終わりを告げる足音
「戦争が始まってしまう。」
ユアンやアルヴィスの考えがやめてしまったリヒトは、なんとか食い止めようとするがーー
ユアンを探していたリヒトだったが、ニーナ達が城外に出たことに気づき光を感じる方へと駆けていく。
「…っ…」
「…おい、何処に行くんだよ。」
「…ユアン…お前…」
「…」
「何故、そんなに…傷だらけなんだ…?」と呟いたリヒトの先には、傷だらけになったユアンの姿があった。
「はぁ…っ…ハハッ…っ…」
ユアンは頭を抱えると、何かから逃げるように自分の胸元を剣で突き刺したのである。
「お、おい…!!何をしているんだ…!?」
「…っ…はぁ…はぁ…クソ…俺の邪魔をしやがる…」
「…」
「…もう…っ…止めることなんか…できねぇぞ…っ」
ユアンはそう言って指先を動かそうとするが、ひどい頭痛に襲われ、苦しさのあまり蹲る。
リヒトはユアンに駆け寄った。
「お前…何をしようとしている…!!!」
「…俺たちは…もう…進むしかねぇってことだ…」
「…っ…」
ユアンの指先には自傷した痕があり、彼の中にいるユアが必死に抵抗したであろう痕跡が残されていた。
「…愚かな人間の行いを…見物しようぜぇ…?」
ユアンが告げ指先を動かそうとしたその時。
雷を落としたリヒト。
「…ふっ…そうくると思ったぜ!!!!」
「…」
ユアンは双剣を振り回しリヒトに攻撃を向ける。
「…ちっ…ユアン!!やめろ…!こんなこと…何になるんだ!?」
「人間が傷つき…死へ近づけば…俺の力が存分に発揮されるってわけだぁ…ククク…っ…」
瞳孔が開き切った不気味な瞳がリヒトを捉えて離さなかった。
「ユア…おいユア!!!目を覚ませ!!」
そう言ってリヒトは指を鳴らし雷を放つ。
「…っ…」
「何をしているんです!!!!」という兵士の声がこだました。
雷鳴のような衝撃音を聞きつけたルメイナ軍の兵士達とレイナが駆けつけ、激しくぶつかり合う二人を制止したのである。
「…っ…」
「離せよ!!!!どけぇ!!!」
「ここはルメイナの敷地ではないんです…!!軽率な行動一つで…戦争に発展しかねない…」
「…リヒト…!!何してんの貴方まで…!」
「すまない…っ…ニーナとルークはどこに行った…?」
「え?あぁ…もう1人の勇者様のところに…」
「…っ…」
リヒトはレイナの言葉に目を見張り、兵士たちの制止を振り切り駆け出した。
「リヒト!!何!!!どうしたの!?」
「…まずい…このままでは団長の思惑のまま戦争が始まってしまう…」
「どういうこと…ねぇリヒト!!!」
「…っ…細かいことは後だ!!兎に角今はニーナを連れ戻して団長を…っ…」
「…っ…」
ニーナたちがいる城の門へと向かう道を走っていたリヒトとレイナ。
ーーしかし、その行手を阻む者がいたのである。
「…へ、陛下…」
「団長…っ…」
ハルカとアルヴィスが現れたのだ。
リヒトを含めた兵士たちは全員跪く。
「…」
「…何をしている…出国の時間だぞ…」
「ニーナと…ルークを迎えに行って参ります…ですので…」
「構わぬ…指定の位置に戻れ…」
「しかし陛下…!!!」
「…陛下の」
リヒトがハルカへ異議を唱えようとするも、アルヴィスによって止められてしまう。
「陛下の指示を退けるつもりか…?」
「…っ…」
「お前たちは最後尾につけ…わかったな。」
「…承知…しました…」
「少しでも…目に余る行動をとれば…わかってるだろう…?」
「…っ…」
リヒトは唇を噛み締め「はい…」と小さく呟いた。
「…行け…」
「…」
「ハルカ陛下…」
「…」
ハルカの空虚な瞳がレイナを捉えた。
「…スワヴ…さんと一緒にいた、よね…?」
「…」
「あの人はどこに行ったの…?」
「奴の所在は知らぬ…」
「そんな…」
「言いたいことはそれだけか…?」
「…っ…」
「何もないのならばお前たちもすぐに戻れ…」
「出立だ。」とハルカは兵士たちに告げる。
3万の兵が動き出す。
彼らはまだ知らなかった。
自分たちの足音が、やがて一つの国を飲み込む戦いの始まりを告げる鐘のように、ホアンクルム全土へ響き渡っていることを。




