勇者という名の駒2/3
アルヴィス
「ダンチョー」「団長」とレイナたちから呼ばれている。
ルメイナ国 宰相兼総司令官
国を支える有能な政治家であり、軍を率いる総司令官。
冷静沈着で知略に優れ、国民や兵士たちからも厚い信頼を寄せられている。
しかしその胸の内には、誰にも語られない秘密が眠っている。
「…」
白と青を基調とした玉座の間には、無数の兵士たちが列を乱さず並んでいた。
「…」
玉座に腰をかけ、楽しげに笑うその人物が皇帝であることにすぐに気づくと同時に、あまりの美しさに、思わずため息を漏らすニーナ。
「うわ…っ…綺麗な人…っ…」
「待ちくたびれたぞ、おまえたち。」
「…」
「申し訳ございません陛下。」
「その新顔の鎖を解いてやれ。」
「はっ。」
「…」
ニーナの手首の自由を奪っていた鎖は解かれ、自由になる。
「お前が古の伝記に記されているとされる剣の勇者君か」
「え!?」
「ん?」
「いやいやいやいや!!違います…!!!」
「無礼者!!!」と一人の従者に剣を向けられる。
すると「彼ら」が一斉にニーナを庇う様に立ちはだかった。
「…」
「え…」
「…ちっ…なんだ…体が勝手に…」
レイナ、ユアン、リヒト、ルークである。
一触即発のその場面に、声をかけたのは団長であるあの男。
「お前達、陛下の前だ。」
「…」
「儂の言葉を否定するとは、面白い娘よ…名は?」
「…ニーナ!!!」
「そうか、ニーナか…良い名じゃ…して…ニーナよ」
「ん?何?陛下!!」
という具合に、返事をするニーナ。
そう、彼女の「最高級の立場の者とこ関わり方」は、この国では大間違いであるということがわかる。
「貴様!!!自分の立場を弁えろ!!!」
「え、え????」
そう言って彼女に斬りかかろうとする先ほどの従者。
しかしそれは皇帝によって阻まれる。
「気にするな。」
「…しかし姫!!此奴は…!!!」
「良い良い…それに俺は姫ではない。下がれ。」
「…っ…御意…。」
「す、すみません…なんか…間違いを犯した…?」
ニーナは思わずレイナとルークを見つめる。
レイナは「そんなことないよ」という様に笑い、ルークは苦笑いを浮かべていた。
おそらく何か間違えているということがニーナにはわかったが、何が悪いかまでは辿り着けなかった。
「気にするな、それよりニーナよ。其方はルメイナの民ではない様だが…何処出身なのだ?」
「…ベルゼウ!!ベルゼウ王国です!!!」
「ベルゼウ…聞いたことがないな。」
「…あー…んー…あ、じゃあこれは??」
「始まりの国」
その言葉を聞いた全員がどよめいた。
「え…また間違えたの…私…なに…本当ごめんなさい…全然ベルゼウの人たちと違う…っ…」
「帰りたい…」とニーナは呟く。
そんなニーナの心配をよそに、兵士たちは次々口を開いた。
「あそこに人間が住んでいるのか…?」
「あそこは人間の祖先がいると言われてるだろ…」
「あそこは地に落ちた天使が囚われてるという伝説があるだろ…!!!」
「静まれ。」
「…」
「すまないな、ニーナ。」
「いえ…多分だけど私が悪いので…すみませんこちらこそ…」
「其方が言う【ベルゼウ】と言う国は地図や書物には【ゼルセウ】と記されている。」
「…ゼルセウ…もしかしたら、外から来るものが殆ど居ないから、古い言い伝えや、伝統が根強く残っていて、言葉も古い言葉を使っているのかもしれない」
「貴様!!!口の聞き方に気をつけろ!!!」
「あ、すいませんつい…」
従者が三度剣をニーナに向けたその時、強い剣戟が聞こえる。
その様子を見ていたレイナは「…団長…」と呟いたのだ。
「そちらも気をつけろ。この方は勇者様だ。」
「何を抜かすか!!!」
「彼女が持つこの剣がその証拠だ。わかったのならば下がれ。」
「チッ…」
「ね、ねぇ陛下。」
「貴様…!!!」
「ごめんなさいごめんなさい!!!!も、申し上げます陛下!」
「なんだ?」
「私の国は王が居たけど…この国は陛下が一番偉いの?」
「そうだ。周辺の国は俺が支配している。王というのは民族によって作られた国家の長の事だ。王によって治められている国を支配しているのが俺ら皇帝という事だ」
「へぇ…陛下頭いいんだね、私らの王様ちょっと馬鹿だったから…」
ニーナの発言一つ一つに反応し、今にも剣を抜きそうになっている兵士もいた。
「…あ、でも馬鹿だけどいい人だよ!!私の国はジャンケンで王様を決めるから…本当に馬鹿が選ばれたりするんだよね…ですよね!!!」
「…ふっ…ふっふ…ふはは!!」
皇帝と呼ばれるその女性は高らかに笑った。
「へ、陛下…?」
「流石勇者よ、あまり伽噺に興味はないが、あのガラクタがそこまで勇ましい剣に変わるとは思わなかった。」
「…はぁ…?これが…ガラクタ?」
「見るからに綺麗な剣なんだけど…」と、自身が手に持つ剣を見つめるニーナ。
「いいものを見せてもらった、実に楽しい娘よ。もう良い…お前達は下がれ。」
「はっ。」
「アルヴィス」
「…」
「お前は残れ。」
「御意。」
「…」
ここへきて、団長と呼ばれていた男性の名がアルヴィスということがわかったニーナ。
アルヴィスを残し、ニーナ達は先ほどいたであろう部屋に戻る。
「窓がなくて…なんか、牢獄みたいだ」
