

14・戦場(キッチン)にいざ行かん

 翌日。

 俺は一人で冒険者ギルドに向かった。


「ようこそ、イアナ冒険者ギルドへ……ってラウルさん!」


 俺を見た途端、受付嬢が目を輝かせた。


「今日はどのようなご用ですか?」

「もちろん、依頼をこなすためだ」


 金がない。

 これは切実な問題だった。

 無論、リスティド家に帰れば腐るほどあるが……なんとしてでも帰りたくない。姉さんと顔を合わせたくないのだ。

 この金欠から脱出するためには、冒険者として仕事をこなさなければならない。


「なにかいい依頼はあるか?」

「うーん、ラウルさんにぴったりの依頼かあ……ちょっと待ってくださいね!」


 そう言って、受付嬢は手元の冊子をぺらぺら捲り出した。そこにいくつもの依頼票が挟んであるようだ。


「……あっ、ありました! これです!」


 受付嬢が提示した依頼を、俺は即快諾したのであった。


 ◆ ◆


 熱い。まるでここはマグマだ。

 俺は火の中に手を突っ込み、それを弄んでやる。

 高温の炎で魔物達は跳ね、その姿を徐々に変えていく。まるで悲鳴を上げているがとく、じゅわーっとした音が聞こえる。


「さて……」


 俺はそれを盛りつけ、戦場へと再び出た。



「いらっしゃいませ〜」



 ——厨房キッチンからホールにな。


「三番テーブル! ボアのステーキを早く!」

「五番テーブルは卵スープ定食だしょ! 持っていって!」

「十番テーブル、まだ注文取ってない! 新人、聞きに行って!」


 目まぐるしく動く戦況。そこはまさに戦場であった。

 俺は皿を両手で持ちながら、指定されたテーブルに運んでいく。それと同時、入店してきたお客さんに注文を取りに来る。


「休む暇がないな」


 呟く。

 厨房に帰ると、店主からこう声をかけられた。


「おう! 冒険者ギルドから来るヤツ等は今まで大したことがなかったので、期待していなかったが……お兄ちゃんは違うね!」

「ありがとうございます」


 俺が冒険者から受けた依頼は『近くの大衆食堂で手伝いをしてくれ』という内容であった。

 受付嬢いわく「手先が器用だったら、大丈夫ですよ〜。頑張ってくださいね!」……というわけで、金払いも悪くなかったので受けたわけだ。


「手際がいい! よく周囲を見ている! お客さんの気遣いもよく出来ているよ!」


 周囲に視線を配らすことは暗殺者にとって必須のことであった。どんな些細なことに情報が転がっているか分からないからだ。それに時に、相手の信頼を得ることも重要なのだ。

 暗殺者一族の頃は、デートの練習として姉さんと街に繰り出したことがある。デートとは言ったが、実質修行みたいなものだ。


『女性とデートしたら、気遣いなんてすぐに身につきます。もちろん、あなたにはデートをする人もいないでしょうから、今回は私が付き合ってあげます。立派に私をエスコートしてくださいね』


 とあの時、姉さんが言った言葉を思い出す。

 まあ少しでも姉さんの気分を損ねたら、あらかじめ装着していた首輪に電撃が流されたが。そのせいでデートのドキドキどころか、ビリビリしていたが。生半可な電撃ではなくて、マジで悶え苦しむ程度の威力だったが。恐怖を感じすぎて、せっかくの街をぶらつく機会だというのに全然楽しめなかったが!


「じゃあ、次はこのキャベツを切ってくれるかい?」

「はい」


 店主からキャベツを受け取る。

 包丁は……どうやら今回もみんな使っているようだ。これではキャベツを十分に切れないだろう。

 仕方がない。


 俺は自分の右手を包丁のように変化させて、そのままキャベツを千切りにした。俺の手はよく切れる。


「おっ! なかなか器用な真似が出来るんだね」

「ありがとうございます」

「冒険者はそんなことも出来るなんて、すごいな〜。しかも正確! 一ミリの狂いもねえ!」

「当然ですよ」


 料理は比較的得意だ。

 ずぼらな姉さんに変わって、よく料理を作っていた……ってさっきから姉さんのことばかり思い出しているな。今はもう暗殺者一族を止めたんだ。姉さんのことを考えるのは止めよう。


