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勇者という名の駒1/3

レイナ

空の英傑

明るく朗らかな性格で、掴みどころがなくマイペース。仲間たちの雰囲気を和らげる存在。いつも緊張感がない。生まれながらに特別な力を持っており、その力ゆえに孤独な幼少期を過ごした。

喧嘩がめちゃくちゃ強い。


リヒト

雷の英傑

無口で感情を表に出すことは少なく、一匹狼気質。人との距離感を掴むのが苦手で誤解されやすいが、一度心を決めた相手には誰よりも一途な想いを向ける。


ユアン

ホアンクルム王国のスラム街出身の青年。

荒々しく攻撃的な性格で、周囲から恐れられている存在。その危うさから仲間たちとも度々衝突する。

しかし彼の言葉や行動にはどこか一貫性がなく、まるで別の誰かが存在しているかのような違和感を覚えさせる。


ルーク

影の英傑

穏やかで誠実な性格をしており、大切な人を支えることを何よりも大事にしている。自我を抑えてしまうため、自分の想いや考えに蓋をする損な一面もある。冷静な判断力を持ち、仲間たちからの信頼も厚い。

ニーナは、男の腕の中で瞳を閉じてからというものの再び目を覚ますのには長らく時間がかかった。



「…ん…?」

「…目を覚ましたか…?」



そして、穏やかな目覚めとは縁遠いこの状況に、一瞬にして意識を現実に戻す。


目の前に剣先が向けられていることに気づいたニーナ。



「…っ…」



条件反射で掴んだ「何か」で、向けられた剣先を真っ二つに斬ったのだ。



「…え…っ…なに、これ…ていうかここどこ…」



辺りを見渡すと、様々とした稽古場の様な場所なのだろうとニーナは察した。



「ほう…?どうやら目覚めたのは貴様の意識だけではない様だな…」


「は?なにが…一体なにを…」



質問をする前に、幾度となく自分に剣を振り翳してくる男。



「ちょ!?ちょっと!?」

「…」



先ほど自分を救ってくれた男性とは思えないほど荒々しく攻撃をしてくる目の前の男。


必死にその攻撃を交わしていると、その様子を酷く楽しんでいる様な声が響き渡る。



「ははっ…楽しそうだなぁ…でもダンチョーさーん?いくら探してた勇者さんがいたからってぇ…そんな事したら可哀想でしょお…?」


「…長い間眠りについていた力を呼び覚ますには、このくらいの試練を与えてやった方がいい。」


「は…?勇者…?試練…?力?」



「ダンチョー」と呼ばれた男は「勇者の導きを聞け。」とだけニーナに伝え、その後も目にも止まらぬ速さで剣を振りかざしてくる。



「導き…ってなに…??」

「目を逸らすな。その隙に殺されるぞ。」

「…ちょっと待ってって…うわっ…!!」



男は倒れ込むニーナの顔面に剣先を突き刺した。



「…っ…」



ニーナの頬を流れる温かいもの。

その温かいものに、ニーナは触れる。


反射的に避けたおかげで、頬を少し斬られるだけで済んだのである。



「…っ…」



危うく顔面を刺されるところだったニーナは、目の前の男に恐怖を覚えた。



「さっきの…人なの…本当に…」


「…避けたか。しかし避けるばかりでは勇者はつとまらん。」


「…待って待ってなに言っちゃってんの…?勇者…?違うよ!!!人違いだって…!」


「黙れ、その剣を持て。」

「無理です!私剣術できないです!!」

「…」



男はニーナの身体を蹴り飛ばし、尻餅をつかせる。



「…いって…」

「…」



座り込むニーナの目の前に立ち、冷たい瞳で見下ろしてくるその男。



「…っ…さっきと…違う…」



冷たい瞳の中にどこか優しさを含んでいた先ほどの男の瞳。

しかし今、自分を見つめる彼の瞳は怒り、憎悪と言った負の感情を孕んでいた。



「命乞いをしないのか?」

「…」



この男の冷たい瞳が、どこか怖く感じたニーナは逃げる様に目を逸らす。



「…」



男はニーナの行動に気付くと、長い剣先をニーナの顎に添え、傷つけないようにゆっくりと彼女を自分の視線に合わせた。



「…」

「…其方を歓迎する。」

「…は?」



ニーナの頭には困惑で塗れる中で、この重苦しい空気に絶対に合わない好き通った可愛らしい声が頭上から聞こえてきた。



「わーい!おめでとぉ!」

「…っ…」



頭上から声がしたと思えば、今度は後ろから抱き締められるような形になるニーナ。



「あらら!!ほっぺ、血出てるよ」

「…」

「団長、可哀想だよ?こんな傷だらけにして」

「…」



男はニーナを一瞥した。



「ルーク」

「え?だれ?」

「はい。」

「手当てしてやれ。」



「承知しました。」とルークと呼ばれる青年は、ニーナに優しく笑いかける。



「ど、どこから…出てきた…ていうか待って…一個ずつ整理させてよ…」


「ねえねえ!!私レイナっていうの!よろしくね勇者様!!」


「勇者様…?いやあのさ…本当に一回私の話を…」


「じゃあルーク!!後は頼んだ!あ!ちなみにね?あの奥で黄昏てるのがリヒトって男の子で、あっちにいるのがユアン君だよ!二人とも協調性ないから無理して仲良くならなくていいからね!」



