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嵐の前の静けさ

フィリクスが頭を悩ませ、アルディオが腹痛を訴えるほどの恐ろしい四国会合が今始まろうとしていたその裏で、何かやら怪しい動きもあった。


【登場人物】

ヴァルド・グラディウス・ルノーピア:ルノーピア帝国皇帝

ジュノ:ヴァルドの忠臣


王宮の扉が開いた瞬間、酷い緊張感に襲われる。



「…」



フィリクスが「顔が怖い」と言う理由がわかった。



「ヤベェ…本当に顔が怖い…」

シンの言動を聞いたバルドとフィルは彼の頭を叩いた。



「シンちゃん…!お願い黙って…!!」

「みんな静かに…」



「お久しぶりに御座います、フィリクス殿下。」という低い声が響き渡り、一同背筋を伸ばす。



「私共の願いを聞き入れていただき、ルノーピア皇帝の名代としての感謝の意を表する。」



ジュノが感謝の意を伝えた。



「なんで目の前にいるのに自分で伝えないんだ。」と呟こうとするシンの口を塞ぐバルド。



「い、いえいえ…どうぞ…お座り下さいませ…」

「…」

「…」



じっと、フィリクスを見つめるヴァルド。



「あ、あのぉ…う…」

「約束の時間に遅れてしまい、申し訳なかったな。」


「はひ…ま、全く気にしてないのでね!さーさー!お座り下さいませ!陛下!」


「では、座らせていただこう。アルディオ殿下はどうなされたので?」


「数日前からお腹を下している様でして…厠の方に…」

「そうか。」

「…」

「…」



張り詰めた空気が応接間に流れる。

そんな中で「なんか空気悪いですね」という声が響き渡る。



「「…」」



「そうか?」

「はい、やはり陛下の顔が怖いせいじゃないですか」

「はっは!ジュノー…それはないだろうー?」


「いえ、大体こういう空気の時って、貴方の顔が怖いとか、オーラが怖いとかそう言った理由で空気張り詰めてる場合が多いので。」



「「…」」



「それは申し訳ないなぁ…顔は…どうしようもないからなぁ…」


「そうですよね、本当どうしようもないお顔です。あとやはり、遅れておいてその態度が皆様もむかつくのではないですか。」


「…確かに…それはそうかもしれないな。」



「申し訳なかった殿下」と頭を下げるヴァルド。



「いえいえいえいえいえいえ!!!な、なんのなんの!!いいんですよお気になさらずね!!!遠いですからね!!!!!!」


「いえいえ、早く出れば済む話ですから。はっきり仰っていただいて結構ですよ。」



「顔だけの自堕落オヤジなので。」というジュノの発言に、さらに張り詰める応接間。

フィリクスは余りの居心地の悪さに声帯がひっくり返る。



「…えっとぉ!?」

「ん?」

「…」

「い、いやぁ!いい天気ですねぇ!」



あからさまに喉を締め付けられているようなか細い声を出しているフィリクス。


かつて、こんなにも恐ろしい談笑があっただろうか。


ーー彼が哀れに思えてきたモア。



「皇帝か…やっぱ風格があるね…」

「レイ君…!!やめなさい…!」

「ジュノって野郎…彼奴が一番恐ろしいだろ…」

「本当ね…こっちまでなんかヒヤヒヤしたわ…」

「みんな聞こえるって…!!」

「モアの声が一番うるさいぞ」

「…すみません…」



シンの発言にレイ、バルド、フィルの3人が同時に彼に向けて拳を向ける。



「ルメイナの連中はまだ来ていないのか。」


「は!!!いやー!ゆっくりおいでなさって!と言ったので僕はがね!悪いんです、申し訳ありません!」



ーーカチャリ…と金属の合わさる音が小さな音にも関わらず響き渡った。



「な、なんと…それは拳銃で…!!!」

「おう、これか?殿下も持ってみるか?」


「うぇっ…い、いいんですか!?いやぁ!どーもどーも!!」


「…」



「あれが、長いものに巻かれろってことか」とバルドはフィリクスを見つめ呟く。



「…しっかり媚び売ってるものね。」

「ああいうのが大事なんだよきっと。」

