偽りの牙
スワヴと共に王宮の廊下を歩いていたハルカ。
ーーすると。
「…」
「アルヴィス…」
アルヴィスが姿を現したのである。
「…」
「…お前…何処へ行っていたんだ。」
「…」
アルヴィスは、穢れのないハルカの魂を見つめた。
「…何用だ。突然姿を消して…それでも陛下の忠臣と言えるのか貴様。」
「…」
「申し訳ありません…少し気になることがありまして…貴方のそばにいることができなかったことをお許しください。」
そう言って頭を下げるアルヴィス。
スワヴはその白々しさに眉を顰めた。
「何用だと言っている。」
「…ホアンクルムの兵士達が…何やら不穏な動きをしているのです…」
「なに…?」
「少し確認していただきたく、スワヴ様を探しておりました。」
「…」
「裏庭の駐留している兵士たちです。しかし私の言葉など…信じるに値しないでしょう…どうぞ、ご自身の目と耳でお確かめください。」
「…あぁ…承知した。」
「…」
スワヴは怪訝そうな表情を浮かべながらも、アルヴィスの言動の確証を得るため彼の言った通り裏庭への向かった。
「…」
アルヴィスは静かにハルカへ歩み寄る。
「アルヴィス…お前…」
「…お前も勇者に絆されたか…?」
「何、を…っ…」
「…」
アルヴィスはハルカの乱暴に首を掴み、爪を差し入れると瘴気を注ぎ込んだ。
「うっ…っ…アル…ヴィス…っ…」
アルヴィスはニーナ、そしてモアが照らした光を簡単に闇に染めていく。
「…お前の心は…私だけのものではなかったか…?」
「…っ…私、は…っ…お前の…もの、だ…っ」
「あぁ…そうだな…なら…私の望む通りに…できるだろう…?」
「…」
ハルカは、痛みと苦しみに耐えきれず膝から崩れ落ちる。
「はぁ…っ…はぁ…私はお前のものだ…でもお前は…私のものになってはくれない…っ…」
「…」
ハルカの元に跪き、彼女の髪を掴むアルヴィス。
「もうすぐ…戦が始まる…」
「…」
「兵を動かさねばならない…ハルカ…お前が必要なんだ…」
自分を求める、低く響くアルヴィスの甘い声にハルカは簡単に絆されてしまった。
「…あぁ…わかっ…た…っ…」
「…」
アルヴィスは抵抗する力を失ったハルカを抱え上げる。
そして、誰にも気づかれることなく闇の中へ消えていった。
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ホアンクルムの兵士達が駐留しているという裏庭へやってきたスワヴ。
「…」
そこには、ホアンクルムの兵士達が列を組み並んでいた。
スワヴは近くに置いてあった荷物に身を顰め、彼らの会話に耳をそば立てる。
「…そろそろ…か…」
「あぁ…時は…来たようだ…」
核心に触れようと、文字通り息を止めて聞き入った、まさにその時。
「…っ…」
肉が切り裂かれる音が、自身の身体から聞こえてきたのである。
「…かはっ…っ…」
「…」
なんとか振り向き、自身を襲った人物の顔を見たスワヴ。
そこにはなんとハルカの姿が。
「ハル…カ…っ…」
「…ふっ…」
しかし、どこか様子のおかしかったハルカの表情に気づき、スワヴはハルカを切り裂いたのである。
「…」
切り裂いた胴体からは血飛沫は上がらなかった。
ーーそれは生き物の形を保てなくなった闇。
「お…っ…のれ…」
霧散した瘴気の奥から、ゆっくりと本来の姿が現れる。
「…アル…っ…ヴィス…」
「謀ったな…っ!!!」と、スワヴは再び大剣を振りかざす。
「…あのままハルカについていればよかったものを…」
「…っ…」
「私への対抗意識が…己を殺したな…スワヴ…」
「ぐっ…っ…」
アルヴィスはスワヴの身体にレイピアを突き刺した。
「お前の死因は…ホアンクルムの兵士に斬られたことによる失血死…味方の死に陛下は激怒し…ホアンクルムを火の渦にする…最高のシナリオだろう…?」
焦点の合わないホアンクルムの兵士達は、おぼつかない足取りでゆっくりとスワヴの元に近づいていく。
「そして何より…愛する者にそこまで想われるお前も…幸せなはずだ…」
アルヴィスは卑しい笑みを浮かべた。
「…っ…ま…てっ…」
「…」
「私は…貴様を…っ…絶対に…っ…」
「許さない…っ…」
敵兵の群れに消えていくアルヴィスを憎悪と殺意を孕んだ眼差しで追う。裂けるような激痛が走る傷口を乱暴に圧迫し、震える足で立ち上がったスワヴ。
「おの…れ…っ…己ぇ…!!!!!」