爽やかな笑顔を浮かべながらとんでもないことを言っているレイナに、ニーナは笑うことすら忘れてしまった。



「…少し…戸惑っているみたいですね…?一個ずつ整理しましょう。」とルークはニーナの手を掬い取る。



「はじめまして。改めてルークと申します。」

「…ああ…はじめ、まして…」

「ずっとお会いしたかったです…勇者さま…」



ニーナを見つめたまま跪き、優しい笑みを浮かべるルーク。



「いやあの…勇者…?違うんですよ…本当に…まぁそうねとりあえず…初めまして…ニーナです…」



「よろしくお願いします…」と呟くニーナ。



「…」



ニーナの声に、柔らかく返事をしたルークはニーナの頬の傷の程度を見つめる。



「行きましょう?俺に手当てさせてくださいニーナ様」


「様!?様はやめて下さい…」

「さぁ、行きましょう。」



言われるがまま彼に手を引かれ、別の部屋に腰を下ろすニーナ。

そこには窓がなく、外の様子が見えなかった。



「…あのー…ここ…」

「こちらを向いてて下さいね」

「は、はい…」

「…」



じっとルークを見つめていると、驚くべきことが起こったのである。



「え…?」

「…」



黒色だったはずの瞳は淡い青色に変わっていた。



「すごい…」

「…珍しいですか?」


「珍しいどころの話じゃない!すごい!!すごい…!術かなんか!?」


「…え?い、いや…」



身を乗り出して問いただしてしまったニーナ。

鼻と鼻が触れそうな位置まで詰め寄ってしまったため、距離感を間違えてしまったことに深く後悔してしまう。



「…すみません…」

「謝らないで?貴女は悪くないです」


「あの…私の方が下っ端なので敬語はよして下さいよ」


「…それはいけません。」

「敬語はなしでお願いします!!!」



ニーナの気迫に押されるルーク。



「…善処します…」

「もう敬語なんですけど…それに、様も無しで。」

「…」

「次敬語使ったら無視しますよ」

「…」



吹き出したようにルークは笑いはじめ、ニーナは思わず怪訝な表情を浮かべてしまう。



「え…笑いどころありました?」


「すみません…そんなに敬称が嫌なんだなって思って珍しくて…ごめん、じゃあこれからは…敬語なしで」


「様もね。」

「はい…じゃなくて…うん…わかった」

「…あの…」

「ん?」

「次、私の話をしてもいい?」

「うん、いいよ」

「ここはどこですか?」

「あぁ…ここはね…」



「お前たち。皇帝陛下がお呼びだ。」と先ほどの男が入ってきた。



「また邪魔が入った…っ…」

「行きましょう」

「…」

「あ…行こう、ニー…ナ…?」

「うん」



ルークという青年に手を引かれ、寒々とした宮殿の廊下を歩いていく。

そこには先ほど紹介された面々も並び歩いていた。



「皇帝様、めっちゃくちゃ綺麗なんだよ!」


「そうなの…え、え?ちょっと待って…あの…皇帝…?王ではなく…?」


「ここはルメイナ帝国。皇帝陛下はその国を纏める皇帝のことだよ」


「帝国…?」

「クク…なんだお前…帝国も知らないのか?」



と、ニーナを馬鹿にする様にユアンが声をかけた。



「…王国しか知らなかったもので…」

