勇者という名の駒3/3
皇帝→ハルカ・エルゼリア
29歳 身長170cm
ルメイナ帝国皇帝。
「女だから」という偏見と戦ってきたため、誰よりも“隙を見せない”。しかし、本当は人の痛みに敏感。ニーナのことも快く受け入れる器量がある女性。
優しさを捨てたのではなく、弱さを見せないために寄り添う心を自分から封じた。皇帝という立場にありながら部下のアルヴィスに好意を寄せている。
スワヴ
32歳 身長183cm
ハルカの幼馴染であり、従兄弟。
男として生きてきたハルカを幼い頃から陰ながら支えていた。
元々は許婚であったが、彼女が女帝になったことでその話は白紙になってしまった過去がある。
突然やってきて、兵団長にまで一気に上り詰めたアルヴィスを快く思っていない。
幼い頃からハルカに想いを寄せている。
蝋燭の火がゆらゆらと怪しく光る洋室。
そこは昔から皇帝に信頼される数少ない従者と皇帝が内密な話をするために使っていた場所だった。
「同盟を結んではいるが、ルメイナ、そしてルノーピアは今冷戦状態です。一度ルノーピアの皇帝と話し合いの場を設ける必要があると思います。」
「…そうか…お前の意見はわかった。」
「…」
「お前はどう思うアルヴィス。」
「ルノーピアの皇帝は用心深く、また剣を握ると狂人のようになります。ですから殺られる前に殺る…その戦法で良いのではないでしょうか。」
「んー…しかしなアルヴィス…お前はあの勇者の剣をルノーピアで手に入れたのだろう?」
「ええ。しかし皇帝とはなんの関係もありません。」
「貴様の打算的な考えで帝国を失うことになるやもしれん。成り上がりの一剣士が…言葉を慎め。」
「失礼しました。」
アルヴィスは従者に頭を下げる。
「…まて。」
そう言ったのは皇帝だった。
「…」
「確かに打算的だが…此奴は国を狩る時に、いつも活躍している男だ。賞賛はあるのか?」
「…あの勇者を利用させていただきます。」
「何…あの者を!?まだ幼い少女ではないか!!」
「…なぜそう思う?」
「…勇者の剣を持つ者ならば、彼方の皇帝は快く我々を迎え入れてくれるでしょう。此方には暗殺に一役買ってる男がおりますので。」
「貴様…言葉を慎めと!!!」
「もうよい…まだ機会はある…話し合いの場を彼方の皇帝に設けてもらおう。」
「御意。」
「…お前は下がってよい。」
「姫!!此奴の言うことを信じるのですか!?」
「確かに打算的だが…アルヴィスの言うことは理にかなっている。それにな…俺は姫じゃないと言ってるだろ。下がれ。俺はこいつと二人で話すことがある。」
「なぜですか!!私は先代に貴方の身の回りの護衛を頼まれた従者です!!!」
「要らぬ。俺はもう姫ではない。下がれ!!」
「…御意」
「…」
従者の男は血が滲むほどに拳を握り締め、洋室を後にした。
その場にとどまったアルヴィスは瞳を閉じ、深い息を吐く。
「…良いのですか陛下。あの者を放っておいても。」
「…いい…彼奴は口うるさくてな…気分を悪くしてしまったか?」
「いいえ。」
「…」
長い前髪から見えるアルヴィスの鋭い瞳に、心を奪われてしまう皇帝。
「陛下…如何なさいましたか。」
「…二人でいる時は名前で呼べといつも言っている。」
「…」
「…」
「陛下…貴方は女だからと馬鹿にされ…疎まれ…苦しかった日々を過ごされてきた。そしてやっと女帝に上り詰め…欲しいものを全て手に入れられる地位に着かれたのです。」
「…」
「然し…力をつけても…古くから続く伝統を持つあの国を討つことなど…貴方の力では到底無理なのかもしれない…」
一歩ずつ、近づき、女の顔に戻って行く皇帝の手に口づけを落とす。
「お前も…そう思っていたのか…?」
「貴方だけでは…無理でしょう、然し…貴方は一人ではない…」
「…」
「私がいる…昔からそう言ってるだろう…ハルカ…」
「…」
優しい手つきで硬い甲冑の中に隠れているハルカの細い肩に触れ、耳元で囁いた。
それはまるで悪魔の囁きのように。
「しかし…祖父が望んでいた戦争無き世の中が…崩れてしまうかもしれない…」
「…」
いつのまにか脱がされていた甲冑、そして露わになるハルカの細い身体。
「俺は、祖父が作った世の中を壊したくはない…」
「二人でいる時は…一人称を戻せと言ったはずだ…」
サラシだけの状態になるハルカを見つめ、アルヴィスは目を細める。
「氷の女帝と呼ばれる其方のその女の顔をみれるのは私だけか…?」
「お前だけだ…」
「…」
ハルカはアルヴィスに跨り、口付けをしようとした。
「陛下!!!やはり納得ができませ…」
「…スワヴ…勝手に入ってくるとは何事だ…」
「…」
「き、貴様…陛下に何をしている!!!!」
運悪く男女の交わり前に出くわしてしまう、先ほど出て行ったスワヴと呼ばれるその従者。
「…陛下、私が無礼だったようで…」
「…」
「なっ…」
ハルカは、アルヴィスに深い口付けを送った。
「…っ…」
ハルカを陰ながら思っていた、幼馴染であり従者であるスワヴの前で。
「…」
「ハルカ…まさかお前…!!!」
「無礼なのはお前だ。返事もしないで入るなど、言語道断だ。出ていけ。」
「…」
「ハルカ!!お前は操られているんだ!!!目を覚ませ!!ハルカ!!」
「…」
「従者と皇帝の関係だ。その名は幼い頃に捨てた。2度と呼ぶな。」
「立ち去れ。スワヴ。」
ハルカにそう吐き捨てられたスワヴは悲しげに瞳を揺らし逃げるようにして洋室を後にした。
「…」
「そうか…ハルカという名前はとうの昔に捨てたか…」
「…違う…」
「…」
「お前だけに呼んでいて貰いたい…女に戻れる…お前といる時に…」
「あの者では女に戻れないのか…?」
ハルカの視線を遮るように手を添え、耳元で問う。
「…知ってるくせに…」
「なんのことだ…?」
「お前でないと…私は女には戻れない…だから…お前から口付けをしてくれ…」
「…」
ハルカの耳、頬、瞼、そして首に口付けを落とす。
ハルカの願った場所への口づけは叶わなかった。
「…そんな物欲しそうな顔をして…氷の女帝とは程遠い女だ。」
「…」
「そんなに瞳を潤わせて…一従者である私を…そんなに欲しているのか…?」
「…お前が…欲しい…」
虚な目で彼女は懇願していた。
まるで操られているかのように。
「ならば…私の指示に従え…お前を導いてやる…」
「あぁ…わかった…」
「…褒美だ…」
そう言ってアルヴィスは深い口付けをハルカに送る。
御預けを解消された飼い犬の様に、アルヴィスから降りてくる偽りの愛を、ハルカは受け取とった。
アルヴィスからの押し寄せるその熱をハルカは全身で受け止めた。
肌と肌が触れる音だけが静かな洋室に響き渡る。
苦しそうにもがくハルカは少しずつ、少しずつ、アルヴィスから発せられる"何か"によって、心が侵され、穢されていくのだった。




