兆し
会合は半ば無理矢理切り上げる形で終えることとなる。
モアは残りの仲間達との邂逅や、ニーナの回復を望むがーー
リヒトは兵士たちと共に未だ待機していた。
しかし、先ほどまでいたはずのユアンが姿を消していたのである。
「すまない。」
「はっ。」
「…先ほどから…ユアンの姿が見えないが。」
「はぁ…確か団長に呼ばれたとかで…」
「…団長に…?」
そう言ってリヒトは眉を寄せた。
「何かがおかしい」
そう感じたリヒトが視線を落としたその瞬間。
「…まずい…っ…」
最悪な可能性がリヒトの脳裏によぎる。
「リヒト様?」
「お前達…すぐにユアンを探せ…!!!」
「なぜですか?」
「…戦争が…」
「始まってしまうかもしれない…」
そう呟いたリヒトは、消えたユアンを探すため駆け出したのだった。
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モア達が応接間に戻ると、そこにアルヴィスの姿はなかったのである。
「…」
「…」
先ほどのことがあった中での早い再会に、どこか気まずさを覚えていた一行。
その間にもつつがなく、四国の会合は進んでいっていた。
ーーそのはずだった。
「ハルカさんー、いやぁしかし…装飾品に一切劣らない美しいお方で!!!」
「…」
余すことなくハルカに施されている装飾品を見つめるヴァルド。
「その資源を…国民に使おうとは思わないのか?エルゼリア陛下。」
ヴァルドは紅茶を嗜みながら、ハルカに告げた。
「…」
「貴方の国は、貧困が進んでいるようだが。」
「たとえそうだったとして…貴様には関係ない…」
「「…」」
張り詰めた空気が漂う。
そんな空気を意に介さず、ヴァルドは豪快に笑った。
「はっはっは、元は勝手に独立して行った歴史の浅い国…元々は私の国民だ…飢え死にするようなことがあると言うなら…」
そう言ってヴァルドは拳銃に触れる。
「「ひっ…!?」」
「すぐにでも…領土を奪還しに参りますぞ。」
「…そんな浅い国に未だ攻撃を向けれない口だけの負け犬がほざくな…」
「はっはっは…血気盛んなのは結構だが…貴方には経験が足りない… 発言には気をつけた方がよろしいですよ、お嬢さん。」
「…っ…」
「…」
ハルカがヴァルドへ大剣を向けた。
ーー次の瞬間、鋭い剣戟が応接間に響き渡った。
その刃が振り下ろされるより先に、ジュノが2人の間に割って入ったのである。
「「…」」
あまりの緊迫した空気にモア達は立ちすくむことしかできない。
「…おやめ下さい。」
「ジュノ。」
「…しかし陛下。」
「戻れ…構わん。」
「…」
ヴァルドにそう告げられたジュノは、不本意ながらも剣を鞘に戻す。
「腕のいい従者に救われたなジジイ…」
「はっはっは…そうですなぁ…」
「…そのでかい図体…この大剣で真っ二つにされたくなければさっさと失せろ…」
「…そんな何人もの手練れを応接間に入れて…由緒ある大陸の始まりを収める私がそんなに恐ろしいか…?」
フィリクスはモア達を見つめる。
彼は「怖いに決まってるじゃん…っ…」と顔を青ざめさせていた。
「…なに?」
「…」
応接間に緊張が走る。
耐えられず、フィリクスは声を上げた。
「あのぅ!!!お二人とも…ジョークにしてはこーわーすーぎ!!!!僕がハルカ陛下に余計なことを言ってしまったばかりに!!」
「…気にするな。ホアンクルム陛下に何を言われようと、何を言われなくとも…いずれはこうなる…」
「はっはっは、どうにも嫌われてしまいましたなぁ」
「…」
ハルカはヴァルドを鋭い瞳で睨んだ。
「と、とりあえず落ち着いてください!!ね!!アルディオ殿下!!」
そう言ってフィリクスは仲裁に入り、アルディオを見つめようとするが、彼はどこにもいなかったのである。
「は、はれ…っ…??」
「申し訳ありません…殿下はお手洗いに…」
ミハイルがフィリクスに耳打ちをする。
「嘘でしょ…!?まじで…!?」
「…マジにございます…」
「…っ…」
「そんな馬鹿な…っ…」と頭を抱えるフィリクス。
そんな彼の思いを察したのか、ヴァルドは立ち上がった。
「ひっ!?」
「さて、我々は帰るといたそう。」
「承知しました、陛下。」
そう言ってジュノは扉を開ける。
「すまなかったなホアンクルム陛下…やはり若者とは話が合わないようで…今後は空気を悪くするといけませんからお三方で会合なさってください。」
「え!?いえいえ!そんなわけにはいきませんよ!」