「ふん…まるで何も知らない口ぶりだな…」


「チッ…こいつなんなんだよ…顔がイイのが更にムカつく…」



端正な顔立ちに金色の髪、まるで彫刻の様なユアンに対し、ニーナは「容姿以外全てを失った男」というレッテル貼る。



「…おい。」

「…」

「おいお前だよ。」

「うるさいお前。私お前って名前じゃない。」



その様子を見ていたレイナは笑いを堪える。



「チッ…くそ…レイナ笑ってんじゃねぇよムカつくな。」


「ごめんなさぁい」

「まぁいい…おい、一つ…確認してもいいか?」

「…はい?」

「お前…女か…?」

「まぁ見るからに…」



「女です」そう言い切る前にユアンはニーナの首を締め上げた。



「…くっ…何…する…」


「ちょっと!ユアン君!?これから皇帝様に会いに行くって言うんだからやめなよ!!」


「…俺は女を殺すことに悦びを感じてるんだよ…なぁ…?勇者だかなんだかしらねぇが…お前を嬲り殺してやりてぇ…もっと苦しめよ…」


「ちょっとユアン君!!!!やめなって!!」



レイナはユアンの腕を捻り上げると、それを見計らったルークにニーナを預ける。



「ゴホゴホ!!」

「大丈夫?ニーナ…」

「…っ…ありがとう2人とも…」

「ほら!!ユアン君!!!!ごめんなさいは!」

「うるせぇ、お互い干渉しないのが俺らだろ」



「この人を傷つけるなら話は変わってくるよ」とルークはユアンに告げた。



「俺たちが軽々しく手上げていい相手じゃない。」

「関係ねぇ…お前も殺すぞ。」



そう言ってユアンはルークを押し除け、再びニーナの首を掴むと、今度は馬乗りになりながら首を絞め始めた。



「…っく…」


「ククク…っ…そう…そうだよ…その顔だよ…いいねぇ…女の苦しむ顔は…これだけでイッちまいそうだ」


「ちょっとユアンくん!いい加減して!!!死んじゃう!!!!!」


「…っ」



息が吸えない苦しさから、視界がぼやけてくる彼女



「ふ…ふふ…ふはは…それだよ…やっぱりいい表情だなぁ…苦しむ女の顔は…」


「やめてくださいユアン君!!この人にそんな事したら…」


「…」



それは一瞬だった。



「ゲホゲホ…!!!はぁ…はぁ…」



一気に空気を取り込むニーナ。



「はぁはぁ…はぁ…っ…は…はぁ…っ…何…」



突然自分の首に回る強い力がなくなったため、ユアンを見ると、彼の腕には細い剣が突き刺さっていたのだ。



「…っ…」

「…いっ…てぇ…なんだよ…だんちょーさん…?」



ニーナは立ち上がろうとするも、膝をつくのがやっとなほど疲弊している事に自分で気づく。



「何をしている。」

「は…なんだよ…いつもは目もくれねぇくせに…」

「…」

「…っ…」

「…」



男の冷たい瞳が、ニーナを捉えた。

それは先ほどの負の感情を孕む瞳ではない別のもの。



「…っ…」



震えた男性の手が、ニーナの頬に触れた。



「…」



ニーナはその温もりを知っていたような気がした。



「…」



いつかはわからない、わからないが、遠い昔に感じた温もりに似ていた様な気がしたのである。



「…」

「ご無事で…何よりです…主人。」

「…それ…」



"ご無事ですか、主人"



