救いの手と囚える手
ホアンクルム王宮の外で兵士たちと共に待機していたリヒトとユアン。
「…」
「チッ…なんで俺がおめぇと待機なんだよ」
「…必要とあらば俺がお前をすぐに殺せるからじゃないか。」
「けっ…そしたらお仲間さん…戻って来れなくなるぜ」
「…そのうちお前が顔を出さなくなるくらい強くなる」
「強くなってもらわねば困るんだよ。」とユアンの瞳の奥を見つめたリヒト。
「ケッ…今ここでオメェを殺してもいいんだぜぇ」
「必要のない殺しはしない方が賢明だ。」
「はぁ?必要に決まってんだろぉ?なんてったって俺を殺そうとしてるやつが目の前にいるんだからなあ」
「…」
「…」
ユアンが双剣を振り翳した瞬間。
切り裂くように雷が鳴り響いたのである。
「…ちっ…」
「やめておけ…人間の力は自然の前では無となんら変わらない。」
「…あぁ…そうかい。」
「次…変な真似をすれば…何を言われようと、俺はお前を殺す…」
「それを覚えておけ…」
そう告げたリヒトは髪色と瞳の色が雷と同じ色に染めていた。
彼の静かなる怒りは辺りにも伝わり、ルメイナ国の兵士達は固唾を飲んでそれを見守ることしかでき無くなってしまったのだった。
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モアは、カイルスを追いかけ応接間を後にした。
ーーすると
「…貴方…!!」
「うおっ!?」
モアは唐突に腕を引かれ、反動で首を痛めそうになる。
「は、はい!?」
「あ、貴方…勇者様だよね…!?」
「え?あ、はい…」
「私…レイナっていうの…!!空の英傑…!!」
「え?え!?」
「空の英傑!?」と驚く間も無く、レイナは矢継ぎ早にモアに告げる。
「あのね、ニーナが本当に危ないの…!!貴方の力がなきゃ…ここの人たちをみんな殺しちゃうかもしれない…っ…」
「…えっ…」
「貴方も聞いて欲しい…神器は、善悪を判断する意思はないの。持ち主が何を願い、何を選ぶのか…ただ、それに応えるだけのものなの…」
「…それってつまり…善にも悪にもなるってこと…?」
レイナは頷く。
「持ち主の強い思い、持ち主の中にある闇すら力に変えようとする…何が言いたいかわかる…?」
「…」
「自分を責め続け、守らなきゃ、強くならなきゃと自分に暗示をかけ続けてるニーナが今の状態で剣を振るったら、とんでもなく極端なことが起きるの…!!」
「待って待って!落ち着いて!!」
レイナは感情が先に向いてしまっているため、モアはなんとか彼女の気持ちを汲み取る。
「…守るべきものをそもそも作らなければいい…そう思って…みんなを殺すってこと!?」
「そう!!!だからお願い…早くきて…!!」
「わかった…!!」
モアは駆け出しレイナの後を追う。
「ニーナ…!!!」
「…」
そこには癒しの力を放つ小龍とルーク。
そして、そこに蹲っていたのはまるで抜け殻のようになってしまったニーナだった。
モアは彼らの元に駆け寄ると、ニーナの元に跪いた。
「モア様…」
「ルーク君!?どうして…いや今はそんなことはいい…!!ニーナ…っ…ニーナどうしてこんな…」
「…」
「ねぇ…ニーナ…返事をして…ニーナ!!!」
「ニーナは…酷く魂を汚されてしまい自我を失ってしまっているんです…」
「え…?」
「彼女は闇を吸収する力… 貴方のように吸収した闇を浄化することはできないんです。」
「…っ…」
「勇者様、もしかして貴方まだ…何も知らないの…?」
青年から告げられた自分の力。
それを理解する事はできても、実践することができなかったモア。
ルークの言葉に戸惑いを浮かべていたのはそういう理由だったのである。
「私が闇を浄化できるってことは知ってる…でも…まだどうやってやるかはわかってない…っ…」
「そばにいるだけでいいの…」
「…」
「お願い…ニーナのそばにいてあげて…っ…」
「レイナちゃん…」
「…」
「わかった。」
そう言ってモアは俯くニーナを見つめた。
「…」
「…ニーナ…?」とモアは呼びかけるも、ニーナは返事をしなかった。
ニーナの魂は以前より穢れていて、光が見えなかったのである。
「ニーナ…私はわかってる…全部わかってるよ…っ…だから…自分を責めないで…」
「…」
「ねぇ…ニーナ…私…ニーナの記憶を見たの…っ…」
「…」
「ごめんね…ニーナに全部背負わせて…っ…」
小龍が癒しの力を放つ。
それに重ねるように、モアはニーナの胸元に手を翳そうとしたその時。
「…っ…」
「何をしている」という声が響き渡った。
どこか空気が変わったことに気づいたモア。
先ほどまで感じた嫌な気配とはまるで比べ物にならないもの。
もっと冷たく、逃げ場のない何かがモアを襲った。
「…」
「はっ…」
ーーその人物が現れた時、モアの胸元に強い痛みが走ったのである。
「団長…っ…」
「…っ…」
「…」
その人物とはアルヴィスだったのである。
ーーアルヴィスはニーナを見つめた。
「…っは…」
アルヴィスの瞳を見たモアは、なぜか強い焦燥に駆られたのである。
「…レイナ…ルーク…ニーナ…勝手に持ち場を離れては困る。」
「…」
「申し訳ありません…」
「…っ…」
「…ほう…?これはこれは…」
そう言ってアルヴィスは、モアを見つめた。
「貴方も…勇者の魂をお持ちのようだ…」
「…どうして…っ…」
「…」
アルヴィスが、口角を上げモアに触れようとしたその時。
「モアに触んな。」
「…」
低い声が響いた。
次の瞬間、モアの身体が強く引かれる。
「…」
ーー彼女を守るように立っていたのは。