「…なんだか情けなく見えるけど。」


「でも、あの怖そうな顔してる皇帝も楽しそうにしてるからいいんじゃないか?」



「楽しけりゃいいのかよ。」とバルドは呆れた。



「モアちゃん、大丈夫?」


「レイ君…ありがとう…今ならアルディオさんの言ってることがわかるよ…」



「私も胃痛が…」とモアは呟いた。



ーーヴァルドが応接間に現れて一時間が経過した頃。

青ざめたアルディオが戻ってくる。



「も、申し訳ございません…少々…腹を下してまして…」

「気にするな。おい。彼に腹の薬を渡してやれ。」

「はっ。」

「え??い、いやいやそれは…」


「彼は数時間前に薬を服用しましたので、飲むことはできないのです。」



「せっかくのご厚意を無碍にしてしまい申し訳ございません。」とミハイルはヴァルドにこうべをたれる。



「これは、服用しても飲める薬だそうだ。国の薬師から頂いたもの…試しに飲んでみてはどうだろう。」


「いえ…」

「…では有り難くいただきます。」

「ちょ…陛下…!!!!」



ミハイルの静止も聞かず渡されるがままにその薬を飲むアルディオ。

ーーその時、ヴァルドは口角を上げた。



「アルディオ殿下…貴方は人を信じすぎだ。それは毒薬かもしれんぞ。」


「…っ…」

「なに!!」



グルルハラの従者達はヴァルドに剣を向ける。

ミハイルは表情を変え、強い怒りを宿した凍りつく瞳でヴァルドを見つめた



「貴様…陛下に何を飲ませ…」

「うっ!!!!ぐあ!!!」



アルディオは胸を抑え蹲ってしまう。

ミハイルはすぐに駆けつけ、蹲るアルディオを抱きかかえた。



「陛下!!!陛下…!!!!!」

「ぐ…っ…治った…腹の痛みが治った!!」

「へ…?」



「「治ったのかよ!!!!」」



シンとバルド、そして従者達は思わず突っ込んでしまう。



「静かに2人とも…!!!!」

「あぁ…ごめん…」


「すまん。つい…ふざけてるからよ、あいつ…ていうか従者達も思わず突っ込んでたろ。」


「もう…!!お願いだから本当黙って…!!」

「ねぇ見てレイ…あのジュノって奴…欠伸してるわよ」

「本当だ…眠いのかな…」



バルド達を叱っている中で、呑気に会話をするフィルとレイ。



「そこ…!?いやそうかもしれないけど…!こんな場所で…しかも王がいる前でやっていい行動じゃないでしょ…!!」


「でもあの皇帝様は全然気にしてないよ、気にしてないならいいんじゃない…?」


「…確かに…それもそっか?」

「良くないです…!!!!」



モアは若干無礼な仲間達を抑えるのに躍起になっていたのだった。


ーーそしてついに、最後の皇帝がこの地に足を踏み入れる。



「ルメイナ帝国皇帝到着!!!!」



この時点で、約束の時間から3時間が経過していた。



「おいおい…あいつら遅すぎねぇか…?」

「どんなやつか見物よ…本当。」

「しっかし…これまたスッゲェ騎士の数…」



黒と銀を基調とした甲冑を身に纏い現れた兵士たちの数。

およそ三万。


モアたちはルメイナ軍の迫力に、思わずため息をついてしまった。



「こりゃ時間かかるわ…すげぇ…」

「なんか怖いね…黒と銀ていうのがまた…」

「あぁ…」

「…」



モアは外を見つめると、とてつもないほどに大きく、嫌な気配を感じ取った。



「…なんだろう…この感じ…」

「モアちゃんも感じた?」


「レイ君も?なんか…すごく嫌なものが近づいてくる感じがする…だけど…なんだか光も感じるような…」


「もしかしたらこの中に、俺らの仲間がいるんじゃねぇのか…?」


「その可能性はあるね」

「…後で話すことはできないのかな…?」



「できたりします…?王様…」とモアは尋ねる。



「そ、そんな怖いことするのモアたま…」


「お、王様…お願いします!なんとか聞いてくださいよ…!」


「女帝怖いのよー…女王様なのよー…」

「陛下…でしたら私が代わりにお聞きしますので…」

「あ、本当?じゃあお願いねロベちゃん♪」



