連れてこられたのは、故郷に似た村
サヴァン
シンの弟。10人兄弟の2番目。シンが大好きで後ろをついて回る。
村長
シンの祖父。シンが何か力を持っているということを幼い頃からずっと信じていた。女好きのエロジジイでもある。
祖母
シンの祖母。占いや呪いでシンやモアの行くべき道を暗示したり導いたりしてくれる。
シンに連れられ、モアは目的地の彼の村まで歩いて行く。
「疲れてないか?」
「うん!大丈夫!ありがとう」
「そっか、サヴァン、お前は疲れてないか?」
「ちょっと疲れた…」
「ほら、兄ちゃんの背中に乗れ!」
「わーい!!」
「サヴァンっていうのね…」と、モアはほのぼのしたシン兄弟を見つめ微笑む。
しかしモア的にいうならば、シンは伸び切った先ほどの男を引き摺っているために、どうにもほのぼのしきれないところもある。
暫く歩いていると、笛や太鼓の音が聞こえてきたため、モアは心を踊らせた。
「もしかして…もうすぐ!?」
「おぉ…なんだよ急に、元気だな?」
「懐かしいなって思って…!私の国もね、朝から晩までずっと音楽が鳴ってたんだよ!」
「へぇ!そりゃ楽しそうだな?」
「おい!!!!」
「ん?」
「シーーーン!!!!」と、民族衣装を着た村人達が一斉にシンの元へ駆け出して来た。
「おぉ!!おい聞いてくれよー!」
「な、なんだお前…何かしたのか!?」
「人攫い捕まえたぞ?」
「こんなのはいい!!!!後で然るべき罰を受けてもらうからな!!そんなことより…もっとすごいことだよ!?」
「あー?なんだよ、それよりばあちゃんに用があるんだけど、こいつ…」
「シン…」という声が聞こえて来くる。
「…」
その人物は輿に座り、4人の大男たちに担がれていた。
「ばあちゃん、なんだよこの騒ぎ」
「村長がお呼びじゃ」
「おお!そうか!モア行こうぜ」
「え?あ、うん」
そう言って、シンについて行こうとするモアだったが、その足は次に発せられた言葉でぴたりと動けなくなってしまう。
「勇者様…」と、跪く人々。
「…え!?シン君…貴方勇者様なの…!?」
「お前…勇者なのか?」
「「え??」」
互いに同じ質問をしたため、モアとシンは目を合わせる。
「え?そんなわけないでしょ!?何言っちゃってんの…!?」
「だよな?足速いだけで鈍臭いし。俺も勇者じゃない」
「ちょっと!?貴方初対面とは思えない程失礼だからね!?」
「え?あぁ悪い悪い!なんだか初めてあった気がしなくてなぁ〜」
そう言って笑うシン。
その表情に、モアは一瞬たじろいだのである。
「…」
“そんな顔しないで。俺らがいる、大丈夫だよ"
「…え?」
「んー?どうしたー?」
「あぁ…いや…」
モアは目を擦り、再びシンを見つめるも
一瞬、ほんの一瞬だけ鮮明に思い出したがそれは一瞬にして霞み、その記憶さえあやふやになる。
「まぁ…他人の空似ってこともあるか…そんなことよりシンくん」
「んー?」
「シンくんのおばあちゃんって凄い人なの?」
「大男4人に担がれてる時点ですごい人なんだろうけどさ」と告げたモアにシンは笑いかけた。
「あー、凄い人かはわかんねぇけど、村長の奥さんだからな、みーんな崇めてるんじゃないか?」
「へぇそうなん…は!?村長って…シン君のおじいちゃんなの!?」
「おお、そうだよ?なんか物心ついた時は村長って呼べって言われたから呼んでるけど、俺のじいちゃん」
「そ、そうなんだ…」
「あれー?どこにいるんだろ?村長?村長〜?」
「うおおおい!!!エロジジイ!!!!!!」という掛け声にモアは目を見張る。
「エロジジイなの…」
「すーぐ、若い女のけつ触ろうとするから。モアも気をつけろよ。」
「まさか村長さんがそんなことするわけ…」
「おーい!!!さっきピチピチの若い旅人が、道で倒れてたぞー!」
「喧しい!!!」
そう言ってシンの目の前に大きな岩を投げつけた老人。
「…っ…」
「っと…あっぶね…死ぬかと思った…っ…」
「どこじゃあ、ぴちぴちの若いお嬢さんは。」
そう、この老人が村長である。
「あっぶねぇな!?モアに当たったらどうするんだよ!?」
「こんなでっかいの!!!」とシンは軽く岩を叩いたが、彼は人間の能力とは思えない力で、意図せずその岩を粉々に砕いてしまう。
「うわ!?