 やがて時間が過ぎていき、昼時ピークが終わって、店内は落ち着いてきた。


「ふう、ちょっと気を抜いていいぞ。あっ、でもお客さんだ。注文聞きに行ってもらってもいいか?」


 店主に指示され、俺はホールへと出る。

 しかし新しく入ってきたお客さんを見て、思わず俺は「回れ右」をしてしまいたくなった。


「……どうしてレイラ姉さんがここにいるんだ!」


 一気に距離を詰め、耳打ちする。


 そうなのだ。

 大衆食堂と似合わないくらいに、優雅に椅子に座った女性。噂をすればなんとやらで、レイラ姉さんであった。


「私が来てはダメなのですか?」

「そ、そういうわけじゃない。ね、姉さんと会えて嬉しい」

「どうして目が泳いでいるんですか?」

「注文はどうしますか」

「じゃあ私はこのハンバーグ定食を」


 がっつり食う気かよ。

 俺は内心ビクビクしながら注文を取り、厨房に戻った。


 ど、どどどどうして姉さんがここに!

 しかし平常心だ。たまたま姉さんと鉢合わせしたとは考えにくい。きっとなにか考えがあってここに来たはずだ。


 俺はすぐにハンバーグ定食の調理を済ませ、姉さんのもとに向かった。


「はい、お待ちどおさま」

「ありがとうございます。早いですね」


 そう言って、レイラ姉さんはフォークとナイフを手に取った。


「で……ご飯を食べに来ただけじゃないんだろう?」

「もちろんです。今日はあなたに昨日のことをお伝えしようかと思いまして」


 昨日のこと……ああ、夜道で襲われた件についてか。


「もう調べがついたのか?」

「ええ。私、仕事が早いので」


 ぱく。

 姉さんがハンバーグを口の中で咀嚼しながら、話を続ける。


「もぐもぐもぐもぐ」

「口の中がなくなってから喋ってくれ」

「昨日、あなたが襲われたという男。どうやらあの男には悪魔が取り憑いていたようです。もぐもぐ」


 悪魔?


「どうしてそんなものが男に」

「まだ判明していません。ですが悪魔というのも、死後の世界——あちら側の住人だと言われています。こちらの世界に滅多に姿を現すものでもありませんからね。なにか悪いことの前兆かもしれません」

「きな臭い雰囲気はするよな」

「ええ。悪魔払いをしてあげると、男はすぐに正気を取り戻しました。借金にまみれていることを除けば、ごくごく普通の男性でしたよ」

「それは果たして普通なのだろうか?」

「まあ悪魔というものは、負の感情を背負っている人間に取り憑きやすいですしね。そういうのもあって、借金持ちのあの男はつけ込まれやすかったのでしょう」


 それにしても悪魔か……暗殺者時代にも相手をしたことがある。

 魔法を使うことも出来、さらに姑息で知恵も回った。俺にとってはあまり強いとも感じたことはなかったが、世間的にはかなり厄介な部類に入るだろう。

 そんな悪魔が現れるとは。やはり面倒臭いことが裏で起こっているような気がする。


「昨日の一体だけで済んだらいいんですけどね。ですが……」

「姉さんがわざわざ言いに来るということは、そうでもないんだろう?」

「ええ。まだ現れそうです」


 ほら、やっぱり面倒臭い。


 話していると、レイラ姉さんはあっという間にハンバーグ定食を完食していた。口元をナプキンで拭いている。


「では伝えましたので、私はそろそろ行きますね」

「なんでわざわざ来たんだよ。通信紙で連絡してくれればいいじゃないか」

「あなたの顔を見たかったからですよ。また会いに来ますね」


 姉さんはそう言い残して、店を後にしていった。

 その背中を見て「二度と来るな」と言いたくなったが、そんな度胸が俺にあるはずもない。


「あっ、姉さん……金を払わず出て行きやがった。ちくしょう。俺が払わねえといけないのかよ……」


 まあそれはこの際置いておこう。姉さんの顔を見てから、薄々感づいていたことだ。

 今は悪魔の方が大事だ。リスティド一族の方でも動きそうだし、放置していてもいい。ただでさえ、俺は休暇中なんだがな。


 だが、どうしても気にかかる。俺はこういった小さな引っ掛かりは許せないタイプだ。

 俺の方でも調べてみるか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