たとえその姿が見えなくなろうとも、一歩、また一歩とスワヴの中に湧くアルヴィスへの殺意が、その足を前へと動かしていたのだった。
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ルークはニーナを抱きかかえ、レイナと共に城外へ出た。
「あれ…後ろからついてきてくれてると思ったんだけど…」
「少し速すぎたのかもしれないですね…今分断するのは危険ですから、きた道を一旦戻りましょう。」
「そうだね、ていうか、ねぇルーク…」
「はい、どうしましたかレイナちゃん。」
「そういえば何だけど…リヒト…いなくない…?」
「確かに…待機してるはずの場所に居ませんでしたから…何かあったんじゃ…」
「私…探してくるよ」
「わかりました。」
レイナはそういうと、踵を返しきた道を戻るのだった。
ーーその一方でルークたちを見失ってしまったバルドとフィル。
「チッ…あいつら足がはえーな。おいチビ女」
「何よ!?あたしのことなわけ!?」
「あたりめぇだろうが、おめぇしかいねぇんだから。」
「さっさと歩け。」と告げるバルドにフィルは飛び蹴りした。
「いってぇ!?なんだよ!?」
「くそだのちびだの!それしか言えないわけ!!」
「あぁ…?なにきれてんだよ…ったく…あ?」
上空を駆け抜けようとしていたある人物に、バルドは声をかけた。
「あれ…あ!さっきの!!」
「おめぇ飛べんのかよ!?」
「やっほー!」
「なんか用なわけ?」
「あのね!もう1人仲間がいるの!」
「俺の質問は無視か?」とバルドはつぶやく。
「あたしたちに関係ないわよそんなの。行くわよバルド」
「おい待て…」
食ってかかろうとするフィルをバルドは制す。
「なによ!!!こんなやつの話聞かなくていいでしょ!!!!」
「お前、ちょっと落ち着けって…んで?」
「目元にほくろがあってー、黒髪でーちょっとインテリぶってて、鼻につく感じのある男の子見てない?」
レイナの少々悪意のある言い方にバルドは戸惑う。
「もう一度確認だが…そいつは敵じゃねぇんだよな?」
「もちろん!仲間!」
「なら…そいつを馬鹿にしてんのか?」
「いや!全然馬鹿にしてないよ!」
「…」
「悪意はねぇんだな。」とバルドは考え、ある1人の人物が思い浮かんだ。
「…少しおめぇのイメージと俺のイメージ相違があるが…そいつぁ双剣をもっているか?」
「あー…その子もいるけど…まぁその子は今ちょっと置いといて!」
「置いとけるか!!!テメェな!!」
「しー…!」
レイナはバルドの元へ舞い降り、彼の唇を人差し指で押さえた。
「そんなに大きな声出さなくても…聞こえるよ?」
「…っ…」
「ちょっと!!!あんたねぇ喧嘩売ってんの!?」
そう言ってフィルは、レイナの手を振り払おうとする。
ーーしかし逆に手を握られ、何故か手を繋いだ状態になってしまっていた。
「ちょ…っ…」
「もー!2人ともカリカリしないで?お願い聞いて?私たちが話してたのは雷の英傑…でも…いるはずの場所に居なくて…」
レイナに握られた手を勢いよくふり払うフィル。
「…嘘をつくならもう少しマシな嘘つくことね!?」
「あはは!嘘じゃないよー?」
「ね?お願い、仲良くしよう?」とバルドとフィルに笑いかけるレイナ。
「ちっ…なんだおめぇ…調子狂うな…っ…」
「…あんたは何絆されてんのよ…!!!」
そう言ってフィルはバルドの脇腹を肘で強めに突いた。
「いってぇ…ちっ…クソアマ…てめぇな…っ…」
「こら!貴方、そんなこと言っちゃダメでしょ?」
「あぁ!?」
「あ、あの…!!!」
3人が揉み合っている間にモア、シン、レイの3人が合流する。
「なに…してんだ…?お前ら…」
「…」
モアとシンは呆れるように眉を下げた。
「…」
「戯れ合うのはいいけど、今やるべきことを考えようよ。」レイに釘を打たれるバルドとレイナ、フィルの3人。
「悪ぃ…」
「あはは!ごめん!今私人探ししてたの!見つからないからそれでこの2人に聞いてたんだよね!後すぐ探しにいく!!」
「そうだったんだ…兎に角急ごう?なんか…凄く胸騒ぎがするから…!!」
「わかった!ニーナたちは城の門のところにいるからね!!」
「ありがとうレイナちゃん!!」
「バイバイ!勇者様!」
そう言ってレイナはモアにウィンクするとその場を後にしたのだった。