「…な、なんだこれ…!!?」
「え、シン君…すごい…」
「このバカモンが!勇者様かもしれんお方なのだぞ、頭を下げろ!!!」
「はぁ…?モアが?勇者?」
「え!?い、いや何かの間違いなんですって…ひっ!!!?」
「いやいや勇者様…なんといい形のケツだー…婆さんとはえらい違…」
シンは祖父に思い切り拳骨を喰らわせる。
「触るな…っ…モアが仮に勇者だとして…その態度はどうなんだこのエロジジイ…っ…」
「本当にごめん…モア…」とシンは大きなタンコブのできた祖父と共に謝るシンに笑いかける。
「ちょっとびっくりしたけど…もうやらないなら大丈夫です!!」
「なんて慈悲のあるお方…」
「もうそういうのいいから!!話進めてくれよじいちゃん!!!」
「そうじゃそうじゃ…シン、お前ー…儂が昔からお前に、古の伝説の話をしてたのを覚えているか?」
「あー…まぁなんとなく…だけどほぼ覚えてねぇよ」
「…はぁ…お前が英傑の力を受け継いでいるやもしれんと踏んだ儂の読みは合っていたが…」
「ん?」
「肝心のお前は!!!」
シンの祖父はシンに重い拳骨を食らわせたのである。
「いてぇ!!!いてぇよじいちゃん!!!!」
「喧しい!!このおおばかもんが!!」
喧嘩を始めようとする男2人をなんとか宥めるモア。
「2人とも落ち着いて話をしましょう!!!」
「申し訳ありません勇者様…こんな青二才が迷惑を…」
「うん…まぁあのー…どちらかというと私が迷惑を被ってるのはお祖父様の方かなと…」
「うぉっほん。話を戻しますが勇者様。」
「都合の悪い話は聞かない主義なんだよこの爺さん…」
「あぁ…そうなんだ…」
「ていうか何回もいうけどさ!?勇者なわけねーんだって…本人が否定してんだから!!」
「そうなんですよ…何かの間違いで…」
「いえいえ、確証ならございます。貴方が勇者である証。」
その言葉にモアとシンは目を見開いた。
「え?」
「この村に伝わる古くからのまじないで、ある暗示がでたのじゃ。」
「あぁ、あれか?ばあちゃんのインチキ呪い。」
「やめんか!!それにお前のことも書かれていたそうだ。」
「ん?」
シンの祖母の呪い(まじない)にはこう記されていたという。
「【大地司りし英傑。聖なる光の下でその力を高め勇者を守らんと戦う。】」
「…俺が英傑?」
「聖なる光って…さっきの…?」
「…」
「今一度、古の書物を読むのじゃ、シン。」
「…」
祖父がシンに書物を手渡す。
「…あぁ…わかったよ…」
「私も見ていいですか?」
「えぇ、貴方様のお力もお貸し下さい。」
「は、はは…いやほんとに…勇者じゃ…」
「まぁいいよ、読もう?モア。」
「うん…」
ボロボロになった書物。そこにはこう記されていた。
【大地司りし英傑】
主が触れし場所に緑芽吹き、大地は豊穣の恵みを齎さん。飢えに苦しむ民を救い、その広き心で人々を包み込むだろう。
母なる大地の如く全てを受け入れ、勇者を支える礎とならん。
されど怒りに呑まれし時、大地は嘆き、山は裂け、国は忽ち破滅への道を辿るだろう。
「…これは誰が書いたんだろう…?」
「それは儂にも分からんのです…申し訳ない…」
