お腹の弱い王様
【登場人物】
アルディオ・グルルハラ:グルルハラ王国国王
ミハイル:国王補佐(通称ミカ)
四国の王、皇帝が集まる会合が行われるという一報を受けたモア達は穏やかな朝を迎えていた。
「そういえば…レイ君に紹介してなかった人がいるの!」
「ん?」
「人っていうか、何というか…この子なんだけど…」
そう言って、モアの脇から出てきたのは小さな龍。
「こいつはカイルス…なんだよな?」
「うん!そう!」
「カイルス…?」
「貴方の里に行く前に、龍の島で英傑に会ったの」
「その人がカイルスさんていう人だったんだよ!」とモアの説明を聞いても不思議そうな表情を浮かべるレイ。
「うん…そう、なんだ」
「ん?」
「え?」
「うん、うん。そりゃ、それだけ聞いてもこの龍とカイルスは結びつかねぇわな。」
バルドはレイの肩に腕を回す。
「カイルスという兄ちゃんは、どうやら龍に姿を変えるらしいんだ。」
「そうなんだ…あの…」
「みなまで言うな。俺もなんでかはよくわかってねぇ…なぜなら、モアしかそれを見てねぇからな。」
「こいつの説明だ、俺も良くわかってない。」とバルドから説明を受けるレイ。
「ちょっと!?バルド君酷いよ!?」
「…え?じゃあ2人は会ったことがないの?」
「そう!俺ら死にかけてたからさ!」
「カイルスっていう男の人はバルドも見てたんだけど、この小さい龍がカイルスである理由はモアの説明ではよくわからなかった!!」
「ガーン…」
「そうなんだ…とりあえず…分身…みたいなものかな」
「「それだー!!!」」
「それだ!!それそれ!!恐らくそれです!流石ですレイ君!!!」
「それでいいの…それで片付けていいの…」
レイが戸惑う中で子龍は彼の周りを泳ぎ、彼の外套の中に入り込んでいた。
「…心なしか気分が良くなった感じがする…これが龍の力なんだ…よろしくね、カイルス君」
「あはは!レイ君温かいからカイルスさんそっちにいたほうがいいかもね!」
モア達が談笑していると、未だ青ざめているフィリクスが現れた。
「おはよぉ…皆さん…」
「王様!?なんか痩せました!?」
「んんっ…まぁ痩せもするよね…はぁ…」
ーーなぜフィリクスが青ざめていたのかと言うと、前述でもあったようにこの国に3人の王、皇帝が集まるためだったのである。
フィリクスは特別護衛という名目(実際は怖いから1人でも多く自分の近くにいて欲しい)でモア達を応接間に案内した。
「はぁ…っ…」
モア達は内心「自分も王なのにもかかわらず何故そんなに青ざめる必要があるのか」と思っていた。
「だからあの時王様、あんなにビビってたのか…つーか王様なんでこの国になったんだよ!?」
「寒いところが苦手でね…」
「そう言う理由…?」
「なんでそんなビビってんの?」
「い、いやぁ…僕ともう1人の王様…アルディオくんって言うんだけど…僕たち平和主義者なわけよ…」
「「うんうん」」
「だけど、北国のお二方は僕らとはもう毛色がちがうわけ…皇帝達が怖過ぎて…」
「はぁ…??王のくせに何言ってんだよ?」
「あのねぇシンちゃん…?いや君らも、そんなどっか納得してませんみたいな顔してますけれどもね?君らは北国の皇帝の怖さを知らないんだって…!!!」
「そんなに怖いんですか?」
「いやぁ…1人は女性なんですけどね…とってもお綺麗で…」
「鼻の下伸びてるぞおっさん。」
「最初こそ敬ってたが、モア達と同じように接しちまうぜ。」とバルドは畳み掛けた。
「ちょっと…!!バルド…!!」
「氷の女帝と言われてるくらい怖い女性なんですけども…綺麗でさぁ…でも本当に…つっけんどんで怖いのよね…」
「へぇ…じゃあもう1人は?」
「戦神の誕生の地と言われてるくらいですから…本当に怖くてね…お顔が…」
「「顔かい!!!」」
「アルディオ君もそう思うよねぇ!?」
「…」
ゆっくりと応接間に入ってきたのはホアンクルム王国の隣にある紫鳶の王国グルルハラの王。
アルディオ・グルルハラである。
「「…」」
モア達は彼を見て思う「顔色悪すぎない?」と。
「いやぁ…もう僕はこのことが告げられてからお腹を下してるんだよ…」
「陛下、それは通常運転ですし、最近甘味ばかり食べている貴方の自業自得でございます。」
「「…」」
「お初にお目にかかります、ミハイルと申します。」とモアやシン、レイと手を差し出し握手していくこの人物はミハイル。
アルディオの側近である。
「やぁミカちゃん…薬…もらってもいいかい…」
「その呼び方はやめてください。それに薬は朝飲んだばかりでしょう?まだ時間が空いていないのでダメですよ陛下。」