「はっはっは…これは本格的に考えなければいかんようですなぁ…」
「な、何を…でしょう…?」
「領土を取り返す…と言うことですよ。」
「…っ…」
「…」
「では、失礼。」とヴァルドは応接間を後にした。
「皆様、我が陛下が失礼をいたしました。」
「いえいえ…」
「しかし…」
「これだけは言っておきますよエルゼリア陛下」とハルカを感情の読めない瞳で見据えるジュノ。
「…」
「…覚悟は…なさっていてくださいね。」
「…」
「失礼します。」とジュノはフィリクス達に頭を下げ、応接間を後した。
「…」
ーーー物々しい空気が漂い始めたその時。
「お待たせしました…廊下でヴァルド陛下とお会いしまして…会合はお開きとのことで…」
「我々も帰るといたそう…ミハイル…」と、弱々しい声が小さく響く。
「承知しました、陛下。」
「本当、お大事にしてくださいねアルディオ君」
「すべて君に任せてしまって…申し訳ない…あたた…」
「くすり…効かないね」
「薬よりも効果あるみたいでね…ヴァルド陛下のお顔は…ぐぅ…は、早く帰ろうか…」
「失礼致します」と、ミハイルはアルディオの肩に腕を回し、なんとか抱えながら応接間を後にした。
「…」
「…」
静寂に包まれた応接間で、初めに口を開いたのはハルカだった。
「アルヴィスは何処へ行った…?」
「兵士たちをまとめる…と…」
「そうか…」
「あのジジイどもの群れが見えなくなった頃に…我々もすぐ出立するぞ」
「承知しました。」
「…」
ルークやレイナ、ニーナを見つめるハルカの瞳は、先ほどとは比べにならないほどに優しい色をしていた。
「…」
「…モア様…お話はできましたか…?」とハルカを見つめていたモアにロベルトは耳打ちをする。
「あ…はい…一応…」
「ハルカ殿下に許しをいただければ、今一度お話しできるかと…」
「…お願いできますか…」
「えぇ、もちろん」とロベルトはモアに微笑む。
「エルゼリア陛下。」
「…すまないが…」
「…」
「この者達と話すのはまた別の機会でもいいか…」
「しかし…」
「2人足りぬ…、その者達も全員揃っていた方が話しやすいのではないだろうか。」
「…」
ハルカにそう告げられたロベルト。
「…モア様、どうなさりますか?」
「ならせめて…ニーナの…その勇者の女の子の魂を浄化させてください!!!」
「構わない。お前の浄化とやらで…この者がまた私の話し相手になってくれるのなら…」
「え?」
その言葉に違和感を覚えたモアはニーナの元へと向かう。
「…ニーナはある時から…まるで人形のようになってしまった…」
「そう…なんですか…」
「この者といると…荒んでいたはずの心が消えていくんだ…」
「こんなに温かな人間を俺は知らなかった…」と穏やかな表情で告げるハルカを見つめたモア。
「だからどうかニーナを救ってほしい…」
「勿論です…!」
そう言って、モアは今自分にできる全てを使ってニーナの魂を穢す闇を浄化していく。
「ルーク、レイナ。俺は先に行っている。」
「承知しました、恐らく団長は出入り口で待機している隊士の元にいると思います。」
「わかった。ホアンクルム陛下…」
「は、はい!!!」
「騒ぎ立ててすまなかった…失礼する。」
「またいらしてください」
「…」
ハルカはフィリクスに頭を下げ扉の前で待機していたスワヴと共に応接間を後にした。
ーーフィリクスはハルカの表情を見て改めて理解した。
勇者の力とは、敵を倒すためだけのものではないのだと。
するとここで、モアが口を開いた。
「みんな」
「…」
「一旦城の外に出よう。」
「いいのか?ここじゃなくて」
「うん、人が沢山いるってことはそれだけたくさんの闇を吸収してしまうってことだから…」
「わかった。」
「俺が抱えます。」
そう言ってルークは、ニーナを抱きかかえレイナと共に応接間を後にする。
「みんな行こう。」
「わかった。」
「…」
モアはフィルを見つめる。
動こうとしないフィルに声をかけたのはバルドだった。
「おら、フィル行くぞ。」
「…なによ!!!」
「はいはい。」
バルドはフィルの首根っこを掴み、応接間を先に後にする。
「俺らも行くか!」
「うん」
「王様!今日はありがとうございました!」
「うん、全部終わったらみんな連れてまた玉座の間においで」
「ありがとうございます!!」
モアは、フィリクスに感謝を告げシンとレイと共にルーク達を追った。