「いえいえ!!でも…なんだろう…昔の字だから読みにくいけどなんだか…いろんな字がある気がする…」
「…」
【友を失った勇者、始まりの地にて英傑たちの力を分散させる。】
【そして己が持つ聖なる力をも封印することとなる。】
「友を…失う…」
モアは、夢で見た涙を流す女性を思い出した。
「…」
【勇者の魂が再び膨大な強さを現した時、封印されし力達は解放され、再び聖なる力を覚醒させるだろう。】
「…」
「…モア大丈夫か?」
「え?どうして?」
「なんか、顔色悪いよ?色々あったし、すこし疲れてきたよな。」
「あ、いや…」
「あのさ村長、こんなことより大事な話あるんだよ」
「こんなこと!?お前世界を守る勇者様の従者である英傑に選ばれたんじゃぞ!?もっと緊張感を…」
「モア、家に帰れなくなったんだって」
「ん?」
「なんだっけケルケル?」
「違いますベルゼウです!?」
「そうそう、ベルベル!じいちゃん知ってるか?」
「違います!!ベルゼウです!!覚える気なさすぎ!!」と、モアの大きなツッコミも虚しく聞き流される。
「ベルゼウ…うーむ…」
するとシンの祖父が、徐に地図を広げ、地形を調べ始める。
「これが世界の地図じゃ、この中に…勇者様が仰ったベルゼウは存在しない。」
「そんな…小さい国なんです!!あまり栄えてないんですけど…あまり外の文化などは取り入れてなくて…あまり人も出入りしない、本当に小さい国なんです!」
モアの熱意に、シンも心を動かされ声を上げる。
「本当!ちょっとのことでもいいんだよ!村長!」
「んー…」
シンの祖父は真っ白な顎髭を触り、低く唸り声を上げる。
「…もしかしたらその言葉は古代に使っていた言葉なのかもしれん。そして貴方様がいた場所は…こちらの言葉では、始まりの国ゼルセウなのやもしれん」
「確証はないがのう…」とシンの祖父はモアに告げた。
「そう…ですか…」
「申し訳ない…力になれず」
「いやいや!!いいんです!!ごめんなさい…」
「王様に聞きに行けば良くね?お前勇者なんだったら王様だって入れてくれるんじゃねぇの?」
「そんな簡単なわけなかろうが。」
「そうか…んー…細かいこと考えると頭痛くなってくるわ…もう考えんのは明日にしよーよモア!!!」
「え?」
「明日もお前の友達探すの手伝うからよ!」
「…え…いいの?」
「何言ってんの?当たり前じゃん!あんまり思い詰めてても、気持ちが焦るだけで物事は上手くすすまねぇからな!大丈夫だよ、俺がついてる。絶対見つけてやるからそのーなんだっけ?なにちゃんだっけ?」
「ニーナ!!!!!」
「おうおう、そのニーナって子をを絶対見つけるからさ!!」
「…ありがとう、シン君…」
「おう!じゃあ俺の部屋連れて行くから、行こうぜモア!」
「うん、わか…」
モアが返答する前に、シンの頭を杖の硬い部分で叩く彼の祖父。
「いってぇ!?何すんだよ!?」
「契りを交わす前の男女が2人きりで寝ていいと思うておるのか!!愚か者!!!」
「なんだよ!?んないかがわしいことしねぇっての!?親父と村長とは違うんだよ!!!」
「なにおう!?」
「モア逃げるぞ!?」
「え!?あ、うん!!」
シンはモアの手を掴むと、その場から逃げるように立ち去ったのだった。