「…」



一瞬感じ取ったはずの鮮明な記憶にどんどん靄がかかって行く。

少しの時間でその記憶を完全に思い出せなくなってしまったニーナは、男から視線を逸らす様にして瞳を伏せた。



「…」

「…ありがとうございます…」

「…」



男は立ち上がり、ユアンに視線を向ける。



「私の許しを得ず…この者への手出しは死を意味する。」


「…ちっ…わかったよ…目の色変わるくらい怒ったのかよ…ダンチョー…」



「その真っ赤な瞳…どうにかしろよな。」とどこか楽しそうに男性に告げるユアン。



「ルーク、軽く手当てしてやれ、皇帝陛下を待たせるわけにはいかない。」


「御意」

「…いらねぇよ。」

「だけど…」


「これは俺の落ち度だ。罰は受ける。だから触んな。」


「…」



ルークの優しさを突っぱね、ユアンはズカズカと歩いて行く。


その様子を見たレイナはニーナに耳打ちをした。



「ね?あの子頭おかしいでしょ?だから無理に仲良くならなくていいからね?」


「おい。」

「ん?」

「殺すぞ」

「うん、殺せるものなら」



そう言って笑みを浮かべたレイナはユアンの頭を撫で、軽い足取りで玉座の間に向かった。



「…」



リヒトと呼ばれる青年はニーナに見向きもせずにそなまま進んでいく。



「…なんなんだこの国の連中は…」

「ニーナ、首が赤い、手当しよう」

「大丈夫ですよ、これくらいは」

「そう…?苦しくない?」

「うん、大丈夫です」

「…」



ルークはどこか納得がいかない表情を浮かべていた。



「ニーナは、敬語取らないの?」

「え!?いや…ペーペーなので…」

「じゃあ俺も敬語にするよ」


「そうかわかった、対等の関係でいようじゃないか。」


「ふふ…うん、仰せのままに勇者様」



そう言って胸に手を当てお辞儀をするルークの所作がとても美しく、思わず見惚れてしまうニーナ。



「綺麗な動き…無駄なものが一切ないね…」

「さぁ、行きましょう?」

「うん。行こう」



そう言って二人も玉座へと向かった。


ルメイナ軍の兵士たちに追いつき、そのまま玉座へ向かう途中にニーナ、ルーク、レイナ、リヒト、ユアンは重い鎖により、手の自由を奪われたのである。


特にユアンは首から手首、足首にまで鎖に繋がれ、自分の武器も押収されていた。



「私とあの野郎はまぁわかるけど…みんなもなの…?」


「うん…私達はー…そのー力があるから」



レイナのその言葉に、ルークの不思議な力を思い出したニーナ。



「え…じゃあ…ルークみたいな力を…レイナちゃん達も持ってるの…?」


「勿論ね…!!」



「貴方達を守るための大切な力だよ…!」と、レイナはニーナにウインクをする。



「…そうなのか…ていうかあの人もやばそうな人なのに、あの人は鎖に繋がれなくていいの…?」


「団長は皇帝の従者だから…!」

「…あ…そうなんだ…」



レイナに教えられ、納得するニーナだったがどこか腑に落ちない。



「“一番危なそうだけどあの人“」

「…ん!?」



「そう…思ったでしょ…?」

そう言ってウインクをするレイナに驚くニーナなのだった。

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)

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