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光を失った魂

再び玉座の間に訪れたニーナ。



「…っ」



音も何もない、2人の足音だけが部屋に響くなか、胸の苦しみに耐えきれず倒れ込んでしまう。



「…っ…」

「…」

「団…っ…長…」



アルヴィスがニーナを抱き止め、腕の中に閉じ込めていた。



「…どう…して…」

「…」



顔を上げると、初めて彼を目にした時と同じ優しい瞳をしていたのだ。

ニーナはそれに、違和感を覚える。



「本当の貴方は…どこにいるの…っ…」

「…」

「貴方は誰…っ…私を…誰と、重ねてるの…」



ニーナのその言葉に、アルヴィスは苦しそうに眉を顰めたのである。



「…うっ…っ…」



強い痛みに襲われ、アルヴィスから離れようと彼の胸を押し返すがその手を握りしめられたニーナ。



「…っ…」

「お前の光が邪魔だ…っ…」



そう言ってアルヴィスはニーナの首に手をかける。



「…」



先ほどの優しい瞳とは違い、邪悪な瞳をしているそのアルヴィスに、ニーナは必死に語りかけた。



「貴方もユアンと同じなの…?本当はいい人なんじゃないの…っ…」


「うるさい…その眼差しを…私に向けるな…っ…私はただお前を闇に堕としたいだけ…っ…余計な真似をするな…!!!」



首を絞める力を強めたアルヴィス。

それはまるでニーナの呼びかけから逃げるようにも見える。



「…っ…どうしてそんなに…辛そうにしてるの…」

「…」



“何故、そんなに辛そうにしているんだ"

“お前が苦しんでいる理由を教えて欲しい"


アルヴィスの脳裏に浮かんだ声

凛としていて、それでいてどこか優しいその声に眉を顰める。



ーー彼は自分の侵した罪を思い出してしまいそうになってしまっていた。



「…っ…黙れ…!!!!!」

「…」



ニーナの首に爪を立て、大量の瘴気を注ぎ込んだアルヴィス。



「…苦…しい…っ」



焼ける様な熱さがニーナの身体を支配し、激痛に襲われる。



「…」

「…その光を…私に向けてくるな…!!!!」



龍の島に行き、神聖な森の中で少しだけ汚れが洗われた彼女の魂は再び瘴気によって穢れてしまう。



「…っ…」



それはこれまでとは違い、ひどい穢れ様だった。

剣の輝きが失われてしまうほどに。



「…」



苦しみから逃れようと、意識を手放したニーナはそのままアルヴィスの腕に再び抱かれる。


ーーニーナの、闇に染まった魂を受け入れる様に、アルヴィスの身体には闇の渦が現れた。



「…」

「そのままだ…そのまま…私の元に堕ちろ…ニーナ…」

「…」

「これで…やっと…」



「私のものになる…」と、アルヴィスが呟いたその時。



切り裂くような閃光が走り抜けたのである。




「ニーナ!!!!」



ニーナの魂の光の変化を感じ取ったリヒトや、ルーク、レイナが追ってきたのだ。


リヒトは稲妻を轟かせ、アルヴィスに吸収されかけているニーナに光を向ける。



「…っ」



ルークとレイナはニーナをアルヴィスから引き離した。



「ニーナ…!!!ニーナ!!!」

「…」

「ニーナ…っ…目を開けて…ニーナ!!」



ルークはぐったりとしたまま自分の胸に体を預けるニーナに声をかける。



「ゲホっ…っ…」

「ニーナ…苦しいよね…ごめんね…っ…」



首に刺されたような傷があり、ルークはそれを癒す。



「団長…!!!何をなさってるんですか!!」


「貴方と剣の勇者様にどんな因縁があるかはわからないけど…ニーナを巻き込むのは違うでしょ!?」


「…」



アルヴィスはニーナを見つめると、口角を上げた。



「…っ…」



嫌な気配を察したリヒトとレイナはニーナの元へと駆け出す。



「もう無駄だ…」

「…っ…」

「…」

「…光を取り戻すことはない…」

「…」



その言葉を聞いた3人は目を見張る。


瘴気で汚されてしまっていたニーナの体を見ると、赤黒い痣が広がっていたのである。



「その痣に触れればお前らは一瞬で瘴気にやられてしまうぞ…」


「…っ…こんなことして…何になるって言うの!!!」

「…」



レイナの問いに答えることはなく、アルヴィスはニーナを抱きしめているルークを見つめた。



「ルーク…」

「…」

「…ニーナの首を癒してやれ…」

「貴方に言われなくとも…っ…もう…治しました。」

「ふっ…そうか…」



「お前が治したところで…コイツがお前達に光を灯すことはない。」

そう言ってアルヴィスは部屋を後にした。



静寂が流れる中で、ニーナの咳き込む音が響き渡る。



「ゲホゲホ…っ…はっ…」



血を吐き出し、身体を踞らせるニーナ。



「…ニーナ…ニーナ、今…治してあげるから…」

「…」



ルークはニーナの頬を手で包み込むようにして触れる。

レイナは涙を流しながら、ニーナの元に跪いた。



「ニーナ…お願い…戻ってきて…っ…お願い…っ…」

「レイナちゃん…ニーナに触れるのは危険です…」

「ルークだって…」

「そうだルーク…お前まで危険に…」

「俺は大丈夫…」

「…」



「大丈夫ですから…」

ルークの言葉を聞いたリヒトは納得し、彼にニーナを任せたのだった。




ーーーーーーー


ーーーーーーー



ベルゼウ王国を一望できる丘からその景色を眺めていた青年。

ーー彼は鳶に餌を与えていた。



「おいしいか?すぐに腹を空かせて…まぁ…久々に空を舞ったからな?」


「…」



そこにはルークの姿も。



「このままでは…彼女が危険です…」

「…」




彼が言った「大丈夫」の意味。

ーーそれは、彼が分身だったからである。



青年は鳶をそっと撫でると「行け」と告げる。

鳶は空へと飛び立った。



「美しいな…」

「…」


「…死と隣り合わせに生きていると…生きとし生けるもの全てが愛おしいと思うものだ。しかし、追い込まれ、いざ死を目の前につき出されると、愛を忘れ、大切なものを手放してまで、死を手に入れようとしてしまうものだ。」


「…」


「それほどまでに…心が壊れてしまっていると言うことだ。」


「…」


「どんな敵よりも…どんな力よりも…死のパワーは強い。生に縋る執着さえも取り払われてしまうんだからな。」



そう言って青年は瞳を閉じる。

頬に伝う光るものが地に落ち、そこから強い光が放たれていた。



「本体が瘴気にやられなくてよかったな。」

「…」


「影であっても多少の影響はあるだろう…俺はお前の傷をなおすことはできないからな。」



そう言ってルークの肩に手を置いた青年。

ーーすると、ルークに纏う瘴気が放出されたのだ。



「ありがとうございます…俺が至らないばかりに…貴方のお手を煩わせてしまって…」



ルークの言葉に、青年は高らかに笑った。



「何を言ってる…お前は、お前達はよくやっている…」

「…」



ベルゼウに、強い風が吹きつけた。

ーーそれは不吉な音を立てて、彼らの間を吹き抜けていく。



「…あぁ…実に不吉な風だ…」

「…」

「お前は一旦戻れ…」

「…っ…」



「ついに、奴が動き出す。」

青年は、曇り行く世界を見つめ表情を変えずにそう告げたのだった。




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