「…頼りない上司には優秀な部下がつくんだな…」
「はは、それほど王様の人柄が良いんじゃないかな。」
「人を惹きつけるってのは中々努力で補えるものじゃないからね」とレイはバルドに告げた。
「全く…少し離れてください陛下。貴方だって王なんですから、これくらいのことで緊張されては身が持ちませんよ。」
「…まぁ…あたた…緊張と…賞味期限が切れたお餅を食べ続けて…お腹がね…」
「うん、それはお餅のせいだね。」と、あのフィリクスがツッコミを入れていた。
「フィリちゃんー…本当にくるの…?もう2時間もここでこうして待ってるよ…?」
「雪が行手を阻んでるのかもしれない…」
「遅刻してんじゃないすか」
そう言ったシンに、フィリクスとアルディオは青ざめていた。
「シンちゃん!シィンちゃん!!!!それ!!絶対!!!!皇帝に言っちゃダメよ!?」
「なんで!?ダメなもんはダメって言わないとダメっすよ!?」
「そ、それが言えないのがこの会合なんだってばぁ…!」
「じゃあ俺が言ってやりますから!」
「「ダメ!!!やめて!!!」」
「な、なんで!?」
「はいはいシンちゃん…落ち着いて…でも遅刻は良くないよね…」
モアはシンを宥めながらもそう告げた。
「…おそらく、我々の技量を伺っているのだと思います。」そう言って、ティーカップに紅茶を注いでいくロベルト。
「遅刻で…ですか?」
「こちらが怒るものなら、器が小さいとみなされ、今後の同盟関係や、貿易などにも影響に打撃を与えかねませんから…」
「彼らの国は僕たちの国よりも遥かに大きいからねぇ」
「へぇ…そんな駆け引きが…」
すると「ルノーピア帝国到着!!!」という従者の声が聞こえてきた。
興味津々で窓の外を見つめるシン。
「うわ!?な、なんだありゃあ!?お前ら!?こっち見てみろよ!?」
シンに言われ、モア達も王宮の外を見る。
「すっげぇな…」
「兵士の数が桁違いね…整列も一切乱れてない…」
「すごい…あんなの初めて見た…」
「…」
彼らが外を見つめる中、レイは瞳を閉じその場に佇んでいた。
「…」
「レイ君は、見なくていいのかい?」
「…あぁ…はい。俺はこの手のことにはあまり…」
「そうかいそうかい?」
フィリクスはレイを覗き込むとニコニコ笑っていた。
「あの…なにか?」
「いやぁ、僕は君が気になってねぇ…」
「…はあ。」
「君は彼等に対しても穏やかで、感情も一定だ。彼等が特別わかりやすいっていうのもあるのかもしれないけれどね?」
「そうですね、彼等はとてもわかりやすいと思います。」
「君が血相を変えたり、何かに狼狽える姿を見てみたいなと、僕は思ったんだよ。」
「…俺にもそういう時はありますよ、ただ…」
レイはモア達を見つめ微笑む。
「今じゃないだけです。」
「ふふ…そうかい」
「はい。」
「おい」とレイに声をかけたのはバルド。
「レイ!ちょっと何してんのよ!見てみなさいよ!すごいわよ!!」
「あぁ、うんわかった」
「…」
フィリクスはそっとレイの背中を押した。
レイはそのことに気づき、笑みを浮かべ軽く会釈をする。
ーールノーピア帝国の騎士が列を乱さず王宮の中に入ってくる。
長い槍を持ち、足並みをそろえて行進する。
先ほどの余裕のあるフィリクス・ホアンクルム国王はどこへやら、表情をどんどん険しくさせていき、ついには身体を震わせロベルトに引っ付いている始末。
「ひ、ひえぇぇ…豪華すぎる…ロベちゃん…僕もう無理かも…」
「貴方は王です、頑張ってください。」
「お腹が…すみませ…僕トイレ…」
「あ、陛下!?」
「アルディオ君!!!僕を裏切る気か!!!」
「も、もうすぐそこまで…来ている…っ…」
アルディオはそう言って腹と尻を押さえ、厠へ向かって行った。
「すげぇ数だな…こんな国と戦争なんてやったらひとたまりもねぇぞ…?」
「ええ、ですから我々四国は同盟を組んでおるのです。」
黒と赤を基調とした甲冑を着た兵士たちがじわりじわりと王宮へ近づいてくる。
その数約一万程、見ても見ても途切れることのない列に、シン達は驚いていた。
「ささ!!みなさん並んで並んで!!ここで待ちましょう!!」
「明らかに表情終わってるけど」
「バルド君…!!!おやめなさい…!!」
「モア…なんでおめぇまで顔色悪くなってんだよ」
「い、いやぁ…こ、怖くなってきた…」
モアは震える手を押さえるように拳を握りしめていた。
「はぁ…?」
「あはは…!大丈夫だよモア…!」
「…え?」
「私たちが守ってあげるからね…!!」
そう言って、フィルはモアの手を握りしめたのだった。