「ここはそうだね!でも上とかさっき勇者様がルークと言った場所は景色が見えて綺麗だよ!」
「あの…」
「ん?」
「勇者様ってやめてもらっても…?」
「あ!そっか!じゃあニーナね!」
「…」
ふと、ニーナはモアのことを思い出した。
彼女は上手く帰れたのだろうか。
それとも知らない土地に飛ばされてしまったのだろうか、と。
「ニーナァ?どうしたの?」
「…ん?いや!なんでもない…城の端にいると…なんか幽閉されてるような気持ちになるね」
「お城の従者達は私達を歓迎してないからね〜」
「どうして?」
「んー…強いから?」
「強いから味方にしたい…じゃないんだ」
「ただ強いだけじゃないの。ルークの能力みたんだよね?」
「あー…目が青くなるやつ…?」
「そう!それが彼の能力」
「すごいよね、傷治ってたもの。びっくりしたわ!ルークの能力傷を治す能力なの?」
「俺の能力は複製することだよ。」
「…え…じゃあさっきのって…」
「傷を癒す能力の複製。これは俺の家に受け継がれてる先代の能力なんだ。」
「じゃあ他にもそういう能力持ってる人がいるの?」
「うん、いるよ、さっき陛下仰っていた古の伝記に記されてるんだよ」
「へぇ…だから私を勇者って勘違いしてるんだ…」
「勘違いじゃないんだよニーナ」
「え?」
「…信じてもらえないかもしれないんだけど…その剣、ニーナに反応してそんな強そうな剣に変化したんだけど…元々は木の棒だったんだよ」
「え!?これが…?」
「そう!団長がなるちゃんをここへ運んできた時に剣が強く反応してたの」
「…」
「元々団長はその剣の勇者を探し回ってて…何百人と犠牲になってるんだ」
「…」
ルークとレイナがニーナに伝えたのは、アルヴィスからの刃を止めたのはニーナだけだったと言う事実。
そしてアルヴィスの剣の試しにより何百人の犠牲が出ていたことだった。
「…」
「だから…その犠牲になった人たちのためにも…勇者だと言うことを、受け入れていただけますか?」
「ルーク、あんたまた敬語になってるよ」
「…あ。」
「そうか…うん、わかった…だけど私は剣の才覚もないし…」
「大丈夫、きっと過去の勇者様の血が、ニーナにも流れてるから…だからあの時団長の剣を受け止められたんだよ」
「…わかった…ちなみにルークは複製能力で他の人は何?」
「リヒトは雷の力だよ!ユアン君は特殊で…んー簡単に言うと生死を簡単に左右できる様な感じ?」
「…怖…レイナちゃんは?」
「私はねー?空を自由自在に動かせることだよ!」
そう言って空中をかけるレイナ。
その姿は空を優雅に舞う白鳥の様だった。
「うわぁ…すっご…」
「後はまぁそのうち教えるね?」
「レイナちゃん…心読めるよね?それは能力?」
「…」
レイナはニーナを見てにっこりと笑う。
「さっき団長の名前、アルヴィスって感じじゃないって思ってたでしょ?」
「はっ!?!?やっぱり心が読めるんだ!?」
「あはは〜!見た目に反して高貴的ーって!」
「ちょちょちょ…そこまでは別に…!!?」
「勇者様は嘘つけないからねぇ?」
「可愛いんだからー!!」
そう言ってニーナを抱きしめいたレイナ。すると。
「…おいお前ら…喧しいぞ」
ここへきて、リヒトが初めて口を開いたのである。
「能力使ったらリヒトの能力が一番喧しいけどね〜!」
そう言って空を舞い上がり、どこかへ行ってしまったレイナ。
その様子をニーナは見つめていた。
「…」
「ニーナ。少し寒いけど外を見に行く?」
「うん!行く」
ルークはニーナの手を優しく引き、城にあるバルコニーへと誘った。
そこはゼルセウ王国とは正反対の風景。
暗闇の空でもわかる、真っ白な景色が一面に広がっていた。
「…ひぇー…夜だけど遠くまで見える…綺麗…だけどなんか…活気がない感じ」
「ニーナ…」
「ん?」
「俺達の一族は、勇者様に最も忠誠を誓った英傑の一族なんだ。」
「へぇ…凄いね…」
「勇者が再び現れた時、この力を使って勇者を守れって、俺の父親も、俺の祖父も、みんな言ってた。」
「…」
「だから…ニーナ…いや勇者様。俺に貴方を守らせてください。」
「…」
「…勇者様は我々英傑達と共に、この世界で苦しむ民を救うために現れたお人です。」
「…だけど私は…」
「さっき…ニーナが刃を向けられた時…俺やレイナちゃん、リヒト君やユアン君までもが、貴方を守ろうと立っていたでしょ?」
「あぁ…」
「あれは…俺達の前世の記憶がそうさせてるんだよ」
「…」
「能力を以って、勇者に仕える。それが俺達、選ばれた英傑達の務めなんだ。」
「そっか…」
ニーナは剣を見つめる。
「じゃあ私は…この剣で…その英傑達と国民を守ればいいってことか…よし!!わかった!みんなを守るよ」
「いや、俺たちは…」
「なんでかは分かんないけど…私の前に死んでいってしまった人たちのためにも…勇者の責務を果たすよ。」
「…はい。勇者様」
「あ、でも敬語とかはなしで!お願いします」
「うん、わかった」
「ところで…」
「ん?」
「勇者って…何するの…?」
「…」
一瞬の沈黙の後、二人は吹き出し笑い合う。
それは英傑として、勇者としてではなく、仲が良くなった男女達のあどけない笑顔だった。