「本当クソみたいな王様だな。」とバルドは王を一喝する。



「く、くそっていわないでよぉ…!?」

「脆弱もんが…!!しっかりしろよ…!?」

「皆さん」



「到着なされたようですよ。」とロベルトはモア達に告げる。



「ハルカ殿下…お待ちしておりました」

「…」



やってきたルメイナ帝国皇帝ハルカを見つめ、モア達はその美しさに目を奪われる。



「綺麗…」

「…」



ーーそして同時に、嫌な気配の元凶を捉えたのだ。



「おい…この連中…ひでぇ魂の色をしてやがる…」


「…っ…まって…この中に…微弱だけど光が宿ってる人がいる…」


「英傑だ…!!」

「モア…英傑よ…!」



モアはある人物を見つめ言葉を失っていたために、仲間達に返答することができなかった。



「…っ…」

「…モア、どうした。」

「モア…?」

「…」



ハルカに仕えている従者たちは全員口元を隠し、跪いた状態でいた。

ーーしかしモアにはわかっていた。


ニーナがいることを。



「…」


「…いらっしゃいませ、さあさあ!お座り下さいませハルカ殿下!!!!」


「遅れてすまなかったな。」

「いえいえ!なんのなんの!気にしないで下さいね!」

「…」

「…」



先ほどとは違い、一気に空気が重くなる。

少し軽口を叩いていたバルド達も、口を開くことはなかった。



「え…っと…ですね!では久々の会合ということで…御三方来賓してくださりありがとうございます!」


「…」



ヴァルドはフィリクスの挨拶に頭を下げていた。

ハルカは興味がなさそうに瞳を閉じる。



ーーこうして始まった四国の会合。


これからの国のことを話し合うのかと思っていたモア達だったが、予想に反し飲み会のようなものだったため拍子抜けしてしまう。



「…」

「よ!!フィリちゃん!!!いつものやっちゃって!!」


「えー!フィリクスホアンクルム!得意の一気飲みします!」


「イケイケフィリちゃん!のめのめフィリちゃん!!!!」



先ほどの腹痛が嘘のように、アルディオは場を盛り上げる。



「はっはっは」

「…」



女帝ハルカは相変わらず興味がないと言わんばかりに遠くを眺め、ヴァルドは楽しそうにフィリクスが酒を飲み干すのを煽っていた。



「…あ、あれが女帝か…怖ぇ」とシンは呟く。


バルドも一気飲みをするフィリクスを小声で煽り、フィルはつまんなそうに天を仰ぐ。


ーー外では、晴れているにもかかわらず稲妻が轟き、突然のことに驚くものもいた。



「…」



そんな中で、レイはルメイナ側に立つある人物を見つめていた。



「…」



その時、自身の外套の内側に隠れていた龍が動き出したのである。



「…ん?」



何かを伝えようとしているように見え、モアを呼ぶレイ。



「モアちゃん…カイルス君の様子が変なんだ。」

「え?」

「何かを…伝えようとしてるみたいで…」



すると、ルメイナ国の数名が応接間を後にしたのである。

それを追うように、小龍も外へ出ていってしまったのだ。



「え…!?」


「俺がみんなに事情を説明する…だからモアちゃんはカイルス君を追いかけるんだ…」


「わかった…!!」



その場はレイに任せ、モアは応接間を後にしたのだった。



「…」



フィリクスとアルディオの話を楽しく聞いていたヴァルド。



「陛下…」

そう言ってジュノはヴァルドに耳打ちをする。



「…どうした、ジュノ」


「…勇者様の様子が…どこかおかしいとはお思いになりませんでしたか…」


「…あぁ…まるで…」



「魂を抜かれてしまったように見える…」と、ヴァルドはハルカの後ろに立ち、誰とも目を合わせないアルヴィスを鋭い瞳で睨むのだった。



闇や瘴気を吸収できるはずのニーナ。

しかし、到着したルメイナ軍の兵士達殆どの魂が汚れてしまっていた。

一体、何故なのだろうか。

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